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調理用ロボットサービス提供など先進ベンチャー登壇 FASTARピッチイベント

FASTAR 1st DemoDay プレゼンレポート

連載
アクセラレーションプログラムFASTAR

 独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)は、2020年11月24日、赤坂インターシティコンファレンス でピッチイベント「アクセラレーションプログラムFASTAR 1st DemoDay」を開催した。

 中小機構は、地域を代表する企業やユニコーン企業への成長を目指すベンチャー企業や中小企業に対して、資金調達や事業提携のサポートを行なう「FASTAR」を運営している。FASTARは、第1期(2019年秋)に、15社を選定。事業支援の専門家とともに、事業計画や成長戦略を策定している。同イベントでは、15社中13社が登壇し、各社10分間で事業のプレゼンテーションを行なった。また、プレゼンの最後には、XTech Ventures株式会社の手嶋浩己氏と、株式会社ファストトラックイニシアティブの原田泰氏が、コメンテーターとして登壇企業へ質問をした。

コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役CEO 沢登哲也氏

 最初に登壇した、コネクテッドロボティクス株式会社 代表取締役CEO 沢登哲也氏は、「調理をロボットで革新する」をテーマに、2017年から飲食店のキッチンでの調理に特化したロボットサービスの提供を行なっている。同社ではロボットの開発自体は行なっておらず、既存の協働ロボットにハンドを埋め込み、ロボット制御技術とAI技術を組み合わせることで、そばを茹でたり、フライを揚げたりする調理オペレーションの自動化に成功している。これまで、イトーヨーカドーや長崎ハウステンボス、JR駅そば店などでの採用実績がある。導入の効果については、そばロボットを使うことで、従来かかっていた人件費の50%程度をカバーできるという。また、新しく入ってくるアルバイトへの教育が必要ないことや、作る食品の品質が安定することもメリットとして挙げられる。現在は食洗機ロボットや、食品工場での製造ロボットなどへも事業展開を進めている。

同社が提供している自動でそばを茹でるロボット

新型コロナウイルスの影響もあり、ロボットの需要は高まっていると沢登氏は話す

 手嶋氏は、「100%成長が見込める市場で、今後は本腰を入れて参入するメーカーが増え、競争が激化してくると思われる。長期的な視点で備えていることがあれば教えてほしい」と質問。沢登氏は、「今後はご指摘の通り競争も激しくなるが、知財の面では、かなりブルーオーシャン。そばやたこ焼き、食洗機などの知財には力を入れて取り組んでいる。最終的には無形のサービスを提供する企業になりたい」と話した。

 原田氏からは、そばや食洗機という分野を選んだ理由について質問があった。「マーケットと技術の適合性を見て選択した。アメリカでは、主食であるハンバーガーやピザから始めている。日本の主食といえば、そば・うどん・ラーメンなどだが、そばは非常に実現しやすいことに気づいた。食洗機については、現状コロナでイートインが少なくなっているが、カバーできる領域が広いことが理由」と沢登氏は回答した。

セルジェンテック株式会社 代表取締役社長 麻生雅是氏

 続いて登壇したのは、セルジェンテック株式会社 代表取締役社長の麻生雅是氏。セルジェンテック株式会社は、「遺伝子導入加工脂肪細胞(GMAC)」医薬品の研究開発を行なっている。GMACとは、タンパク質や酵素を作り出す仕組みを体に与える医薬品だ。患者から採取した脂肪細胞にタンパク質や酵素を生成する遺伝子を組み込むことで、必要とするタンパク質や酵素を体内で長期的に分泌し続けられるようになるという。GMACは、細胞に導入する遺伝子を変えることで、さまざまな疾患治療にも応用可能になっている。患者にとっては、通院や治療の負担を大幅に軽減できるのもメリットだ。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成30年度「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)」に採択されている。

GMACは、細胞に導入する遺伝子を変えることで、他の疾患治療にも応用できる

 手嶋氏からは、「創業してから16年経つが、どの時期にどのような成果を積み上げたか教えてほしい」という質問が。「2010年までに臨床試験を行なうチャンスに恵まれていたが、法的な縛りがあり評価が若干遅れた面もある。しかし、中小機構を始め、さまざまな方向からご支援をいただき、臨床研究によるPOC獲得、そしてIPOまでラストランというところまで来た。2022年のIPOを目指して、現在10億円の資金調達を目指している」と話した。

