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「開発者にエッジを開放」、ユーザー開発ロジックをグローバルエッジ基盤上で実行可能に

アカマイ、エッジコンピューティングのFaaS「Akamai EdgeWorkers」提供開始

2021年04月22日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 アカマイ・テクノロジーズは2021年4月21日、同社がグローバル135カ国に展開する「Akamai Intelligent Edge Platform」上で、ユーザーが独自に開発したロジック(JavaScriptコード)の実行を可能にするエッジコンピューティングの新サービス「Akamai EdgeWorkers」の国内提供を開始した。

 EdgeWorkersはサーバーレス型のFaaS(Function-as-a-Service)であり、WebアプリケーションやIoTなどさまざまな用途で、分散型のエッジ処理実装を容易にする。同時に今回、分散型のキーバリューストアサービスである「Akamai EdgeKV」のベータ提供も開始している。

 同日の記者発表会では、EdgeWorkersの特徴のほか、過去2年間のベータ版提供でユーザー企業が実装してきたさまざまなユースケースも紹介された。

アカマイが提供開始した新サービス「Akamai EdgeWorkers」の概要

 

アカマイ・テクノロジーズ 職務執行者社長の山野修氏、同社 ウェブパフォーマンス・アーキテクトの伊東英輝氏

グローバルなエッジ基盤に独自ロジックを展開できるサーバーレス/FaaS環境

 アカマイが展開するAkamai Intelligent Edge Platformは、135カ国の4100ロケーションに約34万台のサーバーを分散配置/相互接続することで構成されている、世界最大級のエッジプラットフォームだ。

 今回提供開始されたEdgeWorkersは、この Intelligent Edge Platform上でユーザーが開発したロジックを実行可能にするエッジコンピューティングサービスとなる。これにより、パブリッククラウド利用時の課題であったクライアントデバイスとの通信レイテンシ(遅延)や、処理の一極集中によるパフォーマンス劣化といった課題を解消できる。

 具体的には、エッジサーバー上で稼働するサーバーレス型のFaaSとして提供する。 ユーザーが書いたJavaScriptコードは、APIやポータル経由でデプロイするとエッジコンピュート基盤に自動展開され、エッジサーバー上で「Google V8 JavaScriptエンジン」を使って高速に実行される。イベント処理数に応じて課金される課金体系となっており、グローバルのどのロケーションで実行しても同一の料金が適用される。

Akamai EdgeWorkersの特徴。JavaScriptコードを書き、デプロイするだけで、世界中のエッジでロジックが実行可能になる

 アカマイ ウェブパフォーマンス・アーキテクトの伊東英輝氏は、EdgeWorkersの特徴の1つが「サーバーレスプラットフォームであること」だと述べ、ユーザー側でプラットフォームの管理や事前のキャパシティプランニング、スケーリングといった作業が必要ない点をメリットに挙げた。

 なお、EdgeWorkersでは開発者の生産性向上を支援するために、ドキュメント、API、サンプルコードのほか、アカマイのWebコンソールに統合されたコードエディタ、ローカルのラップトップ上でも稼働するサンドボックス、EdgeWorkersを管理するコマンドライン(CLI)ツール、EdgeWorkers上でのイベント処理状況を可視化するダッシュボードといったツール群も提供している。

EdgeWorkersで動かすロジック(ファンクション)コード開発のためのドキュメントやツール群も提供(画面はアカマイの開発者向けサイト)

 今回はもう1つ、同じくAkamai Intelligent Edge Platformを使った分散型キーバリューストアであるEdgeKVの、一部顧客へのベータ版提供開始も発表されている。書き込まれたデータは、結果整合性を保った形で複数のエッジロケーションへレプリケートされる。このデータストアにアクセスするためのJavaScriptライブラリも用意されており、EdgeWorkersで稼働するロジックからも簡単に呼び出せるという。

Akamai EdgeKVの特徴。グローバル分散型のキーバリューストアであり、EdgeWorkersからも容易にアクセスできるという

サーバー/クライアントのさまざまな制約を解消、5つのユースケースを紹介

 アカマイでは、EdgeWorkersを2年前から一部顧客にベータ提供してきた。伊東氏は「すでに本番環境でのユースケースも出てきている」として、代表的な5つの導入パターンと実際のユースケースを紹介した。

 まずは「サーバー遅延をエッジで解決する」ための利用だ。北米のある企業では、移動するユーザーのロケーションデータから、常に最寄りのディーラー店舗を検索して応答するサービスを提供している。しかし、ロケーションデータをパブリッククラウドに送って応答を得るには、どうしても最大500ミリ秒程度のレイテンシが発生し、顧客のユーザー体験品質を損ねていた。そこで、最寄り店舗の検索ロジックをEdgeWorkersに移行。その結果、レイテンシを10~50ミリ秒まで改善したという。

