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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第67回

ビートルズ50周年記念盤に『Let It Be』登場~松田聖子やドラクエも~麻倉怜士ハイレゾ推薦盤

2021年11月23日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『Let It Be[Super Deluxe]』
The Beatles

特選

 ビートルズ作品のリミックスとハイレゾ化のプロジェクト、「50周年記念エディション・アニバーサリーシリーズ」は2017年の 「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」から始まり、2018年は「ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)」、2019年は「アビイ・ロード」、2020年がなく、2021年にはいよいよ「Let It Be」に来た。

 2022年10月はビートルズ・デビュー60周年。そこで、期待したいのが「60周年記念エディション」。初LPの「プリーズ・プリーズ・ミー」 (1963年)、「ウィズ・ザ・ビートルズ 」(1963年)、「ハード・デイズ・ナイト」 (1964年)、「ビートルズ・フォー・セール」 (1964年)……と続く怒濤の初期60年代の名盤のリマスター、ハイレゾ、イマーシブサラウンド、リハーサル音源……を、ぜひ新規に制作して欲しいものだ。

 これまでの「50周年記念エディション」はジョージ・マーティンの子息のジャイルズ・マーティンとアビー・ロード・スタジオのエンジニアのサム・オケルのコンビで、「ニュー・ステレオ・ミックス」されている。本アルバムも同様だ。ここには57曲もの、オリジナル、アウトテイク、シングル版、ミックス違いの楽曲が収録されているが、ここではタイトルチューンの「Let It Be」を比較してみよう。

 本アルバムには①フィル・スペクターがミックスを行った公式リリース版『レット・イット・ビー』(1970)をリミックス、②同、シングルバージョン、③1969年にエンジニアのグリン・ジョンズによって制作された未発表の「ゲット・バックLP」ミックス が収録されている。

①6.Let It Be[2021 Mix]
 2009年に発表された44.1kHz/24bitのリマスター版と比較すると、ピアノのアクセントが強調され、倍音的に急に盛りあがる。ヴォーカルも伸びがクリヤーで、ボディ感が太い。輪郭もくっきりする。中音に艶が加わり、コーラスは距離感が感じる。ベースが雄大に、オルガンの存在感が増し、ギターのファズがより強調される。フィナーレの盛り上がりは、ブラスとバンドの相乗効果でたいへん煌びやかで、華やか。

②57.Let It Be[Single Version / 2021 Mix]
 アルバムに比べピアノは太く、よりくっきりし、ヴォーカルのボディも太く、輪郭も太い。強調感がとても強い。コーラスもたいへん明瞭、ドラムも明瞭……すべてを強調している。典型的なシングル用の音作りだ。ソロのギターはもちろん、ビリープレストンのオルガンの刻みもよりはっきりと。ジョージのソロの旋律は、ペンタトーン音階(ヨナ抜き)は同じだが、旋律は違う。ヴォーカルは最初は明瞭で、最後にはリバーブがものすごく多い。

③51.Let It Be[1969 Glyn Johns Mix]
 1969年にエンジニアのグリン・ジョンズによって制作された未発表の「ゲット・バックLP」ミックス 。ビートルズのメンバーからこれはダメだとNGを出されたもの。強調感がなく、細身のピアノ。ヴォーカルはものすごくリバーブが多い。でもサウンド自体は素直。音像は細く、バンドに溶け込んでいる。コーラスがオンマイクで、ベースがひじょうに弱い。オルガンが左チャンネルで目立つ。ソロはシングルバージョンと同じ旋律。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
UMC(Universal Music Catalogue)、e-onkyo music

続・40周年記念アルバム 「SEIKO MATSUDA 2021」』
松田聖子

特選

 今年は、松田聖子を年間にわたって研究した。津田塾大学では初の「松田聖子の研究」を行った。華麗で多彩な音色、繊細でパワフルな表現力、豊かな感情表現、しゃくりと母音---という観点で、楽曲と歌唱のディテールを20曲で研究。

