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「ビジネスモデルを発表しておしまい」ではない、愛知を進化させるビジネスアイデア

愛知の次世代を担う起業希望者向けワークショップ「AICHI STARTUP CAMP 2020 Final Pitch」レポート

特集
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 2021年1月27日、愛知の次世代を担う起業希望者向けワークショップの最終ピッチイベント「AICHI STARTUP CAMP 2020 Final Pitch」がオンラインで開催された。

 愛知県では、Aichi-Startup戦略の一環として、革新的なアイデアで起業を目指す人材を発掘・養成する目的で、起業間もない、または起業をめざす方を対象にした新規ビジネス創出のための週末を利用したワークショップを実施している。

 司会進行は、株式会社ツクリエの杉野氏が担当。「AICHI STARTUP CAMP」は、知識・思考・コミュニティ・実践という新規ビジネス実現のための基礎となる4つの体験を提供し、参加者同士がお互いを刺激ながらビジネスの需要化を目指す実践型のプログラムだ。過去の卒業生は、法人設立や事業売却、アクセラレーターへの採択、サービスローンチ、プログラムを通じて支援者を開拓するなど、さまざまな成果につながっている。

 2020年度のプログラムの特徴は「早期の実績づくり」。9月から続く一連のプログラムを通じて、ビジネスモデルを発表するだけでなく、プロダクト開発ツール「Bubble」を使用して、プロトタイプ作成までを目指してきた6組のスタートアップによるピッチが実施された

 ゲストコメンテーターは、武蔵精密工業株式会社 常務執行役員 CIO 伊作 猛氏、元 シェアリングテクノロジー株式会社 代表取締役・現 株式会社相談室 代表取締役 篠 昌義氏、愛知県 経済産業局 スタートアップ推進監 柴山 政明氏、ジャフコ グループ株式会社 中部支社 シニアアソシエイト 中山 淳二氏、株式会社Monozukuri Ventures 代表取締役 CEO 牧野 成将氏の5名。

司会進行 株式会社ツクリエ プログラムディレクター コミュニティマネージャー 杉野 雄基氏

発表者1 不動産FP(不動産ファイナンシャル・プランニング)山口 勝也氏

個人の人生を豊かにする“100年人生「相続不動産経営」支援サービス”「不動産FP」

 「不動産FP」は、「不動産経営の知識や経験がない」という理由から不動産経営に踏み切れない顧客の課題を解決するビジネスプランだ。

 提供価値のポイントは「計画支援」「学習支援」「決断支援」の3つ。特定の不動産の紹介や販売は一切行わず、顧客に寄り添うパートナーという立場で、顧客のニーズと知識レベル、所有する物件に合わせたオーダーメイドのカリキュラムを提供する。また、他社からの提案に対するセカンドオピニオンサービスも行っている。

 マネタイズのポイントは、経営プラン提案料と学習支援サービス料の2点。愛知県の空き家・空き地保有者6万世帯を対象に、300億円のターゲット市場を想定し、売上目標は5年で3億円を掲げている。「お金のかかる不動産」から「お金を生む不動産」に変え、100年人生を豊かにする不動産経営で、地域と個人の資産価値向上に貢献することを目標としている。

 希望は、相続に関連するビジネスパートナーとの協業や学習支援のプラットフォームを持つ企業との事業提携。「不動産と相続の課題解決を通じて、日本を元気にしていきましょう」という力強い言葉で発表を終えた。

 ジャフコの中山氏から「顧客層が高齢の方が多く、接点が持ちにくいのでは?」というマーケティングに関する質問があった。これに対し、「現在は口コミの紹介のみ。1カ月で32件のご相談があった。今後はアライアンスのパートナーと協業して間口を広げていきたい」と回答。「最近ではファイナンシャルトレーニングなど、働く女性に特化したサービスなども増えているので、そういったところを組んでいくのも方法では?」というコメントがあった。

 武蔵精密工業の伊作氏は「こういった事業はカスタマーサティスファクションが重要。学習プログラムの数ではなく、目標を達成するために、サブスクのように納得できるまで受講できるといった事業モデルも組み込んでいくと、顧客満足度が上がるのでは」とコメント。

