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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第194回

企業が製造工程を動画で見せる理由、そして動画を見て購入したフィールドブーツ

2023年06月06日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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感心させ、購買させてしまう職人動画

 YouTubeなどの動画を見て、そこに登場する製品に興味を持ち、すぐにネットで検索して買ってしまう……。誰にでも、そんな経験があるかもしれません。

 筆者がよく観る動画は、プロモーションやレビューではなく、職人の仕事や工場での製造工程をドキュメンタリーとして撮影したもの。登場する製品は、自動車のスプリングだったり、貝ボタンだったりと、B2Bのプロダクトがほとんどです。

 そのため、動画を見て「すごい!」と感動しても、どの商品に使われているのかがわかりにくいことが多く、なかなか購入できません。

 しかし、今回見た動画に登場する製品は違いました。「ここまで、ていねいに作られているなら欲しい!」「すぐに買わないと、もう手に入らなくなるかも!」と思い、ネットで購入したのが第一ゴムのフィールドブーツ(長靴)です。

 調べてみると、第一ゴムは、北海道・小樽で1935年(昭和10年)に創業したゴム長靴一筋のメーカーであることがわかりました。

 靴製造メーカーの多くが工場を海外に移転する中で、同社は小樽の工場で天然ゴムを原料にゴム長靴を手作りしているとのこと。アパレルブランドとの共同開発やアウトドアメーカーへのOEMなども手掛けているそうで、初音ミクとコラボしたレインブーツもあるようです。

 そんな第一ゴムの工場を紹介する動画があります。材料の生産から、ベテランの職人たちの高い技術、工数と関わる人数の多さ、さらに年季の入った巨大な機械の数々が紹介され、圧倒されると同時に感動すら覚えました。

普段は見られない場所で視聴数を伸ばしたルイ・ヴィトン

 こうした動画が人気なのは、日本だけではありません。高級ブランド、ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の公式YouTubeチャンネルも、登録者数が200万人を超えるほどの人気を博しています。

 とくに、普段は見られない工房でのシーンを公開した動画は、1370万回以上の再生数(6月6日現在)にもなり、ブランドイメージの向上や作業の透明化などを動画を通じて広くアピールすることに成功しています。

 さすがにルイ・ヴィトンですから、動画を見たから「すぐに購入!」というわけにはいきませんが……。

製造の工程を見せる動画のポイントは
「工程の透明化」と「技術力のPR」

 こうした製造の工程を見せる動画が、消費者の購入に結びつくポイントは「工程の透明化」と「技術力の高さのPR」だと筆者は分析しています。

 筆者が感動したように、材料の生産から検品までの工程や作業を動画で見せる。そうした「工程の透明化」がなされることで、製品の外観からはわからない信頼性を消費者も理解できます。それはメーカーや工場にとって、「技術力の高さのPR」にも繋がります。

 動画で製造工程を見せることは、製造者だけでなく、購入者にとっても大きなメリットになる。そんな時代になってきました。

 以前であれば、社外秘であった過程を動画で気軽に見られる。さらに、普段の生活では見られない非日常的なシーンが、知的好奇心を刺激し、さらに購入する製品への愛着にもつながるはずです。

撮影禁止だったトランプ工場

 とはいえ、企業としては、製造工程をすべて公開するわけにはいかない場合もあるでしょう。

 筆者は、アメリカにある世界最大のトランプ製造会社に招かれたことがあります。どの場所でも、作業工程でも、見学の許可はもらえました。

 しかし、工場内での写真撮影は禁止。そんなルールがある理由は、この会社で製造されたトランプが世界中のカジノでも使われるから。製品に不正な加工をされたり、偽造されたりすることを防止するためです。

 カジノでは、1枚のトランプの数字でも大金が動くことを考えれば、当然といえます。

「フィールドブーツ 1308 ブラック」レビュー

 さて、今回筆者が購入したのは第一ゴムの「フィールドブーツ 1308 ブラック」。Amazon.co.jpで1万8700円で購入しました。長靴にしては高価だと思われるかもしれませんが、雪の日や冬の屋外での撮影、氷上での釣りなどには、防寒性能も高くピッタリです。

 取り外し可能な厚さおよそ1センチのフェルト製のインナー、軍事用ボディアーマーにも使われるバリスティック製のアウターが付属しているので、筆者はインナーとアウターを外し、春秋にも履いています。

バリスティック製のアウターと、フェルト製のインナーは取り外せる

 ただし、サイズは3種類でM(25センチ)、L(26センチ)、3L(28センチ)と、サイズ展開が幅広いわけではありません。

 また、3Lサイズで片方の重量がおよそ1250g(インナー、アウター込み)なので、その点は注意が必要です。もっとも、厚手のフィールドブーツは重いものが多いですし、筆者は長い距離を歩かないので、あまり気になりません。

 使う頻度や保存環境にもよりますが、天然ゴム製品の寿命は10〜15年といわれています。人生で最後のブーツとして、愛用しようと思っています。長生きしたら、また買っちゃうかもしれませんが……(笑)。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、チャールズ英国王もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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