クラウドエンジニア集団grasysの生きる道、長谷川代表が語る
Google Cloudを中心に顧客の課題に向き合うシステム構築を手がけるgrasys(グラシス)。長谷川祐介代表に起業の経緯、Google Cloudとの出会い、ゲーム業界への想い、そして業界内でのgrasysの存在意義などを聞いた。(インタビュアー アスキー編集部 大谷イビサ)
Webサービス・ゲームにどっぷりだった長谷川氏がgrasysを立ち上げるまで
grasys代表を務める長谷川祐介氏は、今年43歳。過去20年は大手Webサービス・ゲーム事業者で大規模なシステム構築を手がけてきた。
「20代ではいろいろな会社でシステム開発の経験を積んで、30代になったら一人でいろいろできる会社に入ろうと自分でプランニングしていました。一人でいろいろやらせてもらう会社ってベンチャーであることはわかっていたので、GMS(現gloops)の10人目の社員として入りました」
当時はDeNAがモバゲーをオープンプラットフォーム化した頃で、ソーシャルゲームはまさに勃興期。gloopsも創業から2年後には750名くらいに拡大し、長谷川氏も120名規模の開発部門やゲーム事業本部などの構築・運用を手がけたという。
「2000台規模のシステムの設計は、ほぼ僕が思い通りにやらせてもらいました。秒間15万リクエストをさばけるクラスターで、JPNICから問い合わせが来るくらい大量のトラフィックをさばいていました。なにしろ瞬間的にではありますが、国内のモバイルトラフィックの1/8をgloops1社でさばいていたそうなので(笑)」
圧倒的な数のユーザー、莫大なトラフィックをリアルタイムでさばくゲームを支えるシステムの面白さやスケールの大きさに長谷川氏は魅了された。その後、gloopsはネクソンに買収され、退職した長谷川氏はクラウドインテグレーターgrasysを立ち上げることになる。
エンジニアが技術に没頭できる会社を作りたい
2014年11月に立ち上げたgrasys。社名は、スペイン語のありがとう(Gracias)とシステム(System)の造語がgrasysという由来。これは実績がないにも関わらず、仕事を任せてくれたお客さまへの感謝を表現しているという。
「私がgloopsを辞めたタイミングで、日本でGoogle Cloudのビジネスを立ち上げていた塩入さん(元Google Cloud Platform 日本事業統括 塩入賢治氏)といっしょにゲーム会社をとてもたくさん回りました。そのうち2社からお仕事をいただけることになりました。それでgrasysを立ち上げることができ、このときの感謝の気持ちを社名に入れたのです」
長谷川氏がgrasysを立ち上げた背景には、外部環境に依存せず、エンジニアたちが安心して技術に没頭できる環境を作ることにある。さまざまなWebサービス・ゲーム会社で、酸いも甘いも経験してきた長谷川氏ならではの観点だ。
「エンジニアって技術で食べていく部分はあるのですが、その技術とビジネスってけっこう相反します。技術は理想が重要ですが、ビジネスは現実が大事だったりします。ただ、会社の売った、買ったで、傷つくのはエンジニア。技術で会社にコミットしようとがんばっているエンジニアの想いも、誰かのビジネス的な意図で簡単にひっくり返ったりします。そう気がついたときに、会社を立ち上げることを意識しました」
「コミュニケーション下手」と言われることも多いエンジニアが、その純粋さを保ったまま、楽しくエンジニアリングできる会社を作りたかった。そんな長谷川氏の想いもあり、生まれたのがgrasys。エンジニア集団や技術者の集まりと呼ばれている。
「デブサミの講演でも『エンジニアよ、立ち上がれ』みたいなことを話していますが、僕自身はエンジニアが会社を作ることをお勧めしています。もちろん技術とは違う分野の能力も必要になるので覚悟は必要ですが、エンジニアはロジカルだし、システマチックに物事を考えます。会社の経営はシステムの考え方と近いところがあると感じていて、エンジニアに向いていると思います。ただ、エンジニアのみなさんはコミュニケーション能力はできる限り鍛えた方がいい。何かの専門家であるということは、何か別の分野の専門家と仕事をしていくことになるからです」
grasysがGoogle Cloudに取り組んだ理由とは?
