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陸海空、次世代モビリティの覇権を目指すスタートアップ5社

第40回NEDOピッチ「Mobility ver.」レポート

特集
JOIC:オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

UberやLyftを超える新たなMobilityのフェーズに入った

 脱炭素社会への意識の高まりと並行して、新たな時代のモビリティの在り方の模索が、あらゆる企業で進められている。これは自動車メーカーなどの巨大企業はもちろんだが、むしろスタートアップなどの若い企業において、その技術や切り口の新規性の面で見るべきものが多い。そういったユニークな取り組みを行っているスタートアップを集めて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とオープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)は、2021年7月1日に「第40回NEDOピッチ(Mobility ver.)」を開催した。

 このNEDOピッチはオープンイノベーションを創出することを目的として、スタートアップ企業を集めたピッチイベントとして2015年から開催されており、アグリ・水産や安全・防災・減災など、毎回多彩なテーマでスタートアップ企業の掘り起こしを行っている。なお、前回同様に、今回のNEDOピッチもコロナ禍による影響から、すべてオンラインによる開催となっている。

 はじめに、株式会社デンソー 研究開発センター マーケティングオフィス 坪井聡一郎氏(以下、坪井氏)からMobility関連ビジネスの中心概念となるMaaS (Mobility as a Service) について解説がなされた。

 「MaaSという言葉の定義はまだあまり定まっておらず、人それぞれのMaaSがある。だが使いたいときに使いたいだけそれを利用できるという"as a Service"が基本的な概念としてある。その冒頭に"Mobility"をつけて、多様な乗り物を使って(人・モノの移動を)サービス化するというのが基本的なMaaSの考え方。

 最初のころはチケッティングと呼ばれる、1つのICカードとかQRコードとかを使って複数の乗り物に乗れる、ただし金額としては定額制であるみたいなものが、利便性を高めてより豊かな社会につながるといったような形で拡がっていった。

 (MaaSは)それまでにあったインフラやサービスの文脈に沿った形で発展していく。たとえば日本ではPASMOとかSuicaとかがあったので、それをベースにしてタクシーでも利用できるようにしようとか、店舗でも利用できるようにしようとか進化していった。一方フィンランドではそういったものがなかったので、様々な公共交通を一括で検索・予約・決済できる新しいアプリ"Whim"が2016年にスタートしている。基軸になっているものとその背景・歴史などによって(国ごとに)発展の仕方が違う」(坪井氏)

株式会社デンソー 研究開発センター マーケティングオフィス 坪井聡一郎氏

 坪井氏は、今回のピッチの総括として次のようにも語っている。

 「MaaSのフェーズが数年前から変わってきていると思う。数年前だとUberとかLyftみたいな単純なビジネスモデルが急激に成長するようなこともあったが、それらでMaasは意外と儲からないように見えてしまった。ユーザーの数が増えたり規模が大きくなったりしても収益がうまく上がらないと、バリュエーションに揺り戻しが来てしまう。

 その文脈の中で、特に街の中でどう交通手段として位置付けるかというところがポイントになると思う。たとえば中東では非常に暑い地域だから自転車のシェアリングなんてない。一方で道路作るより安いから飛行機の輸送を本気で考えていたりする。街の文脈に乗っかるとビジネスの可能性は広がる」(坪井氏)

 新しい街、新しい社会という文脈の中で今回の5社のサービス・製品がどのようにプレゼンされたか、各社のピッチの様子を紹介する。

ロボティクスとAIでオンデマンド型水上交通網を創り上げる
株式会社エイトノット

 エイトノットは、「ロボティクスとAIで、あらゆる水上モビリティを自動化する」ことを目的として設立されたスタートアップだ。全てのメンバーがロボティクスの開発に携わった経験を持つ専門家集団であることを特徴としている。

株式会社エイトノット 代表取締役 CEO 木村裕人氏

 エイトノットがターゲットにしている水上交通には多くの課題が存在している。たとえば年間2000隻前後の船舶事故の約80%を占める小型船舶事故では、その約65%が人為的なミスに起因するもので、テクノロジー化を進めて安全性を向上する必要がある。また、離島をつなぐ生活航路は便数が少なく、住民の自由な生活の足かせとなってしまっている。しかし一方で生活航路の約3分の1以上が赤字航路であり、将来的にそのような航路を維持できなくなる可能性がある。