「遺伝子疾患の治療については、特に国外では多くのメーカーやベンチャーが取り組んでいる分野だと思うが、御社ならではのユニークな技術を教えてほしい」という原田氏からの質問については、「GMACは安全性が高く、脂肪細胞の特性を活かした長期に亘る治療タンパク質の供給にある。LCAT欠損症については、ご指摘の通り他の企業も取り組んでいるが、開発がストップしていたりして、現状では弊社の技術が世界で最も進んでいる」と回答した。

株式会社スペース・バイオ・ラボラトリー 代表取締役の河原裕美氏はリモートでプレゼンを行なった

 株式会社スペース・バイオ・ラボラトリー 代表取締役の河原裕美氏は、現代医学では直せない疾病の完治をミッションとし、2011年に同社を設立。リハビリと再生医療の融合を目指した重力制御装置「Gravite(グラビテ)」と、歩行支援ロボット「RE-Gait(リゲイト)」を開発した。グラビテは、地上で無重力環境を再現する装置で、広島大学との研究により、無重力環境下で移植効果の高い幹細胞が培養できることが判明しているという。リゲイトは、足関節を補助することにより、脳卒中片麻痺患者の歩行の再学習を助ける装置で、広島大学・弓削類教授と早稲田大学・田中英一郎教授との医工連携、産学連携で開発したという。

歩行支援ロボットの「RE-Gait(リゲイト)」

 手嶋氏からの「現在は脳卒中等、障害がある人の体をゼロに戻す事業をされていると思うが、長期的な観点では、無重力状態を活かしてスポーツ選手など人間のパフォーマンスを上げる方向に活かせる可能性はあるのか」という質問に対して、「技術的には、そのような方向に応用できる可能性はある。同じような問い合わせもあるので、協力していきたい」と河原氏は話す。

 原田氏は、「リハビリと再生医療の融合については、どのようなシナジーがあるのか?」と質問があり、「歩行支援ロボットは、すでに多くの脳卒中患者さんに使っていただいている。再生医療という技術が一般的になるのはもう少々先の話だが、脳卒中だけでなく、失語症や認知症などの障害を発症している患者さんもいるので、再生医療と併用することで完治することを目指している」と話した。

株式会社エヌビィー健康研究所 代表取締役 高山喜好もリモートでプレゼンを行なった

 株式会社エヌビィー健康研究所は、2006年に設立し、呼吸器疾患を中心に線維症、慢性炎症、重症感染症、癌などの医薬品開発を手がけるバイオ創薬企業だ。さまざまな病気の原因となるGタンパク質結合型受容体(GPCR)の機能を制御するための抗体が含まれている医薬品を発見するための「MoGRAA ディスカバリーエンジン」がキーテクノロジーだという。MoGRAA ディスカバリーエンジンを応用して、新しいバイオ医薬の元となる抗体の開発を進めたり、難病を治療するための新薬コンセプトを自主研究により創出する活動も行なっている。現在は、肺線維症、自己免疫疾患の新規抗体医薬の治療薬製造を準備中で、2023年には臨床開発に入る予定だという。

現在は、重傷感染症や固形癌など、5つの抗体医薬シーズの開発プロジェクトも進めているという

 プレゼンについては、手嶋氏から「今後の資金調達がかなり重要になると思うが、どのような投資家からお金を集めて、どのように使う予定か教えてほしい」と質問があり、高山氏からは「今回はおよそ20億の資金調達が必要になると考えており日本だけでは達成しにくい。海外のVCや、医療に特化した開発経験のある国内外のVCを中心に数を絞って募る予定」と話した。

