第1回 大河原克行の「2020年代の次世代コンピューティング最前線」

スパコン富岳が4期連続4冠を獲得した意義とは

文●大河原克行 編集●ASCII

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2021年11月に獲得した新たなランキング首位

 実際、4冠を獲得したそれぞれの内容を見るとそれが理解できる。

 1993年にスタートし、最も歴史がある「TOP500」は、LINPACKの実行性能を指標として、世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までをランクづけするものだ。計算能力と信頼性を総合的に示しているものであり、富岳は、442.01PFLOPS(ペタフロップス)、実行効率は82.3%を達成。2位の米Summitの148.6PFLOPSに約3倍の性能差をつけている。

 2つめの「HPCG」は、2014年から開始しているランキングだ。先に触れた「TOP500」が近年利用されているアプリケーションで求められる性能要件と乖離しはじめたという指摘に対して、それを埋めるために作られたものだ。産業利用などの実際のアプリケーションでよく使用される、まばらな係数行列で構成される連立一次方程式を解く計算手法である「共役勾配法」を用いたベンチマークプログラムによって計測している。この計測で、富岳は、16.00PFLOPSを達成。2位の米Summitの2.93PFLOPSに比べて、約5.5倍の性能差をつけている。

 3つめの「HPL-AI」は、GPUや人工知能向け専用チップによる低精度演算の演算器を搭載した計算機の能力が、TOP500に反映されない実情を捉えて、低精度演算で解くことを認めたベンチマークであり、2019年11月に提唱。AIに利用する際の能力を測るものだといえる。富岳は、汎用CPUを活用していながら、2.004EFLOPS(エクサフロップス)の高いスコアを記録。2位の米Summitの1.41EFLOPSに、約1.4倍の性能差をつけている。

 そして、最後の「Graph500」は、大規模で、複雑なデータ処理が求められるビッグデータ解析において指標となる大規模グラフ解析の性能を示すもので、2010年から発表されている。富岳は、102,955 GTEPS(ギガテップス)を達成しており、2位の中国Sunway TaihuLightの23,756GTEPSとは4倍以上の性能差があった。

 実は、2021年11月に、富岳はもうひとつのランキングで首位を獲得している。

 それが、AI処理の総合性能を評価する「ML Perf HPC」である。

 ML Perf HPCは、深層学習アプリケーションの性能評価であり、画像処理や言語処理といったレベルの性能評価とは異なり、宇宙論パラメータの予測、地球規模の異常気象現象の特定、触媒システムの量子力学的特性の予測など、通常のスーパーコンピュータでは歯が立たないような難しい大規模な問題を、機械学習を活用して解いていくものだ。

 富岳は1.29モデル数/分というスループット性能を達成。2位に対して、1.77倍の性能を発揮している。しかも、富岳では、8万個のプロセッサを利用して学習を行なっており、富岳が持つ15万個以上のプロセッサの半分程度の利用に留まっている。AI分野での強みが証明された格好だ。

 高い処理性能とアプリケーションの実行性能、AIやビッグデータ処理といったすべての領域で2位に大きな差をつけており、理化学研究所の松岡センター長は、「4期連続の4冠は、富岳の総合的な性能の高さを示すとともに、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI 開発、情報の流通および処理に関する技術開発を加速するための情報基盤技術として十分に対応が可能であることが実証された」としている。

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