 これらの課題に対して、エイトノットは自律航行可能な小型EV船を開発し、それを用いたオンデマンド型の水上交通サービスを提供することを目指している。このサービスはタクシーの配車アプリのようにスマホから船を予約でき、しかも小型船舶なので大掛かりな港ではなく家の近くにある小型の桟橋から手軽に船を利用できるようになる。

 瀬戸内海の離島を結ぶ生活航路では、運営事業者に年間数千万円から1億円程度の赤字が出ている。エイトノットのオンデマンド型小型EV船を用いると、それが3分の1程度になるとの試算が出ているとのことだ。利用者にとっては好きな時に好きなところから船を利用することができ、事業者にとっては低コストで事業運営をすることができる。さらには地方自治体にとっては赤字航路の補填負担が軽くなるというメリットがある。

 課題としては小型ゆえに外洋など波の大きなところでは利用が難しい可能性が挙げられていたが、一方でオランダでは環境意識も高く、短距離の水上交通も発展しているため、事業展開に期待ができる。

 2021年秋には広島での実証実験が予定されている。そこで技術的な課題を明らかにするとともに、事業性の検証が行われることになるだろう。コロナ禍でダメージを受けている水上交通事業者のためにも、素早い事業立ち上げを期待したい。

70兆円の米国「空飛ぶクルマ」市場を制す
テトラ・アビエーション株式会社

 テトラ・アビエーションは、「空飛ぶクルマ」と呼ばれるeVTOL(電動垂直離着陸機)の開発を行っている。すでに試作機が2020年の米国の国際コンテストで854の参加者の中で最高の賞を受賞するなどの実績を積んでいる。今年は7月26日に開催される米国の展示会で新たな機体を発表すると同時に予約受付を開始することにしている。

テトラ・アビエーション株式会社 代表取締役 中井佑氏

テトラ・アビエーションが開発中のMk-5(イメージ図)(同社HPより)

 テトラ・アビエーションが狙っているのは米国の100~200km程度の都市間・都市内輸送で、2040年には70兆円程度の規模に成長すると予測している。当初はその中でも個人のレクリエーションに向けた最大乗員数1~2名程度の機体を開発していく。そこでユーザーからのフィードバックを受け、量産工程や修理の工程を改善していくことにしている。そして2025年には量産を開始し、物流やエアタクシー事業などの事業用途としての利用を推進していく計画だ。

 すでに3億円の資金調達に向けて動き始めており、その一部はすでに完了している。今後は人材採用・米国での拠点整備事業・実験開発での支援を得られる企業を対象に協力を得たいとしている。また、生産面での協力を得られる会社、あるいはエアタクシーなどのサービスを提供することを狙っている会社などとの協業を求めている。興味ある方は是非コンタクトを取ってみて欲しい。

 テトラ・アビエーションは震災で大きなダメージを受けた福島に開発拠点を置いている。福島県はロボットを地域振興の柱に置き、スタートアップの誘致を進めている。同社には是非大きな成功をつかみ、福島の再興に寄与されることを期待している。

ドライバーのヒューマンエラー撲滅をAIで実現
株式会社Pyrenee

 Pyreneeは交通事故を防ぐドライバーの相棒となる車載デバイス「Pyrenee Drive」の開発を行なっている。このデバイスには自動運転で使用される様々な技術が実装されているが、車の制御を司るものではなく、それらをドライバーの運転のサポートに使っている。

株式会社Pyrenee 代表取締役 三野龍太氏

 Pyrenee Driveの機能は大きく分けて3つ。1つは交通事故を激減させる機能で、内蔵カメラで道路の状況や周囲の歩行者・クルマなどの様子を認識し、危険を未然に防ぐようドライバーに音声・画像でアドバイスを行うものだ。2つ目はナビゲーションやドライブレコーダーなどの運転に役立つ機能。Pyrenee DriveにはLTE通信機能があるので、購入後も新しい機能を追加していくことができる。

