海外メディアの「Patently Apple」によると、アップルがポータブルオーディオの分野で興味深い特許(米国特許US 20230024087 A1)の出願をしたという。スピーカーから出る気流の速度を測定するセンサーのついたポータブルオーディオ機器に関する特許だ。
音導管を流れる気流の乱れが音に悪影響を及ぼす
特許の背景として、スマートフォンやウェアラブルデバイスの内蔵スピーカーの音質が良くないと言われていることが挙げられている。この理由としてアップルは、音響ドライバーが設置されている空間に比べて、音の出口にあるノズルの部分(いわゆる音導管)が狭くなるために、この部分のエアフローが加速されて速くなり、その高速の気流自体が音質に悪影響を及ぼす場合があるとしている。
このための対策がこの特許だ。センサーを用いてリアルタイムに流れを測定し、悪影響が出るような速度になったら周波数を下げて音質の低下を防ぐとしている。またこの修正の影響が大きすぎたり、少なすぎたりしないよう、センサーの設置が必要であるとしている。
Patently Appleに掲載されている特許図を見ると、この特許がiPadについても考慮されているのがわかる。矢印の流れが気流の流れであり、ちょうど音の出口のところの黄色い部分にセンサーが設けられている。また別の図面ではメッシュになった音の出口についても言及されていて、こうしたメッシュ状のスピーカーポートの悪影響についても考慮されていることがわかる。
最近の音圧の大きなスマートデバイスでは、スピーカーのポートに手をやるとかなりの空気の圧力を感じられるが、やはり音質についての影響も大きいのだろうと推察できる。
IT技術がオーディオ業界に与えるインパクトのひとつ
また特許の記載にはiPadやiPhoneの内蔵スピーカーだけではなく、ヘッドホンの記載もある。「AirPods Max」や「AirPods Pro」シリーズなどへの適用もあると思われる。さらに特許の背景から推測してもおそらく狭い音導管のあるイヤホン全般には適用できるのではないだろうか。
オーディオ機器において、「エアフローの最適化が重要だ」とよく言われるが、これまではポートの大きさや形状などを変えることがその対策だった。この問題についてセンサーを使用して動的にエアフロー制御する技術は聞いた例がない。
アップルは第2世代「AirPods Pro」のチューニングにおいて、エアフローの最適化で音質を高められたと海外誌のインタビューに答えていたが、これもそうした研究から生まれたものかもしれない。
この特許はオーディオメーカーではないアップルが、オーディオ機器の開発に進出したことで得られた技術であると言えるだろう。これによって周波数のピークやディップなどを動的に制御できる可能性があることから、もしかするとほかのメーカーやイヤホンにも同様な技術の採用が広がるかもしれない。その場合には、イヤホン内で電子的に対応がしやすい完全ワイヤレスイヤホンが有利になっていくことだろう。
今後の可能性を考える上でも興味深い特許であるといえると思う。
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