このページの本文へ

麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第58回

コロナ禍で生まれたポール・マッカートニーのアルバムなど、厳選ハイレゾ音源

2021年02月15日 17時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『Neujahrskonzert 2021 / New Year's Concert 2021 / Concert du Nouvel An 2021』
RICCARDO MUTI, Wiener Philharmoniker, Riccardo Muti & Wiener Philharmoniker

特選

 明らかにいつものニューイヤー・コンサートより音が良い。これまではヴェールを一枚被ったような雰囲気優先の音場感だったが、2021年版はそれを完璧に取り去り、ひじょうに細かな部分まで見事に解像し、ディテールまでの見通しがとてもクリヤーだ。ニューイヤー・コンサートでは、これほどの音の力感や輪郭感があったのか、と驚く。響きを吸う聴衆がいないので、理想的な音調での録音が可能だったのだろう。まるでステジオで丁寧にセッションしたような伸びのよさと透明感だ。これまでは天下のイベントを記録するという祝典的な録音コンセプトだったのが、今回の異常事態に対応し、「イベント性より「作品性」との方針で、録音に臨んだと聴いた。

 演奏はリッカルド・ムーティならではのスケールの大きさと、繊細さ、色彩感が圧倒的に素晴らしい。異常な事態だったが芸術的にも音楽的にも、そして録音的にもベストなニューイヤー・コンサートになった。「美しき青きドナウ」の引きずる様な巨匠風のワルツも、まさにムーティ様の独断場。2021年1月1日、ウィーン、ムジークフェラインザールでライヴ・レコーディング。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『McCartney III』
Paul McCartney

特選

 ポール・マッカートニーの「マッカートニー・アルバム」の第3弾。1970年の『マッカートニー』、1980年の『マッカートニーII』、そして40年後の2020年の『マッカートニーIII』だ。これまでの伝統に則り、セルフ・プロデュースを敢行。すべてポールが作詞、作曲し、一人でギター、ベース、ピアノ、オルガン、ドラムスと、すべての楽器を演奏し、ダビングレコーディングした。順番はまずギター、もしくはピアノを弾きながら歌い、次ぎにベース、ドラムを加えた。コロナはさまざまな影響を音楽シーンに与えているが、その閉塞状態から誕生した名作は、意外に多い。本欄でも1月に紹介した、テイラースイフトやヨーヨー・マの新作に並び、『マッカートニーIII』もロックダウン名作のラインナップに加えられる。楽曲ではポール的なポップが横溢する、「2.Find My Way」が気に入った。リズムとビートを強調し、BEATLES時代の雰囲気も濃厚だ。メリハリの効いた音も今日的。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Capitol Records、e-onkyo music

『J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)』
木越洋

特選

 NHK交響楽団首席奏者を32年間務め、現在ソリストとして活躍し、各音楽大学で後進の指導に当たるチェリスト、木越洋のマイスターミュージック録音。私は、昨年7月末にこの木越セッションを、横浜・みなとみらい小ホールで取材している。マイスターミュージックの録音の特徴が、本ハイレゾでは明瞭に聴ける。ホールトーンがひじょうにリッチであるのと同時に、楽器から発せられるダイレクト音も明瞭というのが、その美質だ。クラシック音楽では楽器からの直接音と、そこから発した演奏会場の響きとの融合が重要だ。ところがホール録音で、この2つが佳くバランスする作品は、なかなか稀である。響きが多すぎると直接音が希薄になり、音の姿がぼける。逆に響きのない楽器音は味気ない。

 マイスターミュージック作品は「直接音か、響きか」の二択ではなく、「直接音も、響きも」だ。その典型が、木越洋のこのソロバッハだ。横浜・みなとみらい小ホールの豊かな響きの中に、明瞭なバッハサウンドが聴ける。さらに率直な感想を記すと、このハイレゾは生で聴くより遙かに音の情報量が多い。というのも、生では豊かなホールトーン越しに演奏が聞こえるという雰囲気だが、このハイレゾ作品では、響きの豊かさが、楽器からのストレートな音を妨げない。私は、客席の中央で聴いていたが、観客が居れば、かなり響きは減るのだが、観客がいないので、まさにホールが持っている豊潤なソノリティがそのまま耳に到達していた。

