フォアー田中悠斗CEOと長岡技術科学大学 白川智弘准教授が語る:

日本の基礎研究は宝の山。AIベンチャー「Fore-」が切り拓く産学連携のスタンダード

文●盛田 諒(Ryo Morita) 撮影● 曽根田 元 編集● ASCII.jp

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共同研究の極意は「指揮の要訣」?

白川 開始点が「ちょっと会って、ごはんを食べながらお話しませんか」だったというのが象徴的だったなと、いま話していてあらためて感じました。

 研究者と経営者が何も目的意識なく、なんとなく会って、お互いに面白い話を出し合う場所は基本ないですよね。お互いにアンテナが立っていたとき、細い糸をたどって偶然出会えた。目的ありきではなく雑談から入り、面白いと思うものをゆっくり陳列できた。その偶然が幸運だったと思います。

藤田 HAKOBIYAがある種の出会いを生むモデルであるのと同じように、白川先生と田中も最初の雑談がなければ出会わなかった。そういう偶然の出会いそのものが、フォアーのカルチャーを体現してますよね。

 興味深いのは、科学者でありながら経営者のような面もある白川先生と、経営者でありながら研究したい気質がある田中という2人の間で活発な議論が生まれることです。白川先生は科学者なので、田中があいまいなことを言うと「いま言ったこと矛盾してない?」と糾してくるんです。そのとき田中は「たしかにそれはそうですね」と素直に受け止めるんですよね。

 経営者は反対意見を言われても「おれには見えてるから」で終わらせてしまうものですが、「反対意見があるものこそ価値がある」というフォアーのカルチャーがあるからこそ、議論ができているところがあると思います。

白川 フォアーとの共同研究はダイナミックなんですよね。企業からの依頼は、パッケージであることが多いんです。「この予算で、これだけの成果が上がることをしてください」とか、「このデータで、こういうことを言えるための解析をしてください」といったように結論がある程度決まっていることが多い。

 一方、フォアーの場合は大枠のビジョンだけが田中さんから示されます。その上で「こんな話がありますが、どんなことをしていきますか」となるんです。KPIはあるんですが、そこに向けてどんな手段や方法を使っていくかは試行錯誤です。うまくいかなかったらその都度方向を考えなおすというダイナミックな形で進めていきます。こうした共同研究の方法そのものに従来の産学連携の共同研究にはない新鮮さがあります。

田中 大学との共同研究をhave to do(せねばならない)にしたくないという思いがありました。アイデアやクリエイティビティ、生まれてくる感情が将来のリソースになると思っているので、つねに余剰の範囲を残し、自主裁量の余地を与えて、マスト(義務)の範囲はできるだけ限定したいと。それは防衛大学校時代におぼえた「指揮の要訣」にひっぱられた部分があるんですけど。

 指揮の要訣というのは、「指揮下部隊を確実に掌握し、明確な企図の下に適時適切な命令を与えてその行動を律し、指揮下部隊をもってその任務達成に邁進させるにある。指揮下部隊の掌握を確実にするため、良好な統御、確実な現況の把握及び実行の監督は、特に重要である。この際、指揮下部隊に対する統制を必要最小限にし、自主裁量の余地を与えることに留意しなければならない」……というふうに続くんですが、要するに、マストの範囲を減らして、「何々したい」という状況を維持する、という理念なんです。

白川 この考え方は、研究室の運営において学生を指導するシチュエーションに似たところがあります。学生はそれぞれに修士号や博士号をとるためのアウトプットを出していかないといけないわけですが、そこ(目標)に行くまでは自由だと伝えています。その辺りのセンスは近いかもしれません。ただ、共同研究をそのように進めていく上では、はじめて経験することも多いですね。

田中 ぼくはコミュニケーションの中やアウトプットとして出てきたものに対してはつねに質問で返してます。命令下達という仕方ではなく、「こういうふうにしたらどうなるんですかね」って質問をめちゃくちゃしてます。

白川 こちらとしてはディスカッションをしているうちに、自然に(方向感が)さだまっていくというふしぎな感覚があるんですよね。

田中 なぜ質問で進めるのかって説明するのは難しいんですが、思い出すのは自衛隊にいたときのことですね。20歳そこらの若造だった自分が指揮官となり、多くの経験値をすでに持っている部下が数十人ついたことがあったんです。そこで何をすべきかという大きなミッションはわかっても詳細はわからないというフェーズがある。そのとき最初に指揮官としてしていたのは「こうしたらどうなりますか?」と複数個の質問を投げることです。「なるほど、今はここに行こうとしてるんですね、じゃあ……」というふうに、質問ベースで進めていました。

白川 なるほど。ただ、そのやり方ってお互いに話が通じないと無理ですよね。経営者と研究者が原理主義者同士だったら多分うまくいかない。

田中 そのとおりです。そして自分自身も質問で生きてきたところがあるんですよね。ある分野に興味が出たら6〜7割くらいまで踏み込んで、わからない部分を埋めてもらうという形で知恵を増やしてきた。プログラ厶がわからない人間でも、「ググったらわかる」という範囲はある程度あるんです。そこまで行ききったあと「これってどうなの?」と補完するようにしていました。

白川 ぼくの場合、研究分野が実験生物学から情報工学へと変わったことで原理主義的ではない態度に転換できたところがありますね。転換時はカルチャーが違いすぎて大変でした。いまはジェネラリストになりすぎている感もありますが。

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