 山口氏からは、「ビジネスモデルとして変えてはいけないところと変えられるところを棲み分けていきたい」との回答があった。

発表者2 RBプロジェクト MOUMOO (マウムー)佐藤 雅夫氏

話す力で人をポジティブにする、自宅でできる活舌トレーニングサービス「MOUMOO (マウムー)」

 オーラルフレイルとは、2018年に厚労省が症例として認定した口腔機能低下症のこと。ある博士との出会いから、佐藤氏自身の「い・し・う」が入る語尾をうまく話せない活舌障害がトレーニングで治ることを知り、すべての人が自信をもって話せる世界を作りたいという思いからプロジェクトへの取り組みをスタートさせた。

 口唇裂・口蓋裂といった障害を克服するには、幼年期から複数の手術と発話のためのリハビリを繰り返し、正しい構音(こうおん)を獲得する必要がある。IoMTを活用した「特定の言葉を発するときに、鼻から息がもれる」という状況を確認する新たな方法を開発することで、セルフトレーニングの可能性を見出し、より質の高いリハビリを提供することが可能となった。それが、自宅でできる活舌トレーニングサービス「MOUMOO (マウムー)」である。

 基本的なビジネスモデルは「BtoBtoC」で、専門機関と協業し、リハビリコンテンツサービスを提供していく。50歳以上の人口が50%を超える2024年に向け、オーラルフレイルの注目度は高まっているので、より多くの人にサービスを提供できる環境を整えていくことを目標としている。

 愛知県の柴山氏からは「行政としても最大の課題のひとつ。新しいビジネスモデルで解決できるのはいい着眼点。地域の包括的なプラットフォームを作る動きがあることから、ひとつのオプションとして参加することもできるのでは」というアドバイスがあった。また、相談室 篠氏の「今後、高齢者の方が抱えるほかの問題にも展開していく可能性は?」という質問に対しては「現在はオーラルフレイル領域のみだが、ほかの領域にも展開可能なサービスだと考えている」という回答があった。

 また、「社会的に意義のあるビジネスモデルだが、マネタイズが難しい」というコメントも。武蔵精密工業の伊作氏からは「ただで配ってユーザーを増やして、データをためて、データで勝負するという事業モデルなど、様々な戦い方があると思うので、検討してみては」というアドバイスが。Monozukuri Venturesの牧野氏からはターゲット層についての質問があり、「現在は大学病院での実証実験を準備中。その対象が、構音のとっかかりである低年齢層であることから、そのデータを蓄積し、その先にオーラルフレイルがあると考えている」という回答があった。

発表者3 Taski (タスキ)齋藤 智行氏

元アスリートと現役選手を繋ぐスキルシェア型プラットフォーム「Taski」

 「Taski」は、元アスリートが現役時代の知識や経験を生かし、現役の選手やチームの監督、コーチ、選手の親など悩みを抱えている方の相談にのるというオンラインサービス。

 アスリートは現役を引退すると知識や経験を生かす場がなく、セカンドキャリアの世界は想像以上に厳しい現実がある。現役引退後のアスリートを支えたいという思いがこのサービス誕生のきっかけになっている。

 元アスリートの「現役時代に身に付けた知識」「豊富な経験」「専門的なスキル」という、まだ生かされていない資産を有効活用し、現役選手は幅広い相談相手を獲得、コーチや監督は新たな指導方法の知見を獲得、選手の親は子どもへのサポートの方法などを知ることが可能となる。

 ビジネスモデルは、サービス提供価格の70%が元アスリートに、30%を手数料として入手。ターゲットは中学・高校・大学の部活動、ユースチーム、スポーツ少年団など約875万人。市場規模は、1回のサービスを3000円とすると2640億円の10%、26.4億円を狙っていく。2031年には売上11億円を目標としている。

 愛知県の柴山氏は「OBビジネスとして、元アスリートだけではなく、自己実現ができる分野も将来的に視野に入れながらスケールを図っていくことを今からノウハウ吸収していっては」とアドバイス。「いいサービス」と評価するジャフコの中山氏からは具体的な相談内容についての質問があった。また、武蔵精密工業の伊作氏からは「ギブビジネスは伸びていくと思う。顧客満足度をどう担保していくかが課題となっていくだろう。アスリート側は増やしていけるが顧客側をどう増やしていくか」とコメントがあった。チャットから「動画型からスタートしては?」という提案があり、「動画を使いながら具体的にアドバイスすることによって、顧客と長い付き合いができるようになるというサービスの検証を行っていく予定」という回答があった。