 3つ目はデータ収集機能で、道路のデータや交通のデータ、ドライバーの運転に関わるデータを収集し、それをクラウドにアップロードするとともに追加学習をして、状況の認識能力と危険の予測能力を上げ続けていく。また、アップロードされたデータは、将来の自動運転の研究開発などにも役立てていく。

 日本では年間数千人、世界では130万人以上が交通事故で命を失っている。子供と若者の死亡原因は世界共通で交通事故が第1位になっている。そしてほとんどはドライバーに原因がある。人間が運転する以上、ヒューマンエラーによる事故をゼロにすることはできない。特に多くのクルマを使う業務を行っている企業には、Pyrenee Driveのような運転支援システムの採用を検討して欲しいと切に願う。

人の目が見えないものを見る目 (LiDAR) を開発する
株式会社SteraVision

 SteraVisionは、自動運転に適したFMCW (Frequency Modulated Continuous Wave) 方式のLiDARシステムの開発を行なっている。既存のスキャナーの多くはToF (Time of Flight) 方式を採用しているが、この方式には遠方計測が難しい、逆光に弱いなどの弱点があった。これに対してFMCW方式にはそれらの弱点がない。

株式会社SteraVision 代表取締役社長 上塚尚登氏

 さらに従来型のスキャナーでは画面の端から順に測定をしていくが、同社のLiDARでは任意のポイントを任意の順で計測することができる。加えて、距離に応じた最適な角度・周波数の光信号で走査することが可能であり、つまり人間の目のようにまずは全体を概観し、その上で注意すべき点のみを精査できるようになった。つまり空のような車の自動運転に資する情報が乏しい領域は荒く、道路上のような重要度の高い領域は詳細にスキャンするなど、無駄をなくした高精度な測定が実現できるというわけだ。さらに、前方に歩行者が発見された時のようなイベントドリブンで高精度情報の取得アクションを起動することも可能だ。

 その結果、従来は距離に対応した複数台のLiDARを搭載する必要があったり、データ統合やクラスタ処理に大きな計算コストがかかっていたのに対して、同社のLiDARでは1台のLiDARで長・中・短距離をカバーでき、見たいところだけを見たい精度で計測できる。これによりデータ統合やクラスタ処理のコストが大幅に低減されることとなった。

 同社のビジョン"Making the invisible visible!" を実現する次世代型LiDARは完全自動運転車 (Lv4/5) の実現には欠かせないコアコンポーネントになるだろう。1km程度までの計測が可能になるLiDARはまだ世界でもほとんど例がない。唯一の課題ともいえる低価格化を実現し、世界の市場をリードする存在となって欲しい。

都市型ロープウェイは近未来都市交通の切り札になる
Zip Infrastructure株式会社

 100年以上にわたり、渋滞や満員電車といった交通における課題に人類は悩まされ続けてきた。それらを解決するために様々なモビリティが開発されてきたが、まだ決定的な解決に至っていない。Zip Infrastructureは、それらを解決するための都市型ロープウェイ "Zippar" を開発している。

Zip Infrastructure株式会社 代表取締役 須知高匡氏

 Zipparは自走式のロープウェイであり、ロープとコンクリート軌道の2種類の軌道の上を走ることができる。これによって従来型のロープウェイでは不可能だった「駅間で曲がる」ことができるようになる。その結果、軌道敷設の自由度が増すと同時にコストを大幅に低減できるようになっているところが最大の特徴だ。

 たとえば横浜みなとみらいに建設されたロープウェイYOKOHAMA AIR CABINでは、1キロ当たりの建設費が120億円に達している。これに対してZipparでは1キロ当たりの建設費を15億円程度に抑えることができ、ロープウェイを運営する事業者のコスト負担を軽くすることができる。

 Zipparはすでに国交省から普通索道(通常のロープウェイ・ゴンドラリフト)としてみなすとの正式な回答を得ている。これによって第三者委員会による安全性の承認プロセスのハードルが大幅に下がった。2025年の大阪万博でのお披露目を目指しているとのこと。新しい都市型交通インフラの立ち上げを目指す同社に期待したい。

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