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介護業界で「離職が多発」する根本的な理由

2021年04月20日 06時00分更新

文● 吉田由紀子(ダイヤモンド・オンライン

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近年、要介護者が増えているにもかかわらず、介護職員の相次ぐ離職が大きな問題になっている Photo:PIXTA

介護現場の人手不足が深刻化

 今年4月、介護報酬が改定された。厚生労働省は、団塊の世代が75歳になる2025年に向けて介護のDX化を進めていく方針だ。見守り機器の導入やICTを活用して介護職員の負担を減らすことを目的としている。

 しかし実際の現場では、依然として職員の離職率が高いままだ。2019年の公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、離職者の60.2%が就業後3年未満で辞めている。さらに33.1%が1年未満で離職しているのが現状だ(いずれも正規職員)。介護が必要な高齢者は増え続けているが、一方で担い手が一向に定着せず、人手不足が深刻化している。

 この問題を解決しようと開発されたアプリがある。それが「介護thanks!」だ。

 このアプリは、介護施設で働く人が「ポジティブな発信」を贈り合うことを主目的にしている。良好なコミュニケーションをとり、働き手のチームワークを高め、より良いサービスを提供するために開発された。どういった効果が期待されるのか、開発を行ったトライト営業企画部法人営業課長・柳田友さん、経営企画本部経営企画室主任・秦彩香さんに取材を行った。

離職する最大の原因は「職場の人間関係」

「介護業界は現在、超が付くほどの人手不足に陥っています。就業をしても職場環境が原因で離職する人が相次いでいる状態です。最大の要因は人間関係にあります。あまりの忙しさに職員間のコミュニケーションがとりづらく、せっかく就いた仕事にもかかわらず、辞めてしまう人が後を絶ちません。介護業界全体が抱える問題です。解決の一助となればと考えつき、介護thanks!を開発しました」(柳田さん)

介護職員に称賛や感謝のメッセージを贈ることで良好な職場コミュニケーションを醸成する介護thanks!

 介護thanks!の特長は、介護職員が感謝、称賛、承認といったプラスのメッセージを贈り合う点にある。例えば「いつもありがとう」「夜勤おつかれさま」「あなたがいると心強いです」といったスタンプが、約1000種類も用意されている。スマホから2クリックで送信できるので、休憩中などの隙間時間に贈ることができる。

「初めて介護職に就いた人でも、職員が歓迎のメッセージを贈り、なじみやすい職場環境を作れば、定着率が高まるのではないかと考えています。『ありがとう』を積み重ねていくことで働く意欲が上がり、信頼を基盤としたチームワークが成り立つと私たちは考えています。働き手のパフォーマンスが上がれば、利用者さんの満足度も高まり、毎日が過ごしやすくなるはずです」

 また、アプリには職員の良い行いをチームで共有する「ノート」という機能が搭載されており、こちらも称賛のスタンプを贈れるようになっている。さらに、ダイレクトメッセージで1対1の交流ができるため、お礼を伝えたり、誕生日や記念日を祝うことも可能だ。感謝を贈り合えばポイントが蓄積される仕組みになっており、たまったポイントはTポイントやdポイントなどの外部ポイントにも交換することができる。

職員のエンゲージメントは、本当に上がるのか?

 このアプリを導入した介護施設に取材をしてみた。奈良市を本拠点として8拠点で介護施設を運営するリールステージでは、2月1日から使用を開始。現在は管理職が試験的に使っている状態だという。

約1000種類のポジティブなスタンプが用意されており、スマホから簡単に贈ることが可能だ

「介護thanks!を導入した一番の理由は、職員のエンゲージメントを高めるためです。当社も他の施設同様に職員の離職に頭を悩ませています。その背景には良好なコミュ二ケーションがとれていなかったことがありました。ところが使ってみると、変化が出てきたのです。仕事をしながら『ありがとう』を探すようになったのです。それまではGmailやslackで情報共有をしていましたが、介護thanks!を導入してから職員の人柄がよく分かるようになり、良いコミュニケーションがとれるようになったと感じています」(総務企画部・平野亜樹さん)

 試験段階を経て、5月には現場の職員にも使ってもらえるように準備を進めている。

抱える仕事の「見える化」が急務な理由

 もう一つ、このアプリには大きな特長がある。データ分析機能が付いていることだ。日々の運用で蓄積された膨大なデータを自動で分析し、チームの状態を可視化できるようになっている。そのことにより、管理職のデータ分析の負担軽減はもちろんのこと、これまでに感覚的に捉えてしまっていたチーム状態を数値化・言語化できるようになり、チーム上の課題が顕在化しやすい。

「介護は数人のチームで行いますが、メンバーの発信数や活用状況からチームの状態を自動的にグラフ化することができます。また、過去の離職者の利用状況をデータとして蓄積することにより、同じパターンが出現した際に、管理者がいち早く察知して離職を防ぐ対策を講じることも可能です。早めに手を差し伸べてあげれば辞めずに済んだ、というケースが非常に多いのです」(秦さん)

 さらに部署間のつながり度合いを可視化することもできる。これを活用すれば管理者がより良い人材配置を行えるようになる。また、職員だけでなく、介護当事者や家族も感謝や称賛のメッセージを贈ることができる。

「介護を受けている方から介護職員への送信機能を付けたのは、職員の意欲向上につながり、結果的には顧客満足を高めることになると考えました。各種の機能やポイントサービスは、施設の状況に応じてカスタマイズできますので、より効果的な方法で活用していただけます」(秦さん)

 介護現場に良好なコミュニケーションを作り出すことで、職員の離職を防ぎ、利用者の満足度を高める介護thanks!。導入を検討する施設がいま増えつつある。

 これから急速に増えていく要介護者。介護の担い手を少しでも増やし、定着を図ることで、介護の「2025年問題」を解決する糸口が見つかるかもしれない。このアプリは、大きな可能性を秘めているのではないだろうか。

(吉田由紀子/5時から作家塾(R))

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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