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注目度MAXのChatGPT・GPT-3/4はSaaS・Webサービスをどう変えたのか?

ChatGPTは役立ってる? エモーションテック、RSUPPORT、noteに聞いた

2023年05月19日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 4月に入ってSaaSやWebサービスでのChatGPTや大規模言語モデルのGPT-3/4採用が相次いでいる。今回はChatGPTやGPT3/4などの技術をサービスに組み込んだエモーションテック、RSUPPORT、noteの3社を取材。サービスのインパクトや価値、既存のAIとの違いなどについて話を聞いてみた。

作業は5日から半日へ いきなりすごいベテランが来た(エモーションテック)

 顧客の声をサービスに活かすためのCX Managementを手がけるエモーションテックは、アンケートのコメントやレビュー、口コミなどのテキストデータを顧客の声(VoC)として分析できる「TopicScan」を3月にリリースした。

 TopicScanではOpenAIの言語モデルGPT-4を活用することで、トピックの抽出とラベリング、トピックごとの要約、ポジティブ・ネガティブ判定などを自動で行なう。データをアップロードして、ほぼ1日でビジュアル化された分析結果のファイルがユーザーに提供される。エモーションテック シニア CXコンサルタント 蘇鉄本かすみ氏は、「数万件のコメントの全体感や代表性のある内容をつかむことができます」と語る。

エモーションテック シニア CXコンサルタント 蘇鉄本かすみ氏

 TopicScanでの顧客の声の分析は、もともと同社が提供してきたバリューだ。しかし、今までは人力で分析していたため、非常に工数がかかっていたという。「どんな話題について話されているかを分類したり、ネガポジを判定するのは人手の作業。当然、大量のテキストだとその分、時間がかかっていました」(蘇鉄本氏)という。もちろん、既存の機械学習も試したのだが、学習させるための教師データを自ら用意しなければならず、利用範囲もあくまでデータを持っている顧客の案件のみだった。

 しかし、大規模言語モデルを採用するGPT4によって、この学習ステップ自体が不要になり、人手でやっていた5日間の作業がなんと0.5日になってしまった。精度面でも、ネガポジ判定であれば95%の精度を達成。同社のシニア CXデータアナリスト 池亀和樹氏は、「工数から見ても、精度から見ても、革命が起こってしまったというのが事実。GPT3の段階では『なかなか使える新人』来たくらいだったけど、GPT4になると『すごいベテラン』が来たという感じ(笑)」と驚く。特にサマリーは従来に比べて圧倒的に自然なので、現時点では既存の技術で代替できないという。

エモーションテック シニアCXデータアナリスト 池亀和樹氏

 現在、エモーションテックとしては、目的に応じた回答を引き出すための設問作りをGPTで実現できないか、社内で実験中だ。「今まで時間をかけていた分析や設問までAIの技術によって高速化されてしまう。もはやボトルネックは人間になってしまう」と池亀氏は指摘する。今後はルーティンの分類やサマリ、分析をGPTで行ない、本来求められている目的設定や施策の提案に注力していくという。

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議事録に加えて、会議のサマリーまで標準搭載できた(RSUPPORT)

 リモートコントロール・リモートサポートなどのツールを提供するRSUPPORT(アールサポート)。同社の「RemoteMeeting」にはChatGPTを活用したAIサマリ機能が追加された(関連記事:RemoteMeeting、ChatGPTを利用した議事録の自動要約機能「AIサマリー」を提供開始)。

 RemoteMeetingはもともとAI議事録の生成機能を持っており、会議中にリアルタイムに発言内容をテキスト化できる。議事録の生成はGoogleのAIを用いているが、今回投入されたAIサマリはChatGPTを用いて、このAI議事録をさらに要約してくれる機能だ。ただ、ChatGPTの要約の精度は、前段のGoogle AIの翻訳結果に依存してしまうため、変なテキストは編集も可能。「ダウンロード」ボタンを押すと、会議タイトルや参加者、日時などとともに、議事録のサマリが記載されたPDFを保存できる。