セルスペクト株式会社 代表取締役 岩渕拓也氏

 セルスペクト株式会社 代表取締役の岩渕拓也氏は、2014年、盛岡市に同社を設立し、手軽に健康チェックができる臨床検査キットを開発。指先の血を採取する臨床検査技術(FMP:FingerbloodMu ltiparameters Panel)を活用した、生活習慣病に関する多項目同時診断試薬キットや、免疫科学的な手法を利用した新興感染症の抗原・抗体検出試薬キットを展開している。今後は、各製品を全国のドラッグストアチェーンに展開させ、薬以外の相談もできる健康サポート薬局や、処方箋なしでも薬を販売できる未来を目指しているという。また、2020年には、国産初の新型コロナウイルス抗体検査キットの大規模流通にも成功。新型コロナ感染症の臨床医学的研究と対策アイテムの開発事業において、三井住友銀行グループ主催が主催する新型コロナ禍スタートアップ支援のコンペティションで全国最優秀賞を受賞した。

セルスペクトは、株式会社薬王堂ホールディングスと共同で、国産初となる新型コロナウイルス抗体検出キットを流通させた

 手嶋氏からの、「一般的な消費者目線からすると、ドラッグストアに行なって、気軽にチェックする際に使うと思うが、どのような症状の患者を想定しているか」という質問に対して、岩渕氏は「圧倒的に多いと思われるのは、高血圧や糖尿病など、ありふれた疾患。慢性的に通院をしている患者で、医者が積極的に治療管理に当たらなくなった疾患を想定している」と話した。

 原田氏からは、「健康リスクが高く、検査を受けるためにキットの購入を検討している人への最後の一押しとして、どのようなインセンティブを想定しているのか、事業モデルを伺いたい」という質問があった。「ドラッグストアでは会員システムを持っており、電子ポイントとの連動を考えている。ベネフィットの特典として付与されれば、『ついでに検査できる』というマインドになりハードルが下がるだろう」と話した。

株式会社S’UIMIN 代表取締役社長 藤原正明氏

 株式会社S’UIMINは、2017年10月に筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構発のスタートアップとして発足し、睡眠計測サービス「InSomnograf」を開発した。簡単に装着できるデバイスとAIを活用した解析技術により、病院で行なわれる脳波等の生体電位を測定する「終夜ポリソムノグラフ検査」と同等の検査を自宅で実現できるという。AIは、筑波大学計算科学研究センターとの共同開発で、熟練の臨床検査技師による解析結果との一致率が80%を超える結果が出ている。2020年9月には、企業や研究機関向けの研究開発支援事業をローンチ。すでに多くの引き合いがあり、自社製品が睡眠に与える影響の評価や特定の疾患と睡眠の関係を調べる研究等に利用されている。今後は、健康経営に取り組む企業や健診センター、睡眠クリニック等への事業を展開する予定だという。

今後は、 InSomnografのアップデートも行ない、睡眠状態を即時フィードバックできる機能も追加する予定だ

 手嶋氏からは「睡眠に課題を感じている人が多いことは共感するが、睡眠状態を調査するだけでは興味本位で試して一回で終わる人が多いと思う。改善や解決策まで提示しないと大きなビジネスにならないと直感的に感じた」という指摘があった。「客観的な睡眠計測に加えて認知行動療法の観点を取り入れて、ユーザーのモチベーションの維持ができないかと考えている。また、必要な方には医療機関の受診も推奨することで、ルートを提示することが重要」と話した。

 原田氏からは「デバイスの使い方は自宅にいる個人に委ねられるので、測定して蓄積されたデータはノイズが多くなると考えている。診断・治療に活かせるレベルになるのかが疑問に感じた」という質問については、「ご指摘の通り、装着から操作まで個人で行なうが、使用が簡単でデータを取り逃がさないよう最大限配慮している。その結果、十分実用的と判断できたので、事業を開始した」と回答した。

歯っぴー株式会社 代表取締役社長 小山昭則氏

 歯っぴー株式会社 代表取締役社長の小山昭則氏は、2020年2月に「歯垢・歯石ライト」という製品を開発。口に光を照らすだけで歯垢や歯石を発行させ、目視でも簡単に磨き残しをチェックできるという。一般的な歯周病検査では、歯周ポケットに針を指しているが、痛みを感じるケースが多い。2019年12月に、スマートフォンなどで、歯周病のリスクを予測できる画像処理AIを開発。歯周病専門医の眼をテクノロジーで再現することで、より手軽に検査を受けられ、早期治療に結びつけることができる。さらに、蓄積したデータも有効活用できるという。口腔内最近は、さまざまな感染症や生活習慣病にも関わってくるため、他の疾患と紐づけることで、医科と歯科の垣根なく治療することができる。

