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「SAP Sapphire」開催、幹部4氏がラウンドテーブルでSAP自身のカルチャー変革と戦略を語る

SAPは「ドイツ流の完璧主義からクラウド開発カルチャーへ」

2022年05月16日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 独SAPが2022年5月10日から3日間、米フロリダ州オーランドで年次イベント「SAP Sapphire 2022」を開催した。オンサイト参加者を招いた開催は2019年以来であり、この3年の間にCEOをはじめ経営陣も大きく入れ替わった。会期中、CEOのクリスチャン・クライン氏をはじめとした4人の幹部がメディア向けのラウンドテーブルを開催し、戦略を説明した。

SAP CEO エグゼクティブボードメンバーのクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏

SAP CMSO(最高マーケティング・ソリューションズ責任者) エグゼクティブボードメンバーのジュリア・ホワイト(Julia White)氏、同 CTO エグゼクティブボードメンバーのユルゲン・ミュラー(Juergen Mueller)氏、プレジデント 兼 CPO SAP S/4 HANA担当のヤン・ギルグ(Jan Gilg)氏

顧客が直面する3つの課題とSAPのソリューション

 クライン氏はまず、SAPの顧客が直面している課題として「1)ビジネス変革の継続」「2)サプライチェーン」「3)サステナビリティ」の3つを挙げた。これはそのまま、現在SAPがフォーカスする分野でもある。

 「1)ビジネス変革の継続」という課題に向けたソリューションが、2021年に発表した「RISE with SAP」だ。すでにグローバルで2000社が契約しており、うち新規顧客が60%を占めるという。クライン氏は「1年前には想像もできなかった数字。予想を大きく上回る」と胸を張る。

 今回のSapphire会期中にはAccentureが、RISE with SAPを補完するAccentureのソリューションとサービスポートフォリオである「SOAR with Accenture」を発表した。こんごは2社共同で、さまざまなクラウドインフラやサービスを提供するという。またGoogleとは、「Google Workspace」とのネイティブ統合も発表した。今後もRISE with SAPを通じて、こうした提携を積極的に進めていくという。

 RISE with SAPで重要な役割を果たすのが、2021年に買収したビジネスプロセスマイニングのSignavioだ。クライン氏は「RISE with SAPのアイディアを温めていた頃、唯一欠けていた分野がビジネスプロセスマイニング」だと語り、ホワイト氏も「Signavioこそ“秘宝”」とその価値を強調する。「RISE with SAPではERPに目が行きがちだが、Signavioでレントゲンのように自社のプロセスの現状を把握できる。大きな可能性を秘めた技術だ」(ホワイト氏)。

 「3)サステナビリティ」の課題については、SAP自身の20年以上に及ぶ環境、倫理などの取り組みを製品化しているという。ポイントは「製品への組み込み」だ。一例として、英国のロックバンドColdplayからの依頼により、サステナブルなライブツアー実施のためのConcurでCO2排出量を表示できる機能を開発し、現在では標準機能として提供していることを紹介した。

 なおSAPでは、Coldplayの「Music of the Spheres」ワールドツアーに合わせて、ファンがダウンロードできるモバイルアプリも開発している。このアプリは、ライブストリームなどのファン向けコンテンツに加えて、ファン自身がライブ会場へ足を運ぶ際のCO2排出量を計算できる機能も備えている。

Coldplayの「Music of the Spheres」ツアー向けアプリ(公式サイトより)

製品開発もパートナー戦略も大きく変革を進めるSAP

 ラウンドテーブルの中心となったテーマは「SAP社内の変革について」だった。

 2020年春、単独CEOに就任したクライン氏は、学生時代からSAPで働いている“生え抜き”で、CTOのミュラー氏も同様だ。さらにギルグ氏もドイツの大学を卒業しており、SAPには16年以上勤務している。一方で、2021年にSAPに入社したホワイト氏は、それ以前はMicrosoftでコーポレートバイスプレジデントとしてAzureのプロダクトマーケティングなどを歴任した。

 Microsoftで企業の変化を経験したと語るホワイト氏は、現在は社内外でパートナー戦略をプッシュしているという。「どこにフォーカスするのかを決めて、エコシステムを構築し、パートナーと一緒に成功する」とホワイト氏は語る。

 製品開発も大きく変化しているという。「S/4 HANA」の最高製品責任者(CPO)を務めるギルグ氏は「オンプレミス環境に、大規模でモノリシックなERPソリューションを提供していた頃のSAPは、自社ですべてを構築し、一部パートナーだけがアドオンできるようにしていた。現在はまったく違う」と述べ、次のように戦略を語る。

 「クラウドを受け入れSaaSモデルに向かうにつれて、(プロダクトを)モジュラー型に変更している。そこでは継続すべきところ、差別化になるところを識別し、SAPがやる必要がないところについては戦略的に(パートナーと)提携する。これにより、エンドツーエンドのプロセス、エンドツーエンドの体験を提供する」(ギルグ氏)

 業種別のインダストリーソリューションについても、かつてはERPのコアに組み込んでいた機能をモジュラー型に切り替え、同一プラットフォーム上で複数のインダストリーをまたいでパートナーと共有しているという。

 こうした技術変革のベースになっているのが「SAP Business Technology Platform(BTP)」だ。ミュラー氏は「API、ワン・ドメイン、ワン・セマンティックモデル、イベント型などの特徴を持つプラットフォーム(BTP)を用意した」と説明する。このBTPを通じて、SiemensやAppleなどがソリューションを提供している。今回のSapphireではAppleとの提携を拡大し、倉庫や物流スタッフ向けのアプリを発表している。またSAP内部でも、部門を超えたクロスエンジニアリングを積極的に進めていると述べた。

 製品のリリースについても、これまでとはまったく違うやり方に変わっている。ギルグ氏によると、これまでは1~2年をかけて開発した製品をSapphireで大々的に発表して「顧客が受け入れるのを待っていた」が、現在では長期的なテーマのもとで「迅速に開発して継続的にイノベーションをデリバリーする」方針になっている。顧客からのフィードバックを得て、それを迅速な製品改善につなげるという繰り返しだ。

 ソフトウェア開発チームにとっては、大きなマインドシフトになる。オンプレミスが中心だった時代には「ひたすら機能を開発し、検証していた」が、SaaSモデルでは顧客が中心の考え方に変わる。顧客がどのように使うか、SAPが顧客のためにどうオペレーションできるかを考えており、開発者自身にもこのスキルを身につけてもらうよう指導しているという。

 「最も複雑なものを完璧に作ろうとするのがドイツのエンジニアリングカルチャー。かつてのSAPもそうだったが、現在は迅速に開発することを学ばなければならない。これは簡単な変化ではなく、現在もまだ取り組んでいる最中だ」(ギルグ氏)

 クライン氏は、CEOとして変化を促進する立場から「トレーニングが重要だ。かつてのように大きなERPだけではない。サイロを超えたエンドツーエンドの製品開発や機能統合などの計画を大切にしている」と話す。

 ホワイト氏は「カルチャーの変化は長期的な取り組み。リーダーレベルで強い連携を作り、日常レベルで実践する」と、自身の経験から導き出した成功の方程式を語った。「リーダーは常に何を期待しているのか、どこに向かおうとしているのかのメッセージを送る。重要なのは成功を見せること。それにより、社内に良い影響が生まれる」(ホワイト氏)

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