発表者4 CoWorkers (コワーカーズ)児玉 尚武氏

ゼロからのコワーキングスペース・シェアオフィス運営をサポートするフリーネームフランチャイズシステム「CoWorkers (コワーカーズ)」

 「CoWorkers (コワーカーズ)」は、コワーキングスペースのトータルサポートシステムで、これから店舗を運営する事業者やすでに運営中の事業者に効率的な運営ノウハウやシステムを提供するというものだ。現在、愛知、岐阜、香川、奈良、東京などで15店舗の運営に携わり、約1万人の利用者を集めてきた実績を持つ。

 コロナ禍で昨年7月にはテレワーク70%の実施が要請され、リモートワークを政府が推奨。実際に在宅ワークよりもカフェやシェアオフィスのほうが、仕事効率が向上するという研究結果や、カフェなどと比較し、通信環境やセキュリティが整っていること、経済的なメリットなどからコワーキングスペースが注目を集めている。

 受付や予約、決済システムなどを一元管理し、効率的なワンストップサービスにすることで、低コストでのコワーキングスペース運営を可能にした「CoWorkers (コワーカーズ)」。収益を出す事業にするため、提携店舗間での相互利用を可能にし、大手資本にも対抗できる規模を構築可能にした。2020年11月にサービスをリリースし、すでにいくつかの企業にサービス提供を開始。事業計画は、2021年4月に黒字転換し、この1年はさまざまなテストを行い、システムをよりよくするための広告宣伝費に多くの資金を投下する予定だ。目標は、2030年までにIPOを実施すること。この事業は地方創成や働き方改革という社会問題にも大きく関わるため、個々ではなく、他社との共存共栄を重要視している。「加盟の話を聞いてみたい」「株主として地方創成を応援したい」といった方からのお声がけをお願いし、発表を終えた。

 Monozukuri Venturesの牧野氏からは「コワーキングは大資本が中心となっている。そこに商機があると判断された理由は?」という質問があった。これに対し、「現存するコワーキングスペースはほとんどが都市圏。地方の中核都市には、コワーキングスペースがない状況にある」と回答。

 また、武蔵精密工業の伊作氏は「こういった事業のプラットフォーマーを目指すといい。プラットフォームから提供できるものをファーストステージで構築すると差別化ができる。どんどん新しいアイデアを考えていってほしい」とアドバイス。ジャフコの中山氏からは「2030年までのマーケットの広がりの中で、今後の強みは?」という質問があった。これに対して「自社でシステムを開発できる強みがある。スピード感をもって、地方のシェアをいち早くとりたい」と回答。愛知県の柴山氏からは「コロナがどうなるか分からないので柔軟な組織体制にしていくことが重要。ビジネスモデルとしては変動費を多くして、固定費を削減し、市場が小さなところでも戦えるように準備しておくこと」などのアドバイスがあった。

発表者5 Globees (グロービーズ)武本 稜介氏

リアルタイム翻訳×オンラインビデオチャットで、日本人と外国人の言語学習をサポートするマッチングサービス「Globees (グロービーズ)」

 「Globees (グロービーズ)」は、リアルタイム翻訳×オンラインビデオチャットで言語学習をサポートするマッチングサービス。日本人と外国人の言語の壁を取り払い、国境や言語を超えて、より多くの出会いの可能性を作ることを目指している。

 日本は言語学習に熱心な国であるのに、日本人の英語力は世界100か国中55位と近年順位を落としている。また、外国人にとって世界で最も学びたい言語として日本語は世界第3位。しかし、日本語を学ぶ外国人は「日本人と話せる機会は少ない」と答えているという。言語を学ぶ方法は、本や動画、語学教室などさまざな方法があるが、効果的に言語を学ぶ方法としてパートナーをみつけることを提案。ユーザーは、「Globees (グロービーズ)」で言語を学ぶ最適なパートナーを見つけ、リアルタイム翻訳とオンラインビデオチャットの機能を利用して、楽しく効果的に言語学習をすることが可能になる。

 サービスの特徴は「日本人と外国人のマッチングに特化」「全ユーザーに身分認証を実施」「母国語で話した言葉をビデオ上で字幕表示」という3点。メインターゲットは、出会いを通じて言語学習をしたい日本人と外国人であり、外国人の登録者数や安心性、言語サポートで優位性を確立する。国内のビジネス市場は大きく、語学ビジネス市場は8866億円、世界の日本語学習者は400万人、マッチングサービス市場は789億円、2024年には1000億円超えと急拡大している。愛知は、日本で一番国際結婚率が高い都道府県。「Globees を愛知から発信し、日本全国、さらには世界中のユーザーを対象にするダイバーシティインクルージョンをリードするサービスにしていく」という言葉で発表を締めくくった。