実際にRemoteMeetingを用いて金氏に取材し、AIサマリ(左側)も使ってみた

 コロナ禍でオンライン会議の需要は急速に高まったが、やはり議事録の作成は手間がかかる。こうした声を受け、AI議事録の機能はRemoteMeetingにいち早く実装。さらに今回のChatGPTのAIサマリ機能で、議事録作成の効率化を図ることができるという。RSUPPORTの金 振榮氏は、「AI議事録の機能は参加者の発言をなるべく正確に書き起こすのがメインの目的でしたが、会議の要点や議論の内容を確認して、これを共有するためには結局人手が必要になります。今回のAIサマリで要約することで、時間や手間の削減につながると思います」と語る。

 AI議事録、AIサマリともにオプションではなく、RemoteMeetingでは標準搭載されており、ツール内にうまく統合されているのがメリットだ。「創業者も新しい技術が大好きなので、アバターにせよ、AIにせよいち早く導入します。今回のChat GPTも非常に導入はスピーディでした」と金氏は語る。コロナ禍で一気に普及したWeb会議やコミュニケーションツールは、ChatGPTのような技術がアグレッシブに投入されている分野。RSUPPORTも、AIを活用してより優秀な会議アシスタントを育てていくという。

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あくまでアシスタントとしてクリエイターを支援(note)

 コンシューマー向けサービスでもChatGPTの活用も進んでいる。メディアプラットフォームを展開するnoteは2月から記事作成を支援する「note AIアシスタント」の提供を開始。当初は機能も5つのみで、対象も有料会員とアーリーアクセスプログラムのメンバーだけだったが、4月のβ版では対象も全クリエイターと法人向けのnote proまで拡大された。

 最新のnote AIアシスタントの機能は全部で33に上る。まず書き始める前の機能として、記事のアイデアや構成、書き出しなどを提案してくれる。note 執行役員CDO 宇野 雄氏は、「一番使ってもらっているのは、実はこの書き出しの提案。書きたいテーマはあっても、どこから書き始めようか困っているクリエイターさんは多かった。テーマを箇条書きにしたら、書き始めや切り口を提案してくれるというのは、僕たちにとって相当な革命でした」と語る。

note 執行役員CDO 宇野 雄氏

 また、プレスリリース、求人募集、メルマガ、会議のアジェンダや議事録、FAQ、イベント告知などのテンプレートもある(ただしnote pro限定)。さらに特定の文章を「やわらかく」「フォーマルに」「エモく」「わかりやすく」「簡潔に」など表現に整える機能のほか、文章の要約や3行まとめ、SNS投稿用作成、文末のまとめ、見出しの提案などのまとめ機能、レビュー、タイトルの提案、翻訳など多種多様だ。

 note AIアシスタントは名前の通りアシスタントであり、文章を生成する機能はない。ある意味、作家と歩調を合わせて作品を作り上げていく、編集者に近い存在だという。宇野氏は、「創作活動を支援してくれるパートナーです。アイデアはあるけど、書き出しが難しいとか、中身をもっと膨らませたいといった悩みを支援してくれます。単語を入れると、自動的に文章を生成してくれるみたいなものは、僕たちは作らない」と語る。万能に見える技術でも、使い所とポリシーが重要だと感じた。

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 年始に「AIは静かに業務システムに浸透していく」とコラムで書いたが、明けてみれば全然静かではなかった(関連記事:増えすぎたSaaSの淘汰とAIの静かなる浸透 2023年のクラウド動向を読む)。ゴールデンウィークが明けても、各社のChatGPT連携の発表は続いている。地道なバージョンアップが多いSaaS事業者にとっては、久しぶりに大幅な機能強化につながり、世間の注目度も高いだけに、非常に鼻息も荒いようだ。ただ、今回取材すると、ChatGPTやGPTへの期待が大きいのは共通しているが、使い方は各社それぞれであることがわかった。より深い使い方、ユーザーにメリットをもたらす機能競争は今後も続きそうだ。

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