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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第77回

リサ・バティアシュヴィリ、ステファノ・ボラーニ、ボストン交響楽団室内アンサンブルほか

「録音は極上。ヴァイオリンもピアノもこれほど美しい音では録れないだろう」、麻倉怜士推薦盤

2022年10月01日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『シークレット・ラヴ・レター』
リサ・バティアシュヴィリ, フィラデルフィア管弦楽団, ヤニック・ネゼ=セガン, ギオルギ・ギガシヴィリ

特選

  1979年ジョージア生まれのヴァイオリニスト、リサ・バティアシュヴィリのドイツ・グラモフォン(DG)第7作。これまでもリリース毎に話題を振りまいてきたが、今回は、後期ロマン派文学に触発されたシマノフスキの「ヴァイオリン協奏曲第1番」、ショーソンの「詩曲」、フランクのヴァイオリン・ソナタイ長調、ドビュッシーの「美しき夕暮れ」---という耽美的な音楽作品を集めた。近年、人気が急上昇しているフランクのヴァイオリンソナタ。リサ・バティアシュヴィリは馥郁を超えて、噎び返るほどのロマンの濃密な香りだ。まるでロマンティシズムの極致のよう。振幅が大きく、楽想を濃密に表現し、その世界に引きずり込む。特に第4楽章のフーガのアーティキュレーションの大胆さは、大向こうまで喝采だ。

 録音は極上。ヴァイオリンもピアノもこれほど美しい音では録れないだろうという程のクオリティだ。ホールトーンもヴァイオリンとピアノを美しく彩っている。第4楽章では同じメロディが時間を違えて、ヴァイオリンとピアノで重なるので、その一音一音の明瞭さが命だが、本録音は最高だ。シマノフスキの「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、オーケストラ(フィラデルフィア管弦楽団)の奥行き方向への立体感が、目覚ましい。会場の空気感が豊潤だ。2022年1月、4月、ベルリン、フィラデルフィアで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon (DG)、e-onkyo music

『Que Bom』
Stefano Bollani

特選

 イタリアの多才なジャズピアニスト、ステファノ・ボラーニ(STEFANO BOLLANI)のブラジル音楽集。2008年のアルバム『カリオカ』で協演したブラジリアンなリズム隊を再び迎え、リオデジャネイロで録音。大きなピアノ音像が中央に定位し、その周りをパーカッション、ベースなどが囲む。低域のスケール感が雄大で、それに乗った中域、高域のピアノのメロディが美的だ。大胆に活躍するパーカッション、キレ味の良いリズムが心地好い。ベースの弾みもヴィヴット。躍動進行と、快適なリズム性は、最高のドライビングミュージックだ。

FLAC:44.1kHz/24bit
Legacy Recordings、e-onkyo music

『The Boston Symphony Chamber Players Play Mozart, Brahms, Beethoven, Fine, Copland and Carter (2022 Remastered Version) 』
The Boston Symphony Chamber Players

特選

  1964年にボストン交響楽団(BSO)の首席奏者で結成された「ボストン交響楽団室内アンサンブル(ボストン・シンフォニー・チェンバー・プレーヤーズ)」の初ハイレゾだ。1960年代、アメリカのオーケストラは1シーズンの演奏回数増加を迫られていた。当時の音楽監督、エーリヒ・ラインドルフは、それをオーケストラ奏者による室内アンサンブルで賄おうと考えた。そこで、ボストン交響楽団のトップ奏者を糾合させ「ボストン交響楽団室内アンサンブル」を結成し、室内楽作品による演奏会を開催し、回数を稼いだのである。

  実に生々しい。60年代のアナログ録音の美質といえる、直接音のダイレクトさが爽快だ。最近のクラシック録音は例外なく、ホールトーンをたっぷりと収録する。でも本録音はボストンシンフォニーホールで録っているのにもかかわらず、ホームトーンはほとんど無視され、フルートと弦が、くっきりと鮮明に、ストレートに聴ける。そのクリヤーさ、直情さは貴重だ。聴き手と楽器の間に余計な空気がないのでより演奏の綾が明瞭に聴けるのである。この時代のアナログらしい、音の凝縮感もいまではなかなか聴けないものだ。旧き良き、超鮮明録音! 1964~1965年、ボストンはシンフォニーホールで録音。

FLAC:96kHz/24bit
RCA Red Seal、e-onkyo music

『Step on Step』
Charles Stepney

推薦

 Earth Wind & Fireのプロデューサーとして識られるアレンジャー、作曲家であるチャールズ・ステップニー(1931-1976)が、シカゴのサウスサイドにある自宅の地下室で制作したデモ録音がまとめて、ハイレゾリリースされた。楽曲はこう発想され、こう展開して、完成度を上げていくことが分かる。なかでも、ステップニーがプロデュースし世界的大ヒットとなったEarth Wind & Fireの75年リリース作品『That's the Way of the World』の原型が聴けるのが興味深い。ベース、パーカッション、シンセサイザー、キーボードによる自作の手作り作品だが、本曲特有の疾走感、弾力感、スピード感はすでに確実に演じられている。Earth Wind & Fireのバージョンは、本作をコーラス、ブラスに拡張させ、都会的なフレバーをまぶしたものであることが分かる。名曲誕生の秘密が識れる貴重な録音だ。ぜひEarth Wind & Fireの本番曲も聴いてみよう。