 録音セッションはこの無人のホールで行われたが、マイスターミュージックならではのワンポイント配置、その高さ、奏者からの距離、反射板の使い方……の巧みなマイキングと贅沢なゲアールマイクにより、その場での視聴体験を超えたサウンドが得られたのだ。現場に居たものとして、このハイレゾには本当に感動したと同時に、マイスターミュージックのトーンマイスター、平井義也氏の技にも感嘆した。2020年7月、横浜・みなとみらい小ホールで録音。

FLAC:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2Mz/1bit
マイスターミュージック、e-onkyo music

『POP IN CITY ~for covers only~』
DEEN

特選

 City Popが不思議なブームだ。それに乗ったのはDEENの本ハイレゾだけでなく私も、だ。雑誌「東京人」4月号(3月発売)が「City Pop大特集」。私はそのなかで、「City Pop名曲を育んだ"スタジオマジック"」というスタジオ話を書いた。宣伝も兼ねて、そこから抜粋しよう。「現在の音楽制作はデジタル技術とネットワークの発展で、宅録や打ち込み(コンピュータ制作)にて、スタジオに行かずとも、個々に行える。しかし、スタジオという物理的な空間にアーティスト、ミュージシャン、作詞家、作曲家、編曲家、ディレクター、エンジニア……と、多彩なプロフェッショナルが集い、打ち合わせ、対話し、実際にその輪の中で演奏するなら、思いもしなかった核融合現象が起き、期待以上の作品に仕上がることも多い。それこそがスタジオ・マジックだ」。雑誌は3月初旬に発売だ。期待されよ。

 本ハイレゾは、1993年「このまま君だけを奪い去りたい」が大ヒットしたDEENの久しぶりのアルバムだ。流行のCity Pop名曲集というと、いかにもマーケティング的な匂いがするが、いやいやなか良いではないか。リズムとビートを強調し、ノリの良さで突き進むという進行力にて、各アーチストのオリジナルバージョンの雰囲気も極端にデフォルメせず、品格よく伝えている。今日的な別の側面でいうと、男性歌手が杏里、松任谷由実。竹内まりや、大貫妙子、松原みき、吉田美奈子という女性歌手の名曲をカバーするトレンドも採り入れている。City Pop名曲を新鮮で、かつオーソドックスなアレンジで楽しめる佳きアルバムだ。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music

『Donizetti: Il Paria』
Albina Shagimuratova, Rene Barbera, Misha Kiria, Marko Mimica, Mark Elder, Britten Sinfonia

推薦

 19世紀から20世紀初頭の失われた忘れられたオペラを再発見、復元、記録、上演、パッケージ化するロンドンのオペラカンパニー、「Opera Rara」の新譜だ。1970年に創設されてから50年を迎える2020年に向けて、ドニゼッティの13番目のオペラ、「世襲貴族」を制作。2019年のバービカン・センターでの公演の前に、BBCスタジオでセッション録音された。初めて聴く作品だが、ベルカントのオペラとして、親しみやすいメロディが横溢する佳作ではないか。録音もオーケストラと独唱の音場的、音像的バランスがよく、どちらもとても明瞭だ。合唱の張りと弾力感も素晴らしい。Opera Raraが本作品を発掘し、録音しなかったら聴けなかったわけで、Opera Raraには大いに感謝したい。2019年6月1日~6日、ロンドンのBBC Maida Vale Studiosで録音。

FLAC:48kHz/24bit、MQA Studio:48kHz/24bit
Opera Rara、e-onkyo music

『Shirley Horn. Softly - Remastered in DSD & DXD』
Shirley Horn

推薦

 このところ毎月報告しているカナダは2xHDのリマスター作品。FLAC:352.8kHz/24bit、192kHz/24bit、DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bitで購入できる。

 2xHDのリマスタリングツールのFUSIONシステムでは、WAV:352.8kHz/24bitでオリジナルファイルが収録され、そこから各パラメーターに変換された。いい雰囲気。2つのスピーカーの中央にオンマイクでシャーリーがいて、マイクに向かって囁いた声が、そのまま大きな音像で、生々しく再生される。アナログ的な臨場感に溢れ、ストレートに音の粒が聴き手に向かって飛翔してくる。Shirley Horn自身ののピアノも眼前感だ。1987年10月 Mapleshade studio(メリーランド州バルティモア)でアナログ録音。

