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マスクを巡るトラブルで相次いだ逮捕騒動、実際は「単純な不法行為」だ

2021年01月23日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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コロナ禍でマスクを巡るトラブルが相次いでいる(写真はイメージです) Photo:PIXTA

マスク着用を巡るトラブルがきっかけで、格安航空会社ピーチ・アビエーション機の乗客だった明治学院大非常勤職員(契約解除手続き中)奥野淳也容疑者(34)=茨城県取手市=が大阪府警に、大学入学共通テストの受験生の男(49、以下、受験生)が警視庁に相次いで逮捕された。いずれもマスクの非着用や装着方法がクローズアップされ「見せしめ逮捕でやり過ぎだ」「マスク警察ではなく本物の警察が出てきた」などの指摘や批判も相次いでいるが、逮捕容疑は奥野容疑者が傷害と航空法違反、威力業務妨害、受験生が建造物不退去。マスクはあくまでトラブルの原因で逮捕と関係なく、容疑は明らかな不法行為でそれぞれに逮捕される理由があった。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

不法行為による逮捕でマスクは関係なし

 奥野容疑者の逮捕容疑は昨年9月7日、釧路発関西空港行のピーチ機内で、女性乗務員の左腕をつかんでひねり、軽い捻挫(ねんざ)を負わせた疑い。ほか乗務員らを大声で威圧して当該機を遅延させるなど、ピーチ社の業務を妨害した疑いが持たれている。

 当該機長が航空法の「安全阻害行為」に当たるとして新潟空港に臨時着陸。奥野容疑者は同空港で降ろされ、ピーチ機は約2時間15分遅れで関西空港に到着し、乗客約120人に影響が出た。

 受験生の逮捕容疑は16日午後6時~午後10時ごろ、共通テストの会場だった東京都江東区の東京海洋大越中島キャンパスで、失格となり退去を命じられたにもかかわらず、トイレの個室に閉じこもった疑い。

 試験監督らの説得に応じなかったため、駆け付けた深川署の警察官が上の隙間から個室に入り現行犯逮捕。男は送検後の19日、釈放された。今後は任意での捜査になるという。深川署は逮捕の事実を発表しておらず、実名も公表していない。

 実は上記の通り、2人はマスクを巡る再三の要請・指示にもかかわらず拒否を続けたと報じられているが、逮捕はあくまで不法行為に関するもので、マスクはきっかけであって容疑とまったく関係なかったのだ。

 もっとも、いかなる理由があろうと乗務員に暴力をふるってけがをさせ、航空機の針路を変更させてほかの乗客に迷惑を掛ける行為に正当性があるわけがない。

 一方の受験生は深夜まで試験会場に立てこもったわけで、試験監督らが困るのは当たり前だ。現行犯逮捕は一般人でもできるのだが「このような常軌を逸した行動をする人物が抵抗しないわけがない」と考えたとしても不思議はない。

 プロである警察官に対処を依頼するのは自然で、警察官も力ずくで排除すると後になって問題になる可能性もある。やむなく「建造物不退去罪」を適用して現行犯逮捕し、試験会場から退去させたのだろう。

逮捕直前までツイッターで持論を展開

 逮捕に至る原因となったのは、それぞれどんなトラブルだったのか。

 全国紙社会部デスクによると、奥野容疑者は離陸前、乗務員にマスクの着用を求められたが「要請するなら書面を出せ」と拒否したため、付近の乗客を離れた席に移動させた。その際、乗客から「マスクをしないで乗られると嫌だ」「気持ちが悪い」などと言われて逆上し、乗務員に「侮辱罪だ。謝罪させろ」と叫んで詰め寄った。

 約45分遅れて離陸した後も、乗務員を呼びつけて繰り返し「暴言を謝罪させろ」と威圧的に騒ぎ続け、こうした行為をやめるよう求める警告書を手渡そうとしたが「こんな物は受け取れない」と丸めて放り投げたという。

 新潟空港に臨時着陸後、乗務員に降りるよう指示されても「納得できない」「なぜ降りなければいけないのか」などと拒否し続け、約20分後に警察官が駆け付けてしぶしぶ応じたという。

