第3回 大河原克行の「2020年代の次世代コンピューティング最前線」

日本のスパコンを支える「八ヶ岳」とは

文●大河原克行

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産業利用に向けた整備に力を注ぐ日本のスパコン

 現在、HPCIで利用できる計算機の資源総量は250PFLOPS(ペタフロップス)に達し、信頼性が高い二重化された共用ストレージは45PB(ペタバイト)の規模になる。関係者によると、これだけの資源総量をもった環境は、日本以外にはないという。

 また、HPCIシステムは、国立情報学研究所(NII)が設置、運用している学術ネットワーク「SINET-5」で結び、全国の大学や研究機関の計算資源やストレージをシングルサインオン (SSO)で利用できるようになっている。利用者は任意のHPCIリソースへログインすれば、利用権のあるすべてのHPCIリソースを、シームレスに利用できる。例えば、富岳へログインして計算を行い、その結果をHPCI共用ストレージに転送したい場合には、再度、HPCI共用ストレージにログインする必要はない。

 2019年8月に京が停止し、富岳の共用が開始される2021年3月まで、日本にはフラッグシップマシンが存在しなかったが、この間の日本における様々な計算やシミュレーションを行っていたのは、第2階層のスーパーコンピュータ群である。また、大きな話題を集めた富岳による「新型コロナウイルス飛沫・エアロゾル拡散モデルシミュレーション」でも、東京大学情報基盤センターと筑波大学計算科学研究センターが共同運営する「Oakforest-PACSスーパーコンピュータシステム」が使用されているなど、まさに縁の下の力持ちという役割を担っている。

 なお、第二階層のスーパーコンピュータはそれぞれにロードマップを策定しており、今後、それぞれのスパコンが進化を遂げることになる。

 日本のスーパーコンピュータの特徴のひとつが、産業利用が促進されているという点だ。

 高度情報科学技術研究機構神戸センター(RIST)では、富岳や第二階層にあるスーパーコンピュータ群を対象に、産業利用の募集を年2回行っており、こうした取り組みは世界的に見ても珍しいという。

 文部科学省によると、富岳の資源配分では、全体の約45%を、HPCIによる公募で利用。そのうちの約40%が一般利用となっている。また、産業利用は資源全体の約10%が配分されており、そのうち5%程度が公募による利用、残り5%程度がSociety 5.0推進枠となっている。さらに成果創出加速で約40%、高度化利用促進で約10%、それ以外に政策対応でも利用されることになる。

 高度情報科学技術研究機構神戸センター(RIST)の奥田基氏は、「産業利用は、京のときから始まったものであるが、学術利用に留まらず、産業利用も積極的に推進する制度は、現時点でも、世界にはほとんどない。日本のHPCIと同様の環境として、米国ではINCITEやXSEDE、欧州ではPRACEやEuro HPCがあるが、HPCIは世界に類を見ないスーパーコンビューティング環境である」とする。その上で、「富岳では、産業界に寄り添う伴走型支援プロジェクトを新設し、『産業利用の広場』、『初めてのHPCI』など、富岳の情報を産業界向けに発信。産業界を中心に利用が多い著名なフリーソフトウェアを富岳で使えるようにもしている。また、AIやデータサイエンスで利用されるツールやライブラリなどの利用を可能にするような整備を進めている」と、産業利用に向けた整備に力を注いでいることを強調する。

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