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「Cross-Cloud Services」、“無償版Tanzu”などモダンアプリ基盤、クラウドインフラ/管理領域の新発表

ヴイエムウェア「VMworld 2021」の新発表まとめ【前編】

2021年10月20日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 2021年10月5~7日にかけて開催された、米ヴイエムウェアの年次イベント「VMworld 2021」。ここでは同社の新たな戦略となる「VMware Cross-Cloud services」や、それに基づく5つの領域のそれぞれで、新たなソリューションや機能拡張の発表が行われた。

 本稿では、米ヴイエムウェア CEOのラグー・ラグラム氏らが登壇したキーノートや、10月6日にヴイエムウェア日本法人が開催した記者説明会の内容を引用しながら、今年のVMworldで行われた発表についてまとめていきたい。今回はまずヴイエムウェアとしての全体戦略と、モダンアプリケーションプラットフォーム、クラウドインフラ/管理の領域にフォーカスする。

「VMworld 2021」キーノートに登壇したヴイエムウェア CEOのラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏

全体戦略:マルチクラウド時代に対応する「VMware Cross-Cloud Services」

 まずはマルチクラウド時代の顧客を支援するための、ヴイエムウェアとしての新たな全体戦略からだ。

 キーノートにおいてラグラム氏は、「現在の標準的なエンタープライズでは平均464個もの業務アプリケーションを使用しており、さらにパブリッククラウドを2つ以上利用する企業は75%、3つ以上でも40%に及ぶ」と現状を説明する。

 そのために生じている課題がITインフラ、アプリケーション、業務環境の分散化、サイロ化だ。それぞれが分散しているため複雑な構成となり、その管理がお互いに分断されているためにサイロ化も生じている。アプリケーション開発者、IT管理者、ユーザーのいずれにとっても使いやすく効率的な環境ではない。

 ヴイエムウェアではこうした顧客課題を解決するために、分散したマルチクラウド環境に一貫性をもたらす統合されたクラウドサービス群(SaaS群)を提供していく。これが、今回のVMworldで発表した「VMware Cross-Cloud Services」である。

 VMware Cross-Cloud Servicesは、大きく5つのビルディングブロックにより構成される。クラウドネイティブアプリを構築/展開するための「アプリプラットフォーム」、エンタープライズアプリの実行/運用に対応する「クラウドインフラ」、異種混交のクラウド環境でアプリのパフォーマンスやコストを監視/管理する「クラウド管理」、マルチクラウド全体にまたがってアプリの接続性とセキュリティを提供する「セキュリティ+ネットワーク」、分散化された業務環境やエッジ環境を実現する「デジタルワークスペース+エッジ」だ。ここには既存サービスも組み込まれている。

「VMware Cross-Cloud Services」を構成する5つのビルディングブロックと、対応する主要サービスのポートフォリオ(画像はWebサイトより)

それぞれの領域で新発表も行われた(キーノート画面より)

 ラグラム氏は、VMware Cross-Cloud Servicesの特徴を大きく2つ挙げた。1つはモジュラー型の構成により、顧客が任意のクラウド上で最適なサービスを採用できる高い柔軟性を備えていること。もう1つが、大規模なエンタープライズからクラウドネイティブな新興企業まで、あらゆる企業に対して価値が提供できるということだ。

 ラグラム氏は、現在のマルチクラウド環境ではあらゆる場面で柔軟性とコントロール性の「どちらか(OR)」を選択しなければならないが、ヴイエムウェアのアプローチではこれを「どちらも(AND)」選択できるように変えられると説明する。

開発者の自律性とDevSecOpsの効率性、クラウド選択の自由と確実な制御/コスト削減、従業員が場所を問わずアクセスできる環境と高度なセキュリティ、こうした「どちらか(OR)」の選択に迫られてきたものを「どちらも(AND)」に変える

 「“Cross-Cloud”がもたらすものは何なのか。わたしは“エンタープライズ主権(Enterprise Sovereignty)”と呼んでいるが、顧客企業が自ら意思決定を行い、自らコントロールできる(マルチクラウドの)環境だ。自社データに対して主導権を持つ“データ主権(Data Sovereignty)”と同じように、顧客が現在から将来にわたって『選択の自由』を維持できるということだ。ヴイエムウェアは、マルチクラウドの時代にビジネスを推進していくために必要となる、選択の自由とコントロールを提供していく」(ラグラム氏)

モダンアプリ基盤:無償版Tanzuや「Tanzu Application Platform」

 ここからは個々の製品ポートフォリオにブレイクダウンして、今回の発表内容を見ていきたい。まずはモダンアプリケーションの開発と展開を支えるプラットフォーム「VMware Tanzu」ポートフォリオからだ。

 ここではまず、Kubernetesの学習者やユーザー向けにTanzuソフトウェアを無償提供する「VMware Tanzu Community Edition」が発表された。Webサイトから個人情報の登録なしでダウンロードすることができるパッケージで、利用期間や利用用途などの制限はなく、数分程度でインストール/構成が可能だという。

 「オープンソースソフトウェアのコンポーネントとしてどんなものが含まれるか。Kubernetesのランタイムはもちろん、ロードバランサやコンテナネットワーキング、データバックアップ、エンドトゥエンドのテストなど各種サービス、サーバーレス、コンテナレジストリ、オブザーバビリティなど、ビルド/デプロイ/実行/監視というライフサイクル全体をカバーするものがパッケージされている。またローカルのDocker環境だけでなく、vSphereやパブリッククラウドの環境でも動かせる」(ヴイエムウェア日本法人 マーケティング本部 チーフストラテジスト - モダンアプリケーション&マルチクラウドの渡辺 隆氏)