FLAC:44.1kHz/24bit
rings / International Anthem、e-onkyo music

『Bruckner: Symphony No. 5 in B-Flat Major, WAB 105 (Edition Nowak)』
Christian Thielemann、Wiener Philharmoniker

推薦

  2024年のアントン・ブルックナー生誕200年を目指し、クリスティアーン・ティーレマンとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による交響曲全集の制作が進む。今回は第5番だ。約100分の大作で、中でも第4楽章は25分以上も。ブルックナーの神秘性、巨魁性、そして人間性を解釈させたら、現代の名指揮者では、ティーレマンの右に並ぶものはいないであろう。ウィーン・フィルを縦横にコントロールとし、その豊潤で濃厚、そして透明なサウンドを生かした、独特のブルックナー像を見事に構築している。ムジークフェライン・ザールでの録音。会場の豊かな響きに支えられた、弦の艶やかでしなやかさは特筆ものだ。木管のたおやかさも、佳い。ディテールまで丁寧に収録されているが、その対極のトゥッティの偉容さ、雄大さも素晴らしい。ウィーン・フィルらしい響きの端正さ美しさも、たっぷりと楽しめる。2022年3月5-7日、ウィーンのムジークフェラインザ-ルで録音(無観客演奏のライヴ・レコーディングを含む)。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical/Sony Music、e-onkyo music

『LATINA』
MAYA

推薦

  ラテンの虜になったMAYAのラテンアルバム。CDのライナーノーツにはこうある。「本来ラテン音楽とは、ボサノバのようなカフェでお洒落に流れる清楚なものではなく、妖艶で官能的なものであり、男と女の汗の香りのする本能的な音楽だと私は思っています。自身の2ndアルバム『She’s something』の中でラテンがジャズの世界で受け入れられるのか、と「ベサメ・ムーチョ」をドキドキしながら歌った経験があります。それだけ日本のジャズシーンでラテン歌曲を取り上げ、原語で歌う事が珍しかった時代でした。私はこの頃を境にラテンの魅力にのめり込み、ジャズとラテン音楽を自分のルーツミュージックにしようと決めたのです」。鮮明、鮮烈……衝撃的なほどの、ハイテンションなサウンドだ。それもMAYAの声質を活かす方向にコンセプトを絞った音作りがされているのが、実に個性的だ。中域が艶艶した音調は「本来ラテン音楽とは、妖艶で官能的なもの」というMAYAの考えに沿ったものであろう。

FLAC:96kHz/24bit
AMBIVALENCE M's Records、e-onkyo music

『飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラコンサート2022』
飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ

推薦

 飛騨に縁のある演奏家が中心となり2005年に旗揚げされた飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ。2022年3月26日に、飛騨・世界生活文化センター飛騨芸術堂で開催されたコンサートライブレコーディングだ。例年、この季節に定期公演を行っていたが、2020年は新型コロナウイルスの影響により中止。2021年は小編成だった。今年は正常な大編成に戻った。ベートーヴェンの「コリオラン序曲」「交響曲第2番」、フィリップ・エルサンの「ヴィオラ協奏曲 - 音楽のユーモア」というセットリストだ。録音した名古屋芸大の長江和哉氏に伺った。

 先行きが見えなかったコロナ禍の昨年は、弦楽、木管、金管など小編成のアンサンプルでしたが、今回は久しぶりに二管編成スタイルでコンサートでした。私はクラシック音楽を録音する際、可能な限り楽器の音色が「音楽的な音色」となることを目指しています。「音楽的な音色」というのは難しい意味に感じるかもしれませんが、その音楽にとってふさわしい音色という意味です。

このコンサートが行われた「飛騨芸術堂」の音響は素晴しく、低域の深い響きが、コントラバスやチェロをしっかりとサポートしてくれます。高域は明るく反響し、メロディが輝きます。「ヴィルトーゾ」の各楽器はホールの響きで「一体となり」、聴衆を包み込むのです。まことに素晴らしい空間です。

 この場所でのコンサートの様子を、多くの人に伝えるのが、私のミッションです。そこでメインマイクにDPA 4006を用いホールトーンとともにアンサンブルを捉えながらも、各楽器にスポットマイクを配置しました。今回は3人のチームで録音を行いました。本番の録音は島田裕文氏と安達万純氏、編集ミックスは長江が担当しました。リハーサルの際には、私と島田氏、安達氏のとともにメインマイクの位置を調整し、ホールトーンと楽器の直接音をうまく捉えられるよう設定しました。スポットマイクはタイムアライメントしミックスすることで、「音楽的な音色かつ、一体となったサウンド」を目指しました。DACとプリメインですが、RMEの新しいHA ADC、RME 12Micをメインマイクに、それ以外のマイクにはMicstasyとRME Octamic XTCを用い、DAW Magix Sequoiaで、192kHz 24bitで録音しました。ぜひお楽しみください。

