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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第611回

FPGAでAIに全振りしたAchronix AIプロセッサーの昨今

2021年04月19日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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 今週のAIプロセッサーの昨今は少し変わったFPGAの話だ。Achronix SemiconductorのSpeedSter7tのサンプル出荷が今月8日に開始されたので、このSpeedsterを解説しよう。FPGAについては(もうだいぶ昔だが)連載349回で簡単に説明している。

 まずはAchronix Semiconductorについて。ASCII.jpの過去記事になにかないか? と思ったら自分の記事だけだったので、まずはここから。Achronix Semiconductorは2004年創業の、比較的若いFPGA専業メーカーである。もともとはコーネル大学が10年ほど研究していたpicoPIPEという技術(同大はこれで特許も持っている)を使ってFPGAを構築しようという、なかなか意欲的な発想である。

 創業者はそのコーネル大の卒業生であるClinton Kelly博士(現VP, Core Technology)とVirantha Ekanayake博士(現CTO)、さらにコーネル大のRajit Manohar教授といった、コーネル大でpicoPIPEに関わっていた人がメインであるが、会社経営はまた別と思ったのか、当時S3(VIAに買収されたS3とはまた別)というワシントンDCにあるベンチャーコンサルティングファームを経営していたJohn Lofton Holt氏を会長兼CEOとして招聘。Holt氏は2011年にCEO職をRobert Blake氏に譲るが、引き続き会長職に留まっている。

 なおBlake氏は直前はOctasicというワイヤレスモデムの会社のCEOを務めていたが、その前はAlteraに8年以上在籍していた、FPGAの市場を良く知った人物である。

 さてAchronixという会社の話をもう少し説明しよう。FPGAのマーケットをラフに言えば以下のようになっている。

  • Tier 1:Xilinx(もうじきAMD?)、Altera(現Intel)
  • Tier 2:Actel(Microsemiを経て現Microchip)、Lattice
  • Tier 3:Achronix、expressLogic、QuickLogic、etc...

 Tier 1の2社は中規模~大規模のFPGA製品を得意としており(小容量品もなくはない)。対してTier 2は小規模~中規模(でも下の方)のFPGAがメインであり、特にLatticeはそれこそDisplayPortコネクターなどにも入るような小さなFPGAを主眼としている。

 話が飛ぶが、Latticeは最近セキュリティー機能にも力を入れており、実はIce Lake-SP向けのWhitley PlatformやSapphire Rapids向けのEagle Stream Platformでファームウェアの書き換え防止などを行なうResilient Server向けに同社のセキュリティー対応FPGAが採用可能になっており、現実問題として現状ほぼ独占供給状態だ。

 話を戻すと、今回のAchronixはその下のTier 3にあたる。実のところFPGAというビジネスは、その前段階であるCPLD(Complex Programmable Logic Device)の時代まで含めると数十社が製品を供給しており、ところが吸収合併や廃業、ビジネスからの撤退で現在の数までベンダーが減った、という経緯がある。

 例えば、(以前AMD HEROSでも書いたが)AMDは1987年にMMI(Monolithic Memories, Inc.)を買収し、ここが持っていたPAL(Programmable Array Logic)という小規模な書き換え可能ロジックデバイス製品を買収して販売していた。後にこのビジネスがある程度大きくなったところで、PAL/PLDデバイス関連製品をまとめてVantis Corp.という子会社にスピンアウト。2007年にLattice Semiconductorに売却している。

 Latticeは2011年にも、SiliconBlueという非常に規模の小さいFPGAを作っていたメーカーを買収、ここの製品を自社のラインナップに加えている。似た話はXilinxやAltera、Microchip(Actel)にもあって、なかなか長期間製品を提供し続けるのが難しい、というより会社がその前に消えてしまうパターンが多い。最近で言えば、Achronixとほぼ同タイミングでインテルの22nmプロセスを利用したFPGAの提供をアナウンスしていたTaburaが2015年に破産している。

 このTier 3市場の製品は、生き残りのためにはTier 1やTier 2と同じことをやっていてもビジネスが成立しないので、差別化を図ることになる。破綻したTaburaは、独自のSpace Time Technologyという一種のReconfigurable FPGAを提供しようとしていた。

 ここはひとつのFPGAのセル(実体は4ないし6入力のLUT)を時分割にして使うことで、見かけのセルの数倍のセルを利用できるようにするというものだ。最初に発表されたABAXシリーズの場合、セルの動作速度は最大1.6GHzだが、これを1/2/4/8分周して利用できる。

 例えば8分周するとセルの動作速度は200MHzに落ちるが、その代わり見かけ上のセルの数が8倍に増える、というわけだ。現実的には、設計上の自由は得られるが、セル8倍のケースではそこらの低価格FPGAと変わらないスペックで、一方フル速度では圧倒的に高速ではあるがセルの絶対量が足りないという、結果的にどっちつかずのスペックでしかなかったあたりが、顧客を掴み損ねた要因であろう。

 では残ったメーカーは? というと、まずあるのがFPGAのIPでの提供である。連載589回で紹介したFlex Logicや今回のAchronix、expressLogicなどはいずれもFPGAの製品とは別にFPGAのIPを提供するというビジネスを行なっており、カスタムASICにFPGAの能力を付加できるということで、意外にこれが大きなビジネスになっている。

 Achronixの場合も、今年3月9日に、同社のFPGA IP(同社はこれをEmbedded FPGAということでeFPGA IPと称している)を搭載した製品が1千万個出荷されたと発表している。1個あたりのロイヤリティは安くても、これだけ出荷すればそれなりの金額にはなるわけで、こうした形のビジネスで会社を存続させてきたというのが1つ。

 もう1つは、製品を特定用途に振り切った形で提供することで確実に市場を掴む、いわばニッチメジャーの座を獲得する方法である。Achronixはこれに関しては「超高速FPGA」という製品をこれまで提供する形を取ってきた。Achronixの最初の製品は、2008年9月にリリースされた初代Speedsterファミリーである。

当時としては高速な10.3Gのシリアル・インターフェースSerDesを搭載していることも特徴で、高速性が要求される通信関係や、高速ASICの代替といった用途に最適といった説明があった記憶がある

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