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AIスタートアップのミラセンシズが描くAI校正・校閲の可能性

業務で必要な校正・校閲をAIの力で変える 「AI editor」の目指す世界観

2021年02月19日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

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 ミラセンシズの「AI editor」は機械学習の技術を用いた文章の校正・校閲を実現するサービス。まだ生まれて2年のサービスだが、メディアや出版だけでなく、メーカーや製薬、金融など幅広い業界で受け入れ始められている。ミラセンシズの石川信行氏、池田 裕一氏に起業の経緯やサービスの成り立ち、AI校正・閲覧の可能性を聞く。

AIや機械学習をもっと身近にしたい AI editorへの道

 記者という立場で日々文章を書いていると、校正・校閲の重要さを痛感する。稚拙な誤字・脱字には日々反省してしまうし、ただですら表現にセンシティブな時代である。私のようなメディア業界でなくても、商品名を間違えて商品回収になった事例や、マニュアルや商品説明の誤表記などは枚挙にいとまがない。

 こうした事故を防ぎ、読者に対して正しく情報を伝えるためには校正・校閲という一手間が欠かせない。客観的な立場で文章の誤りを見つける点では同じだが、校正はミスを拾い、校閲は事実関係の確認まで行なう。この校正・校閲という作業を人手ではなく、AIによって省力化するのが、今回紹介するAI校正・校閲ソリューション「AI editor」である。まずは開発元であるミラセンシズの起業経緯について聞いていこう。

 AI editorの開発元であるミラセンシズの池田 裕一氏は、大手メーカーのSEとしてキャリアをスタートし、渋滞予測システムのサービス開発に携わっていた。開発、テスト、運用を一通り経験した後、よりB2Cのビジネスに関わるべく、今のリクルートテクノロジーズに転職。そこで出会ったのが、ミラセンシズ社長となる石川信行氏だ。

 石川氏は2009年にリクルートに入社し、おもにHadoopを用いたデータ分析基盤の導入に携わっていた。その後、分社後の機能会社であるリクルートテクノロジーズに所属し、石川氏は現CTOである縄稚 泰弘氏とともに、海外の新しい技術をリクルートの事業にどのように適用していくかを考える立場だった。しかし、当時盛り上がってきたAI関連の技術をどのような施策に活かすかアイディアを語り出すと、どうしてもリクルートの事業の枠を超えてしまう。起業を思い立った石川氏と縄稚氏は、池田氏を誘い、副業として2015年にAIカンパニーのミラセンシズを立ち上げることになる。

「AIや機械学習、IoTなどの技術って、専門的に関わっている人から見たらなじみ深いのですが、ビジネスパーソンから見たら、わけのわからないもの。せっかくいい技術なのに施策として完成しない場面をいくつか見てきたので、もっと技術を親しみやすくできないかと考えました」(石川氏)

ミラセンシズの石川信行氏

 こうして「AIや機械学習の技術をもっと身近にしたい」という想いで起業したミラセンシズだが、校正・校閲を手がけるAI editorに至ったのは実は最近のことだ。創業当初は「昆虫判定アプリ」のようなB2C向けのアプリをリリースしていたし、AI教育のようなサービスを手がけたこともあった。結果、AIによる校正・校閲というソリューションを立ち上げたのは、機械学習のノウハウを溜めるべく、顧客案件を手がけた経験からだ。

「テキストを扱っているクライアントが数社いて、校閲や校正を苦労していることがわかりました。校正・校閲担当者がまさに生き字引となっていて、引退したら、もう誰にも頼めないという状態になっていました。AIを校正・校閲の領域で活かせるのではと考えました」(石川氏)

 こうしたニーズを把握した同社は機械学習を用いた校正・校閲のサービス開発に取り組み、「AI editor」をリリースした。2019年11月のことだ。

ふたを開けてみたらメーカーのお客さまが一番多かった

 AI editorは「ユーザー定義ルール」「その他ルール」「誤字・脱字」「表記ゆれ」を基本機能として搭載している。機械学習を用いた自動チェックに加え、ユーザーがカスタマイズルールを作れるため、組織や用途に最適な校正・校閲を実現できるのが大きな特徴だ。しかも自社開発した高性能なエンジンは、1万字のテキストを約3秒でチェックできる優れものだ。

ユーザー定義ルールや表記ゆれ、誤字・脱字などをチェックするAI editor

 リリース当初、出版や印刷などの業界をターゲットにしていたAI editorだが、今は幅広い業界で導入が進んでいる。たとえば、顧客向けのダイレクトメールやECサイトでの誤表記は風評被害にもつながるし、製薬や金融などではコンプライアンスに準拠した表現も必要になる。最近はドキュメント作成を海外にアウトソーシングする企業も多く、日本人では想像し得ないような誤りも出てくるという。

「ふたを開けてみたら、メーカーのお客さまが一番多かったので驚きました。辞書にないような商品名を付けると表記ミスは頻発しますし、商品説明書の誤表記は商品回収につながる可能性すらあります。われわれが想像する以上に誤表記のリスクは大きいんです。これを防ぐため、何度も校正・校閲を重ねるので、負荷を軽減したいという声は、思いのほか大きかったんです」(石川氏)

