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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第69回

ショパン・コンクール優勝者Live、アデル6年ぶりのアルバムなど~麻倉怜士ハイレゾ推薦盤

2022年01月23日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『ブルース・リウ 第18回ショパン・コンクール優勝者ライヴ[Live]』
ブルース・リウ

特選

 2021年10月の第18回ショパン国際ピアノ・コンクールでは、カナダ出身24歳のブルース・リウ、Bruce (Xiaoyu) Liuが優勝。本ライブアルバムは、そこで演奏されたソロ作品集だ。『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』、『作品33の4つのマズルカ』『作品10の練習曲』『 作品4のワルツ変イ長調』『スケルツォ第4番 ホ長調』『モーツァルトの歌劇《ドン・ジョヴァンニ》の『お手をどうぞ』による変奏曲変ロ長調』という曲順。弾いたピアノはイタリアのFazioli。これはショパンコンクールでの初のFazioli優勝だ。

 実に美しく、詩情に溢れる音であり、音調だ。センターに定位したピアノから清涼で、ブリリアント、そして色彩豊かな音がワルシャワ・フィルハーモニーホールに広く拡散される様子が、丁寧に収録されている。コンテストの記録という目的もあるのか、直接音が主体なので、演奏の細やかなディテールが、実に正確に捉えられている。表情豊かな弱音から、輪郭をくっきりと表出する強音までのダイナミックレンジは広大。ホールトーンもきれい。ショパンコンクールの記録であり、現代のピアニズムの水準も計れる。2021年10月、ワルシャワのショパン国際ピアノ・コンクールでのライヴ録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon(DG)、e-onkyo music

『30』
Adele

特選

 アデル約6年ぶりのアルバム・リリース。すでに世界的に大ヒットしている。制作年齢をタイトルにしたアデルのアルバムは、これまでも驚異のヒットを記録している。2008年のデビュー・アルバム『19』ではグラミー賞最優秀新人賞、最優秀ポップ女性歌手の2部門を受賞。2011年のセカンド・アルバム『21』は19カ国で1位を獲得し、全世界で2500万枚を販売。2015年の『25』でもアメリカとイギリスで“2015年に最も売れたアルバム”とされた。そして2021年に『30』をリリース。e-onkyo musicで初めてのアデル作品のハイレゾ配信だ。

 オンマイクの声はとてもインティメットだ。ひとことひとこと噛みしめるように歌う語り口には、大いなる説得性がある。スケールが大きく、艶艶したいぶし銀のように声質の魅力は絶大。『12.Love Is A Game』は、半音で下がっていくコード進行と、愛の深みをしっとりと歌い上げる叙唱が感動的だ。

FLAC:44.1kHz/24bit
Columbia、e-onkyo music

『ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」、第7番』
伊藤亮太郎、清水和音

特選

 NHK交響楽団コンサートマスターの伊藤亮太郎と清水和音の協演のベートーヴェンのヴァイオリンソナタ。素晴らしい演奏であり、録音だ。ヴァイオリンとピアノに共通するのが、音の明瞭性。一音一音がくっきりとクリヤーに表出され、さすが日本を代表する二人のベートーヴェンだ。エクトスン録音の美点が余すところなく発揮されるのは、ソノリティがたいへん美しく、聴き惚れる程なのに、同時に直接音も豊かで、演奏と同様の音の明瞭さが全体に貫かれているところだ。

 多くのヴァイオリンソナタをハイレゾで聴いていると、音響的にヴァイオリンとピアノに違うテクスチャーを与えているアルバムもあるが、本録音はふたつの楽器がまさに同一空間にて演奏し、同じソノリティが与えられるという、臨場感的な同一性がある。それも本録音の美質だ。2021年5月11-12日、東京・稲城iプラザにて録音。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music

