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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第74回

チック・コリアのトリビュートアルバム、ドイツ作曲家から見るイタリア謳歌

SACD時代からのド定番、ノラ・ジョーンズのあの曲がリマスターで登場、麻倉怜士推薦盤

2022年06月25日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『Spirit of Chick Corea』
Steve Gadd, Mika Stoltzman

特選

 チック・コリアの盟友たちによるトリビュートアルバム。マリンバのミカ・ストルツマン、クラリネットのリチャード・ストルツマン、ベースのジョン・パティトゥッチとエディ・ゴメス、ドラムスのスティーヴ・ガッド……という名手が結集。スティーヴ・ガッドがプロデューサーを務めた。

 「1.Armando's Rhumba」はミカ・ストルツマンの躍動的なマリンバから始まり、ジョン・パティトゥッチとスティーヴ・ガッドが加わり、トリオで展開。踊るような、ヴィヴットな進行だ。ベースが低い安定感を聴かせ、マリンバの撥音が空気を震わせる。「2.Crystal Silence」はリチャード・ストルツマンの味わい深いクラリネットサウンド。ヴォーカルのチックの愛妻ゲイル・モラン・コリアもおしゃれだ。定番の「8.Spain」はアランフェス協奏曲へのオマージュ。クラリネットで、アルハンブラ宮殿のしっとりした空気感が表現される。主部ではゲイル・モラン・コリアとカレン・ネルソン・ベルのヴォーカルが躍動し、細かなリズム割りドラムスが躍進。スペイン情緒にはクラリネットとコーラスが効く。ボーナストラックとして収められたリチャード・ストルツマンとチック・コリアによる幻のデュオ音源「Japanese Waltz(1985年録音)」は、クラリネットのヴィブラートが感動的。

FLAC:96kHz/24bit
Eight Islands Records、e-onkyo music

『Musa Italiana』
Filarmonica della Scala, Riccardo Chailly

特選

 モーツァルト、シューベルト、メンデルスゾーンというドイツ・オーストリア系作曲家による、イタリアを謳歌した名曲集。寒い国の作曲家が憧れる"太陽の楽園"への賛歌だ。そんなイタリアものには、ブライト、愉悦的、前向きで、元気なリッカルド・シャイーが最適だ。メンデルスゾーン「イタリア交響曲」の第1楽章の躍動と躍進の第1テーマを聴くだけで、シャイーは最高と分かる。弦からも、木管からも、金管からもイタリアの陽気な空気が伝わってくる。

 シャイーはコンセルトヘボウやゲバンドハウスという渋めのオーケストラまでも派手に変えるのだから、元祖イタリアのスカラ座オーケストラなら、なおさらだ。第2楽章のマイナーも悲劇的でなく叙情的。聴き慣れた楽譜のエディションと違う1834年改訂版は新鮮だ。第3楽章も大いに違う。古典派的な響きといえようか。スカラ座の豊かなソノリティが捉えられたオーケストラの響きが美しく、マッシブで、すべらかなテクスチャーだ。2021年6月1-6日、ミラノのスカラ座で録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music

『Come Away With Me[Remastered]』
Norah Jones

特選

 2002年にリリースされ、20ヵ国でアルバム・チャート1位を獲得し、これまでに約3000万枚のセールスを記録した世紀の名アルバムが、当時マスタリングを手掛けたテッド・ジェンセンによってリマスターされた。オーディオ界に君臨する天下の名曲・名録音の変更は、オリジナルエンジニアしかできない芸当だろう。

 「1.Don't Know Why」。初めに新版を聴いて次に旧版を聴くと、旧版はこんなに情報が足りなかったのかと衝撃を覚えるほどだ。新版はまず冒頭のピアノ、ギターからして、これほど、音色やディテールの情報が多かったのか、リマスタリングでここまでよく引き出したと感嘆する。それも情報を強調するのでなく、やさしい音色ならさらに優しく、強い音なら、単に強いだけでなく、その奥の深みも聴かせてくれる。ヴォーカルも同様の変化であり、ノラ・ジョーンズのフレージング、節回し、歌詞の表情……と実に細かな部分まで、音楽的な解釈が深まった印象。彼女のピアノもより表現的になった。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
CM BLUE NOTE(A92)、e-onkyo music

