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米バイデン政権がコロナ対策下院通過後に抱える「新たな難題」

2021年03月03日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

米国救済計画法案を下院で可決
上院では修正避けられず

 米議会下院は2月27日(現地時間)、バイデン大統領が掲げる1.9兆ドル規模の新型コロナ経済対策を盛り込んだ「2021年米国救済計画法案:American Rescue Plan Act of 2021」を民主党の賛成多数で可決し、上院へ送付した。

 採決結果は賛成219、反対212、棄権1。賛成票は全て民主党で、極めて党派色の強い結果となった。

 今後の上院での審議が焦点になるが、民主、共和両党の勢力が拮抗(きっこう)しており、なんらかの修正は避けられそうにない。

 大統領選挙の公約で掲げた目玉政策の一つの最低賃金引き上げは、対策の第2弾以降に先送りされる可能性が強い。

 コロナ感染や米国経済にも新たな不透明要素がある。

バイデン公約を盛り込み
1.9兆ドル規模の経済対策

 下院を通過した米国救済計画法案の内容と規模は、1月14日にバイデン氏が発表した1.9兆ドル規模の追加経済対策とほぼ同じ内容だ。

 当初は、大規模な財政支出を嫌う共和党との妥協から規模の縮小が予想されたが、コロナ対策を最優先に掲げるバイデン新政権の船出を象徴するものだけに、バイデン大統領が求めた規模や内容となった。

 法案には、個人への1人最大1400ドルの直接給付や週400ドルの失業保険の追加給付、児童税額控除等の拡大、ワクチン接種費用等に160億ドル支出などが盛り込まれている。

 失業保険の追加給付の期限は8月29日と、バイデン氏が表明した案よりも1カ月間短くなっているが、目玉政策の一つの最低賃金の1時間あたり15ドル(現在7.25ドル)への引き上げも盛り込まれた。

 同法案は、上下両院の共同決議である「2021会計年度予算決議:S.Con.Res.5 - A concurrent resolution setting forth the congressional budget for the United States Government for fiscal year 2021 and setting forth the appropriate budgetary levels for fiscal years 2022 through 2030」に基づき、下院の計12の委員会が策定した法案を予算委員会がとりまとめ、一本化したものだ。

 法案の審議が迅速にできるように、審議時間に制限が設けられた財政調整措置(Reconciliation)を活用できる形になっている。

 財政調整法案の可決は単純過半数でできるので、上院における共和党の議事妨害を排除でき、コロナ対策をスピード感をもって実施し、まずは実績を示したいというバイデン民主党の思惑が反映されたものだろう。

最低賃金引き上げは削除、先送りか
財政調整の「排除ルール」に抵触

 だが、米国救済計画法案が上院での審議ですんなり認められるかは難しそうだ。修正は不可避の状況といってよい。

 やはり一番の問題になるのが、最低賃金の引き上げだ。

 救済計画法案の第2101条では、現行7.25ドルの最低賃金を法の発効日から1年後に9.50ドル、2年後に12.50ドル、3年後に14.00ドル、5年後に15.00ドルに引き上げ、その後は、賃金の上昇(賃金中央値で前年と比較)に応じて引き上げることが規定されている。

 法案成立のネックになっているのが、財政調整措置の排除ルールだ。

 財政調整制度は基本的に連邦の歳出入に関連する項目が対象のため、歳出・歳入・債務の増減に直結しないものは対象外とされている。

 下院では、最低賃金引き上げの規定も財政調整措置の対象とされたが、上院ではルール(バード・ルール)に抵触し、このままでは上院では採決に付されそうにない情勢だ。

 バード・ルールは上院の規則に基づき、下院は拘束されない。現状の法案の最低賃金に関わる条項では、十分な財政的影響をもたらさないとの判断が背景にあるとみられる。

 上院民主党は今後、同法案の修正を検討することになるが、方策は大きく二つに分かれる。

 第一の修正は、最低賃金の引き上げに関する条項を削除するものだ。

 第二の修正は、最低賃金の引き上げに応じない企業に法人税の増税や罰金を課したり、逆に引き上げに応じた企業に補助金や税制優遇を付与したりする規定にすることで、財政的影響を大きくすることだ。

 当初、上院のバーニー・サンダース予算委員長(民主党系無所属)やロン・ワイデン財政委員長(民主党)は、法人税の増税措置の導入を検討していると伝えられていた。だが企業の租税回避行動や法案の早期成立の妨げになる可能性を勘案、断念したと報じられている。

