量子コンピュータは、未来のテクノロジーと言われてきた。だが、この数年で、研究開発分野での活用に留まらず、企業がビジネスにおいて、量子コンピュータを活用する時代が訪れている。
その流れを牽引している1社がIBMである。
2018年に、IBMリサーチを率いていた米IBMのジョン・ケリー シニアバイスプレジデント(当時)にインタビューした際、量子コンピュータについて、次のような回答が返ってきたことを思い出す。
「最初に量子コンピュータを考えたときには、これを生涯のうちに見ることができるかどうかを疑問視していた。しかし10年ほど前から、この勢いであれば、量子コンピュータを見ることができるだろうと考えるようになった。そしていまでは、それが現実のものになっている。それだけ、量子コンピュータの進化は、指数関数的になっている」
最先端の研究者ですら、想像しなかった勢いで、量子コンピュータは進化し、一気に実用化の域にまで到達しているのだ。
IBMが量子コンピュータの研究を開始したのは、1970年代にさかのぼる。
量子コンピュータの論理に関する研究から始まり、量子効果を制御する技術が現実になった2000年以降は、その研究を一気に加速。2016年には、5量子bitの量子コンピュータ「IBM Quantum Experience」を稼働させ、IBM Cloudを通じて世界中の研究者が利用できるようにした。
その後の進化はさらに加速している。
2017年5月には、16量子ビットのIBM Qシステムを発表。このとき、IBMリサーチのディレクターを務めていた現IBM会長兼CEOのアービンド・クリシュナ氏は、「量子コンピュータはいま始まったところであるが、いまこそが、ITの歴史に残る、歴史的瞬間である」と発言。「古典コンピュータの性能がさらにあがっても、苦手なものがたくさんあり、それはいくら訓練しても克服できない。それをカバーするのが量子コンピュータ。できることはなにかを導き出し、解決不能と考えられていた問題を解決できるようになる」と述べた。
この連載の記事
- 第11回 量子は次のインターネット。政府が掲げる1000万人が量子技術を利用する環境とは
- 第10回 日立製作所が取り組むCMOSアニーリングマシン&量子ゲート型のシリコン量子コンピューター
- 第9回 量子コンピューティングの元祖をうたうNECが目指す超伝導回路を用いた量子アニーリングマシンの開発
- 第8回 東芝が力を入れるシミュレーテッド分岐マシンと量子暗号通信
- 第7回 富士通の転換期。2030年メインフレーム終息を見据え、動きを見せるデジタルアニーラや量子シミュレータ活用
- 第6回 わずか2年で、驚くべき進歩を遂げる量子コンピュータ。IBMが発表した新ロードマップとは
- 第4回 日本は「量子イノベーション技術立国」となり得るか、新産業創出協議会(Q-STAR)への期待
- 第3回 日本のスパコンを支える「八ヶ岳」とは
- 第2回 なぜ富岳がスパコン界のノーベル賞・ゴードンベル賞を獲得できたのか
- 第1回 スパコン富岳が4期連続4冠を獲得した意義とは