『I』
中島 美嘉

推薦

 全作詞・作曲を自身が手掛けた初のセルフプロデュースアルバム。初めての作曲なので、まずはパソコンを買うことから始めたという。 「1.HELLO」は前向きのリズム主体のナンバー。エレクトリックギターとのユニゾンのヴォーカルが快適だ。「2.Puzzle」は演歌的なブルース。独特の声音色が魅力。「3.僕には」は気だるいアンニュイ的なバラード。「4.I'm Here」はバスドラムを中心にリズムが強調された上に、英語歌詞が紡がれる。「5.Phantom」は浮き上がるようなリズムに乗って、セリフが吐かれる。「6.めんどくさい」はロック的な叫び。「7.CEO」はマイナーのロック。「8.信じて」は跳躍的な旋律を粘っこく歌う。「9.Delusion」はメロデックなワルツ。エンジン始動音から始まる「10.LIFE IS A DRIVE」は、リズムに乗って人生が紡がれる。「13.愛のしずく」は日本的な音階にのって、しっとりと歌われる。中島美嘉の心からの叫びが聴けるアルバムだ。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music

『A Gathering of Friends』
John Williams, Yo-Yo Ma, New York Philharmonic

推薦

 今年2022年2月8日に90歳となった映画音楽界の巨匠ジョン・ウィリアムズが快進撃だ。ウィーン・フィル、ベルリン・フィルと来て、今度はニューヨーク・フィルだ。2021年9月に、ニューヨークはマンハッタンセンターでの録音。現代最高のチェリスト=ヨーヨー・マ、ニューヨーク・フィルという顔合わせだ。 メインがジョン・ウィリアムズがヨーヨーのために書いた「チェロ協奏曲」。これを提案したのは小澤征爾で、初演は1994年7月7日セイジ・オザワ・ホール柿落としで行われた。トレモロのようなオーケストラサウンドに乗ってヨーヨー・マのチェロが断片的な不安な旋律を奏でる。木管のオブリガードを効果的に使うオーケストレーションはジョン・ウィリアムズならでは。 5.6 7と3曲続ける「シンドラーのリスト」組曲も、しっとりと。味わいの深いソロチェロをフューチャーしている。悲劇的な曲想にチェロはぴったり寄り添う。

 2018年、バーンスタイン生誕100年にジョン・ウィリアムスが作曲した「8.Highwood's Ghost」は、幽霊があちこちで出現するような不気味な美が聴ける。「9.With Malice Toward None from Lincoln」はアイルランドの香りが美しい。「10.A Prayer for Peace from Munich」はオンマイクで、直接音が主体。個個の楽器がひじょうにクリヤーに、輪郭豊かに捉えられている。音量の小さなギターも、しっかりとオーケストラに負けない大きな音像でフューチャーされている。2021年9月、ニューヨークはマンハッタンセンターで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Entre eux deux』
Melody Gardot, Philippe Powell

推薦

 ノラ・ジョーンズ、マデリン・ペルーと並んだアメリカを代表する女性シンガー、メロディ・ガルドー。ピアニストのフィリップ・バーデン・パウエルとのデュオによる新作を、メロディはこう述べている。「この作品を短い言葉で表現するとすれば、深い詩と強いメロディについての愛を持つ2人のダンス、という感じかしらね。タイトルの『オントレ・ウー・ドゥ』(Entre eux Deux)は2人の間でという意味で、今回の音楽をよく表現できていると思う。お互いについて深く掘り下げた世界がここには広がっているの。聴く人にもそれが伝わると嬉しいわ」。

 しっとりとした大人のヴォーカル。フィリップとのデュオが心に染みる。ひとことひとことを明瞭に、そして詩的に歌う。フィリップの父でブラジル音楽を代表するギタリスト/作曲家だったバーデン・パウエルの名曲「プレリュードのサンバ」は、ゆっくりと歌われ、深い味わい。リバーブは多いが、本作品の世界観を上手く響きでも表現している。2021年12月、パリで録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Decca(UMO)、e-onkyo music