『Ballads』
山中千尋

推薦

 山中千尋のこれまでの作品からバラード曲を中心に自らセレクトした演奏に、ソロ・ピアノの新録『ダニー・ボーイ』、『ルビー・マイ・ディア』、『アイ・キャント・ゲット・スターテッド』3曲を加えたアルバム。山中千尋のピアノはストーリーを語る。ひとつひとつの音の意味合いが深く、たっぷりと込められた感情がストレートに聴き手に響く。新録音の『ダニー・ボーイ』は一音一音に思いと心を込め、丁寧にハーモニーも紡ぎ、聴き手に感情的なざわつきを与える。『アイ・キャント・ゲット・スターテッド』もゆったりと音を噛みしめ、ストレートなメッセージを聴かせてくれる。その他は各年代の録音のコンピレーションだが、音調的なバランスがよく、適度のサイズの音像を持つ録音姿勢は、すべてに共通している。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『〈ハイドン:交響曲集 Vol. 13〉
第 94番「驚愕」、第 1番、第 64番「時の移ろい」』

飯森範親、日本センチュリー交響楽団

推薦

者の飯森範親と共にスタートした『ハイドンマラソン』は、ハイドンのすべての交響曲を演奏する一大プロジェクト。本アルバムは第22回コンサートのライヴ録音だ。素晴らしいソノリティと解像感だ。エクストン録音は、響きと直接音のバランスが好適なのが特徴だが、まさに本ハイドンは、その典型だ。弦のグラテーションの繊細さ倍音の多さ、木管の暖かなテクスチャーが十分に楽しめ、同時にいずみホールのみずみずしく、端正な響きの豊かさも聴ける。古典的な典雅な音色が、直接音とソノリティの合わせ技で、より感動的。2019年1月25日(第94番)、2020年1月17日(第1番、第64番)に、大阪のいずみホールにてライヴ録音。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music

『Billie』
MAYA

推薦

 MAYA18作品目、自身のAMBIVALENCEレーベルでは第2作目だ。MAYAはシンガーとしては珍しく、オーディオ・コンシャスだ。本アルバムは東京DEDEスタジオにて、真空管マイクを始め、ヴィンテージの機器にてアナログ録音。名機、STUDER A-800にて2インチテープでマルチ収録している。Dedeスタジオは、私のUAレコードで、78回転のLPシングル『小川理子バリュション』をカッティングしていただいたところだ。

 ヴォーカル音調が艶艶してブライトで、濃密なエコー付与が、声に煌めきと艶を与えている。ヴォーカル、ベース、SAXともにオンマイクだが、きつさや過度の輪郭感が感じられない快適なもの。MAYAの声質の美的な部分が巧みにフューチャーされ、豊かなブレゼンスが感じられる。2021年6月11日に東京DEDEスタジオで録音。

FLAC:96kHz/24bit
AMBIVALENCE、e-onkyo music

『Wagner: Wesendonck-Lieder
/ Mahler: Rückert-Lieder[Live from Salzburg]』

Elīna Garanča、Wiener Philharmoniker、Christian Thielemann

推薦

 パンデミックの中の2020年と2021年の夏、メゾ・ソプラノの名花、エリーナ・ガランチャはクリスティアーン・ティーレマン指揮ウィーン・フィルとザルツブルク音楽祭で協演。その二年にわたる公演がライヴ録音された。2020年8月のワーグナー『ヴェーゼンドンク歌曲集』と、2021年7月のマーラー『リュッケルト歌曲集』だ。

 左右にリッチに拡がる ウィーン・フィルを背景に、エリーナ・ガランチャがセンターに安定的に位置し、音像的にも主役を張っている。ガランチャはグロッシーな低域、滑らかで深い中域、張りのあるクリヤーな高域にてメッセージを豊かに伝える。ティーレマンは、包容的な響きをウィーン・フィルから引きだし、ガランチャの多彩な表現を支えている。ザルツブルク祝祭大劇場の豊かなソノリティと共に、オーケストラのディテールまで細やかに捉えられている。2つの録音で、かなり音調が違うのが面白い。2020年8月19-22日の『ヴェーゼンドンク歌曲集』はオーケストラに比して、ヴォーカル音像が大きい。2021年7月31日~8月3日の『リュッケルトの詩による5つの歌曲』は、声の音像とオーケストラとの融合性が高く、ステージイメージが深い。ザルツブルク祝祭大劇場で録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon(DG)、e-onkyo music