画像を撮影するだけで、画像処理AIが、歯周病のリスクを判断してくれる

口腔内細菌は、感染症や生活習慣病などの疾患とも密接な関わりがあるという

 手嶋氏からは、「将来的に目指すビジネスモデルを教えてほしい」という質問には、「現状、健康診断では体の検診しかやっていないところがほとんどだと思うが、今回の製品は効率的にチェックができるため、診断項目の一つとして、導入を目指している」と小山氏は話した。

 原田氏からは、「現状歯科医師は、実際に目視して歯周病のリスクを判断されていると思うが、目視に加えて、AIの情報を取り入れるメリットは何か」という質問があり「健康診断と同様に、歯科医師がいないシーンでの利用が最も効率的と考えている」と小山氏は回答した。

株式会社ユニバーサルスペース 代表取締役 遠藤哉氏

 株式会社ユニバーサルスペースでは、高齢者が暮らす住宅向けに手すりを取り付けたり段差を解消したりする介護リフォームサービスを提供している。代表取締役の遠藤哉氏は、部屋の写真を撮影するだけで寸法の計測と見積もり作成ができるリフォーム業界初のAIアプリを開発。家の現地調査を行なった当日に図面から見積もりの作成、契約まで完了できるようになり、サービス提供期間の短縮や作業員の働き方改革に繋がった。現在は、フランチャイズ化にも成功し、「介護リフォーム本舗」というチェーン名で全国に95店舗を展開している。さらに、高齢者の住環境を整備・充実させるための住宅改修工事には地方自治体への申請が必要で、住宅改修が必要な理由書を作成する必要がある。そこで、見積もりAIアプリの技術を活かした「理由書作成AIアプリ」を開発中だ。2021年1月にリリース予定で、普及すれば、76万時間、11.4億円/年のコスト削減につながる試算が出ているという。

見積もり作成のAIアプリにより、自宅へ訪問した当日中に契約が完了できるようになった

画面に従って項目を入力するだけで自動的に理由書が作成できるアプリも開発中

 手嶋氏からは、「今後はIPOを目指すと伺ったが、さまざまな選択肢がある中で、いつ、どのような理由で実施するのか。また、IPOを通じて何を実現したいのかを教えてほしい」という質問があった。「介護リフォーム事業を行なう上では、信用が非常に重要になる。信用を得るためにIPOを実現し、所属する社員の満足感も高めたい」と遠藤氏は話した。

「AIに関してはスタートアップも増え、サービスとして提供している企業も多い中、御社が自社で開発している理由を聞かせてほしい」という原田氏からの質問については、「コロナの影響により事業計画を見直す過程で、収集したビッグデータの活用方法を考えていたが、活躍させるためには自社で開発するのが最適だと考えた」と回答した。

株式会社トライエッティング 代表取締役社長CEO 長江祐樹氏

 株式会社トライエッティング 代表取締役社長CEOの長江祐樹氏は、2016年に同社を設立。企業の単純作業や膨大なデータを処理する業務を自動化するためのAI技術開発やライセンス販売を主な事業としている。企業に合ったAI技術の導入には、膨大なコストや開発期間がかかる。そのため、プログラミングなしで自動化を実現できる「UMWELT(ウムヴェルト)」というシステムを開発。在庫管理や勤務シフト管理を中心としたサプライチェーンに関わるヒト・モノの最適化を得意分野として、豊田合成や三井物産など、メーカーや小売、物流、商社などの領域を中心に自動化を実現している。ある企業では、全国100施設で行なっていたシフト作成をUMWELTで代替し、年間24万時間分の工数削減に成功したという。

UMWELTの導入実績

プログラミング不要で自動化AIを開発することができる

 手嶋氏からは「さまざまな領域に合わせた専門的なツールが登場している中、汎用的なツールで未来永劫競争できるのかが気になった」という質問があった。長江氏は「弊社は、1%刻みのハードなチューニングが必要なAIではなく、データを入れたらそこそこの精度で速く実装できる点を魅力に感じてもらっている。コンサルティングを通じたナレッジの蓄積も非常に重要で、競争力の源泉の一つになっている」と回答した。

