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量的緩和策「20年」、出口が見えない中で見えてきたこと

2021年02月24日 06時00分更新

文● 井上哲也(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

2001年3月、日銀が踏み出す
当初は「危機対策」の意味合い

 2001年3月に日本銀行が「量的緩和」を始めてから20年が経過する。

 史上初の「量的緩和」には政策金利のゼロ金利制約に直面した下で、資金供給の増加を通じて景気や物価に働きかける意図が込められていた。

 しかし振り返ると、バブル崩壊後の不良債権問題が深刻だったなかで、金融機関の資金繰りを下支えし貸し渋りを抑制するという危機対策としての意味合いも大きかった。

 その後は欧米の中央銀行も含め、低成長・低インフレに対応する金融政策の主流になるが、その効果についてはいまだ意見が分かれている一方で、この20年でわかってきたことがある。

 ポストコロナでその経験や教訓がどう生かされるかが重要だ。

FRB「QE2」以降、「金融政策」に
低成長・低インフレの脱却目指す

 日銀が「量的緩和」を始めた当初は、90年代のバブル崩壊、金融危機後の経済低迷が続くなかで、日銀だけが行っていた政策だった。

 だが、2008年のリーマンショックを受けた米連邦準備制度理事会(FRB)による「量的緩和第1弾(QE1)」や、欧州中央銀行(ECB)による欧州債務危機後の大規模な資産買い入れなど、欧米の中央銀行にも広がる。

 ただそれぞれ住宅ローン債券やカバードボンドの買い入れが主体だったことからも明らかなように、同じく危機対策の性格が強い。

 これに対し、大規模な金融危機後の低成長や低インフレを脱却するため、長期金利の引き下げを明確に目標として掲げる「量的緩和」の口火を切ったのは、FRBによる2010年からの「量的緩和第2弾(QE2)」だった。

 日銀もその後、2013年の「量的・質的金融緩和(QQE)」で、買い入れる国債の規模拡大に加えて満期構成の長期化を打ち出すことで、こうした考え方を明確に採用した。

 さらに、ECBも「公共債買い入れプログラム(PSPP)」の導入によって、国債などの大規模な買い入れに乗り出した。

 こうした考え方による「量的緩和」の究極的な姿は、日銀が2016年に導入した「イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)」であり、日銀が「量的緩和」の20年で最初と最後に重要な役割を果たしたことは興味深い。

いまだ評価は分かれる
「穏やかな改善」と「副作用」への懸念

 危機対策としての「量的緩和」が有効であるとの評価は日米欧の一連の経験を通じて確立している。

 今回の新型コロナウイルス問題でも、昨年春以降に日米欧の中央銀行が大胆な緩和策で企業などの資金繰り支援を展開したのは、そうした経験を生かしたものだ。

 これに対して、純粋な金融政策としての「量的緩和」については依然として評価が分かれている。

 つまり、日米欧ではこうした意味での「量的緩和」の下で景気や物価の緩やかな改善が進行したことは事実であるとしても、副作用への懸念も根強い。

 その代表は大量の国債の買い入れと長期金利の抑制が財政規律の低下を招き、財政ファイナンスへの道を開くとの懸念だ。

 ECBによる国債買い入れの開始が日米に比べて遅かったことにも、この問題に敏感であるブンデスバンクの意向が影響したとみられる。

 コロナ対策で日米欧の財政支出が急増する下でもこうした懸念が顕現化していないことは歓迎すべき事態だ。だがそれでも、今後も長期金利の相応の上昇容認といった微妙なかじ取りは重要である。

 資産価格のインフレを招くとの懸念も根強く、特に今回のように実体経済の回復がそれほどではないなかで日米欧の株価が上昇している状況では説得力を持ちやすい。

 しかし、景気や物価の改善を目指す「量的緩和」にとっては、長期金利の抑制を通じて資産価格を全般的に引き上げることで設備投資や消費を押し上げるメカニズムこそが生命線でもある。

