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河井元法相が「無罪主張から一転」、買収を認めた理由

2021年03月27日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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東京地裁に入る河井克行元法相(2021年3月23日撮影) Photo:JIJI

2019年7月施行の参院選広島選挙区を巡る選挙違反事件で、公職選挙法違反(買収)の罪に問われた元法相の衆院議員、河井克行被告(58)は、東京地裁の公判で23日から始まった被告人質問で、これまでの無罪主張を撤回し、買収を認める姿勢に転じた。さらに「衆院議員を辞する」と表明、25日には大島理森衆院議長に辞職願を提出した。検察側の主張に対して一部に争いは残したものの、完全に白旗を上げた格好だが、狙いは何か、背景を探ってみた。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

選挙違反で「実刑」の前例はなし

「全般的に買収罪の事実は争わない」――。

 参院選後の10月に妻の案里前参院議員(47)=辞職、有罪が確定=の秘書による疑惑が報じられ、法相を辞任。その後、自身に対する疑惑が浮上、逮捕、起訴され、公判でも一貫して買収の事実を否認していた河井被告。新聞やテレビの報道によると、被告人質問でこう述べたとされる。

 20年8月25日に迎えた初公判で、案里氏とともに罪状認否で全面的に起訴内容を否認して以来、初めて自らの意思表示が可能となる被告人質問。どういうロジックで今後の公判を進めていくか、弁護人と綿密に調整してきたはずだ。その結果が、買収追認と議員辞職の表明だった。

 これまでの検察側の主張を全面的に受け入れ、屈服した格好だが、これは誰の目にも、反省の意を示すことで情状酌量を取りに行ったというのは明らかだ。では、なぜここで方針転換したのだろうか。

 いわゆる「識者」「評論家」と言われる方々がメディアで「実刑もあり得る」とコメントしたり、SNSなどで投稿したりしているが、実は国会議員が選挙違反事件で実刑判決を受けた例はこれまでない。

 かつて当選した議員本人が選挙違反で立件されたのは、03年11月の衆院選を巡り公選法違反(買収)容疑で、愛知県警が自民党の近藤浩衆院議員(当時)、埼玉県警が新井正則衆院議員(同)をそれぞれ逮捕したぐらいだ。いずれも起訴されたが、執行猶予判決だった。筆者が調べた限り、55年にも公選法違反で有罪が確定し失職したケースはあるが、こちらも執行猶予だった(選挙違反は執行猶予でも判決確定で失職)。

 日本の司法は「判例主義」と言われる。であれば前例踏襲で執行猶予となる可能性が高いのだから、判決が確定するまで国会議員としての歳費や手当を受け取り続ければいいのではないかという見方もできるが、今回は少し事情が違う。

驚きの「仲間が欲しかった」

 起訴状によると、河井被告は地元の議員や有力者100人に対し、計約2900万円を配ったとされる。筆者は全国紙社会部記者時代、国会議員に限らず政治家の選挙違反事件の解説記事などを執筆するため、過去のデータを調べたことが何度かあった。

 記憶にある限り、被買収の人数と金額が「100人」「2900万円」までの数字は出てこない。そう、「判例」では判断できない「悪質さ」が審理され、判決に反映される可能性が高いのだ。識者や評論家が「実刑」の可能性に言及してもおかしくはない。

 当初は河井被告が、自身の「名誉」「面子」のため、徹底抗戦の構えだったというのは理解できる。しかし、既に外堀が埋まっているのは認識しているはずであり、このまま突っ張ったら「囚人服」を着用する可能性があることを弁護人がサジェストしたかもしれない。

 象徴的だったのは被告人質問2日目として報道された発言だ。

「長年、独りぼっちだった。地元政界に仲間が欲しかった」「当選7回目でも自民党広島県連会長になれず疎外感があった」「会長就任の布石として金を差し上げた」「主目的は私自身の孤立感の解消だった」

 うーん、と唸った。案里氏を当選させるための「買収工作」の色を薄めるためなのか、動機を自身の広島県連における低評価や孤独に持って行った。「妻をだしに使い、申し訳なかった」とも言った。ある意味で本音の印象も受けるし、これならば「100%買収の意図」ではなく、裁判官に「自身の地位を上げるためで、選挙の意図がすべてではなかった」と訴える効果はある。

 芝居がかってはいるが、親交のあるカトリックの神父から「神の前で誠実であることが大事。自分に向き合いなさい」と助言されたと語ったことも、心証としては悪くない。なかなかのテクニックと思う。

重罪も執行猶予の可能性

 では、まだ続くとみられる公判だが、結論はどうなるのだろうか。

 実は、河井被告が実刑になるかどうかは別として、有罪は揺るぎないとみられる。案里氏は単独行為ではなく、河井被告と共謀(共同正犯)したとして5件の罪に問われ、うち被買収とされた1人が公判で被買収の意図を否認し無罪となったが、4件については有罪とされたからだ。そして、この確定判決は河井被告の公判に反映されないはずがない。

 つまり、既に詰んだのだ。

 証人尋問で、金を受け取った関係者が「集票依頼と思った」「違法な金」などと述べた。被買収とされた人物が追認すれば、今回の事件は事実認定されるのだ。公判では被買収とされた100人のうち、94人が買収であったと認めた。

 であれば、6件が無罪になる可能性はあるが、94件は有罪になる可能性が濃厚ということだ。

「判例」については前述した通りだが、被告人質問で買収を全面的に認める陳述をした23日、衆院議員バッジを着用していたのに、翌日24日、着けていなかったのは、情状酌量をアピールする意図があったのだろう。

 では、結論として河井被告の司法的な処分は、どうなのるか。この記事を読んでいただいている方々の最大の関心だろうが、結論から言うと、筆者の予想では執行猶予が付く。

 意外かもしれないが、刑事裁判というのはシンプルだ。検察側は「犯行は計画的で悪質、かつ重大で、民主主義の根幹を揺るがす行為」として懲役4年を求刑するだろう。

 そして判決で裁判官は「犯行は悪質だが、反省している。議員を辞職し、既に社会的制裁を受けている」として、検察側の主張を追認し求刑通り懲役4年、執行猶予が最大の5年という流れになるはずだ。

 しかし、夫妻は逮捕された20年6月以降、国会に出席していないが、毎月103万5200円と約628万円の期末手当、月額100万円の文書通信交通滞在費が支給されていた。国会議員としての職務を全うしていないのに、総額約2600万円を2人で5200万円を受領していたことになる。

 日本国民には誰もが裁判を受ける権利がある。だから、この夫妻が推定無罪の上で裁判を受ける権利を有することは当然のことだ。司法の判断は「前例」を踏襲した然るべき結果になるだろう。

 しかし、この1年数カ月、新型コロナウイルス感染拡大で日本国民の生活が困窮した。巨額の歳費と手当てを受け取っていたこの夫婦に、同情する日本国民がいるとは思えない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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