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STARTUP×知財戦略 第106回

株式会社サイフューズ 代表取締役 秋枝 静香氏インタビュー

バイオ3Dプリンターで作製する再生臓器の実用化を目指し産官学連携 日本発独自技術の磨き上げ方を聞く

2021年10月21日 16時00分更新

文● 松下典子 聞き手・編集●北島幹雄/ASCII STARTUP 撮影●曽根田元

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この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」(外部リンク)に掲載されている記事の転載です。

 株式会社サイフューズは、細胞だけで組織・臓器をつくるバイオ3Dプリンターを開発する九州大学発の再生医療スタートアップ。現在、大学での臨床試験、数十社の企業との共同研究・開発を進めている。日本発の独自技術による再生医療プラットフォーム実現を目指す同社代表取締役 秋枝 静香氏と取締役 CFO 経営管理部長の三條 真弘氏に、血管や神経などさまざまな臓器の供給を目指すバイオ3Dバイオプリンターの販売事業、協業における知財戦略について伺った。 

株式会社サイフューズ 代表取締役 秋枝 静香(あきえだ・しずか)氏
明治大学農学部農芸化学科卒業。九州大学大学院を経て、九州大学において遺伝子解析・再生医療分野の研究者として従事したのち、九州大学病院にてJSTプロジェクト(骨軟骨再生の事業化)に従事。2010年のサイフューズ創業メンバーの1人として入社し、NEDOプロジェクトをはじめとする各プロジェクトに中心的研究員として参画するとともに、サイフューズが関わる社内外のすべての研究開発プロジェクトを横断的に統括。2016年からは研究開発のトップの立場から取締役としてサイフューズの会社経営に取り組む。

バイオ3Dプリンターで血管や臓器を製造

 株式会社サイフューズは、九州大学医学部整形外科出身の中山 功一氏が発明した3次元細胞積層技術をもとに2010年に創業した九州大学発の再生医療スタートアップ。現在は九州大学と東京大学にラボを構え、ヒトの体を構成する細胞だけで組織や臓器を作製する「再生医療」、ヒト細胞で作製した3Dミニ肝臓を使った「創薬支援」、バイオ3Dプリンターの開発・販売「デバイス事業」の3つの事業を展開している。

 同社の臓器作製技術の基盤となるのが、スフェロイドという細胞のみの塊を生け花の剣山のような微細な針に積み上げていく独自のバイオ3Dプリンティングの技術だ。一見非常にシンプルなものに見えるが、実はヒトの体内には約200種類の細胞があり、種類によって培養方法が異なるなど、再生医療等製品としての臓器作製には各種ノウハウが必要とされる。

 例えば、細胞同士の接着については、スフェロイド同士が自然凝集する作用(細胞凝集現象)を利用しており、当該現象による細胞同士の接着をうながすようなスフェロイドや剣山などの製造方法に関するノウハウが同社の基盤特許として権利化・保有されている。

 同社はこれら基盤特許を独占的に保有することにより自社製品を守りながら、共同研究先・共同開発先との連携で再生医療・細胞分野における細胞開発を進めている。バイオ3Dプリンターはすでに日米のさまざまな研究機関に設置・稼働しており、これらの相手先と共に世界初の細胞製品の実用化へ向け研究開発を進めている。

 展開するバイオ3Dプリンターは、剣山上にスフェロイドを積み重ねる「Regenova(レジェノバ)」と、針を動かして細胞を配置・固定していく卓上タイプの「S-PIKE(スパイク)」の2機種で、およそ1時間で1cm程度、スフェロイドを積められる。技術的には形状や大きさの制限はなく、理論上は全身の臓器が作れるそうだが、機能が出るかは臨床試験を得たうえでの確認が必要だ。現在はニーズの高い血管再生・神経再生・骨軟骨再生の3つの臨床試験を行なっている。

 例えば、人工透析患者は週に3回ほど透析針を刺すため、血管損傷してしまうことも多い。自己血管での透析が難しい場合には、化学繊維等からなる人工血管が用いられるが、感染や閉塞が起こりやすく、患者への負担も大きいといわれている。患者自身の細胞から血管を作製して移植すれば、自己血管と同様に機能することが期待されている。細胞のみで作製された血管は厚みや弾力がしっかりあるため、縫合による外科手術にも耐えるのが特徴だ。現在、臨床試験を実施中で、早期の実用化に向けて動いている。