 ジャフコの中山氏は「本当にパートナーを作ることで英語学習を支援するのであれば、クラブハウスなどのサービスを使って、プロダクトではなくハックしていく部分で勝負するほうがいいのではないか」とコメント。武蔵精密工業の伊作氏からは、「もう少しペルソナをはっきりさせて、提供するサービスを尖らせたほうがいい。面白いアプローチだと思う」、愛知県の柴山氏からは「かなり競合がいるので、ターゲットを絞るか、ターゲットと思っていない市場を開拓するなどの展開が必要。語学を勉強するにあたって、出会いに着眼したのはいい。愛知県は技能実習生の方が多いので、ターゲットを技能実習生に絞って差別化する方法もある」というアドバイスがあった。

■発表者6 Our Ethical (アワーエシカル)堀 真輔氏

自分にぴったりのエシカルプロダクトを見つけられるマーケットプレイス「Our Ethical (アワーエシカル)」

 エシカル消費とは、地球と人と自分に優しい行動のこと。地球に行動をしたいと思っていても「何からすればいいか分からない」「調べるのに時間がかかる」「一人で続けられない」といった理由から行動を起こせない人が多いことから、「Our Ethical (アワーエシカル)」では、それを解決するソリューションの提供を開始した。探す手間をなくし、選ぶ手間をなくし、モチベ―ションを維持するコミュニティとして、エシカル版NewsPicksを目指す。

 初期ユーザーは、エシカル消費が当たり前になっているミレニアル世代で、ターゲットは意識が高い層のひとつ下、「少し意識している人」であり、興味はあるけれどまだ動き出せていない層。100人のFacebookコミュニティの中でペットボトルから作るヨガマットをリリースしたところ、6%のコンバージョンを獲得した。消費者庁にエシカルの特設サイトができ、今後この勢いは加速すると予測。日本にも世界にもEコマースのアプリはあるが、コミュニティをベースにしたEコマースはまだ存在していないことから、「Our Ethical (アワーエシカル)」はそれを作っていくという。目標は、エシカルを広めることではなく、すべての人が価値観にそった生き方をできるようにサポートしていくことだ。

 相談室の篠氏は「うまくいけばいろいろな人が投資したいという案件だと思う」と評価。その上で「どのように売り上げを上げていくのか」について質問があった。「ビジネスモデルとしては売上の10%を購入時に手数料としていただく形」と回答。「エシカルをキーワードにしたBtoBtoCのEコマースモデルとしては、ほかとの差別化やマネタイズが課題。日本ではまだまだ理解されない部分も多い」とコメント。Monozukuri Ventures牧野氏からの「どこがコミュニティをベースにしたEコマースなのか?」という質問には、「NewsPicksにEコマースが付いたイメージ。各業界のエシカルに精通している人を集めて、SNSの要素も加えていこうと思っている」と回答。武蔵精密工業の伊作氏からは、「非常にいいテーマ。しかし、大企業はどんどんエシカルの方向にいくので、ほとんどの商品が3~4年でエシカルになると思う。このサイトに選ばれた商品は本当にエシカルだというベンチマークがつくような展開にしていくといい」、愛知県の柴山氏からは「自治体も巻き込んでパブリシティを活用すること、競合との差別化を行うことが重要」というアドバイスがあった。

愛知県 経済産業局 スタートアップ推進監 柴山 政明氏

 最後に、愛知県の柴山氏から、「122名の投資家の方、金融関係の方、地域の事業会社の方、スタートアップ支援の方々の参加があった」ことが紹介された。「長丁場のプログラムであったが、重要なのは行動を起こすこと。この機会を生かしながら、本物のビジネスにさらにブラッシュアップをかけていただきたい」と総評があった。

6部屋に分かれた発表者の部屋で交流するネットワーキング

 また、メインルームでは、6名の発表者以外の「AICHI STARTUP CAMP 2020」参加者によるショートピッチステージを開催。6部屋に分かれた発表者の部屋で交流するネットワーキングも行われ、2時間のピッチイベントが終了した。

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