民主、共和党の勢力拮抗
民主党全員の賛成が必要

 仮に第二の修正を行なう場合でも、民主党上院議員50人全員の賛成が得られないと、法案の上院の通過は困難だ。

 現在(3月1日時点)の上院(定数100の党派別構成)は、民主党(同党系無所属2人含む)50人、共和党50人ずつで、賛否が同数の場合は、上院議長を兼務するカマラ・ハリス副大統領の投票で、民主党は法案を成立させることができる。

 だが成立のためには、上院では民主党の造反は1人も許されないことになる

 民主党は失業給付の追加給付(現行週300ドルが上乗せ)が期限切れとなる3月14日までの救済計画法案の成立を目指しているが、党内は必ずしも一枚岩ではない。

 ジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州選出)は最低賃金の引き上げを15ドルではなく11ドルにするよう主張しており、マンチン氏同様、穏健派のキルステン・シネマ上院議員(アリゾナ州選出)も、最低賃金の引き上げに消極的な姿勢を見せている。

 こうした民主党内の情勢やコロナ対策早期実施の思惑を考えると、最低賃金の引き上げ条項は法案から切り離し、バイデン氏の経済対策第2弾以降に法案化を先送りする可能性が高そうだ。

全米に変異株の感染が拡大
コロナ禍さらに長引く懸念も

 バイデン政権のコロナ対応の行方が見通せない要因は他にもある。

 一つは米国内で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のバリアント(変異株)がじわりと拡大していることだ。

 2月28日段階で、サンプル調査分だけで46州で変異株が確認されていることからすでに全米に感染が拡大していると考えられる。

 米CDC(疫病予防管理センター)によると、現在、米国では英国由来の「B.1.1.7」、南アフリカ由来の「B.1.351」、ブラジル由来の「P.1」の3種の変異株が確認されているが、CDCは3月中には、これらの変異株の感染者が既存株を上回る可能性を指摘している。

 他に、CDC等は、由来不明の「B.1.525」および米国由来とみられる「B.1.526」への監視も強めている。

 また新型コロナウイルス感染症の感染者数も、1月上旬がピークで、その後減少傾向にあったが、最近では日本と同様にやや下げ止まり傾向も見られつつある(図表2)。

 ワクチンの普及は、変異株に対しても重篤化を抑制する効果があるとみられるが、感染に関しては、再度、新たな波が発生する可能性は否定できないといえそうだ。

 変異種の感染拡大は、コロナ対策の個人への現金給付などに慎重な考えを持っている議員もいるなかで、救済計画法案の可決促進要因となる可能性もあるが、一方でコロナ禍の泥沼からなかなか抜け出られないことにもなりかねない。

もう一つのリスクは長期金利の上昇
対策とは裏腹に景気の腰を折る懸念

 変異株と並ぶもう一つの不透明要因は長期金利の上昇だ。

 米長期金利は2月25日には一時1.61%まで上昇した。

 感染拡大が欧米にも波及しコロナショックが起きた2020年3月9日には一時0.310%まで低下しており、この1年弱で1.3%上昇したことになる。

 背景にはコロナ対策もあって年後半には米経済が急回復するという期待インフレ率の上昇があるといわれているが、一方では巨額の財政出動で国債が増発され財政赤字が膨らんでいるという要因がある。

 米議会予算局(CBO)によると、救済計画法が成立すると、連邦政府の財政赤字は2021会計年度(2020年10月~21年9月)から30年度までで1兆9196億ドル、21年度から31年度までで、1兆9200億ドル膨らむ見通しとなっている(図表3)。

 うち、21年度の効果が1兆2340億ドルと最大であり、3月以降、半年程度の間に、最大の経済浮揚効果が期待されることになる。

 一方で1.9兆ドル規模の救済計画法とは別に、バイデン氏の大統領選での公約を全て実現すると、財政赤字は21年度から30会計年度の10年間で5.6兆ドル悪化すると見込まれている(CRFB試算)。

 長期金利の上昇を受けて、NYダウなど株価も急落したかと思えば持ち直す不安定な動きが続く。仮に長期金利上昇→株価下落の流れが続くことになれば、米経済の回復は腰を折られる形になり、バイデン政権にとっては新たな難題を抱えることになる。

 今週、スタートする上院での審議・採決動向は、3月にも明らかになると見込まれる、気候変動対策やインフラ整備策を含むバイデン大統領の経済対策第2弾の成否を占う上でも重要だ。しかし、それに加えて変異ウイルスの感染拡大や未曽有の超緩和・財政出動のもたらす副作用は、バイデン政権の今後の政策運営を占う大きな要素だ。

(SMBC日興証券金融経済調査部担当部長金融財政アナリスト 末澤豪謙)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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