このページの本文へ

あのクルマに乗りたい! 話題のクルマ試乗レポ 第313回

未来に繋げ! 豊田章男社長率いるルーキーレーシングの新しい挑戦は液体水素カローラ

2023年03月19日 12時00分更新

文● 折原弘之 写真●折原弘之

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

水素でレース! ルーキーレーシングのカローラは
今年は液体水素燃料で耐久レースに挑戦!

 2月23日に富士スピードウェイで行なわれたスーパー耐久の公式テストで、豊田章男社長率いるルーキーレーシングの新たな挑戦が公開された。

液体水素カローラ

マシンに貼られたステッカー

 昨年まで使用していた「OCR ROOKIE GR Corolla H2 concept」を、大幅に改良。と言うより、作り替えてきたと言う方が正しいだろう。と言うのも、気体水素を使用していた昨年モデルに対し、今シーズンは液体水素を使用してレースに挑むと言う。

 では気体が液体に変わることがどういう事なのか、開発ドライバーの佐々木雅弘選手に聞いてみた。

かつてGOODSMILE Racingでもステアリングを握っていた(2010年、2012年)、ササキングこと佐々木雅弘選手。開発の中心人物としてプロジェクト開始から携わっている

 「昨年、一昨年と、気体水素で走らせていたのですが、メリットとデメリットを考え液体水素での挑戦に踏み切りました。燃料を気体から液体にするにあたって、マイナス253度の液体水素をタンクに積みます。そこからエンジンの燃焼室に送るまでに、気化させなければなりません。その気化した水素を、爆発させて車を走らせるわけです。

 言葉にすれば簡単なことですが、液体水素を気体化させるには工場丸々1個分くらいの施設が必要なんです。そのシステムを車に積んで走るわけですから、発想自体が不可能な話らしいです。そんな無茶な挑戦ですから最初に試作車に乗った時は、マシンに煙突がついてたんです。さすがに大丈夫かなと、不安になったくらいです。エンジンをかける時も、映画で見るロケットの打ち上げみたいに、色々なスイッチを操作してカウントダウンする感じでした。なんか、とんでもないプロジェクトに参加してる感じでしたね」

 開発当初の話も交えて話してくれた。単純に考えてもマイナス253度の液体を、気化させてエンジン内で爆発させるのだからとんでもない話だ。規模感が違うと言うのも頷ける。

スローガンは「水素で世界を動かせ」

Iwataniも開発当初からこのプロジェクトに参加している

このような横断幕も

 そもそもタンクや液体水素を汲み上げる燃料ポンプ、インジェクターの素材も特殊な物を使用しなければならない。その辺を興味津々で聞いてみると……。

 「タンクに関して詳しい材質までは言えませんが、種類的には鉄を使用しています。技術的にはすでにカーボンで対応できているのですが、法律上の問題で鉄を使用せざるを得ないんです。これに関しては、技術に法律が追いついていない感じですね」

 と佐々木選手。そもそも液体水素を積んでレースするなんて、考えもつかない話なのだから仕方がない。

エンジンからは排気ではなく水蒸気のみが排出される。排気口の焼け具合が温度の高さを物語っている

市販車で言うラッゲージルームは水素タンクで一杯だ

汎用パーツが使えず試行錯誤の連続

 「燃料ポンプやインジェクター的なものに関しては、試行錯誤の連続です。まず作ってみて不具合が出たら素材を変える。良いものは残し、新たに作り変えるといった作業の繰り返しです。昨年11月くらいから実走させていますが、トライアンドエラーの繰り返しですね」(佐々木)

ピットの中に液体水素の給油装置が置かれ、見慣れないスイッチが置かれている

解決しなければいけない問題は山積み
だがクルマの未来がかかっている

 新しいことへの挑戦だけあって、問題は山積みだ。事実、3月18~19日に鈴鹿サーキットで開催される、スーパー耐久開幕戦を、直前のトラブルが直らずにスキップすることになった。

ピットの裏側には大きなモニタが置かれ、レース以外のデータが映し出されている。サーキットと言うより、実験室といった雰囲気が漂う

 これまでにも数えきれないほどの試作が行なわれたうえで、テストで公開できるまでに至ったわけだ。それだけでも開発者たちは、達成感を覚えているだろう。だがレース仕様だとどうなのか聞いてみると……

 「昨年まで使用していたGR Corolla H2 conceptは、気体水素を3本のタンクを積んで走らせていました。それが液体になると1個のタンクですみます。航続距離も気体水素の約2倍走る計算になります。この距離は、ガソリンエンジンでレースする車両と同等の航続距離になります。ですが、これも法律で積載容量が決められていて、現状は思うような成果は上げられていません。エンジンパワーに関しても、気体水素と比べても劣っています。加えて鉄製のタンクで車重も増えてしまっていますので、現状レースを戦えるスピードは出せていません。

 ただ、それは今だからです。気体水素の時もそうでしたが、開発が進めばマシンのパフォーマンスは格段に上がりました。法律が追いついてくれば、鉄のタンクをカーボンに変えられるでしょう。それだけでも100kg超の軽量化になります。昨年までのGR Corolla H2 conceptもそうでしたが、このマシンも伸び代しかありませんから。まだまだ始まったばかりのプロジェクトです。レースを楽しみながら、車を鍛えて未来につなげていきたいです」(佐々木)

走行後たくさんの技術者に質問攻めに合う佐々木選手

 これまでROOIKE RACINGが新しいトライを始めるたびに、佐々木選手には話を聞いてきた。佐々木選手はその都度、レースで勝つことよりレースや車の未来のためにと言い続けてきた。その結果、スーパー耐久シリーズにST-Qクラスができたし、気体水素のマシンもパフォーマンスを上げてきた。ROOKIE RACINGの挑戦は、確実に車の未来を動かしている。

 今回ピットに貼られた横断幕には「水素で未来を動かせ」と大きく書かれていた。この液体水素のレーシングカーは、未来を大きく動かす礎になる可能性を秘めているのかもしれない。

昨年までの給水素システムに比べるとコンパクトにまとまっており、昨年までとは違い給水素もピット内で行われるようになった

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

ASCII.jpメール アキバマガジン

クルマ情報byASCII

ピックアップ