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トレンドマイクロとOT製品ベンダーの合弁企業、産業制御システム向けセキュリティを国内提供

「OTゼロトラスト」を掲げるTXOne Networksが日本市場本格参入

2022年08月10日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 産業制御システム(OT:Operational Technology)向けセキュリティソリューションを提供するTXOne Networksが2022年8月9日、日本市場への本格参入を発表した。

 TXOne Networks Japan 社長の近藤禎夫氏は、「TXOneは工場のアセット(資産)防護を中心とした『OTゼロトラスト』をコンセプトにしている」と説明。OT独自のプロトコルへの対応などOT環境の特性や課題を理解した製品群という特徴を生かし、「日本の製造業をサイバーセキュリティリスクから守り、強靭なグローバルサプライチェーンの構築に貢献にしたい。日本市場においては、来年、再来年ともに事業を倍増させていく考えだ」と意欲をみせた。

TXOneは「OTゼロトラスト」をコンセプトに産業制御システムのセキュリティソリューションを展開している

TXOne Networks CEOのテレンス・リュウ(Terence Liu)氏、TXOne Networks Japan 代表執行役員社長の近藤禎夫氏

 TXOneは、セキュリティベンダーのトレンドマイクロとOTネットワーク製品メーカーのMoxaによるジョイントベンチャーとして、2019年6月に台湾で設立したOTセキュリティベンダーだ。米国やオランダにも拠点を展開しており、現在の従業員数は200名以上。設立以来、毎年3倍の売上成長を遂げており、全世界で1200社が同社のソリューションを導入、うち350社以上が大手企業だという。同社によると、製造会社トップ10のうち5社、製薬会社トップ10のうち5社、自動車会社トップ10のうち3社、航空会社トップ10のうち4社が採用している。

2019年設立のTXOneだが、ビジネスを急拡大させている

 CEOのテレンス・リュウ氏は、「TXOne Networksは、OTにおけるミッションクリティカルを保護することに注力している世界で初めての会社」だと説明する。創業から3年間で年間売上高は20倍に拡大し「今後数年間でさらにこれを倍増させる計画」だと自信を見せる。

 リュウ氏は、「日本市場には『自動車』『電子機器』『半導体』『製鉄』という4つの重要な産業がある」としたうえで、「各産業のリーダー企業とともに、TXOneのOTセキュリティに対する知見を組み合わせたベストプラクティスを構築したい」と語った。

 前述したとおり、TXOneでは「OTゼロトラスト」をコンセプトに掲げ、アセットのライフサイクルの各ステージにおいて、安全な生産活動を実現するトータルソリューションを提供しているという。

 具体的な製品として、ネットワークの被害を局所化する産業向け次世代ファイアウォール「EdgeFire」、侵入防止のための産業向け次世代IPS「EdgeIPS」および「EdgeIPS Pro」のほか、感染防止のための産業向けエンドポイントプロテクションとして、次世代アンチウイルス「StellarProtect」や、ロックダウンソフトウェア「StellarEnforce」を発売。さらに、トレンドマイクロ製のスタンドアロン型ウイルス検索/駆除ツール「Trend Micro Portable Security 3」も投入している。

 「OTにおけるミッションクリティカルシステムを保護するのが最も重要なこと。点検、エンドポイント保護、ネットワーク防御によってOT全体を保護できる。OT担当者がITのサイバーセキュリティを理解していない、あるいはIT担当者がOTになじみがないという課題を理解し、OT分野の人にもIT担当者にも使いやすい製品を開発している」(リュウ氏)

TXOneの主な製品群と、OTゼロトラストの実践例

注力産業への直接営業とエコシステム確立でサプライチェーンの強靱化を支援

 日本法人であるTXOne Networks Japanは、今年(2022年)4月15日に設立された。6月1日には日本マイクロソフトで常務執行役員 パートナー事業本部副本部長を務めた近藤禎夫氏が代表執行役員社長に就任。10人体制でスタートしている。

 近藤氏は「OTセキュリティの専門会社として、日本の企業に大きく貢献できるのがTXOne Networksの特徴」だと語る。近年、製造現場における情報化投資は増加しているが、情報化の進展に伴ってサイバーセキュリティリスクも高まりつつある。実際、かつては金融や保険業などが中心だったサイバー攻撃の矛先が製造業へと向くようになっており、日本企業においても被害は増加している。

 トレンドマイクロの調査によると、日本の製造業の91.3%が、サイバー攻撃によるOTシステムの中断を経験しており、そのうち4割は「4日間以上中断」しているという。それに伴って「事業の供給活動に影響を与えた」と回答した企業は98.2%に及び、平均被害額は280万ドル(約2億6906万円)にのぼるという。

 経済産業省は2022年8月にも、「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」の初版を発行する予定であり、産業界全体のセキュリティレベルの底上げに取り組むなど、国内製造業におけるセキュリティ対策に関心が集まっている。 日本における事業戦略として「ダイレクトセールスの強化」「パートナーエコシステムの確立」「日本企業の安全なサプライチェーンの実現」という3点を掲げた。

 「ダイレクトセールスの強化」では、半導体製造業や自動車関連企業、重要インフラといった同社の注力産業に対するダイレクトセールス強化を打ち出し、顧客のサイバーセキュリティにおける課題やニーズを踏まえた製品やソリューションを提供するという。

 「とくに半導体製造業界においては、CEOのテレンス・リュウがセミコンダクターサイバーセキュリティコミッティの主要メンバーであり、昨年発表された半導体業界におけるサイバーセキュリティ規格『SEMI E187』策定にも中心的に関わっている。これらの多くの知見を製品のなかにも反映しており、強みを生かせる分野になる」「まずは製造業を中心にビジネスをスタートする。日本の製造業の声を直接聞くことで、製造業特有の課題や問題を解決するセキュリティソリューションを提供したい」(近藤氏)

 ちなみにTXOneでは、これまでにも日本の顧客からの要望によって製品に実装したOTプロコルもあるという。近藤氏は「この姿勢は今後も変わらない」と強調し、製造業に続いて流通、医療、金融といった分野にも順次展開していく方針を示した。

注力産業に対するダイレクトセールスの強化を図る

 次の「パートナーエコシステムの確立」では、トレンドマイクロのパートナーエコシステムを活用していく。パートナーに対する情報提供の強化や、OTや産業制御システムに知見を有するパートナー企業との新たな協業、ビジネスアドバイザーとして実績を持つコンサルティング企業とも協業を推進。加えて、海外におけるコンサルティング企業との協業実績も日本に展開するという。

 「日本においては、パートナー戦略は極めて重要。三菱電機や横河電機、オムロン、シュナイダーエレクトリックなどの産業制御装置を持っている有力企業との連携も進めていく」(近藤氏)

日本市場においてとくに重要なパートナーエコシステムづくりを進める

 最後の「日本企業の安全なサプライチェーンの実現」では、OT環境の特性にフィットしたOTネイティブな製品や、サイバーセキュリティの最新技術に加えて、グローバルでの事例や研究開発活動などを発信。「日本企業のサプライチェーンの強靭化に貢献し、信頼されるOTセキュリティ分野のリーディングカンパニーになることを目指す」とした。

日本企業のサプライチェーン強靱化に貢献する

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