アートで暮らしに彩りを。ヨコハマ・アート・ダイアリー 第27回

横浜美術館おしごと図鑑――vol.11 ミュージアムショップ&カフェ担当 普川由貴子

文●横浜美術館

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 2023年度のリニューアルオープンに向けた大規模改修工事のため、長期休館中の横浜美術館。美術館のスタッフはお休みのあいだも忙しく働いているようですが、彼らはいったい何をしているの? そもそも美術館のスタッフってどんな人?

 そんな素朴なギモンにお答えするシリーズ第11弾は、美術館内のミュージアムショップ&カフェを担当するスタッフが登場。「アートは敷居が高い」と感じる方でも気軽に利用できる、隠れた人気スポットといわれてきましたが、今後その魅力がさらにアップしそうです。

前回の記事はこちら
横浜美術館おしごと図鑑――vol.10 広報 藤井聡子

※過去の連載記事はこちら
アートで暮らしに彩りを。ヨコハマ・アート・ダイアリー

気軽に入れるショップ&カフェから、アートの世界へようこそ!
カフェだけのご利用も大歓迎

――横浜美術館のカフェ、居心地のいい空間でしたよね

普川:ありがとうございます。でも実は、1989年開館時の横浜美術館には、レストランはありましたが、カフェはありませんでした。「カフェがあるといいのに」という声はお客様から寄せられていたのですが、ようやくオープンしたのは2005年。かつてあった美術情報ギャラリーが館内で引っ越し、スペースが空いたため、別の場所から移ったミュージアムショップと併せてカフェがオープンしました。以来、定期的にお茶を飲みにいらっしゃる方、ランチを食べに来るサラリーマンなど、幅広い方々にご利用いただいていました。美術にあまり関心のない方、カフェだけご利用の方も大歓迎です。

――この仕事に就いたきかっけは?

普川:学生時代にミュージアムショップでアルバイトをしていたことがきっかけです。美術館は好きだったので、「こんなところで働けたら楽しいかな」という軽い気持ちだったのですが、ゆるゆると続いてゆき、現在に至ります。美術の専門知識がないので不安もありましたが、周囲から刺激を受けて少しずつ学ぶことで、なんとかやってこられた感じです。

――具体的にどんな仕事をしているの?

普川:今までミュージアムショップは運営委託せず直営だったので、企画や仕入れ、販売員の採用まですべてを担当していました。ミュージアムショップで販売していたグッズは「横浜美術館のお客様ならこんな商品を喜んでくださるのでは?」という視点から、販売スタッフと相談しながら選定し、仕入れていました。一方、作品をモチーフとしたオリジナルグッズをつくる際は、事前に学芸員に相談することが欠かせません。反対に、学芸員から「こんなのどう?」とアーティストグッズを紹介されることもあり、私たちとは違った視点に刺激を受けます。さらに、企画展に合わせてオリジナルグッズをつくったり、店内に関連グッズを揃えたコーナーをつくったり、接客もしたり。とても楽しい仕事でした。

 現在はミュージアムショップ&カフェだけでなく、庶務・経理の仕事も担当しています。

ショップ&カフェで、気軽にアートの世界を感じて欲しい

――企画したグッズで思い出に残っているのは?

普川:ひとつあげるとしたら、2012年に開催した「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展のときにつくったグッズです。定番のポストカード、クリアファイルなどからチロルチョコ、のど飴まで、全部で15アイテムくらいつくりました。お客様にも大好評で、ショップは連日てんてこ舞いの忙しさ。売上額の最高を記録したくらいです。それは、奈良さんとデザイナーさんが積極的に取り組んでくださったことはもちろん、メーカーや印刷会社など関わるすべての方々が、奈良さんの意向をグッズに反映させることに注力した結果だと思います。時間をかけて納得のいくグッズをつくれたので、私にとってもいい思い出です。

――カフェのメニューで思い出に残っているのは?

普川:カフェの運営は直営ではなく事業者に委託していましたが、企画展ごとにオリジナルメニューの提案をお願いしていました。季節感を演出するものとしては、クリスマスのデザート、お正月のお汁粉などがメニューに並んだことがありました。

――カフェでもアートの世界を感じられる?

普川:思い出に残っているのは、「ヨコハマトリエンナーレ2014」の開催期間中に、ガラス作家・三嶋りつ惠さんの作品をカフェで展示したときのこと。三嶋さんがご自身制作のグラスを貸し出してくださったので、「作家の作品」でドリンクを提供したんです。もちろん、お客様には大好評でした。

より開かれた美術館へ、新しい試みも準備中!

――休館中の今は、何をしているの?

普川:ミュージアムショップもカフェはいったん閉店しましたが、オンラインショップは営業を継続しています。

 ミュージアムショップ、カフェともに全面リニューアルとなり、今後は事業者に委託するので、現在は事業者と打ち合わせを重ねて、新しいお店の方向性を考えているところです。

 また、ミュージアムショップ&カフェの場所は変わりませんが、内装やレイアウトは新しくなるので、その最終調整を行っています。

――カフェ、ショップのリニューアルで何が変わる?

普川:美術館のリニューアルにあたっては「より開かれた美術館」を目指しているので、グランモール公園に面したミュージアムショップ&カフェは重要です。美術にあまり関心のない方にも利用しやすい場所なので、美術への入口的な役割が期待されています。カフェでは企画展と連動したアート作品を展示したこともありましたが、これは何かしらのかたちで続けていきたいですね。美術館前庭や回廊に、自由に使えるテーブルとイスを配置することも検討中です。

――なんだかワクワクしますね

https://www.museumshop-yokohama.jp
ミュージアムショップには作品をモチーフにしたグッズがいろいろあるので、見ているだけで楽しいと思いますし、美術館は敷居が高いと感じている方でも、ショップやカフェなら気軽に入れると思います。個人的には、美術館は「ひとり遊び」に最適な場所だと感じています。ぜひ気軽に遊びに来てください!

普川 由貴子(ふかわ・ゆきこ)
東京生まれ、ほぼ横浜育ち。美術・芸術系とは無関係な学位を取り、横浜美術館ミュージアムショップにてアルバイト勤務後、職員となり、ショップ、カフェ、庶務、経理など専門職以外の美術館業務に長年携わっている。現在はショップ・カフェのリニューアルオープン準備と予算確保に余念がない。

<わたしの仕事のおとも>

電卓
ミュージアムショップでアルバイトをしていた頃からの必需品です。現在は美術館の経理の仕事も担当しているので、やはり電卓は手放せません。

<わたしの推し! 横浜美術館コレクション>

川瀬巴水《東京十二題 戸山の原》1920(大正9)年
多色木版/h36.6×w24.4cm
横浜美術館蔵

 川瀬巴水(かわせ はすい)の作品は全部好きですが、あえて選ぶとしたらこの作品。夜の景色を描いたもので、深いブルーがとても美しく、いつまでもずっと見ていたいくらいです。もちろん、この作品のポストカードはオンラインショップで扱っています。タイミングが合えば、自分の大好きな作品のポストカードをつくる機会に恵まれるのは、この仕事の特権かもしれません。

※この記事は下記を一部編集のうえ、転載しています。
―note「美術館のひとびと」
https://yokohama-art-museum.note.jp/n/n70a8b4734965