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産業利用や社会課題解決への適用の鍵を握る「トポロジカル量子ビット」の生成に成功

マイクロソフト、「Azure Quantum」量子コンピューティングの最新動向を説明

2022年07月01日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 日本マイクロソフトは2022年6月28日、量子コンピューティングサービス「Azure Quantum」における取り組みについて説明した。産業利用や社会課題解決の実現に向けたAzure Quantumの“3つのフェーズ”を紹介し、フェーズ1における各種取り組み、フェーズ2の基盤となる「トポロジカル量子ビット」の生成成功といった最新動向を紹介した。

Azure Quantumチームが開発したデバイス。「これがトポロジカル量子ビットとスケーラブルな量子コンピュータ構築への道を切り開く」としている(画像は公式ブログより)

米マイクロソフト Technical Program Manager Lead for Optimization, Azure Quantumのアニータ・ラマナン(Anita Ramanan)氏、 日本マイクロソフトコーポレートソリューション統括本部 クラウド事業開発本部 ビジネスデベロップメントマネージャーの金光大樹氏、 ゲスト出席したJij 代表取締役CEOの山城悠氏

Azure Quantum“3つのフェーズ”の第2フェーズに到達

 マイクロソフトでは今年3月、Azure Quantumにおいて「トポロジカル量子ビット」と呼ぶ独自の量子ビットを生成することに成功したことを発表している。この方式は、他の量子ビットで構築されたマシンよりも安定性が高いと考えられており、他に類を見ない拡張性を持っている点にも期待が集まっているという。

 米マイクロソフト Technical Program Manager Lead for Optimization, Azure Quantumのアニータ・ラマナン(Anita Ramanan)氏は、同社がトポロジカル量子ビットを採用する理由について、次のように説明する。

 「ゲート型量子コンピュータはノイズが多く、実用化するには100万量子ビット以上が必要だと考えている。だが、現時点の技術では100量子ビットに留まっており、桁違いの進化が必要だ。そこでマイクロソフトでは、トポロジカル量子ビットによるアプローチに取り組んでいる。より安定したトポロジカル量子ビットを作ることが、産業利用できる(実用的な)規模の量子マシンを構築するには最も明確で、最速の道だと考えている」(ラマナン氏)

 さらにラマナン氏は、トポロジカル量子ビットを利用するアプローチによって「量子ビットあたりのコンピューティングパワーが強化でき、大規模な量子デバイスの性能を高めることができる」と付け加える。

トポロジカル量子ビットを採用する独自のアプローチを展開

 Azure Quantumは、3つのフェーズに分けてサービスを進化させることで「より良い未来のための解決策を提供する」という。上述したトポロジカル量子ビットによる量子コンピューターの実現は、フェーズ2に当たる。

Azure Quantumが考える3つのフェーズ

 まずフェーズ1では、既存の研究基盤を拡大し、古典コンピューティングを量子コンピューティングの概念で拡張することを目指した。「量子コンピューティングに着想を得たアルゴリズムを用いて、これを古典コンピュータの上で動作させてきた。Quantum Development KitやPython SDKを用い、QiskitやCirq、Q#などを活用して、プログラムを最新の量子テクノロジーの上で実行できるようになった」(ラマナン氏)。

 Azure Quantumでは、組み合わせ最適化問題の処理においてマイクロソフトの「QIO」が活用できる。ラマナン氏は、「QIOはハードウェアの接続性の制限が少ない。最適なハイパフォーマンスで、ハイスケールを持つ古典コンピュータを活用することができる。疑似アニーリングよりも性能が高い」と説明する。

 また、パートナーのハードウェアを通じた量子計算として1Qbitの「1Qloud」を用意してきたが、新たに東芝の「SQBM+」も活用できるようになったことを今回発表した。

 Azure Quantumで利用できるSQBM+のアルゴリズムは、短時間で良好な解を求めるための高速な「Ballistic Simulated Bifurcation(bSB)」と、他のコンピュータを凌駕する計算速度で、より正確な解を求めることができる「Discrete Simulated Bifurcation(dSB)」の2種類。さらに、アルゴリズムを自動的に選択するオートチューニング機能も実装しているという。

Azure Quantumでは多様な方法が用意されている

 QIOのQuantum Optimization Serviceを活用した事例も紹介した。

 ケースウエスタンリザーブ大学との医療分野における協業では、MRIスキャンの速度を4倍に高速化、また同じ時間内での画像処理制度を50%向上し、「高い画像精度を基に、脳外科手術を正しい方法で行えるようになった」。

 また、月間500兆トランザクションを処理し、1750億テラバイトのデータを運用するマイクロソフトの「Azure Storage」では、データセンター内でのデータの最適な分散配置を実現するためにQIOを活用し、8%の効率化を可能にした。