 それだけに、これを否定することは「量的緩和」の金融政策としての意味を失わせることにもなる。

「解除」に相当な時間かかる課題
「次の危機」に遭遇し長期化

「量的緩和」の経験を改めて振り返ると、中央銀行にとって最も困難な課題は、金融政策としての「量的緩和」の解除に多大な時間を要することだ。

 FRBによるQE3やECBのPSPPの例が示すように、市場の反応を抑制する観点から国債買い入れの減速や停止は極めて慎重に行う必要があり、また一方で低インフレに戻らないようインフレ期待を安定させる観点から、利上げの開始までにも相応の時間をかける必要もある。

 その後に、ようやくバランスシートの縮小に着手するとしても、資産のほとんどが国債のような長期資産であり、市場への売り戻しが現実的でないだけに、結局は満期保有をして順次償還されるのを待つという気長な作業になる。

 それぞれが年単位のプロセスであるだけに、その間に次の景気後退が先に来てしまう蓋然性は高い。

 実際にバランスシートの縮小にたどり着いたFRBですら、コロナ不況の前の時点でも米中貿易摩擦などよる米国経済の停滞と短期金利の不安定化に直面して先に進めなくなっていた。

 しかも、この20年の日米欧の経済の特徴は周期的な危機との遭遇だった。

 実際、日本でも日銀の推計が示すように、需給ギャップがマイナスへの落ち込んだ局面はいずれもリーマンショックなどの危機による。

 危機が起きた後、日銀が危機対策としての「量的緩和」と金融政策としての「量的緩和」とを順次、実施するなかで需給ギャップも緩やかに改善したが、ようやく小幅なプラスに達したところで次の危機に遭遇し、需給ギャップが急激に悪化するパターンが繰り返されてきた。

資産価格への波及メカニズム
バブルや危機につながるジレンマ

 こうした経験を踏まえると、金融政策としての「量的緩和」が景気や物価を緩やかに改善する効果があるとしても、そうした長年の努力を瞬時に皆無にする金融経済の危機をどう抑制するかが、より重要な課題になる。

 日米欧を周期的に襲った危機には、東日本大震災やコロナショックのように中央銀行には直接的に防ぎようのない要因も関係している。

 ただし、そうしたケースでも、発生時に存在した金融システムの脆弱性が影響を深刻化した面はあるだろうし、リーマンショックや欧州債務危機のようなケースでは過大なリスクテークが直接に影響を与えている。

 従って、金融政策としての「量的緩和」が危機の発生に貢献しないようにすることはやはり重要だ。

 つまり、資産価格の引き上げという政策効果の波及メカニズムは活用しつつも、それが過剰にならないようにする必要があり、少なくとも先に見た「量的緩和」の解除にかかる時間を短縮し、金融経済の状況に即して機動的に運営できるようにする工夫は重要だ。

 この点では、日銀がYCCの下での国債買い入れについて、規模と満期構成の双方の面から柔軟化を試み、機動的に運営できる余地を広げてきたことは、「量的緩和」のイノベーションとして注目される。

緩和長期化のリスク一層高まる
中銀間の政策協調より重要に

 日本にとっては、これまでの危機のかなりの部分が海外発だったことも重要な問題であり、国際通貨を抱えるFRBやECBに「量的緩和」の機動的な運営に向けた対応を求める必要もある。

 それはそもそも難しい課題ではあるが、今回のコロナ不況の下で、FRBやECBがマクロの景気や物価の改善だけでなく、雇用や経済活動の格差解消まで金融緩和で対応しようとする姿勢を示唆しているだけに、「量的緩和」を含む金融緩和が長期化するリスクは一層、高まり、次の危機を生みやすくなっている。

 ただ米欧の政治環境が国際的な政策協調の重視へ回帰しつつある点は好条件だ。

 世界的な金融経済の周期的な危機を防ぐことは、米欧の中央銀行にとっても自ら重荷を背負い込むパターンから脱却することにつながる。その理解を中央銀行が共有することが事態の改善につながり得る。

 日銀もこの20年の経験と教訓を生かした国際協調への貢献が期待される。

(野村総合研究所金融イノベーション研究部主席研究員 井上哲也)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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