ユースケース1「サーバー遅延をエッジで解決する」。クラウドアクセスで生じるレイテンシを大幅に短縮してユーザー体験を向上させた

 「クライアント制約をエッジで解決」するユースケースもある。世界中のファッションアイテムを購入できるショッピングサイト「BUYMA(バイマ)」を運営するエニグモでは、ユーザー体験向上のためにCookieによるユーザートラッキングを実施していた。しかし近年では、ブラウザ側でプライバシー規制強化(アップルのIntelligent Tracking Preventionなど)が始まったため、このCookie処理をオリジンサーバー側に移行。しかし、今度はピークトラフィックが大きくなりオリジンの処理負荷が高まったため、その処理をEdgeWorkersに移行したという。

ユースケース2「クライアント制約をエッジで解決」。エニグモではCookie処理ロジックをブラウザ→オリジンサーバー→エッジと移行してきた

 次の「サーバー制約をエッジで解決」は、オリジンサーバーの制約で追加できない処理をエッジで代替するという形態だ。ある申込みサイトにおいて、大量アクセス時にユーザーを待機させる仮想待合室ソリューション(Queue-it)を導入しようとしたが、オリジンサーバー側に組み込むことができず、その代わりにEdgeWorkers上へロジックを実装したケースがあるという。「今後はサードパーティのベンダーが、アカマイをプラットフォームと見なして自社ソリューションに実装できる」(伊東氏)。

 「サーバー処理をエッジで分散処理」させることも考えられる。最近ではモバイルデバイスやIoTデバイスでアクセストークンを使ったの認証処理が行われているが、トークンの検証処理がオリジンサーバーに一極集中すると負荷が高くなる。EdgeWorkersを使って、その処理をエッジに分散化させるというものだ。

ユースケース3「サーバー制約をエッジで解決」、ユースケース4「サーバー処理をエッジで分散処理」の事例

 最後に「クライアント処理の簡素化」というユースケースを挙げた。EdgeWorkersでは、条件に応じて複数のサービス(オリジン)へのアクセスを切り替えたり、複数サービスのレスポンスを組み合わせてクライアントに返したりすることができる。ある顧客では、これまでクライアントから複数サービスを呼び出し、そのレスポンスをブラウザ上で組み合わせ描画する処理(クライアントサイドレンダリング)を行っていたが、その処理をエッジにオフロードしてクライアントでの処理を軽減する取り組みを行っている。

ユースケース5「クライアント処理の簡素化」。これまでクライアント上で組み立てていた複数サービスからのレスポンスをエッジで処理し、クライアント負荷を低減した

 「企業ではマルチクラウド、あるいはマルチリージョンのデータセンターによるグローバル展開やDRなどを考えている。それらとエンドユーザーとの間にエッジが存在し、エッジプラットフォームを持つアカマイの価値はますます高まっていくものと考えている」

EdgeWorkersの活用で、クライアントへの低レイテンシなレスポンスだけでなく、配信の信頼性向上やオリジンサーバーの防御、そしてクラウドやデータセンターへのアクセス/処理の一極集中を解決できるとまとめた

2028年には10兆円市場へ、エッジ市場が急拡大していく背景

 発表会に出席した社長の山野修氏は、アカマイでは2021年の国内重点分野の1つとして「エッジコンピューティング:エッジネイティブなアプリケーション開発の支援」を挙げており、今回はその具体的な施策として発表すると説明した。

 市場調査会社の予測によると、エッジコンピューティング市場はかつてのパブリッククラウド市場と同じようなスピードで成長し、2028年には10兆円規模の市場になることが予想されている。山野氏は、そのように市場が急拡大する背景を説明した。

 「なぜエッジなのか。エンタープライズのデータセンターは数ロケーション、パブリッククラウドを活用しても数十ロケーションにとどまり、やはりアクセスや処理が“一極集中”になってしまう。一方で、PCやスマートフォン、さまざまなIoTデバイスといったデジタルタッチポイントは数十億個に及ぶ。これらのデータをリアルタイムに処理しようとしても、限られた数のロケーションでは限度があるし、障害などが発生すると社会的な問題にも発展しかねない。そこで(大量のロケーションを持つ)エッジで処理しようという発想になる」(山野氏)

膨大な数のデジタルタッチポイントが生まれる中で、少数のデータセンター/クラウドに処理が集中するのは現実的ではない。エッジ基盤における分散処理が重要なカギを握るとした

 コロナ禍を通じた世界的なデジタルシフト、ユーザーとデバイスの急増、データ量の増加、OTT市場の成長、そしてセキュリティ懸念の加速といった社会的変化が背景にあり、5Gによってこうした状況がさらに加速すると見込まれることから、エッジコンピューティングへの取り組みが求められるとまとめた。

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