再生された血管(画像提供:サイフューズ)

 また神経については、従来のシリコンチューブなどによる人工神経では細い神経しか再生できないが、細胞成分による神経であれば神経が再生し、失われた知覚機能や運動機能が再生することが期待されている。まずは指先等の末梢神経から、その後、中枢神経、脊髄の神経まで再生できるように開発に取り組んでいる。

再生された神経(画像提供:サイフューズ)

実用化に向けて、各分野で強みのある企業と提携

 同社の事業は、医療機関や企業との共同研究や協業が中心で、創業から11年の現在、数十社もの企業と提携を結んでいる。医療スタートアップとしては異例の多さだ。

「サイフューズという社名は、フュージョンしてモノを作ろう、という思いから名付けました。我々1社のみで臓器を作り、患者様にお届けすることは難しい。一日も早く患者様にお届けするため、私たちは臓器の開発に注力し、ほかの部分はそれぞれの分野の専門家の先生方や企業とコラボさせていただいています」(秋枝氏)

 これまでは九州大学・東京大学のラボで細胞培養やバイオ3Dプリンターの開発を行なってきたが、本格的な商業生産にあたっては、量産や保管の技術や製造施設、再生医療に関するサプライチェーンまわりも必要になる。そこで、大量細胞培養技術の開発には藤森工業株式会社と提携、また細胞保存技術の開発については、ガス・冷却技術をもつ岩谷産業株式会社と業務提携している。製造拠点には、日立グローバルライフソリューションズ株式会社と提携し、同社施設を活用。さらに、大阪高槻市にある太陽ファルマテック株式会社の施設内に細胞製品の製造拠点が設置された。

「近い将来、例えば各診療分野にまずはひとつずつでも必要な臓器をお届けすることができればと考えています。将来的には、再生医療が当たり前のように治療方法の選択肢のひとつとしてあり、スマホのスペックを選ぶように、疾患に応じて再生医療等製品や治療方法を患者さまご自身が選べるようになると良いと思っています」

知財は外部の専門家や連携先企業をうまく活用するポイント

 サイフューズでは、CFOの三條真弘氏が法務知財全般を統括し、外部大学との知財に関する交渉や知財申請に加えて、社内の知財管理体制の整備・運用に取り組んでいる。戦略としては、基盤技術である「3次元細胞積層技術」、「剣山法」、「バイオ3Dプリンター装置」の3つの特許をコアに、これらの周辺特許を押さえ、守りたい部分はノウハウで秘匿する、というもの。大学発スタートアップでは特許をどのように取り扱うかがが課題になりやすいが、多忙を極める研究開発・技術開発の現場実務を優先させつつ、どのように知財に関する体制構築を進めていったのか。

「私たちが大学で研究をしていた当時は、研究者自身が個人で特許を出す場合も多く、知財の取り扱いも未熟な時代でした。当社の場合は、起業の際に基盤特許の保有者である九州大学から独占的実施権を受け、会社としての研究開発・技術開発をスタートしています」(秋枝氏)

 医療分野は事業利益が出るまでに長い年月がかかり、その間、産学共同研究など大学からの支援で得られるものも小さくはない。あえて買取ではなくライセンスの形をとり、双方にとって良好な関係を育んでいくのも重要なポイントだ。

「大学や企業によってそれぞれ個別の関係性があるのではないでしょうか。弊社の場合は、創業時から会社事業の成長を応援してくださり、共に歩むというスタンスで接してくださっている方々に非常に恵まれていると感じています」(三條氏)

 このような研究開発や技術開発を最終的にモノにするには10年、20年かかることも当然ある。創業間もないスタートアップにとって、共同研究の開始時などは、製品化のイメージはおろか、まだ知財に関する議論を十分にできる状況にはないことが多いため、具体的な話をすること自体が難しい部分もあるという。

「このようなスタートアップの事情を大学側も理解してくださっているように感じています。そんななかで、例えば資金調達に成功した段階で性急に会社側が知財を買い取り、大学との関係を断ってしまうのは、場合によっては将来の企業成長の妨げになることもありうると考えています。

 基盤特許を出願した当時は、『実質的に生きた細胞を立体化する』という理論的要素が大きい状況だったのが、実際に研究開発成果として目に見える形になったのは関係者にとっては純粋にうれしいこと。九州大学に会社の研究開発進捗について報告にうかがった際には、作製できる組織・臓器のサイズが1ミリ未満から1センチ、数センチと徐々に大きくなり、臓器ができあがっていくのを喜んでいただけたのは、率直にうれしかったです」(三條氏)