 ピーチ社が大阪府警に一連の経緯を説明し、府警が関係者に事情を聞くなど捜査していた。

 奥野容疑者は自宅で逮捕される際に「事実は違います」と容疑を否認。移送の際にはマスク着用を促されたが応じなかった。その後、取り調べに対しては「小さい頃から喘息(ぜんそく)の持病がある」と説明し、事件の詳細については「ブログを読んでください」としか話さないという。

 共同通信の配信記事によると、この事件後の昨年11月、長野県松本市のホテルでも他の宿泊客も集まる食事会場でマスク着用を拒否して従業員と口論になり、警察官が出動するトラブルを起こした。

 また昨年夏頃には、皇居・東御苑の「三の丸尚蔵館」の展覧会でも職員とトラブルになり皇宮警察の護衛官が仲裁に入ったり、札幌市の「大倉山展望台」でも同様のトラブルを起こしたりしていた。

 奥野容疑者はツイッターで「マスパセ」を名乗り、逮捕される着前までマスク着用について持論を展開。受験生を巡る問題でも「鼻出しマスクくらいで不正行為にするのは明らかに過剰」などと言及していた。つまり確信的に繰り返しトラブルを起こしていたわけで、逮捕は他人に迷惑を掛けても構わないという「信念」を貫き通した結果なのだろう。

 ちなみに、逮捕容疑となった傷害罪は15年以下の懲役または50万円以下の罰金、航空法(73条、1500条)違反罪は50万円以下の罰金、威力業務妨害罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金――という罰則規定がある。

 3つの組み合わせで起訴されると、初犯でも反省や謝罪の意思表示、損害に対する弁済などがないと執行猶予は厳しい気がする。それでも「信念の人」は後悔などしないのかもしれないが…。

しかるべき対応や措置、罰は覚悟すべき

 一方の受験生は共通テスト初日の16日、最初の科目だった地理歴史・公民でマスクから鼻が出ていたため、試験監督が覆うよう指示したが応じなかった。その後も国語、外国語と続く科目で計6回にわたり注意を受け「きちんと着用できないなら別室での受験も可能」「次に注意を受けると失格になる」と告げられても拒否し、7回目に不正行為と認定され失格となった。

 失格となり退去を求められても「これが自分の正しい着用だ」「不正行為との認定はおかしい」と主張し拒否。他の受験生31人が英語(リスニング)の開始前に別室に移動するはめになり、予定より5分遅れたという。

 大学入試センターは「受験上の注意」などで、マスク着用が必須と説明。一方、感覚過敏など特別な理由は前日までの申請で別室受験が可能で、ほかにも「試験監督の指示に従わない場合は成績無効とする」としていた。

 文部科学省は共通テストが終わった後の18日、いずれも受験生に事前に周知していたとして「試験監督の対応は適切だった」とするコメントを発表。

 翌19日には荻生田光一文部科学相が閣議後の記者会見で「他の受験生に精神的な影響を与え看過できない状況だったと聞いている。失格は適切な措置だった」と見解を表明する事態になった。

 受験生の逮捕容疑となった「建造物不退去」は聞き慣れない罪状だが、他人の住居や管理する家屋・建造物などから退去するよう要求されたにもかかわらず、正当な理由なく退去しない場合に適用される。

 罰則は3年以下の懲役または10万円以下の罰金だが、今回のケースは特に問題なければ「厳重注意」で済む話だろう。

 ただ、文科省や入試センターが問題視し、再発防止の観点からマスク着用方法のトラブルについて威力業務妨害容疑で被害届を出した場合、建造物不退去との抱き合わせ立件されたら略式起訴・命令(罰金)ぐらいは覚悟する必要があるかもしれない。

 もちろん、日本国内ではマスクは法的に着用が義務付けられているわけではない。マスク着用を拒否するのも自由だし、着用方法について自分の正当性を訴えるのも問題はない。

 ただし、違法行為や他人に迷惑を掛ける行為、決められたルールに従わないという姿勢を貫き通すならば、しかるべき対応や措置、ペナルティーを受けるのは覚悟するべきで、どんな理屈や主張があったとしても社会に容認されることはないだろう。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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