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米FRB、「包摂雇用」重視でテーパリング着手は22年初頭へ

2021年04月07日 06時00分更新

文● 森田京平(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

3月の米失業率6.0%と改善したが
変化した「最大雇用」の捉え方

 米国の3月の雇用統計で失業率は低下したが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の変更、具体的にはテーパリング(量的緩和策の縮小)を考えるのは、時期尚早と言えよう。

「雇用の最大化」が金融政策の責務の一つだが、「最大雇用」の捉え方が、パウエル議長下のFRBでは、従来と違ってきているからだ。

 パウエルFRB議長の最近の記者会見や議会証言を通じたコミュニケーションの要点は、

 (1)間もなく顕在化するインフレ率の上昇は一時的なもの
 (2)「最大雇用」とは“broad-based and inclusive”(広範囲で包摂的)な雇用でなくてはならない
 (3)したがって、最大雇用への到達度を失業率のみでは評価しない(できない)

の3点だ。

 FRBの金融政策では、「2つの責務」(dual mandate)、すなわち「最大雇用」(maximum employment)と「物価の安定」(price stability)が重視される。

 このうち後者の「物価の安定」については、客観的なデータ(例えばPCEデフレーター)があるので、FRBと市場は同じ土俵で議論がしやすい。

 ところが、前者の「最大雇用」には、それ自体を直接表すデータはない。そのためFRBと市場の間でミス・コミュニケーションが生じやすい。

 しかも、その「最大雇用」の捉え方自体がかつてと現在のFRBとでは異なるようだ。

 例えば、バーナンキ元FRB議長が退任直前の2014年1月にテーパリングに着手した頃は、失業率が4~5%に下がる状態を「完全雇用」(full employment)とみなし、その「完全雇用」を「最大雇用」と解釈していた。

 ところがパウエル議長は、失業率だけでは最大雇用への到達度を評価できないと再三、述べている。

「完全雇用」(full employment)から
「包摂雇用」(inclusive employment)へ

 パウエル議長が目指す最大雇用が、失業率の低下で表される「完全雇用」ではないとすれば、それは何を指すのか。

 カギを握るのは、「労働参加率の上昇を伴った失業率の低下」、いわば「包摂雇用」(inclusive employment)だ。

 単に失業率が下がるだけでなく、より多くの人々が労働市場に参加した上での失業率の低下でなくてはならないというのが、「包摂雇用」の考え方だ。

 この場合、ただでさえ客観的なデータによる評価が難しい「最大雇用」という概念が、パウエル議長の下では、一段とフワフワしたものになる。

 その結果、FRBが発するメッセージと、それを受け取る市場の解釈にずれが生じ、米国の金利(イールドカーブ)が、FRBの意図した姿とずれる、例えば長期金利の急速な上昇といった状況は、今後も起こりやすい。

確かに失業率は低下(改善)、
しかし失業期間は長期化

 ただ、そうはいってもFRBが最大雇用への到達度合いを評価する際、失業率が材料の一つになることに変わりはない。

 先週2日に発表された3月分雇用統計を見ると、米国の失業率は6.0%と2月の6.2%から低下(改善)した。

 しかも、前回、テーパリングが行われた2014年1~10月と比べて、全く遜色ないレベルまで低下している。この限りでは、米国の労働市場は好転している(図表1参照)。

 しかし、失業を考える際、失業者数に加えてもう一つ重要な視点が求められる。それは失業者1人当たりの失業期間だ。

 実は米国では、失業率が足元にかけて低下しているのに対して、失業期間はむしろ長期化している。

 例えば直近3月分の失業期間は、中央値が19.7週間、平均値が29.7週間となり、それぞれ既往の最低水準を記録した2020年4月の中央値1.9週間、平均値6.1週間から大きく跳ね上がっている(図表2参照)。

 特に目立つのが、平均値の上昇だ。その結果、「平均値>中央値」という関係が鮮明になっている。

 これは失業期間の格差が広がっていることを物語る。

 つまり、再就職可能な人はすでに相当程度、再就職しつつあるのに対して、なかなか就業できない人は依然、就業難に直面している。その結果、失業期間の平均値の方が中央値よりも高くなるのだ。

 これでは、いくら失業率が低下(改善)していても、「最大雇用」に相当する概念として「包摂雇用」を重視するパウエル議長が満足できる雇用環境とは言い難い。

 この点を見るだけでも、失業率のみで最大雇用への到達度を評価できないというパウエル議長のメッセージ(すなわちテーパリングに着手するにはまだ時間を要するというメッセージ)を、市場は素直に受け止めてもいいのではないか。

「鍵」の労働参加率は低すぎる
就職活動諦めた人が増える

「包摂雇用」を考える上で、もう一つ鍵となる指標が「労働参加率」である。

 労働参加率は、米国では、生産年齢人口(=16歳以上人口)に占める労働力人口(=就業者+失業者)の割合と定義される。

 この労働参加率の現状は、前回のテーパリング局面(2014年1~10月)と比べて、大きく下がっている(図表3参照)。

 労働参加率が現水準(直近3月時点で61.5%)と同程度の低さにあった時期は、1970年代後半までさかのぼらなくてはならない。

 労働参加率が大きく落ち込んでいる背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う景気の急速な悪化や、感染防止策としてのロックダウンなどを理由に、就職活動を諦めた(非労働力化した)人たちが増えたことがある。

 労働参加率が歴史的な低さにあるときに、いくら失業率が低下しても、「包摂雇用」の条件が満たされつつあるとは、やはりいえない。

労働参加率が上がり始めたときこそ
失業率の改善力が試される

 労働参加率が低いときには、失業率が今後、思わぬペースで上昇(悪化)するリスクがあることにも注意が必要だ。

 この点をご実感いただくため、「非労働力化した人たちが今後、職探し(=労働参加)し始めると、失業率はどう動くか?」ということを、クイズの形で考えてみよう(図表4参照)。

 その際、米国に存在する約1億人の非労働力人口の5%が今後、職探しを始める(=労働参加する)と仮定しよう。これは、労働参加率がコロナの影響が本格化する前の水準である63.4%(2020年1月)に戻ることに相当する。

 考えなくてはいけないケースとして、職探しを始めた人が短期間で仕事に就く(就業者になる)ケース1と、なかなか仕事が見つからずに失業者になるケース2が挙げられる。

 短期間で就業者になるケース1では、失業率は5.9%に下がる。直近3月の6.0%から確かに下がるが、その低下幅は小さい。

 一方、仕事が見つからず失業者になってしまうケース2では、失業率は8.9%に跳ね上がる。

 ケース1における失業率の低下幅(改善幅)と比べて、ケース2における失業率の上昇幅(悪化幅)が格段に大きいことに注意していただきたい。

 これこそが、上述した「労働参加率が低いときには、失業率が今後、思わぬペースで上昇(悪化)するリスクがある」という警告の背景である。

 これも、足元にかけての失業率の低下だけで米国経済が「最大雇用」に向かっていると安心していえない根拠だ。

予想されるメインシナリオ
利上げ着手は23年後半か

 以上を踏まえると、筆者には、年内のテーパリング着手というシナリオが有力とは思えない。

 米国の金融政策については、

 (1)今年秋口(9月頃)にテーパリングを示唆するコミュニケーション開始
 (2)2022年初頭にテーパリング着手
 (3)23年後半に利上げ着手

 という流れがメインシナリオなのではないだろうか。

(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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