『西遊記 ~シン・ミックス~ (88.2kHz/24bit)』
GODIEGO

推薦

 『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』ならぬ「シン・ミックス」だ。コロムビアの説明によると、オリジナルマスターテープから最新のデジタル技術でハイレゾ音源に変換。それを新たにミックスして、黄金時代のゴダイゴを現代に蘇らせることに成功した音源---という。つまりアナログのマルチトラックを、ひとつひとつデジタルに変換し、デジタルのハイレゾ空間で、2チャンネルにリミックスする。つまりリミックス+リマスターというわけだ。そこで、e-onkyo musicで手に入る旧オリジナルミックス+リマスター版と、今回のシン・ミックス版を比較した。旧版は96kHz/24bit、新版は88.2kHz/24bitだ。オリジナルは1978年のアナログ録音。

 シン・ミックスは冒頭から音のヌケが断然、良い、旧では混濁しているところが。ヴォーカルのハモリが明瞭になり、クリヤーになった。弦もグロッシーになり、リズムの刻みも明確だ。ヴォーカル、リズム、シンセ、ストリングス、キーボード……と楽曲を構成するひとつひとつの要素が、充実した音のリソースを持ち、音の立ちが鮮鋭になった。旧で混濁するところも、ひつとひとつを際正せているのが新版だと分かった。

FLAC:88.2kHz/24bit、WAV:88.2kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music

『Glücksbringer』
古川貴子

推薦

 東京藝術大学大学院修士課程を修了、数々の国際コンクールで入賞を果たし、ドイツ国家演奏家資格をもつピアニスト、古川貴子の初のソロ・アルバム。たいへん珍しいスタインベルク・ベルリンを弾く。ライナーの解説を引用すると、ベルリンのピアノメーカーのスタインベルク有限会社は1908年に創業され、1940年に廃業。1910年代に使われていた部品と素材、ドイツ職人気質によって製作されたピアノと、当時高く評価されたという。日本には昭和3~4年に昭和天皇御大典記念として各学校に寄贈され、学校や病院などの公共機関が所有していた。現在、日本で確認されているピアノはグランドピアノが4台、アップライトピアノを含めても10台に満たない数で、山田耕筰、岡本太郎も所有していたという。今回、古川貴子が弾くのは2011年に修復した日本では4台目のグランドピアノ。

 実に素敵な音色のピアノだ。しっとりとした、柔らかな感触で、角にアールが与えられ、耳に優しい。これがスタインウエイなら、キラキラと輝き、鋭角的な尖鋭感があるところだが、『スタインベルク』は、限りなく優しく、暖かい。肌触りがよく、気持ちの良い音のグラテーションを聴かせてくれる。曲目も誰でも知っているピアノピースが多く、麗しさと優しさに包まれたアルバムだ。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:5.6MHz/1bit
5.1ch FLAC:192kHz/24bit、5.1ch WAV:192kHz/24bit
HD Impression、e-onkyo music

『Journeyer』
海野雅威

推薦

 2020年9月に、ニューヨークの地下鉄で暴行され、負傷を追った日本人ピアニストがニュースになった。それが海野雅威氏だ。音大を出ずに、単身でキャリアを築き、彼の地のジャズシーンで認められた。本作は2014年にニューヨークにて制作され、海野氏のオフィシャルサイトやライブ会場でのみ限定販売されていたピアノトリオ・アルバム。e-onkyo musicにて独占配信。スゥインギーで、気持ちの良いグルーブを聴かせる、快適な音進行だ。少し古い録音なので、音はいまひとつ鮮明ではないが、トリオの各楽器の音のぶっとさは心地好い。海野氏の回復を祈りたい。

FLAC:96kHz/24bit
──、e-onkyo music

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