 専任の知財責任者を設置するスタートアップも増えているなかにあって、サイフューズでは、独自の方法をとっている。

「成長期のスタートアップが知財部や知財責任者を設置することは一般的には妥当な戦略であると思いますが、実際には創業から5年ほどのがむしゃらに開発に走らなければいけない時期には、管理と戦略をバランスよく遂行することが重要と思います。開発現場や知財実務をある程度理解している中の人間が戦略的に動くことを重視し、管理については例えば外部の弁理士さん等の専門家にお願いする方法も合理的だと考えています」と三條氏。

 特にサイフューズでは、扱う技術研究が多岐にわたるため、知財の内容によって複数の外部専門家を使い分けている。すべての技術を一人の弁理士に理解してもらうのではなく、薬学や機械工学など得意分野で分けて、現場の研究者の言葉をかみ砕いて理解してくれる専門家を丁寧に選定し依頼するようにしたという。社内からは現場担当者が窓口となり、出願や調査の依頼について外部の事務所とのやり取りをしているそうだ。

「会社の立ち上げ期においては、知財戦略がまとまっていない状況で、かつ、人の入れ替わりも激しいなどさまざまな障壁が想定されます。このような状況で、十分な社内議論もないままに専任の知財担当者を設置し、戦略立案から管理まで任せることでなんとなく安心してしまうと、その方が退社したとたん、社内で知財を理解している人がいなくなってしまう恐れもあります。当社の場合には、研究開発の進展とともに外部の専門家の方々とのお付き合いも長くなり、連続性・継続性をもって知財管理を行なっています」(三條氏)

 専任の知財担当者ではなく、現場を知っている研究者や技術者が外部の専門家と直接やりとりすることで知財への理解が高まる。実際にサイフューズでは知財を実地で学んだ若手の研究者が実務を通じて成長し、将来的には知財責任者となることを目指しているそうだ。

「立ち上がりで人が少ないスタートアップでは、困ったときは信頼できる外部の人(経験者)に聞く! これは先輩からの教えでもあります。外部の経験者のお力をお借りすることで、同じ轍を踏まないように進めていけることもあります。例えば、共同研究を行なう際には協業先の知財部と一緒にドキュメントを作成していきますので、そこから学ぶことも多いです。協業先にはあらゆる面で育ててもらっているという感覚ですね。本当に組む相手にはすごく恵まれており、感謝しています」(秋枝氏)

 いい関係性を築くために、組む相手は慎重に選んでいるという。例えば、外部の弁理士の選定の際にもコミュニケーション力を重視したという。

「当社の事業領域は、医工連携・産学連携という新しい分野での取り組みになるので、あらゆる面でチャレンジ精神、新規開拓のマインドが必要になってきます。今お世話になっている先生方は技術的な知識や専門性はもちろんのこと、お人柄も良く、熱意をもった先生方が多いため、本当に良い関係を築かせて頂いています」(秋枝氏)

 同社の知財戦略は、数十社もの事業会社とのオープンイノベーションや提携にも活かされている。協業の際に実施されることが多い知財関連のデューデリジェンスでは、提携を進めた当初に論点とされていた内容が変化し、各種の臨床試験実績や提携数が増えてくると知財戦略や知財管理に対する外部からの評価も高くなったという。サイフューズとしては、そのようなレベルまで「評価される知財戦略」を開発初期の段階から試行錯誤しながら社内外での継続的な検討協議を通じて考えるのが必要でかつ重要なことだった。

(画像提供:サイフューズ)

 直近では、いよいよ将来の再生医療等製品の商業生産に向けて、製品開発段階に入ったサイフューズ。次なる事業展開について秋枝氏は「ようやく基礎研究・応用開発の段階から製造・生産への道が見えてきたところ。現在進めているパイプラインのなかからまずはひとつ再生医療等製品をの承認を取得し企業の信頼・価値を高め、その後、海外も含めて広く展開していきたいと考えています。当社の技術や活動をベースに、人が育ち、会社が成長して、将来的には、医療分野のみならず、教育分野や食品分野等、他業種・多分野での活動も展開していくことができればと考えています」と抱負を語ってくれた。

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