今回は、いまだにリリースされていないSapphire Rapidsの情報アップデートをお届けしたい。
Sapphire Rapidsを量産開始とは言ったが
製品版とは言っていない
10月28日に、インテルは第3四半期の決算を発表した。決算の内容はおいておく(本当はおいておいてはいけないのかもしれないが、今回の話には関係ない)として、その四半期報告のわりと冒頭にあるKey Developments(主な進展)の最初の項目で「Sapphire Rapids、Raptor Lake、Ponte Vecchioの大量生産を開始し、2022年第4四半期に顧客への出荷を開始する予定」という文言が出てくる。
Raptor Lakeは間違いなく出荷を開始しており、筆者も1つ買ったくらいだからこの文言に嘘はない。問題はSapphire Rapidsの方だ。Ponte Vecchioもそうだが、現時点ではまだIntel Arkに登録すらされていない。後で出てくるXeon Maxというラインナップそのものが欠落している段階で、大量生産と言われても「では何を作ってるんだ?」という話になる。
改めてリリースを読み直すと、そもそも“Sapphire Rapids”を大量生産開始したとは書いてあっても、“Xeon MAX”あるいは“Gen 4 Xeon Scalable”とはどこにも書いていない。ここから察せられるのは、この“大量生産”の対象は、最終製品ではなくそれ以前のステッピングのものではないか? ということだ。
後述するが、Xeon MAXの出荷は2023年1月「以降」であり、ここで量産製品が出てくるとは一言も言ってないところがミソである。
連載690回で、インテルの開発サイクルというスライドをご紹介した。
これはコンシューマー向けの製品だから、サーバー向け製品と一緒ではない(少なくともバリデーション期間ははるかに長くなる)し、顧客による検証も入るのでもう少しステップ数は多くなると思うが、それはともかくとして現時点でのSapphire RapidsはまだPRQ/PV(Production Release Qualification/Production Verification)の段階にいるのではないかと思われる(さすがにその前のQS:Quality Sampleの段階は終わったと思いたい)。
もともとSapphire Rapidsはずいぶん開発に苦しんだようだ。そもそも製品がいまだに出ていないことからもそれは明らかだが、今年8月のTom's Hardwareの記事では、8月の時点で12ものステッピングが存在していたとしている。この最終のものがE5で、これはまだQSになる前のES(Engineering Sample)である。
仮にこの8月の時点でE5が完璧だったとして、そこからQS→PRQと2回ステッピングを重ねる必要があり、仮にE5がそのままQSに移行したとしてもPRQが出てくるのは10月か11月。そこから検証を終わらせて(これも普通は一四半期程度は余裕で必要である)、量産にGoが出るのは早くて2023年1月か2月だろう。
つまりどう考えても、1月に量産製品を出荷するのは無理である。こう考えると、冒頭の“大量生産”の対象は、まだ量産シリコンではなく、その前のPRQグレードのものと考えた方が良さそうだ。
この連載の記事
-
第763回
PC
FDD/HDDをつなぐため急速に普及したSASI 消え去ったI/F史 -
第762回
PC
測定器やFDDなどどんな機器も接続できたGPIB 消え去ったI/F史 -
第761回
PC
Intel 14Aの量産は2年遅れの2028年? 半導体生産2位を目指すインテル インテル CPUロードマップ -
第760回
PC
14nmを再構築したIntel 12が2027年に登場すればおもしろいことになりそう インテル CPUロードマップ -
第759回
PC
プリンター接続で業界標準になったセントロニクスI/F 消え去ったI/F史 -
第758回
PC
モデムをつなぐのに必要だったRS-232-CというシリアルI/F 消え去ったI/F史 -
第757回
PC
「RISC-VはArmに劣る」と主張し猛烈な批判にあうArm RISC-Vプロセッサー遍歴 -
第756回
PC
RISC-Vにとって最大の競合となるArm RISC-Vプロセッサー遍歴 -
第755回
PC
RISC-Vの転機となった中立国への組織移転 RISC-Vプロセッサー遍歴 -
第754回
PC
インテルがCPUの最低価格を82ドルに引き上げ、もう50ドルでは売れない製造コスト問題 インテル CPUロードマップ -
第753回
PC
早期からRISC-Vの開発に着手した中国企業 RISC-Vプロセッサー遍歴 - この連載の一覧へ