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アステラス製薬がデータアナリティクスによる経営DXに挑む理由

2023年03月28日 11時00分更新

文● 大河原克行 編集●大谷イビサ

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 アステラス製薬は、データアナリティクスによる経営DXの取り組みについて説明した。同社が推進する「Focus Areaアプローチ」においても、データを活用したシミュレーションを行なっていることを示したほか、中期経営計画の目標達成度をモニタリングする「データビジュアライゼーション」、製品の安定供給のための需要分析を行なう「サプライチェーンマネジメント」、限られたデータ下での投資判断に向けた情報の提供を行なう「リアルオプション評価」などにおいて、データアナリティクスを活用していることを紹介した。

不確実性の高い製薬業界 Focus Areaアプローチに高い期待

 アステラス製薬が、データアナリティクスの活用に積極的な背景には、製薬業界ならではの特性が見逃せない。

 アステラス製薬 アドバンストインフォマティクス&アナリティクス シニアディレクターの伊藤雅憲氏は、医薬品開発の成功確率が7.9%であることや、開発期間が平均10.5年であること、研究開発費が10億ドルという巨額の投資が必要であることを示しながら、「製薬業界は、不確実性が高い一方で、多くの投資が必要となる。開発が長期間に渡るため、科学の進歩や仮説の変化、患者数や競合状況の変化、社会情勢の変化など、開発当初の前提や計画が変化することが多い。なにに、いつ投資すべきかという判断が難しい」と指摘する。

アステラス製薬 アドバンストインフォマティクス&アナリティクス シニアディレクター 伊藤雅憲氏

 同社では、2025年度までの5カ年に渡る「経営計画2021」を推進しており、今後の成長の源泉となる製品を生み出すための研究開発戦略「Focus Areaアプローチ」に取り組んでいるところだ。このFocus Areaアプローチは、最先端のバイオロジーと革新的なモダリティやテクノロジーを組み合わせることで、疾患や患者を明確化し、その観点から創薬に取り組むという手法。イノベーティブな医薬品創製であることから、より不確実性が高い手法だともいえる。

 アステラス製薬 代表取締役副社長 経営戦略担当 CStO(Chief Strategy Officer)の岡村直樹氏は、「疾患からアプローチするのではなく、科学の進歩からアプローチする手法が、Focus Areaアプローチになる。ひとつひとつの取り組みが最先端の科学に挑戦しており、成功確率は低いが、ひとたび完成すれば、そこから多くのプロジェクトが生まれると期待している」と語る。

アステラス製薬 代表取締役副社長 経営戦略担当 CStO(Chief Strategy Officer) 岡村直樹氏

 また、伊藤シニアディレクターは、「Focus Areaアプローチは、従来の経験や知識が適用できない分野への挑戦であり、過去のデータからの予測が活用できない分野でもある。アナリティクスのアプローチも従来とは大きく異なる。プロジェクトの成功確率や開発期間、市場ニーズなどをもとにした適切な仮説を設定し、リスクや機会を想定したシナリオを複数考え、これを数学的に記述。それをもとにシミュレーションすることで、生み出す価値を最大化できる道筋を検討していくことになる。結果から原因を追求するデータ駆動型のアプローチと、仮説をもとにシミュレーションに基づく予測を繰り返し行なうことで戦略的意思決定を支援できるシナリオを提供する。これがFocus Areaアプローチに適した分析技術の導入になる」とする。

目指すDXはあらゆるデータを有機的に接続し、価値を最大化する状態

 多様なシミュケーション結果を活用することで、点ではなく、幅で予測でき、さまざまなシナリオ設定が可能になり、シナリオに応じた打ち手の洗い出しができるようになる。伊藤シニアディレクターは、「多様なシナリオの想定と打ち手の準備が、将来の不確実性の対処には不可欠である。また、打ち手を実行した場合にはどうなるのかといったことを仮想環境でシミュレーションし、リスクとベネフィットを定量化することで、最適な打ち手の提案が可能になる。この結果、透明性や客観性が高い意思決定支援ができること、内部および外部環境の変化に応じた打ち手の更新も可能になり、意思決定者にリアルタイムで適切な情報を提供することができる」と述べた。

 同社では、Focus Areaアプローチにおいて、ポートフォリオシミュレーションを実施した結果、プロジェクト間の優先順位付けを行なえたり、会社にとって適切な投資バランスを検討できたりといったことが可能になった。

 たとえば、シミュレーションによると、Focus Areaアプローチの領域において、プロジェクト間の相関性を高めた状況でPoCにまで至った場合には、芋づる式で相関するプロジェクトもPoCが獲得できることがわかり、大きな利益が得られる事象の発生確率が飛躍的に高まることがわかったという。

 一方、アステラス製薬では、Primary Focusとして、「遺伝子治療」、「がん免疫」、「再生と視力の維持・回復」、「ミトコンドリア」、「標的タンパク質分解誘導」を定めている。

Focus AreaアプローチとPrimary Forcus

 岡村副社長は、「これらは、最先端科学を利用する分野であるとともに、不確実性が高い分野である。さまざまな可能性を考慮した上でポートフォリオを構成していくには、アナリティクスとモデリングが不可欠な要素になる」とする一方、「アステラスが目指しているDXは、経営判断から個別プロジェクトまで、あらゆるデータが有機的に接続され、価値を最大化している状態を指す。先進的な技術を活用した経営の舵取りは、まだ端緒についたばかりであり、理想からは程遠いが、日々改良を加え、経営による意思決定の質を高めているところである」と述べた。

 社内および社外から収集したデータを活用し、ポートフォリオのプロファイリングを行なったり、最適なビジネスモデルの構築に向けたヒントにしたりといった活動に加えて、製品を調達する際などに、どういう会社との組み合わせが、価値の向上につながるかを、データをもとに表示できるようにしているという。その上で、「その結果を解釈できる経営陣のリテラシーも必要である」(岡村副社長)とも語った。

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