FLAC:352.8kHz/24bit、192kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit、2.8MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music

『Handel: Concertos for Oboe & Organ, Suites from Serse & Rodrigo』
Sir John Barbirolli

推薦

 イギリスの名指揮者、ジョン・バルビローリのヘンデル作品集。昨年、フィジカルで発売されたバルビローリ・ボックスのリマスター素材を組み合わせたアルバムだ。珍しいバロック集だが、夫人のイヴリン・ロスウェルのオーボエをフューチャーしている。「11.Oboe Concerto in B-Flat Major」では大きなオーボエ音像を、リッチな響きのハレ管弦楽団が優しく包む。「5.Suite from Serse」は有名な「オンブラマイフ」だ。バリトンソロを豊潤で、ハーモニー豊かなのオーケストラサウンドが心地好くサポートしている。フランスPyeレーベル録音のオリジナルマスターテープから2020年にフランスのAnnecyにあるStudio Art & Sonで192kHz/24bitリマスター。最新のハイレゾマスタリングの成果は大きく、この時代の録音であることを忘れさせてくれる、明瞭さ、クリヤーさだ。1958年、録音。

FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
MQA Studio:192kHz/24bit
Warner Classics、e-onkyo music

『ヒューマン』
シャイ・マエストロ, ホルヘ・ローダー, オフリ・ネヘミア, フィリップ・ディザック

推薦

 イスラエルの33歳のジャズ・ピアニスト、シャイ・マエストロの2年ぶりのアルバム。透明で静謐、音場がクリヤーなECMならではのクールビューティな音調だ。中央のピアノの音像は大きいが、ECMらしい輪郭の稠密さ、粒子の細やかさ、透き通った音色感に思わず耳を奪われる。リバーブがリッチなのだが、それが透明なのがECMの質だ。シャイ・マエストロのピアノの実存感と、フィリップ・ディザックのトランペットの絡みが醸し出す幻想的なサウンドは実に陶酔的だ。各楽器の存在が確実な上に、音の交差が複雑にして透明感が高い、まさにECMサウンドだ。

FLAC:88.2kHz/24bit、MQA:44.1kHz/24bit
ECM Records、e-onkyo music

『ラフマニノフ: 交響曲第1番、交響的舞曲』
フィラデルフィア管弦楽団, ヤニック・ネゼ=セガン

推薦

 フィラデルフィア管弦楽団と音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンのコンビによるラフマニノフ交響曲全曲録音の第1弾。最新のハイレゾのオーケストラ録音はここまでのクオリティと臨場感を得ているのかが分かる名録音だ。オーケストラ全体はひじょうにスケールが大きいが、各プルト、各楽器の細部まで、透徹して見通せる。ホールの最良の座席にて、眼前感を楽しみながら、聴いている雰囲気だ。ラフマニノフならではの色彩感、憂色感も音で雄弁に表現されている。切れ味も抜群にシャープで、音の立ち上がり/下がりが圧倒的な尖鋭だ。最新録音ならではの豊穣な表現力が聴ける。2018年9月、2019年6月、フィラデルフィアのヴェライゾン・ホールで録音

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Deutche Grammophon、e-onkyo music

『Mister Magic』
Grover Washington, Jr.

推薦

 1975年に発表された、スムース・ジャズ(耳触りの佳いジャズ)の開拓者のひとり、サックス・プレイヤー=グローヴァー・ワシントンJr.の4作目のアルバムのハイレゾリマスター。。ボブ・ジェームス(ピアノ)、ハーヴィー・メイソン(ドラム)、エリック・ゲイル(ギター)……とミュージシャンが豪華だ。 46年年前の録音だから、やや帯域は狭いものの、その分、緻密さは、アナログならではの質感だ。音像位置はいまひとつ明確ではないが、逆に混沌とした場の中で、音が濃密に積み上げられていく快感が味わえる。「3.Mister Magic」は当時、大ヒットして全米チャート10位まで上った。今聴いても、ポップな前向きな音調は爽快だ。エンジニアはルディ・ヴァン・ゲルダ―。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
UNI/MOTOWN、e-onkyo music

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

最新記事

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン