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コロナ禍に直面した「2020年の働き方」を8カ国調査、不要なミーティングや仕事の重複で残業時間が増加

ナレッジワーカーの7割が“燃え尽き”を経験、Asana年次調査

2021年01月26日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 チーム向けワークマネジメントプラットフォームを提供するAsana日本法人(Asana Japan)は2021年1月26日、仕事における時間の使い方や習慣がもたらす生産への影響を分析した年次レポート「『仕事の解剖学』インデックス 2021」を発表した。

 これは日本を含む8カ国、1万3000人以上のナレッジワーカーを対象とした調査で、2020年は特に仕事の「デジタル化」と「分散ワーク」が急加速し、それを原因として長時間労働/残業も大きく増えたという。また「返信を要するメールやメッセージの量が多すぎる」など、日本の働き方に特有の生産性低下要因についても指摘している。

年次レポート「『仕事の解剖学』インデックス 2021」より。日本では他国よりも「返信を要するメールやメッセージの量が多すぎる」

「不要なミーティング」「仕事の重複」で残業時間が大きく増加

 この調査は2020年10月、Asanaから委託を受けた調査会社Sapio Researchが、8カ国(オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ドイツ、日本、シンガポール、イギリス、アメリカ)のナレッジワーカー1万3123人を対象に実施したもの(うち日本は2000人)。調査回答者には18を超える業界の、あらゆる企業規模/キャリアレベルのナレッジワーカーが含まれる。

 Asanaでは前年(2019年)にも同じ調査を実施し、レポートを公開している。ただしこの1年間に、新型コロナウイルス感染拡大に伴うリモートワーク/在宅勤務の常態化という事態が起こり、働く環境は大きく変化している。特に、従業員がオフィスや自宅に分散しながらつながり、なおかつプロジェクト単位で異なるメンバー(社外のパートナーも含む)が関与する「分散ワーク」が増えている影響が大きいことが指摘されている。

「分散ワーク」のイメージ。個々のプロジェクトがまちまちの場所/メンバー間で連携して行われており、それが課題を生んでいる

 レポートを見ると、2020年は前年と比較して労働/残業時間が大きく増えていることが指摘されている。従業員の87%が毎日2時間近くも残業しており、年間残業時間は2019年の242時間から455時間に跳ね上がっている。

 その要因としてはまず、分散ワーク化が進んだ2020年には、オフィスでのカジュアルな会話に代わって「不要なミーティング」が増えたことが挙げられている。この不要なミーティングによる時間の浪費は、1人あたり平均で年間157時間に相当するという。

 もうひとつ、チーム内での役割や責任の分担、成果物の目的が不明確であるために、他のメンバーと「重複する仕事」をしてしまい、それが時間の浪費となっていることも指摘されている。こちらは前年比10%増の年間236時間を浪費しているという結果だ。

 なお程度の違いこそあれ、同じ傾向は日本のみの分析結果でも見られた。

前年調査と比較して残業時間が大きく増加。その主な要因として「不要なミーティング」「重複する仕事」を指摘している

 また、働く場所がデジタル(オンライン)化したことによって、従業員はより多くの業務アプリケーションを立ち上げ、それらを切り替えながら仕事を進めるようになっている。グローバル平均では従業員1人あたり10のアプリケーションを使用しており、1日平均で25回も切り替えているという。また回答者の80%は、メールやチャットなどのコミュニケーションアプリを起動したまま働いている。

 同レポートでは、こうした環境は単に集中をそぐだけでなく、アプリの切り替え時に「脳内のコンテキスト切り替え」が発生することで生産性低下の要因になると指摘している。実際に「メッセージやアクションの見逃し」「効率の低下」「仕事の重複」といった影響があるという回答は、それぞれおよそ4人に1人に及んでいる。

使用する業務アプリケーションが増えることで生産性が低下する

「燃え尽き」だけでなく、働いても自己肯定感が得られない状況も

 2020年は、働く環境の大きな変化や将来の不確実さといった要因が働く人に慢性的なストレスをもたらし、それが「燃え尽き症候群(バーンアウト)」を引き起こすケースも多かったと考えられる。レポートによると、グローバル平均では実に71%もの調査回答者が、過去1年間に1回以上のバーンアウトを経験していた。日本は調査国中最も低い水準だったが、それでも52%がバーンアウトを経験している。

 こうしたバーンアウトは、実際に「士気の低下」や「ミスの増加」「仕事に対するエンゲージメント低下」「仕事に要する時間の増加」といった影響をもたらしている。従業員自身が考えるその主な要因は「働きすぎ」(46%)、「仕事モードをオフにできない」(32%)、「タスクや役割に関する透明性が低い」(29%)などだ。ここでも仕事/プライベートの切り分けが難しい在宅勤務が影響を及ぼしており、企業/組織は根本原因を理解したうえで対処を行う必要がある。

7割もの調査回答者が「燃え尽き」を経験。生産性の低下だけでなく、仕事や会社に対するエンゲージメント低下にもつながる

 なお、成功体験から自信を得ることができず、自分で過小評価をしてしまう心理状態「インポスター症候群」についても、62%の回答者が2020年に経験したと回答している。特に、コロナ禍の期間に入社した新入社員では79%が経験しており、チームに貢献しているという実感、自己肯定感を持てていないケースが多い。これも分散ワーク化によって、周囲のメンバーから評価や賞賛の言葉をもらいづらい環境になっていることが影響していると考えられる。

 また生産性低下の要因トップ3としては、「仕事の量が多すぎる」「返信を要するメールやメッセージ、通知が多すぎる」「ミーティングやビデオ会議の数が多すぎる」となっている。これはグローバル、日本のみの分析で同じ傾向を示したが、日本は特に「返信を要するメールやメッセージ、通知が多すぎる」という回答の割合が高く、「とりあえず関係者全員に同報(CC)しておく」という独特のメール/メッセージ文化が生産性に悪影響を与えていることがうかがえる。

分散ワークという“ニューノーマル”の課題を解決するために

 Asanaでは、分散ワークという働き方はコロナ禍が終息した後も続く“ニューノーマル”だと考えており、分散ワーク下においても生産性を高め、従業員のワークライフバランスやメンタルヘルスを改善するために、組織や雇用主の側が考えるべきポイントを指摘している。

「新しい働き方」を改善するために、組織や雇用主が考え、取り組むべきポイント

 また、ナレッジワーカーの仕事時間のうち60%はビジネス価値を生まない「仕事のための仕事」が占めることも示しており(これは前年調査と同等)、こうした状況を改善することも重要であることを指摘している。

 Asanaが公開した「『仕事の解剖学』インデックス 2021」レポート全文は、同社Webサイトからダウンロードできる。

ナレッジワーカーの仕事時間の60%は「仕事のための仕事」に費やされており、この状況を改善することも重要だ

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