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業務を変えるkintoneユーザー事例 第106回

モバイルワークで何がしたいのか、何が必要なのかをきちんと検討

できる&知っている範囲に捕らわれず、業務アプリを開発した堺市役所

2021年06月18日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 2021年4月21日、大阪のなんばHatchにて「kintone hive osaka vol.9」が開催された。kintone hive(キントーンハイブ)は、kintoneを業務で活用しているユーザーがノウハウや経験を共有するプレゼンイベント。今回は5社がエントリーし、今回は4番目に登壇した堺市ICTイノベーション推進室の阪井志帆氏によるセッション「”自分ゴト”の業務改善をできる範囲、知ってる範囲に捕らわれないモバイルワークの実現」の様子をレポートする。

堺市ICTイノベーション推進室の阪井志帆氏

どうやってモバイルワークするべきかを検討

 堺市と言えば、世界遺産に登録された百舌鳥・古市古墳群が有名な、82万人以上の人口を持つ政令指定都市となる。阪井氏は2017年に入庁し、企画部に配属。令和2年から新設されたICTイノベーション推進室に異動した。

 そのころは、働き方改革を強力に推進していた時期で、在宅勤務やモバイルワークもスタートしていた。現場で働く職員にモバイルワークに必要な機能をヒアリングしたところ、「外出先でもメールを送りたい」「移動中に報告書を作成したい」「紙文書をデータで持ち歩きたい」などと在宅勤務のシステムをイメージした意見が寄せられたという。

モバイルワークについてのヒアリングをしたら在宅勤務と同じ内容が挙げられた

「本当に業務を効率するモバイルワークの機能は、現状使っている機能から何が欲しいかを考えるのではなく、業務のどの部分をどうやってモバイルワーク化するべきかを検討する必要があるのではないかと考えました」(阪井氏)

 そこで、「できる範囲、知っている範囲に捕らわれないモバイルワークの実現」という目標を掲げ、モバイルワーク化を検討することにした。

自分ができる、知っている、という範囲に捕らわれないことを目標とした

モバイルワークを活用する職員たちでワークショップを実施

 まず取り組んだのが、現場の職員の意識改革だった。モバイルワークを導入し、活用するのは、担当課の職員達。モバイルワークで何がしたいのか、何が必要なのかを、しっかりと検討してもらうため、役所内で公募で集った7課に対して、全3回のワークショップを実施した。ワークショップでは類似の業務を行なう人たちでチームを組み、ディスカッションしてもらったのだ。

 1回目は何のためにモバイルワークを活用するのか、を自分たちなりの目的について、自分たちのこととして考えてもらった。2回目は自分たちのこととして定めた目的について、いろいろな価値軸で問題を見つめ直してもらい、実現させたいモバイルワークの狙い所を明らかにしてもらった。そして、集大成となる3回目はモバイルワークの制約とできることの中から、必要な機能を明らかにした。

役所内で3回のワークショップを実施した

3ステップでモバイルワークに必要な機能を明らかにした

 この3つのステップを経て、業務のどの部分がモバイルワーク化ができれば、効率化できるのかを具体的にイメージできるようになったという。ワークショップ前は「モバイル端末さえあれば、業務改善できるだろう」と漠然と期待していただけだったのだが、ワークショップ後では各業務に沿ったアプリケーションが必要だということに気がついた。その上で、業務のどの部分をモバイルワーク化すべきか、を検討し、各課からさまざまな要望が寄せられた。

 たとえば施設管理業務では、見たいときに見たい情報を見たり、場所と内容を同時に記録する、苦情対応業務ではスケジュールを確認したり、記録内容を即情報共有する、監査業務では過去の監査履歴を遡って確認したり、関係法令を探す、といった機能が求められた。

職員の意識が変わり、機能の要望がたくさん寄せられた

 ワークショップの効果がてきめんの素晴らしいことなのだが、「しかし、私たちは困りました」と阪井氏。職員の要望を全部聞いて設計、開発していては予算と時間がいくらあっても足りない。そんな困り果てていた阪井氏に、kintoneという一筋の光が差した。

 アプリの開発については、kintoneのパートナー企業である大塚商会に依頼した。担当者に来庁してもらって職員の要望を聞き取ってもらい、アプリを作成してもらったのだ。

「できる範囲、知っている範囲にとらわれない開発を目指しました。ワークショップで検討した業務改善を大塚商会様と相談しながらアプリとして具体化していただき、2ヵ月ほど現場で使用して、改良点や欲しい機能を再度伝えて、ブラッシュアップしてもらう、ということを繰り返しました」(阪井氏)

現場職員が機能を考え、アプリ実装は大塚商会に依頼した

完成した2つのアプリを披露 自治体ネットワークで利用加速へ

 完成したアプリを2つ紹介してくれた。まずは「工事指摘事項」アプリ。市から依頼した工事の安全性が満たされているかを職員が訪問して検査する際に使用するアプリだ。工種ごとに基準を記録でき、工事の進捗状況も残せる。ルックアップで関連する議事録を参照できるようにした。

 指摘がある場合は、その部分をモバイル端末で撮影して、直接写真に書き込んでそのままkintoneに残せる。文章だけでは伝えるのが難しい指摘箇所をイメージで共有できるようにしたのだ。

 これまではフォルダ内に分類されている記録の中から必要な情報を探し出して紙にメモし、現場で確認しながら撮影や記録を行なっていた。庁内職員に確認が必要なら電話で話すしかない。帰庁したら、写真を取り込んで撮影地のメモと共にマッチングさせて整理するというとても負荷の大きい作業が必要だったのだ。

「このアプリのおかげで、専任担当者が現場のどんな点に注意すればいいのかを、写真から学べるようになりました。帰庁後に行なっていた写真の印刷の手間もなくなり、8割~9割のペーパーレス化を実現できました」(阪井氏)

現場での指摘をスマホで撮影した写真に直接書き込み、kintoneで共有できるようにした

 もう一つが「現場調査記録」アプリ。市から依頼した工事の情報や業者とのやりとりを記録するアプリで、どの場所のどんな業務なのか、といった情報や施工条件などの重要事項を確認できる。

 工事業務を管轄する場合、工事の依頼内容や施工条件、業者との調整事項を管理することは基本的かつ重要な業務となる。しかし、大量の工事情報を管理しているので、問い合わせがあると、該当資料を探し出すのに手間がかかっていたのだ。

 「現場調査記録」アプリに情報を集約することで、短時間で対応できるようになった。さらに、質問がkintoneに登録されたのに、未回答の状態が続いている場合、担当者が困っているのではないか、と周りが気づくようになったそう。職員同士のコミュニケーションが増加したという報告もあるとのことだ。

事業者の質問や注意事項を定型化して漏らさず確認できるようにした

 kintoneを活用したこれらの取り組みの結果、令和元年度は10%の可処分時間を創出でき、他の業務に時間を当てられるようになった。総人件費の1割と考えれば、とてつもない導入効果と言えるだろう。

「現在、インターネットの環境下でkintoneを利用していますが、本年度からは自治体専用のネットワークからkintoneにアクセスできるようにし、活用の幅を広げていきたいと思っています。今後は、現場職員のニーズに応えるだけでなく、現場の職員が自らの業務改善ポイントに気付き、自分ゴトとして業務改善に取り組んでいけるようになっていけばよいと思っています」と阪井氏は締めた。

kintoneを導入することで、大きな導入効果が得られた

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