  ではインプレッションだ。左右、奥行き方向の音情報がたいへん豊かな録音だ。まるで飛騨芸術堂の一番良い席で聴いているような錯覚を受けるほど。オーケストラの眼前感とホールトーンの豊かさが、そう感じさせるのであろう。弦は左右のスピーカーいっぱいに拡がり、木管、金管、打楽器……の奥行き方向の空気情報も豊潤。ベートーヴェン: 序曲「コリオラン」 は、緊迫感と進行感が迫り来る、ハイテンションな演奏。長江録音は、豊かなホールトーンと共に、その本質を見事に切り取っている。ベートーヴェン: 交響曲第2番 ニ長調も内声部まで、クリヤーに描写されている。

FLAC:192kHz/24bit
Hida-Takayama Virtuoso Orchestra、e-onkyo music

Escape (2022 Remaster)
Journey

推薦

 初の全米第1位を獲得し、全世界で1000万枚以上を売り上げた1981年の大ヒットアルバムの初リマスターハイレゾ。ジャーニーの代表作「「1.ドント・ストップ・ビリーヴィン」は冒頭のピアノから剛毅で、端正だ。美しいコード進行に乗って、低弦で印象的なリフが奏でられる。アコースティックピアノはセンターに力強く、大きな音像で定位し、力感と輪郭感、そして質感がよい。同じくセンターにいるスティーヴ・ペリーの刮目のヴォーカルは適切なサイズで、輪郭が明瞭にして、ボディ感もたっぷりと。左からニール・ショーンの速弾きギターが絡む。いよいよ、ドラムスとベースが加わり、トゥッティになった時のクリヤーさは、まことに素晴らしい。音像の解像感、進行のパワフルさ、音場の透明感など、ハイレゾンでは、ロックでもここまでの高質感が得られるかに感心。音楽的にはハードとポップの駆け引きがたいへん面白い。

FLAC:192kHz/24bit
Columbia/Legacy、e-onkyo music

『ニュー・サウンズ・イン・ブラス (Remastered 2022)』
岩井直溥、ニュー・サウンズ・ウインド・アンサンブル

推薦

 かつて吹奏楽団はスーザのマーチを演奏していたが、今や、クラシックからポップスまでなんでもやる。ポップスブラスを開拓したのが、作曲家・編曲家の岩井直溥氏(1923~2014年)率いるニュー・サウンズ・ウインド・アンサンブルのアルバム、「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」だ。1972年8月、吹奏楽で楽しいポップスを」という斬新なアイディア、贅沢な編曲、演奏、録音が楽しめるとあって、本アルバムは大ヒットした。当時は、4チャンネルブームで、マスターはSQ4(4チャンネルの「クアドラフォニック」)のオリジナル4chミックス。今回、ソニー・ミュージックスタジオにてDSDマスタリング。発売から50周年を記念したスペシャル・エディションとして、リリースした。

 演奏が素晴らしい。70年代の洋楽ヒットのスピーディで躍動的なアレンジで、ライブ感、疾走感が心地好い。ホールトーンも豊かに入り、いかにもライブ収録な雰囲気だ。レンジ感では今の感覚ではやや狭く感じるが、その分、凝縮感やマッシブ感があり、アナログの美味しい部分が、DSDマスタリングできちんと継承されている。1972年5月16日&17日 杉並公会堂でライブ録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music

『Under The Spell of the Blues』
Kota Sawaguchi Trio

推薦

  大賀ホールや八ヶ岳やまびこホールでの室内楽録音が続いたUNAMASレーベルは、久方振りに本流のジャズ録音を2022年4月に、東京・渋谷のSTUDIO TANTAで敢行。レーベルオーナーのミック沢口の子息、ジャズドラマー沢口耕太の第2弾のリーダーアルバム。ベースとドラムスとのトリオだ。『Under The Spell of the Blues』のタイトルでも分かるようにジャズの視点で、ブルースを演ずる。 「1.I Put a Spell on You」は盛大なディストーションで彩られる。普段は色気に満ちたFENDER RHODESが攻撃的に歪む。小編成だが、音数がひじょうに多く、音場はそれらで盛大に埋められる。「2.Rainy Night in Georgia」は、一転してシンプルな音数で、見渡しがよい。輪郭はやさしい。「1曲目の攻めた感じから、うって変わってローズの音色も含めてきれいな感じの演奏で、あえてこれを2曲目とすることでそのギャップを楽しんでいただけるかと思います」と沢口耕太はインタビューで述べている。「6.Mademoiselle Chante Le Blues」は、FENDER RHODESの位相シフトが聴きもの。

FLAC:192kHz/24bit
UNAMAS、e-onkyo music

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