『Live From Vienna』
phil Blech Wien, Olivier Latry, Anton Mittermayr

推薦

 ヨーロッパの有名オーケストラの管楽奏者で構成される「フィル・ブレッヒ・ウィーン」が、ウィーンのムジークフェライン・ザールで開催したコンサートのライブ録音。同ホールのオルガンも伴う。ウィーン・フィル、シュターツカペレ・ドレスデン、北ドイツ放送フィル、ウィーン・フォルクスオーパー管弦楽団、トーンキュンストラー管弦楽団、ハノーファー国立歌劇場、ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団などの名門オケからの管楽奏者が蝟集した。2013年のウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの幕間の映像で注目を浴びた。 

 超豪華な音模様だ。そもそもオルガンだけでも金管の音は(擬似的に)出せるのに加え、本物のブラスアンサンブルが加わるとこれほどのゴージャスなサウンドになるのか、驚く。 「4. J.S.バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV.582」や「10.第4楽章:偉大なる聖グレゴリウス 」 の冒頭のオルガンのペダルの低音の偉容さはオーディオチェックにも使えそう。「6 ホルスト:火星(『惑星』 Op.32より)」の不気味さは、弦なしのオルガン+ブラスアンサンプルだからの特別な音色だ。2019年4月、ウィーンはムジークフェライン・ザールでライブ録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music GmbH、e-onkyo music

『John Scofield』
John Scofield

推薦

 名ギタリスト、ジョン・スコフィールドのソロ・アルバムがECMからリリース。2020年の『スワロウ・テイルズ』に次ぐ、ECM第2弾だ。「1.Coral」はダブルトラックで、ソロだけでなく伴奏も担当。小音量の伴奏ギターを従えた大音像の旋律ギターが、どちらもセンターに定位。「4.Danny Boy」のソロギターは、しっとりした味わい。ルーパーでパクパイプのようなドローン音を持続させている。「5.Elder Dance」のダブルトラックによるスウィングも心地好い。「10.Not Fade Away」ではループ芸を堪能。2021年8月、ニューヨークはカトナのトップ・ストーリー・スタジオで録音。

FLAC:44.1kHz/24bit、MQA:44.1kHz/24bit
ECM Records、e-onkyo music

『Franch: Plays Franck』
Elisabet Franch, Albert Guinovart

推薦

 『Franch: Plays Franck』というタイトルは、新進気鋭のフルーティスト、エリザベート・フランチが、生誕200年を迎えた作曲家セザール・フランクのヴァイオリンソナタを吹くという意味だ。2013年、ゴールウェイ・フルート・フェスティバルにてライジングスター賞を受賞して以来、世界各地のコンクールを制覇。 フランクのヴァイオリンソナタは、フルートとの相性がよく、これまでも編曲ものがいくつも録音されている。エリザベート・フランチのフルートは新鮮で鮮烈だ。クリヤーな伸び、豊かな色彩感、繊細な表情は、まさにフルートシーンのニュースターならでは。登場感満載だ。響きがひじょうに多く、ピアノがいまひとつ明瞭でない。フルートはしっかりとした音像を有す。2020年9月11日、ウィーンのオーストリア銀行サロンで録音。

FLAC:44.1kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『One』
サラ・オレイン

推薦

 サラ・オレインのデビュー10周年を記念した、3年半ぶりのアルバム。圧倒的な歌唱力がさらに磨かれている。サラ・オレインの歌は、その曲の世界観を深く耕し、物語を紡ぐ。音声だけを聴いても、舞台が彷彿される。それだけイメージ喚起力がひじょうに強い。「2.スピーチレス~心の声[映画 『アラジン』より]」の豊饒な表現力を始め、「7.ひこうき雲[Live]」のように、あまりにオリジナルのイメージが強烈な曲でも、見事に自分の世界に引き摺りこんでいる。、MCから始まる「「11.マイ・ウェイ[Live]」は」悔いなくは難しいけど、せめて自分らしく」という歌詞も見事に自分のものにしている。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

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