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同社CIOがTableauによる社内全体でのデータ活用の具体例を紹介、「Salesforce Live: Japan」

SUBARU、デジタルとデータによる“モノづくり”“コトづくり”変革を語る

2021年06月10日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 セールスフォース・ドットコムが2021年6月1日~4日に開催したオンラインイベント「Salesforce Live: Japan」では、「Salesforce & Tableauで進化する次世代のデータ活用」と題したセッションが催された。同セッションには、2016年からTableauを活用している自動車メーカー、SUBARUのCIOである臺 卓治氏が出席し、データやデジタルを活用したSUBARUのビジネスモデル変革について紹介した。

SUBARU 専務執行役員 CIO IT戦略本部長 兼 経営企画本部 副本部長の臺 卓治氏(左)、Tableau Software カントリーマネージャーの佐藤豊氏(右)

Tableau:企業の「データドリブンカルチャー」醸成に必要なものとは

 同セッションではまず、Tableau Software カントリーマネージャーの佐藤豊氏が、Tableauが提唱するデータ活用ビジョンや、「Salesforce Customer 360」との連携効果を紹介した。

Tableau Software カントリーマネージャーの佐藤豊氏

 Tableauは、BIツールをはじめとするエンド・トゥ・エンドのデータ分析ソリューションを提供している。佐藤氏は、これからのTableauは「AI/ML(機械学習)」「データ管理とデータ接続性の強化」「Salesforceに対するネイティブのアナリティクス機能埋め込み」といった方向で進化していくと語る。

 Salesforceは2019年6月、157億ドルでTableauを買収した。両社の統合で生まれたシナジーと新たな戦略について、佐藤氏は次のように説明した。

 「Salesforceが目指しているのは『すべての顧客接点をデジタル化すること』。そのなかで生まれたデータを、会社のパワーに変えていく際に必要になるのがアナリティクスだ。そこでTableauがSalesforceグループに加わった。Salesforce Customer 360(というビジョン)を成功させるためには、Tableauは必要なパーツである」(佐藤氏)

SalesforceやMulesoftとTableauの連携により実現するアナリティクスプラットフォームの全体像。Tableauはデータ分析、データマネジメントを担う

 Tableauのミッションは「誰もがデータを見て理解できるように支援すること」であり、これは創業以来変わっていないという。

 「なぜデータが必要なのか。企業はSingle Source of Truth(SSOT=信頼できる唯一の情報源)を活用することで、データドリブンの意思決定ができるようになる。データドリブンの意思決定ができると、そのプロセスからバイアスが抜ける。バイアスが抜けるとカルチャー変革につながり、人の変革にもつながる。データの力を組織全体で把握し、最大化し、社員一人一人がスマートに意識決定ができるようになる」(佐藤氏)

 データドリブン経営を行う企業は、顧客についてより深く理解しており、そうではない企業と比べて新規顧客獲得数が23倍、売上成長を10%向上させる可能性が1.5倍、既存顧客を維持できる確率が9倍になるという。

 それでもなお、92%の企業は組織全体でデータを活用できていない。そして95%の企業が、データ活用の進捗を妨げているのは「自社のカルチャー」だと答えている。Tableauではこれまでも「データドリブンカルチャー」の必要性を訴えており、そのカルチャーを醸成するには「組織全体がデータを活用できるプラットフォーム」「誰もが熱狂的になるコミュニティの醸成」、そして「コミュニティとプラットフォームをつなぐ方法論」が必要だと、佐藤氏は語った。

 「Tableauはアナリティクスプラットフォームを提供し、コミュニティ醸成に不可欠な『愛されるツール』、つまり直感的に利用できるツールも存在する。そこにAIの力を加えることで、データ分析は次の世界に進むことができる。『Tableau Blueprint』と呼ぶ方法論も提供しており、これに基づいて戦略をしっかりと作り、アジャイルな環境に適用させることで、迅速な意思決定ができるようになる。こうした取り組みによって、Tableauはお客様と伴走していくことができる」(佐藤氏)

SUBARU:「デジタルにどう取り組むべきか、悩んだ」

 SUBARUの臺氏はまず、自動車業界とデジタルの関係について説明した。

 「自動車の世界は閉じた世界で、デジタルとの距離があった。だが、100年に一度の変革期を迎え、CASEの時代を迎えている。ここでは、環境問題を背景とする電動化の動きと、クルマがコネクトする基盤の上で、シェアリングに代表されるサービス化、MaaS、自動化などの動きに分けることができる。自動車業界とデジタルの距離が近づいた」(臺氏)

SUBARU 専務執行役員 CIO IT戦略本部長 兼 経営企画本部 副本部長の臺 卓治氏

 そうした自動車業界の大きな変革期のなかで、「SUBARUがデジタルにどう取り組むべきか、悩んだ時期があった」と臺氏は明かす。

 「SUBARUのIT部門は、業務のIT化を担当するとともに、クルマがつながることで生まれるサービスも担当する。社内のレガシーシステムは“2025年の崖”に直面しており、DXの定義である『製品やサービス、ビジネスモデルを変革する』という言葉がでてきた途端に、会社としての方向性とベクトルが合わなかったり、足かせが重くなったりする。さらに、変革を推進するデジタル人材もいなかった。真面目でコンサバな社風のなかで、デジタルとどう向き合っていくかということにはかなり悩んだ」(臺氏)