 10月は武道館で40周年コンサート。飽きさせない構成。華やかな映像とレーザー光、声が出せない客席我々は拍手しかできない)との、巧みなコミュニケーション(に感動した。少し音程は下がったが、相変わらず艶やかで伸びやか、エネルギーに溢れる声だった。10月末にはWOWOWで、その松田聖子40周年ライブ放送。画質は昨年10月のプレ40周年ライブより、断然良くなった。武道館の座席で見るより服の素材感や表情が、こと細かに捉えられていた。

 本ハイレゾ「SEIKO MATSUDA 2021」は、昨年リリースされた40周年記念アルバムの第2弾。名曲が再度、輝く。「1.青い珊瑚礁[Blue Lagoon]」は若者の名曲だが、40年後のいまでも、音程が低くなっても燦然と輝く。この曲のオリジナル版は、強靱なサビ始まりで、A部がやさしく、ニュアンス豊かに歌われ、B部はくっきりと明瞭になり、C部のサビで、躍動的に爆発---という3部構造だが、このアルバムではサビ部を逆にやさしく、一本気でなく、豊かな感情を投入することで、新しい切り口を獲得している。

 「3.瞳はダイアモンド[Diamond Eyes]」は、経験と年の功を感じるが、逆に感情の入れすぎである。オリジナルは感情に走らずとも、当時の生成りの表現力で、深い世界観が聴けた。聖子のオリジナルの「5.時間旅行[I still miss you]」はもともと張り上げ系でなく、感情系なので、昔も今も素晴らしい。センターの聖子を囲む音数の多いオーケストラサウンドが充実。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『Diana Panton, A Cheerful Little Earfull』
Diana Panton

特選

 ダイアナ・パントンはカナダの女性ヴォーカリスト。カナダはダイアナ・クラール、エミリー・クレア・バーロウ、ホリー・コール、ソフィー・ミルマン……と女性ジャズシンガー王国だが、中でも、ラブリーでコケティッシュな質感、爽やかで豊かな感情表現では、ダイアナ・パントンの右に出る者はいない。テクニックやブルージィな雰囲気でない、独特のチャームがある。気品を感じる清楚で可愛い声、爽やかで豊かな感情表現の素晴らしさ!軽快で、ラブリーで、コケティッシュで、クリヤーで……といくつもの形容が与えられるダイアナ・パントンの歌声は聴く人を幸せにする力がある。

 本アルバムは「アイ・ビリーヴ・イン・リトル・シングス」の続編。ダイアナ・パントン2年振りのニュー・アルバムだ。第1曲「1.Happy Talk」は幸せな会話というタイトルどおりに、うきうき。躍動的なピアノも愉しい。このピアノはドン・トンプソンが弾いているが、彼はベース、ビブラフォーンも弾いているのだから、驚きだ。耳と心を癒してくれる佳曲ぞろいだ。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music

日本映画音楽の巨匠たち シンフォニック・フィルム・スペクタキュラー 12』
竹本泰蔵、日本フィルハーモニー交響楽団

特選

 日本の作曲家による日本映画の名曲を竹本泰蔵指揮の日本フィルが演奏する。それは、黛敏郎:『東京オリンピック』、斎藤高順:『東京物語』、佐藤勝:『赤ひげ』、池辺晋一郎:『影武者』、武満徹:『乱』、山本直純:『男はつらいよ』、伊福部昭:『銀嶺の果て』、、『空の大獣ラドン』、『怪獣大戦争』、『キングコング対ゴジラ』、『怪獣総進撃』、『怪獣総進撃』、『ゴジラ』『怪獣総進撃』、『八甲田山』、池野成:『妖怪大戦争』----で、すべてオリジナル・スコアで演奏したという。

 「10.『男はつらいよ』メインタイトル」は大編成。まさにシンフォニック。弦でろうろうと寅さんのテーマが奏でられると、これほど立派な曲だったのかと、山本直純の才能を改めて尊敬する。トランペット独奏もクリヤーで伸びがよく、響きより直接音が心地好い。「12.『ゴジラ』 メインタイトル」も力感に溢れ、クレッシェンドのパワーが炸裂する。マッシブながら、各パートがとてもクリヤーだ。「15.『怪獣大戦争』マーチ」のピッコロの輝き、ホルンの咆吼もかっこいい。2021年3月30日、31日 東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパスC301で収録。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
キングレコード、e-onkyo music

