このページの本文へ

米Mojo Visionとメニコン、2030年のスマートコンタクトレンズ実用化に向けて提携 安全に装着できる製品目指す

ディスプレイ・通信機能搭載「スマートコンタクトレンズ」を開発する米Mojo Vision

2021年06月29日 08時00分更新

文● 野々下裕子 編集●ASCII STARTUP編集部

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 コンタクトレンズに様々なデータを表示するディスプレイ機能を搭載した「スマートコンタクトレンズ」を開発する米Mojo Visionは、メニコンと共同開発契約を2020年9月21日に締結したことを発表。

 Mojo Visionは、カリフォルニア州サラトガで2015年に設立された。同社は、リアルワールドで情報をシームレスに入手できるプラットフォーム(同社はこれを「インビジブル・コンピューティング」と呼んでいる)を研究開発している。

Mojo Vision本社

 スマートコンタクトレンズ「Mojo Lens」は、設立以前からの長年にわたる研究と100を越える特許技術をもとに開発され、ディスプレイ、光学通信、センサー、無線などのスマートコンポーネントがコンタクトレンズ形のデバイスに集約されている。AR(拡張現実)を利用して視界を制限することなく画像やテキストなどを自然に表示し、自由で正確なコミュニケーションを実現可能にする。

スマートコンタクトレンズ「Mojo Lens」。複数のスマートコンポーネントを一つにまとめてコンタクトレンズに収めている。

 現在開発中のプロトタイプは5つ目のバージョンで、情報を表示するマイクロLEDディスプレイの画素数は1.4万ピクセル、間隔は1.8ミクロンという精密さだ。独自に開発したモーションセンサーや生体センサー、超低電力イメージセンサーなどが搭載されている。リアルタイムのコントラスト調整やズーム機能があり、暗い場所でも情報をオーバーレイ表示できるという。レンズそのものも低電力で可動し、角膜に触れたりずれたりせず、酸素も供給される。両眼に着用すれば立体視も可能で、通信は別途アクセサリーを使ってスマートフォンやクラウドと接続する。

 記者会見に登壇したMojo Visionの共同創業者の1人でCTOのMike Wiemer氏は、「Mojo Lensの最初の製品化は2023年を目指している」と話す。実現には世界最小のマイクロディスプレイを作る光学系の技術や電源を供給する技術に加え、何よりも安全に装着できることを命題としている。コンタクトレンズの開発で約70年の実績を持ち、業界の世界的リーダーであるメニコンと提携することを決めた理由もそのためだ。メニコンと共に、レンズ素材、レンズケア、フィッティングを中心に、スマートコンタクトレンズ開発におけるフィジビリティ・スタディ(計画の実現可能性を検討すること)を開始し、成功した場合はさらに両社で広範な提携を展開するとしている。

Mojo Visionの共同創業者の一人でCTOのMike Wiemer氏

 Mojo Visionでは、Mojo Lens を情報機器としてだけでなく、医療アプリケーションとしてウェルネス機能の提供も想定している。例として挙げられたのは、緑内障や黄斑変性などで視力の低下した視覚障害者を、ARによるオーバーレイでサポートするデジタルロービジョンケアでの利用だ。違和感なく装着でき、見た目にも障害があるとわからないなどのメリットがある。すでに、FDA(米国食品医薬品局)が効果的な治療や診断を提供する医療機器の開発を支援する「Breakthrough Device Program」にも指定されている。

視界には細かな文字が表示でき、UIやUXの研究開発もあわせて行われている。

 その他にも、目の動きをリアルタイムで正確にセンシングしたデータを収集し、疾病の予測やマーケティング、生態認証のフィードバックに活用することも考えられており、そのためのプラットフォームを構築する。幅広い分野とのパートナー連携に向けて、まずは製品の安全性と信頼性を確立し、次にサードパーティ向けの開発キットとしてSDKを提供するなどを検討している。

Mojo Lensの表示イメージ

 Mojo Lens の販売については、使用者の目にあわせてカスタムメイドで提供するため、最初は医療機器としてコンタクトレンズと同じように眼科を通じて、装着が可能かも確認した上で販売することを想定している。眼科との連携は各地の販売パートナーを通じて、ユーザーサポートとあわせて行う予定だ。価格は現時点で、「ハイエンドのスマートフォンと同じぐらいになるのではないか」(Wiemer氏)と話している。

 ARを利用するデバイスは、ヘッドマウントディスプレイ型から見た目はほとんどメガネと同じスマートグラス型へと進化しており、スマートコンタクトレンズに関しても、ソニー、サムスン、Googleらが開発プロジェクトを発表している。Mojo Lens は2020年のCESで一部の記者に披露されて話題になったが、2021年のCESでは注目の製品を表彰するイベント「Last Gadget Standing」にノミネートされ、見事優勝していることから、コンタクトレンズ型デバイスに対する期待の大きさを伺わせる。

<アクセサリーを使ったワイヤレス通信も可能。/p>

 「現実に情報が見える世界をスマートコンタクトレンズというプラットフォームを通じてパートナー企業に提供し、スクリーンやデバイスに囲まれた世界をバックアップする」というMojo Visionが、数年後に製品を販売できるのか。今後の動きにも目が離せない。

「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」配信のご案内

ASCII STARTUPでは、「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」と題したメールマガジンにて、国内最先端のスタートアップ情報、イベントレポート、関連するエコシステム識者などの取材成果を毎週月曜に配信しています。興味がある方は、以下の登録フォームボタンをクリックいただき、メールアドレスの設定をお願いいたします。

カテゴリートップへ

ピックアップ