 事例は多岐に渡る。インターネット企業は制作しているWebページやプレスリリースのチェック、金融会社は社内ドキュメントといった具合に、幅広い用途でAI editorは利用されている。リリースから2年経って気がついたのは、校正・校閲というのは出版や印刷に限らず、幅広い業種・業界で必要な業務プロセスであること。そして、すべての会社がこの業務プロセスに対して前向きに取り組んでいるわけではないことだ。

「正直、校正・校閲の作業って、他社と比べた競争優位性がない守りの作業なんです。だから、やって当たり前で、やるならコストを削減したいというニーズになります。だから、校正・校閲に関わるナレッジはわれわれがハブとして吸収し、お客さまにはより商品や企画作りに専念してほしいんです」(石川氏)
 

AI editorAI を活用した自動文章校正・校閲ソリューション『AI editor』のご紹介

月額利用料18万円で使ってくれるクライアントと製品を磨き上げる

 ここまで聞いたら、さっそく試用したいというユーザーは多いかもしれないが、AI editorは月額利用料18万円(初期費用10万円)なので、個人が手軽に試せるサービスではない。一方で、競合となるサービスはおおむねAI editorよりも高価で、利用できるアプリケーションも限定的だという。つまり、校正・校閲に手間とコストをかけている、オーダーメイドで開発を委託している企業にとってみれば、低廉で導入しやすいというのが、AI editorの価格感だ。

 もちろん、コンシューマー向けのフリーミアムモデルを提供したり、一部の機能を無償で使えるようにするという選択肢もあったし、実際に検討したこともあったという。ミラセンシズはあえてその選択肢をとらなかった。有償で利用してくれるクライアントと向き合い、製品をブラッシュアップしていくという道だ。

「大事なのは、使ってもらったお客さまのフィードバックを受けて、継続的に価値を追加できるようにすることです。便利な機能だったら、多くのお客さまにその恩恵を受けられるようになります。その点、クライアント企業とトライ&エラーしながら、製品を磨き込んでいきながら、モノを作っていった方が結局近道だと思ったんです」(池田氏)

ミラセンシズ 池田 裕一氏

 実際、AI editorはクライアントの要望を受けて日々進化を遂げている。たとえば、スペルチェック機能を追加したり、日付と曜日の組み合わせや住所が正しいかをチェックできる。金額の表記で用いるカンマのチェックは、ECショップで「金額を間違えたら大問題になってしまう」という課題から導入されたもの。また、ユーザーインターフェイスも「指摘の箇所が多すぎると一覧性が悪い」という声を受けて、検出した機能ごとのチェック箇所をフィルタリングできるようになっている。

 今後も機能強化は続けていくが、それはあくまで顧客からの声の反映だ。実際、ユーザーからも「問い合わせに対するレスポンスが速い」「プロダクトの改善要望が迅速に反映される」といった声も挙がっているという。

「クライアント企業の要望をきちんと聞いて、ちゃんとモノになるまでは正直4~5年くらいかかると思っています。たたき上げた結果、精度面で多くの人に使ってもらえるレベルになり、ユーザーをサポートできるような体制ができたら、より低廉な価格のサービスを提供するかもしれませんが、今のところは4~5年でも短いくらい」(石川氏)

校正・校閲の枠を超えて、「モノを書くこと」に役立てれば

 AI editorが次に目指すのは、アプリケーションをまたいで校正・校閲の機能を利用可能にすることだ。今まで校正・校閲機能はIMEやアプリケーションの付加機能として提供されることが多かったので、ファイル形式や利用環境に依存していた。その点、AI editorはChromeエクステンションを用いることで、Webページのチェックにも対応。また、Officeのプラグインとしても提供されるので、Word、Excel、PowerPointなどさまざまなアプリケーションでAI editorを利用できる。

Wordのプラグインとして動作するAI editor

「すべての文章をどんなアプリケーションでも校正・校閲できるという世界観を目指しています。ルールさえを入れておけば、Webページでも、Wordでも、Googleドキュメントでも、同じようにAI editorを利用できるようにしたいんです」(石川氏)

 今後はユーザーの要望を聞きつつ、AI校正・校閲という分野で新しい価値を提供していくという。池田氏と石川氏はAI editorの将来像についてこう語る。

「顧客のオリジナルのルールを登録できるという点は、すでに他社に対しての優位性もありますが、今後は『こういうルールを作った方がいい』というサジェストまでできるとユーザーの使い勝手はさらに上がりますよね」(池田氏)

「今のAI editorは校正・校閲のうち、校正に力点が置かれていますが、今後は校閲の分野にも注力していきたいです。たとえば、文章の内容を事実確認するとか、こういった文章の方がいいと提案するような機能。校正・校閲の枠を超えて、『モノを書くこと』に対して、もっとできることがあるんじゃないかと思っています」(石川氏)

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