『A Love Supreme: Live In Seattle』
John Coltrane

推薦

 ジョン・コルトレーンの「至上の愛」は、ジャズの世界遺産だ。これまで「至上の愛」のパッケージは、スタジオ盤と65年のフランスのジャズ・フェスティヴァルでのライヴ録音の2種類がリリースされていた。今回は1965年10月2日、ワシントン州シアトルでのライヴ演奏の発掘音源だ。4つのインタールード(間奏曲)を挟み、4パートから成る組曲すべてが収録されている。通常はジョン・コルトレーン(ts, ss, per)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)の4人で演奏するが、シアトルライブではファラオ・サンダース(ts, per)、カルロス・ワード(as)、ドナルド・ギャレット(b)の3人が加わっている。

 まず左のドラムス、ベースの指鳴らし、息鳴らし、手慣れたフレーズから始まり、右チャンネルにピアノが入り、和音のオブリガードを奏する。左チャンネルにはパーカッションも加わり、それらが段々とクレッシェンドし、左右ともに音数が増え、いよいよという時に、左チャンネルにジョン・コルトレーンが登場。マッコイ・タイナーが正確に、きっちりと安定したビートを刻む上で、コルトレーンを中心に、自由闊達で破天荒なインプロビゼーションが繰り広げられる。音場はセンターは薄く、左チャンネルの音がかなりセンターに浸食している。1965年10月2日、ワシントン州シアトル、ペントハウスにてライヴ録音。

FLAC:192kHz/24bit、MQA:192kHz/24bit
Impulse!、e-onkyo music

『J.S.バッハ:イギリス組曲 第1番~第3番』
ヴラディーミル・アシュケナージ

推薦

 引退を発表したアシュケナージの4年ぶりの新作は、バッハ。アシュケナージは「スクウエアな教科書演奏家」といわれ続けてきたが、人生の黄昏の時期にバッハに取り組む、真摯な姿勢がまずは痛感される。バッハを真正面から捉え、何の衒いも気負いもなく、自然体で取り組む誠実なバッハだ。音色は華やかで、センターに安定的に定位し、キラキラとした音の粒が勢いよく放出される。響きは豊かだが、ピアノ音はタッチが明確。対位法の録音で重要な各声部の独立性、明瞭性も明確に聴ける。2019年4月5日~7日、イギリスは サフォークのポットンホールで録音。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music

『I Dream Of Christmas』
Norah Jones

推薦

 昨今のノラ・ジョーンズは、作品制作に積極的だ。2020年に「ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア」、2021年4月に初のライヴ・アルバム「ティル・ウィー・ミート・アゲイン」をリリース。今回は初のクリスマス・アルバムだ。

 ノラ・ジョーンズのクリヤーで、キレがよく、でも粘っこい歌声は、意外にもクリスマスソングに合うではないか。すっきりとした清潔な聖歌というわけでないが。「4.White Christmas」はゴスペルの伝統を受け継ぎ、南部の教会でのクリスマスのお祝いの雰囲気だ。「6.Blue Christmas」はまさにブルージーで、ねちっこいクリスマス。なぜ私のところに恋人は来ないのかと恨めしく歌うのが、躍動的なプレスリーのバージョンとの違いだ。ノラ・ジョーンズならではのブルージーなクリスマス観が興味深い。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music

ニーノ・ロータと久石譲 ピアノ作品集』
白石光隆

推薦

 ニーノ・ロータの知られざるピアノ曲と「アマルコルド」「8 1/2」「甘い生活」という人口に膾炙した名曲、そして「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」「天空の城ラピュタ」などの久石譲の名曲を名ピアニスト、白石光隆が弾く。