 原田氏からは、「顧客にサービスを導入するにあたり、業務フローのどこを自動化・効率化できるかというニーズの把握は非常に重要になると思うが、業界特化をしていないという現状で営業力についてはどのように考えているか」という質問が。「弊社は基幹システムに接続するため、弊社製品から他社製品へのリプレイスメントのリスクやコストが高くなる。そのため直近数年間の競争優位性は担保されていると考えている。また、在庫管理やシフト管理などのSaaSを作成できるため、業界特化型のSaaSとして別ビジネスに横展開することも可能」と話した。

インテグレーションテクノロジー株式会社 代表取締役社長 船田浩良氏

 インテグレーションテクノロジー株式会社は、作成した仕様書となるモデルをベースにソフトウェア開発を行なう「モデルベース開発(MBD)」関連の開発・販売事業を行なっている。自動車や機械、医療、エネルギー産業を中心にビジネスを展開中だ。また、ものづくりの研究や開発工程で行なわれている試作品のテストや実験をコンピューター上で実施し、分析する光学系CAE技術の共同研究も進行している。代表取締役社長の船田浩良氏はモデルベース開発について、ここ数年で盛んに取り上げられるようになったが、同社では一足早く取り組んでいたため、アドバンテージがあると船田氏は話す。これまでは、ソフトウェアの請負開発が中心だったが、今後は、自動車等の開発時に必要なHILS(Hardware-in-the-loop simulation)システムなどの独自製品開発も担って利益率を上げていきたいと話す。

インテグレーションテクノロジーのビジネスモデル

今後は製品開発も併せて行なっていきたいと船田氏は話す

 手嶋氏からは、「数年後のIPOを目指すと伺ったが、IPO後は自然と成長する事業セグメントを持っていないと苦労する。ポストIPOを見据えて今後急成長を狙っている事業セグメントはあるのか」という質問があった。船田氏は「モデルベース開発に関して、ソフトの受託ではなく、ハードとソフトを一体にした商品の販売を考えており、IPOを実現することでかなり伸びると予測している」と話した。

 原田氏からの「光学CAEに関しては、知財で参入障壁を作って自社のシミュレーションプログラムを守れるものだと考えて問題ないか」という質問に対しては、「知財も出せると思うが、元々参入障壁が非常高い分野で、特許にすると逆に公開しなくてはいけない部分がかなり多くなる。取得するにしても対象を限定する必要があると考えている。

株式会社FJコンポジット 代表取締役 津島栄樹氏

 株式会社FJコンポジットは、半導体やLED、液晶、太陽電池などをはじめ、特殊な複合素材の開発を手掛けている。主な製品には、電気自動車に使用する「コントロール素子冷却板」や、同じく電気自動車や携帯電話の基地局にも使われる「高周波通信素子用放熱板(ヒートシンク)」、燃料電池を構成する部品のひとつ「セパレータ」などがある。独自技術で開発した主要製品の特許を国内外で取得しており、海外からの需要も高い。アメリカにも支社を置き、海外輸出割合も50%近くに達するという。現在は、ヒートシンクの受注が確定しており、2022年から量産体制に入る予定だという。今後は2024〜25年にかけて株式公開ができる見通しを立てていると登壇した代表取締役の津島栄樹氏は話した。

FJコンポジットの主要3製品

FJコンポジットのターゲットユーザー。海外からの需要も高い

「直接の納入先はどこになるのか」という手嶋氏からの質問に対して、津島氏は「トヨタなどの自動車会社ではなく、下請けとしてパーツを作っているメーカーになる」と回答した。また「パーツメーカー同士の長期的な競争があると思うが、そこに向けての戦略はあるか」と質問され、「性能とコストの優位性に関しては絶対的な自信を持っている。事業戦略さえ間違えなければ世界を制覇できる大きな夢を見ているので、これから考えていきたい」と話した。

 原田氏は「御社はすでに黒字化を果たしているが、このタイミングで資金調達を続ける狙いは何か。また、株式公開までのマイルストーンを教えてほしい」と質問した。津島氏は、「資金調達については数億円かかる設備投資に充てたい。現状、銀行は過去の実績から融資を考慮するため、VC等からの調達が現実的。VCから資金を調達する以上は株式公開も約束する必要があると考えている」と回答した。

