オーディオ界では今年も新製品発表が続いている。これは明るい話題だが、実のところ暗雲も立ち込めてもいる。その最たるものは、品不足や相次ぐ製品・アクセサリーの値上げだ。例えば、D&Mは、来月から海外スピーカーブランドDALIの価格改定すると最近発表した。これは昨年に続いて早くも二回目の価格改定となる。理由は原材料の高騰や物流コストの上昇をあげている。
これはもちろんDALIだけの話ではない。インターネットでメーカーや販売店が発信している情報を調べてみると、FOCAL、Wilson Audio、NAGRA、AVALON Acoustics、CH Precisionなど輸入オーディオ製品全般の値上げが続いていることが分かる。
ポータブルの分野でもエミライが先週、Noble Audioの完全ワイヤレスイヤホン「FoKus PRO」の受注を一時停止すると発表した。理由はKnowles製BAドライバーの納品遅れによるもので、部材調達・物流の混乱に加え、昨年末にフィリピンならびにマレーシアで発生した超大型台風の影響によって、製造工場の操業に影響が出たことを挙げている。
昨年まではこうした値上げや品不足の理由として「半導体不足」が取りざたされることが多かったが、最近ではこれがさらに広範囲化し、一般的な電子部品や原材料価格、そして輸送費の高騰など物流コストが要因になってきている。これは特に輸入製品で目立つが、円安など為替変動の大きさも要因となっている。社会全体としてみた場合、さらに脱炭素社会に向けた二酸化炭素排出制限などもコスト増につながっていくだろう。
少しずつ環境が変化しつつあるアフターコロナの市場
さて、巣ごもり需要を背景に、昨年まではストリーミングなどのサブスク分野の伸長が見込まれていたが、ブルームバーグによると、優良企業だった配信大手のNetflixの時価総額が5兆円余りも減少しているという。これは先週末までの株価下落によるもので、会員数増にブレーキがかかっていることが影響したものだという。一昨年までは伸びていた会員数だが、昨年来大幅な減少が進んでいる。Netflixは中南米などでの厳しい経済情勢やコロナ禍の影響が長引いていることを理由に挙げている。
これらを見ていくと、ここ2年のコロナ禍と社会情勢の変化がオーディオ・ビジュアル業界にも様々な影響を与えていることが分かる。
特にオーディオなどの家電製品はこれまで、時間が経てばより良いものが安く買えてきたが、今後は必ずしもそうとは言えないようになってきたのかもしれない。多様かつ広範囲な背景が相互に影響しながら、生産や流通にかかわるコストが積み上がり、無視できないほどの量になってきている。コロナ禍の成り行きにはまだまだ不透明感があるし、ウクライナ国境の緊張など国際的な政治情勢、トンガ火山噴火などの天災による影響や気候変動リスクなどによるマイナスの影響も懸念されている。オーディオ製品の値上げはこうした複雑な社会情勢を反映するもののひとつと言える。
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