 マイスターミュージックのサウンドは、ホールトーンが分厚く入ると同時に、ピアノも音色がクリヤーに収録されるのを特徴する。作品によってアンビエントと直接音の割合は変わるが、本作は、ホールの広い空間にピアノの音の粒子が煌めきながら、飛び散っていく景色が、2チャンネルながら、見事に捉えられる。音場と音像のバランスがとてもよく、眼前的な臨場感で聴け、鍵盤感や音の立ち上がり/下がりが明瞭で、音像が適切なサイズにまとまっている。ビアノの音がきらきらと輝き、ニーノ・ロータと久石譲というエモーショナルな楽曲が、美しい響きの中で、まるで夢の様に語られる。

FLAC:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『交響組曲「ドラゴンクエストXI」過ぎ去りし時を求めて すぎやまこういち』
すぎやまこういち、東京都交響楽団

推薦

 本ハイレゾは2018年リリースの旧作だが、すぎやまこういち追悼にて、採り上げよう。すぎやまこういちというと、私はタイガースやビレッジ・シンガーズのヒット曲や「ドラゴンクエスト」の作曲者と思っていたが、NHK・FMの片山杜秀先生の「クラシックの迷宮」で、認識を改めた。すぎやまこういちは高校の時、谷桃子バレエ団の依頼でオペラ用に「子供のためのバレエ「迷子の青虫さん」」を作曲しているほどの専門家なのだと、この番組で紹介していた。後には、オーディオ機器の音質を測るリファレンス用の「オーディオ交響曲」も作曲していた。

 本作は2017年にPlayStation4/ニンテンドー3DS用にリリースされた「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」の音楽を、当のすぎやまこういちが指揮した東京都交響楽団の演奏だ。ドラゴンクエスト序曲は津田塾大学での音楽授業でも採り上げている名曲。上行旋律、転調、減和音とテクニック満載なので、教え甲斐がある。学生はこんな感想をくれた。

 「上行旋律は音階を登るときの高揚感で胸がわくわくするように盛り上がります。とくにドラゴンクエストの曲は『いざ、冒険の旅へ!!』と言いたくなってしまいました。高台に立って、これから向かう新たな街を見下ろしている感じがします。希望を胸に掲げて、空が青く大きく高く広がっていて、海がきらきら輝いている。そんな情景が広がっているようでした」。

 スケールの大きな演奏であり、明瞭な録音だ。

FLAC:96kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit
キングレコード、e-onkyo music

『Voice of Nature: The Anthropocene』
Renée Fleming、Yannick Nézet-Séguin

推薦

 「気候変動危機」をテーマにしたルネ・フレミングのコンセプトアルバム。といっても声高にそれをストレートに訴えるのではなく、Voice of Nature: The Anthropoceneのタイトルが表しているように、The Anthropocene(人類の時代)に、自然の声に耳を傾けて作曲された古今の楽曲を集めた。

  「5.フォーレ:ひそやかに(5つのヴェネツィアの歌 作品58より 第2曲)」、「7.リスト:美しい芝生が広がるところ」、「14.グリーグ:6つの歌作品48より 第5曲:ばらの季節に」……というロマン派の曲に加え、現代のケヴィン・プッツ(1972年生まれのアメリカの作曲家。交響曲やオペラなど大規模作品から独奏楽器のための作品まで、多作)とキャロライン・ショウ(1982年生まれのアメリカの作曲家/ヴァイオリン奏者/歌手)に委嘱した作品が収められている。

 そのプッツ「1. Evening」は素敵にロマンティックな楽曲。ルネ・フレミングの艶と優しさと、高貴な音調にまことにふさわしい。ヤニック・ネゼ=セガンのピアノ伴奏み繊細で、とても感情が豊かだ。「2.Faure: 2 Songs, Op. 83 - No. 1, Prison」も美的で静謐だ。ピアノとヴォーカルのバランスが好適で、響きは豊かだが、どちらもとても明瞭。ヴォーカルの音像はタイトにまとまり、その背後にピアノが佳き伴侶を演じている。2021年4月27日-5月1日に、録音場所 フィラデルフィア、キンメル・センター、ヴェライゾン・ホールで録音。

FLAC:96kHz/24bit
MQA:96kHz/24bit
Decca Music Group Ltd.、e-onkyo music

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