デジタル変革(DX)の定義に照らしてみると、SUBARUがデジタル化を進めるうえではいくつもの課題があった

 検討の結果として導き出されたのは、経営層から社員までが共有できる「腹落ちするデジタル化のビジョン」を策定し、そこから変革への取り組みを進めるという方針だった。さらに、この変革の取り組みは、「製品、サービス、ビジネスモデルの変革」と「業務、組織、プロセス、企業文化、風土の改革」の2つに分けた。前者は“モノづくり”の変革、後者は“コトづくり”の変革と言える。

SUBARUがデジタル化の取り組みで掲げたコンセプト

同じゴールに向けて全社/全部門がデータとデジタルの活用に取り組む

 SUBARUが掲げたゴールは、「データ/デジタル技術を活用して、SUBARUブランドとお客様の結びつきを強くする」というものだ。これを共通テーマとして、商品開発から販売まで“モノづくり”強化を進める一方、これまでのSUBARUが得意とはしていなかった“コトづくり”も、同じゴールに向かって取り組みを開始した。

 “コトづくり”の一例として、米国で2017年から、日本でも2020年からスタートしたコネクトサービスを紹介した。これはサブスクリプション契約により、ソフトウェアの更新、緊急コール、故障診断やセキュリティのアラート、リモート操作やスマホ連携などのサービスを提供するサービスだ。米国では事業化のめどがつき始めたという。

 また、もうひとつの事例として、日本国内でサービス開始を控えるスマートフォンアプリ「SUBAROAD」を紹介した。一般的なカーナビが目的地への最短ルートを教えてくれるのに対して、SUBAROADは「SUBARUのクルマで走って愉しいルート」を教えてくれるという。

SUBARUがデジタルで進める“コトづくり”の事例

 一方で“モノづくり”においては、現場における改善マインドが停滞している状況に着目し、モノづくりの危機をモノづくりの強みに変えていく取り組みを始めたという。

 ここではTableauを活用し、データとデジタルの力を使って、時間を生む「効率化」、課題の「可視化」、チームでの「共有」「分析」そして「課題解決」へと進め、結果として「人材づくり」にまでつなげる改善のプロセスを追求している。SUBARUでは2016年にTableauを導入し、現在はマーケティング、企画・開発、品質、製造、販売におよぶ26部署、1400名の従業員がTableauを利用できる状況にある。

“モノづくり”においては「データ、デジタルツール抜きでの改善は困難」として、改善をドライブすることに

 かつての製造部門では、車両生産工程にあるチェックポイントで作業者が状況を紙に書き、それを回収して専任オペレータがPCに入力していた。そのため結果が出るのは翌日で、改善が進みにくい状況だった。現在はこれを、紙への手書きではなくタブレット入力に変更し、Tableauを使ってデータ解析を行うという方式に刷新している。

 「結果が出るまでの時間や作業時間が半分になり効率化が実現したほか、データの精度も高まった。可視化によって問題点を理解し、改善にもつなげやすくなっている。最初は草の根的にスタートした取り組みだが、その有効性が社内に広がり、現在は製造部門全体で使うようになっている」(臺氏)

 他方で販売部門では、登録ユーザーにイベント情報などを配信し、その結果を集計していたものの、なかなか成果が上がらないという課題を抱えていた。そこで、Salesforceの仕組みを利用してWebサイトでの行動履歴を収集し、個々のユーザーが「クルマにどう向き合っているのか」を分析して、ユーザーごとに最適化した情報を配信するように変えたという。それに加えて情報配信の結果はTableauで集計、可視化し、販売促進部門だけでなくマーケティング部門などでも利用できるようにした。これにより、部門間を超えた課題共有ができ、問題解決につながるようになったという。臺氏は「可視化」の有効性を実感したと語る。

 米国市場における品質への取り組みでは、全米630拠点のリテーラーを通じて1日4000件以上の顧客の声を収集していたものの、一定数がまとまってから集計する仕組みであったうえ分析できるのが専任者だけだったため、結果が出るまでのスピードが遅く、さまざまな切り口での分析ができないという課題があった。そこでTableauを使い、現場でダッシュボードを開発して可視化したことで、さまざまな人の目が入るようになり、分析の範囲が広がって、次のアクションにもスピードが出たという。

 「改善をドライブし、成功事例を積み上げることで、社員の改善マインドを取り戻すことができた。また、煩雑化した業務をスリム化し、標準化できたことで、社員が本質的な業務に取り組むことができた。さらに、職場が活性化し、社員がモチベートされ、エンゲージメントも向上した」(臺氏)

 今後、SUBARUでは、Tableauによる基盤を活かしながら、データ活用の定着を図ること、経営との距離を縮めること、データ活用の人材を育て、新たな価値を生むことができるようにすること、顧客との結びつきを強めることや、新たな領域における事業化にも挑戦していく。

SUBARUが考えるデジタル化の「次のステップ」

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