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「5年後にはコードの80%はAIが書いたものに」「AIはソフトウェア開発の新たな時代をひらく」

「開発者を幸福にするために」GitHub CEOが今後注力する“4つの柱”を説明

2022年12月07日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 ギットハブ・ジャパンは2022年12月6日、米GitHub CEOのトーマス・ドムケ氏が事業戦略や今後のソフトウェア開発への展望を語る記者会見を開催した。ドムケ氏は「ソフトウェア開発者が幸福を感じ、よりクリエイティビティを高めていく」ためのプロダクトを提供していくと強調し、AIなど「4つの柱」を定めて戦略的な投資を進めると語った。

米GitHub CEOのトーマス・ドムケ(Thomas Dohmke)氏

GitHubは9400万の開発者が利用する統合プラットフォーム

 ドムケ氏が来日するのは10年ぶりであり、CEOに就任してからは初めてのこと。ドムケ氏はまず、およそ10年前(2013年)はGitHubを利用する開発者数が280万人だったのに対し、今日では9400万人にまで拡大していると、GitHubの急速な成長を紹介した。ちなみにGitHubを利用する日本の開発者は200万人で、昨年比で41万人以上増加したという。

 「GitHubは9400万人の開発者が使い、年間経常収益も10億ドルを達成した。ただしこれはまだほんの“始まり”にすぎない。GitHubはさらに大きなインパクトを起こしていけると考えている」

 社会とビジネスのデジタル化が急速に進み、ソフトウェアに対する依存度がこれまでになく高まっている一方で、開発者の数は恒常的に不足していると言われる。この矛盾を解消するためには、現在以上の開発生産性を実現するとともに、開発者に「さらなる幸福感」を提供していかなければならないとドムケ氏は語る。

 社会やビジネスを支えるシステムが大規模なものになり、ソフトウェアが複雑化していく中でそうした目標を達成するためには、単に開発ツールを提供するだけではなく「開発者エクスペリエンス(Develper experience)」を重視して「開発者が必要とするものすべて」を提供しなければならない。ドムケ氏はそう強調した。

ドムケ氏は、5年前のGitHubはオープンソースコードのリポジトリにすぎなかったが、現在ではプロジェクトプランニング、イシュートラッキング、AIペアプログラミングなどの機能が統合されたプラットフォームに進化したと説明

戦略的に投資していく「4つの柱」――クラウド、AI、コミュニティ、セキュリティ

 これからの開発者エクスペリエンスを考えたうえで、GitHubでは4つの領域を戦略的な投資対象に定めたという。「開発者向けクラウド」「AI」「コミュニティ」「セキュリティ」の4つだ。ドムケ氏は、これら4つはそれぞれ“四角形を構成する頂点”のようなものであり、互いに関係し合っていて欠かせないものだと説明する。

 まず「開発者向けクラウド」は、現在はまだローカルPC上でホストされることの多い開発環境をクラウド上に移していくというものだ。GitHubではすでに「GitHub Codespaces」を提供しているが、その方向性をさらに強化していくとみてよいだろう。

 「Codespacesを使っていれば、たとえば出張中に空港の待ち時間でiPadを取り出し、コードを書き換えてプルリクエストを投げる、といったことができる。これまで45分かかっていたものを、わずか数分で済ませられる」

 また現在のソフトウェア開発では、既存のオープンソースソフトウェア(ライブラリなど)を使うことが一般的になっており、その割合はコード全体の90%にも及ぶことから、「コミュニティ」に対する支援も必要だとする。そして、GitHub上で開発されるソフトウェアの「セキュリティ」を担保することも重要だ。ここでもすでに「GitHub Advanced Security」などの取り組みを始めている。

 そして、ドムケ氏が最も時間を割いて説明したのが「AI」の取り組みだ。

 「最近はSNSで(対話型AIの)ChatGPTや、(画像生成AIの)Stable Diffusion、Midjourneyなどが話題になっている。これらを見れば、AIというものは決して『未来のもの』ではなく『今日、すでに存在しているもの』だということがわかるだろう」

 GitHubでは今年6月に、AIが開発者のコーディングを支援する“AIペアプログラミング”機能の「GitHub Copilot」を正式リリースした。ドムケ氏は、その利用は急速に広がっていると語る。

 GitHubの調査によると、すでに現在リポジトリに登録されているコードの40%は「AI(Copilot)によって書かれた」ものだという。そしてドムケ氏は「5年後にはこの数字が80%になっているだろう」と予測した。

すでに現在書かれているコードの40%は「AIによって書かれたもの」。これが5年後には80%まで高まるだろうと、ドムケ氏は予測した

 さらにCopilotを利用する開発者2000名への調査では、75%がCopilotによるコーディングの支援に満足していることがわかったという。加えて、100名の開発者を50名ずつの2グループに分け、片方のグループだけCopilotを使って同じアプリケーションを開発してもらったところ、平均で55%もの開発高速化につながったと説明した。

同じアプリケーションを開発してもらったところ、Copilotを使わなかったグループは平均161分かかったが、Copilotを使ったグループは71分で済んだ

 「一方で開発者不足、他方で機械学習技術の急速な進化があることを考えると、開発者がAIの支援を受けてコーディングを行い、開発能力を劇的に高めるという可能性は高いと思う」「プロジェクトがより早く完了し、開発者はより幸せになる。そのような、AIがわれわれ皆の生活を支援する時代に入りつつある」

 ちなみにCopilotのAIエンジンは、過去に書かれたコードを学習したうえで開発者に提案を行っている。そのため、他者が作成したコードの混入に起因する著作権侵害やライセンス違反のおそれを指摘する声もある。この点については、Copilotが提案する前にリポジトリにある既存のコードと照合して、問題のあるコードはブロックする機能も提供していると説明した。

 「ただしAIはまだまだ活用が始まったばかりの段階だ。GitHubとしても、さまざまなコミュニティや企業、オープンソースの財団などとともに、倫理観と責任感をもって、どうあるべきなのかを話し合っている」

 ドムケ氏は、Copilotが存在することで既存の開発者が生産性を高めるだけでなく、新たに開発に取り組む人が増えてくることにも期待していると語った。

 「Copilotはその名のとおり『副操縦士』であり、開発者の仕事を奪うものではない。現在すでに開発に取り組んでいる人には(基礎的なコーディングを支援して)ボトムアップを図り、同時にこれから開発をやってみたい、ソフトウェア開発に携わりたいという人を後押しする。そういう機能だ」

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