 NASA-JPLでは、宇宙向けアンテナを使った通信のスケジューリングを最適化している。アンテナ利用率とスケジュールリクエスト数の最大化を図りつつ、スケジューリングの実行時間を2時間から16分に短縮、さらにカスタムソリューションの利用で2分以内まで短縮したという。

 ほかにも、自動車、航空、ヘルスケア、金融、製造、エネルギー、政府機関などでの活用が進んでいるという。

Azure Quantumの活用事例

エコシステム「Azure Quantum Network」や学習プログラムも

 さらにラマナン氏は、「第1フェーズにおいては、開発者やパートナーなどとのエコシステムが重要なフォーカスになる」と述べ、企業や大学、研究者、政府を含めたエコスステム形成にも取り組んでいると強調する。

 その具体的な取り組みが「Azure Quantum Network」である。量子コンピューティングに携わる人であれば誰でも登録が可能なうえ、すべてのユーザーが利用できる500ドルぶんのハードウェアクレジットを提供。申請すれば最大1万ドルぶんのクレジットまで提供され、無償で量子ハードウェアを利用できる。

企業や大学、研究者、パートナーなどとのエコシステム「Azure Quantum Network」

 さらにスタートアップに対しても、「Microsoft for Startups Founders Hub」を活用して、量子ソフトウェア開発などの支援を行う。

 Azure Quantum関連の情報を発信するブログ、学習プログラムの提供なども行っている。日本マイクロソフト コーポレートソリューション統括本部 クラウド事業開発本部 ビジネスデベロップメントマネージャーの金光大樹氏は、「無償ハンズオントレーニングを提供する『Microsoft Learn』では、Quantum Computingの基礎として8つのモジュールを用意している。それぞれ座学、ハンズオン、知識チェックで構成されており、『Quantum Development Kit』と『Q#』を使って、基本的な量子プログラムを学ぶこともできる」と説明した。

多様なオンラインリソースを提供してAzure Quantumによる量子コンピューティングへの取り組みを支援

量子ビットの大規模化を進め、産業利用や社会課題解決への貢献を

 Azure Quantumにおける今後のフェーズ2、フェーズ3はどうなっていくのか。

 フェーズ2では、前述したトポロジカル量子ビットを活用した量子コンピューティングの取り組みが中心となる。トポロジカル量子ビット実用化に向けた重要なマイルストーンを達成したことで、将来の量子ワークロードのクラウドへの移行を進めることが可能となったため、今後はこのアプローチで規模の拡大を目指していく。

 「マイクロソフトがトポロジカル量子ビットに基づく量子プラットフォームを提供することができるようになったことで、Azure Quantumがより高度化することになる」(ラマナン氏)

 フェーズ3では、トポロジカル量子ビットをベースにスケールアップした量子マシンの提供により、数千万量子ビットを必要とするような複雑な計算も可能とし、具体的な社会問題解決への貢献を目指す。なおAzure Quantumでは、トポロジカル量子ビットによる大規模量子マシンだけでなく、あらゆるアーキテクチャの量子システムを提供する方針だと述べた。

Jij:

 今回の説明会では、Azure Quantum Networkに参加するJij(ジェイアイジェイ)もゲスト参加し、その取り組みを紹介した。Jijでは、量子技術を用いた数理最適化のアルゴリズムの開発、コンサルティングサービス、量子イジングマシンを使った開発者向けの数理最適化クラウドサービス「JijZept」などを提供している。

 JijZeptは、数理モデリングツールのJij Modeling、複数の量子イジングマシンを簡単に切り替えることができるPython Client、独自のデータ構造によって量子イジングマシンにおける前処理計算の高速化を実現するPowerful Middlewareで構成される。

「JijZept」の概要。専門家を起用することなく量子マシン/イジングマシンの活用ができる

 Jij 代表取締役CEOの山城悠氏は、JijZeptにおいて「D-Wave」や独自のシミュレーテッドアニーリングである「Jijソルバー」に加えて、新たにMicrosoft QIOを選択できるようにしたと紹介した。

 「JijZeptで書いた数理モデルを、パラメータのチューニングが行えるような専門知識がなくても、自動的にMicrosoft QIOで活用できるようになる。すでに信号機の制御最適化による渋滞緩和に取り組み、従来手法に比べて20%の待機時間の削減につながっている。Microsoft QIOは、高次数の数式を直接解くことができる点が特徴であり、これまで以上に複雑なモデルでも解けるようになる」(山城氏)

Jij、豊田通商、マイクロソフトによる共同実証では、信号機の制御最適化による渋滞緩和で、既存手法よりも20%待機時間が削減できた

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