 なお、Community EditionのWebサイト(https://tanzucommunityedition.io/)にはサンドボックス環境も用意されており、ダウンロード/インストールする前にその環境でチュートリアルを試すこともできる。

「VMware Tanzu Community Edition」の特徴

Tanzu Community Editionを構成するソフトウェアコンポーネント

 アプリケーション開発者向けには、Kubernetes環境へのアプリケーションのデプロイ時に必要となる作業を効率化する「Tanzu Application Platform」(ベータ版)がリリースされた。サプライチェーンコレオグラファー(ワークフロー作成機能)による事前承認された本番環境へのデプロイパス作成、ワークフローのテンプレート、IDEプラグインなどの開発者ツールを含み、ソースコードから本番へのパイプラインを自動化して、開発者と管理者双方の生産性を向上させる。

「Tanzu Application Platform」(ベータ版)の概要

 AIワークロードの実行を可能にする、NVIDIA GPUに対する2つのサポート拡張も発表している。「VMware vSphere with Tanzu」で認証/最適化されたAIスタック「NVIDIA AI Enterprise」の提供、そしてGPU対応Kubernetesプラットフォームをマルチクラウドで構築できるAWSおよびAzureのGPUインスタンスタイプ対応「Tanzu Kubernetes Grid Ver1.4」の提供だ。

クラウドインフラ/管理:「VMC on AWS」大阪リージョンやTanzuの標準付与

 クラウドインフラ領域、すなわち今年3月に発表した「VMware Cloud」を強化する多数の発表も行われた。

 まず、ハイブリッド/マルチクラウド環境で柔軟にヴイエムウェア製品(VMware Cloud Foundation、VMware Cloud)を活用できるサブスクリプション型契約「VMware Cloud Universal」が拡張された。新たに「VMware Tanzu Standard Edition」も利用可能になったほか、直販に加えてリセラーパートナーからの購入も可能になった。

 次はマネージドKubernetesの新サービスとなる「VMware Cloud with Tanzu services」だ。これはVMware Cloud on AWSに、Kubernetesエンジンと管理ツール(Tanzu Kubernetes Grid、Tanzu Mission Control Essentials)のサービスを追加料金なしで付加し提供するもの。仮想マシンを管理するvCenterのコンソールからKubernetesクラスタを構築し、コンテナも管理できるようになる。またTanzu Mission Controlを、マルチクラウドに展開するKubernetes環境の統合コントロールプレーンとして利用することもできる。

「VMware Cloud with Tanzu services」の概要

 そのほかVMware Cloud on AWSにおいては、大阪リージョンの開設(今年度第3四半期予定)が発表されたほか、クラウドDR(VMware Clouod Disaster Recovery)のパフォーマンス改善(RPOを30分に短縮)、VMware NSXのファイアウォールやCarbon Blackのアドオンによるアプリケーションセキュリティ強化といった発表も行われた。

「VMware Cloud on AWS」を大阪リージョンでも提供することが発表された(今年度第3四半期の提供開始予定)

 VMware Cloudの統合コントロールプレーンとして「VMware vRealize Cloud Management」の機能拡張も発表された。AWSに加えてAzure、Google、Oracle Cloudの各VMware環境にもサポートを拡大し、マルチクラウドに展開するワークロードのプロビジョニング、監視、ネットワーク可視化、ログ分析などの機能を一元的に提供する。

 オンプレミス環境に設置できる「VMware Cloud on AWS Outposts」も発表されている。こちらはまず北米で来年度第3四半期からの提供開始となる(国内提供開始時期は未定)。同様にオンプレミス設置が可能なフルマネージドの「Dell Technologies APEX Cloud Services with VMware Cloud」(プレビュー)も発表された。

 VMware Cloudにおける顧客のデータ主権やデータプライバシーを強化する目的で「VMware Sovereign Cloudイニシアチブ」も発表した。各国のローカルクラウドプロバイダとの取り組みにより、データセキュリティとコンプライアンス、データ主権と権限制御など各国固有の要件に対応する。

“次世代のvSphere”など新たな開発プロジェクトも披露

 テクノロジープレビューとしていくつかのプロジェクトも発表された。

 まず「Project Arctic」は“次世代のvSphere”として開発が進められているものだ。クラウドとの接続機能をネイティブに備え、複数のデータセンターとVMware Cloudによるハイブリッドクラウド環境をよりシームレスに管理できるものとなる。また前述したVMware Cross-Cloud Servicesにもつながり、数クリックでコントロールができるようになるとしている。

 「これで何がうれしいのかと言うと、あるデータセンターで仮想マシン(リソース)が足りなくなったときに、VMware Cloudの仮想マシンを持ってきて調整する、オンデマンドでキャパシティを拡張するといったことが容易にできる」(渡辺氏)

 そのほか、VMware Cloud上でKubernetesの標準インタフェースを使ってインフラ(IaaS)とコンテナ(CaaS)の両方を操作可能にする「Project Cascade」、DRAMや永続メモリ(PMEM)、NVMeといったさまざまなメモリティアをソフトウェア定義で構成可能にする「Project Capitola」、VMware Cloudの統合型制御プレーンとしてvRealize Cloud Managementサービス全体で単一のビューを提供する「Project Ensemble」が発表されている。

“次世代のvSphere”を開発する「Project Arctic」の概要。VMware Cross-Cloud Servicesのビジョンを推進するうえでも重要なものとなる

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 以上、今回はモダンアプリケーションプラットフォーム、クラウドインフラ/管理領域における新発表をまとめた。セキュリティ+ネットワーク、デジタルワークスペース/エッジ領域の発表については稿を改めてお伝えしたい。

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