大規模なシステム構築の経験やノウハウを元に、長谷川氏が起業しようともくろむ過程で重要な存在になったのが、grasysと切っても切り離せない関係になるGoogle Cloudだ。現在もgrasysは一般的には「Google Cloudのインテグレーター」として認知されている。
grasysを立ち上げた当時、東京リージョンがなかったGoogle Cloudだが、国内のビッグネームに営業をかけ、日本でのビジネスの立ち上げを狙っていた。gloopsで営業を受ける立場だった長谷川氏も、起業を考えた段階でGoogle Cloudの取り扱いを念頭に置いたという。
「やはり私はルーツがエンジニアなので、どうしても技術的な欲が出てしまい、リリースされたばかりのGoogle Cloudは面白そうという気持ちで一杯で、ここでやってみようと考えました」
システム構築・運用を手がける立場として、手を入れる余地が大きいのもGoogle Cloudの魅力だという。機能面ではシンプルだが、チューニングすることで、圧倒的な性能面を実現できるという。
「AWSはブロックをつなぎあわせてサービスを組み上げていく手法がメインで、サービスの幅広さが魅力。一方でGoogle Cloudは『エンジニアがんばれよ』みたいな世界で、チューニングも懐が深い。エンジンだけ渡されるので、プロペラやタイヤは私たちが付けるんです。だから、極限の性能を出そうと思うと、Google Cloudの方がやりやすい。お客さまも技術畑の方が多いので、その部分を評価してくれます」
とはいえ、クラウドユーザーからすれば「Google Cloud=BigQuery」というイメージは強い。クラウドユーザーを取材していても、BigQueryを使いたいがためにGoogle Cloudを使うというユーザーが多いのに驚く。データという文脈においても、Google Cloudは独自の戦略を進んでいると長谷川氏は分析する。
「言い方が難しいですが、グーグルってコンピューターリソースの提供という観点で他のクラウド事業者と争うことに注力するのではなく、その代わり『胃袋』となるデータの置き場を作ったんだと思います。データの置き場所を作れば、自ずとCPUが近くに必要になるという現実があります。弊社では実際にBigQueryに1日120兆レコードを超えるデータが入るシステムがあります。こんな規模をさばけるBigQueryはやはり圧倒的です」
ゴールのないテーマに挑むゲーム開発者を支援したい
長谷川氏と話していて感じるのは、自らの出身でもあるゲーム業界への想いだ。ありもののインフラを作って納品するのではなく、現場で働く開発者といっしょにゲームを開発・運用している気持ちでシステムに向き合っているという。
「ゲーム業界のプログラマーって、『とにかく面白いもの作れ』みたいな感じで、ゴールがないテーマに挑んでいる人が多い。シューティングゲーム作っていたら、最後はパズルゲームになっていたみたいなことが本当に起こる恐ろしい世界なんです(笑)。もちろん開発は大変な現場だけど、みんなゲームが好きという熱い想いがあって、そんなゲームプログラマーにはゲーム開発だけに向き合ってほしい。より良いゲームを、より面白い熱中できるゲームを作って欲しいと考えています。なのでそこ以外の細かなシステムにおける足回りは我々に任せてもらって、インフラだけではなくシステム全体の業務をどれだけ我々でまかなえるかが勝負だと思っています」
莫大なトラフィックをさばくゲームのグローバル化をシステム面で支えたいという野望があった。実際に、グローバル展開するタイトルのインフラを手がけている実績もある。そんな野望を実現するためにもやはりGoogle Cloudが最適だったという。
「Google Cloudってリージョン同士が大容量ネットワークでつながっている点がユニークです。石(CPU)やメモリはどのクラウドもそんなに変わりませんが、ネットワークだけは違いが明確。その点、Google Cloudは魅力的でしたし、メインのお客さまでもあるとがったゲーム会社はそのよさに気づいてくれます」
実際、Google Cloudでのゲームインフラという点であれば、grasysの実績は高い。将来的には海外のゲーム事業者とも取り組んでみたいと野望をのぞかせる。
「私は年齢的にファミコン世代なのでゲームは日本のものという考えが根幹にあります。今後は海外のゲーム開発企業とも仕事をしてみたいと考えています。その理由としては、海外のゲーム開発の技術的なノウハウを日本に逆輸入し、日本のゲーム業界にフィードバックすることで貢献したいと考えています」
そして、ゲームインフラのイメージの強いgrasysだが、最近はフィールドを拡げている。特にこの数年は他のシステム会社では請け負えないような特殊な案件が回ってくるようになってきたという。
「膨大なデータの扱い、超高速な演算処理を行なうクラスターなど、いろいろやらせて頂いています。『うちデータ少ないけど、やってもらえますか』と言われると胸が痛いですが(笑)、データは1レコードの価値がそれぞれ業界が異なると変わってきますし、そんなこと気にせずお気軽に相談してほしいです」
解決すべき課題のある会社こそ声をかけてほしい grasysという会社の正体
ここまで話してくると、grasysはGoogle Cloud一辺倒というイメージがあるが、実は創業から7年後の現在、grasysはGoogle Cloudのみならず、AWSも、Azureも扱うマルチクラウドのインテグレーターになっている。
「特定の技術に固執した方が楽なんです。専門家になれば、呼んでもらえる側になるので。ただ、技術は変わっていくし、あくまで選択肢で状況や要件に応じて選ぶものだと考えています。だから、今ではGoogle Cloudだけではなく、AWSもAzureも触りますし、ソフトウェアもいろいろなものを触ります。さまざまな技術を使ってエンジニアリングできる会社にしたいという思いがあります」
この数年、日本ではクラウドの利用形態もどんどん進化しており、基幹システムとさまざまなSaaSの連携も進んできた。また、大手パブリッククラウドのエコシステムを構成しつつ、独自に進化するクラウドサービスも生まれつつある。さらにグーグルがOSSで開発を主導するAnthosを利用すれば、パブリッククラウド間のコンテナのポータビリティ(可搬性)が確保される。こうした中、マルチクラウドにいち早く舵を切ったgrasysは業界内でかなりユニークな存在と言える。
現在も多くの案件はGoogle Cloudができる会社として問い合わせが来るが、他社でうまくいかなかったいわゆる「炎上案件」が回ってくることも多いという。この「困ったときの駆け込み寺」というポジションもgrasysのユニークさを表す1つの事象かもしれない。
「システムって、お客さまのビジネスの性質に応じて形を整えていくもの。炎上するシステムって、ビジネスの性質を正しく捉えられていないからだと思うんです。性質を捉えたら、でかい通信をするのか、細かい通信をいっぱいするのかをチューニングしていく。あとはシステムの目的は作った人でも想像できなかった形に変わっていくものです。ユーザーの使い方にあわせて、システムをどのようにいつ変えていくかが重要だと考えています」
長谷川氏にgrasysの存在意義について聞くと、「課題がない会社にとっては、まったく存在意義がない会社」という逆説的な答えが返ってきた。裏を返せば、顧客の課題解決にこだわり、Google Cloudを中心にした解決策を提案し、手を動かすクラウドインテグレーターと言える。これがgrasysの正体だ。
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