株式会社アクセス 代表取締役 畑翼氏

 株式会社アクセスは、気軽な移動手段として利用できる折りたたみ電動バイクや3人乗りが可能な電動トライク、小型で小回りがきく車幅約1mの電動トラックなどを開発・製造している。国内には、買い物難民や買い物困難者が800万人以上いるといわれており、運転ミスが起こりにくい安全・安価な移動手段の提供を目的として事業をスタートした。小型の電動トラックに関しては、国内に競合がほとんどおらず、日本のせまい道や住宅街での配達に一定のニーズがあると代表取締役の畑翼氏は予測している。

 また、折りたたみ電動バイクを活用した都市部向けシェアリングサービスの開発も進めている。乗り捨て感覚で利用できるシェアリングサービスを2020年末に開始予定で、2021年には都市部で200ステーション、500台の車両展開を計画しているという。

アクセスの沿革と主な販売車両

シェアリングサービスは、ステーションを設置できる場所の確保が今後の重要なミッションになる

 手嶋氏からは「シェアリングサービスの方がスケールしやすいため、そちらを伸ばしたいという意図を感じた。コストもできるだけ抑えて広げたいと考えているだろうが、どのようにプロダクトマーケットフィットまで導き、レバレッジをかけていくのか」と質問があった。畑氏は、「シェアリングに関しては、キャピタルレバレッジを意識している。既存のカーシェアリングの課題を分析すると、初期コストや運営コストがかかり、稼働率が30%ないと収支が見合わないと言われている。その中で、低い稼働率でも初期投資がペイできる事業形態は中々なく、面白いと考えた」と話した。

 原田氏からは「BtoCだけでは、ユーザーが継続的に獲得できずスケールが難しい分野とも言われている。他のサービスでは、都市やキャンパスなど、一定の人数がいるプラットフォームと組む動きをしているが、御社の戦略を教えてほしい」という質問が。「ご指摘の点はこれからの課題。現状は、大手不動産会社や駐車場の管理会社などが主な商談先で、今後は電鉄会社などへもアプローチしていきたい」と話した。

株式会社エアロジーラボ 代表取締役CEO 谷紳一氏

 株式会社エアロジーラボは、2012年10月に設立。ドローンをはじめとする無人航空機の機体設計開発や製作、実証実験や共同研究の受託などを行なっている。2018年3月には、エンジン発動機を搭載した国内初のハイブリッドドローン「AeroRange 1」を開発。従来はバッテリーのみの搭載で10〜20分程度しか飛行できなかったところ、エンジンで発電した電力を使うことにより、最長180分の長時間飛行が可能になった。さらに、最新機種として「AeroRange PRO」を開発。2021年中に110台の生産体制を構築し、市場の需要拡大に対応していくと同社代表取締役CEOの谷紳一氏は話す。

2018年3に開発した「AeroRange 1」

2018年12月には過疎地に生活物資を運ぶ物流実験に参加。往復20kmの道のりを連続で2回、計40kmをノンストップで飛行した

ドローンに対する市場の需要は拡大していると谷氏は話す

 手嶋氏からは、「事業形態は、さまざまな会社に外注をしてプロデュースをするポジションという理解だが、利益率はどの程度になるのか」という質問があり、谷氏は「現在は、プロトタイプが完成して量産直前の状態なので、まだ利益率の計算はできていない。ただし、現在世界を席巻している中国製のドローンを欧米や日本が排除しようとする動きが加速しているため、弊社としては追い風が吹いている」と話した。

「御社のドローンが飛行時間を伸ばせたミソを教えてほしい」という原田氏からの質問に対して谷氏は「バッテリーは消耗しても重量は変わらないが、ガソリンを搭載したハイブリットドローンは、飛べば飛ぶほど機体が軽くなる点が長時間飛行の秘訣。さらに今までは、ある程度中国製の部品を使っていたが、新しく開発したドローンは完全日本製で、ハイブリットドローンの分野においては、世界トップにいると考えている」と回答した。

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