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コロナ対策の追加財政の償還財源は、消費増税と社会保険料下げで調達すべし

2021年01月20日 06時00分更新

文● 河野龍太郎(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

コロナ禍対策の財政出動の財源はほぼ国債で賄われた。膨らんだ国債の償還財源をいかに賄うべきか。2000年代以降の法人税減税と被用者の社会保険料の引き上げ、アベノミクス下での法人税減税と消費税増税で日本は労働所得への課税を重くしてきた。これが消費低迷の一因ともなった。それゆえ、労働所得への課税を軽減する社会保険料の引き下げと消費税増税の組み合わせで財源を調達すべきと考える。それは事実上の資本課税ともなる。(BNPパリバ証券経済調査本部長 河野龍太郎)

消費税で賄うとしながら現実には
保険料引き上げで賄われた社会保障財源

 緊急事態宣言が再び発令された。1カ月がめどというが、緩い規制では、感染爆発は簡単には抑え込めない。期間も長引き、対象もさらに広がる恐れがある。そうなるとダメージを被る企業や困窮する家計への支援のための追加財政が再び必要となる可能性がある。

 最終的に今回のコロナ禍、パンデミック危機に要した費用を我々はどう捻出すべきか。迂遠なようだが、過去20年間の社会保障給付の財源確保への反省から、望ましい財源確保の形が見えてくる。

 まず、これまで我々は、高齢化で膨張する社会保障給付の財源をどう賄ってきたか。四半世紀も前に財政の専門家の間で確立したコンセンサスは、消費増税による財源確保だった。

 現実には、消費税率は極めて緩慢なペースでしか引き上げられていない。それでもPB(プライマリーバランス、基礎的財政収支)赤字の大幅悪化が避けられたのは、社会保障制度の効率化が進んだから、ではない。政治的反発を恐れ、社会保障給付の効率化は手付かずだ。

 社会保障制度改革と称して進められたのは、被用者の社会保険料の引き上げだ。2004年の厚生年金制度改革では、14年かけて社会保険料が5ポイント引き上げられた。2006年には「高齢者の医療の確保に関する法律(高確法)」が成立し、高齢者の医療費を被用者の健康保険に負担させる仕組みを整備した。

 高齢化で膨張する社会保障給付を現役世代の社会保険料の引き上げで賄う仕組みを整えたのは小泉政権だ。

 小泉首相は在任中、消費増税を行わないと明言していた。無責任に放置はしなかったが、膨張する社会保障給付の負担を政治的反発の最も小さな現役世代の被用者に押し付けたともいえる。政治的コストは小さかったが、意図せざる形で日本経済に大きな弊害をもたらした。

社会保険料負担回避のために増えた非正規雇用
高齢者給付増のツケは現役世代にまわされた

 一つは、非正規雇用の増大だ。企業が非正規雇用に頼るようになったのは、90年代以降のグローバル競争の激化で、雇用コストの削減を余儀なくされたからだ。そこに社会保障給付の負担が加わった。

 消費税なら仕向け地課税であるため、輸出の際に還付され、企業の競争力に影響しない。還付制度が存在しない社会保険料は企業にとって大きな負担増となり、競争力を損なう。消費増税ではなく、社会保険料の引き上げで対応したことは、企業には正規雇用を抑制し、非正規雇用で代替するインセンティブとなった。

 今では雇用の4割を非正規雇用が占める。かつて、日本型雇用システムが全盛を誇っていた頃、非正規雇用は主に主婦のパートや学生のアルバイトを意味し、彼らは世帯主の被用者保険でカバーされていた。それ以外の非正規雇用の増大は、セーフティーネットを持たない雇用者の増大を意味した。

 完全雇用が訪れ、非正規雇用の賃金が増えても、日本の消費回復が限定的である理由は明らかだろう。不況期に調整弁となる非正規雇用にショックが集中するため、好況期に所得が増えても、将来不安から消費を増やせず、貯蓄が優先される。

 消費増税を避け、現役世代の社会保険料に依存したことのもう一つの弊害は、社会保障制度そのものを脆弱(ぜいじゃく)にしたことである。厚生年金や健康保険組合に加入できない非正規雇用者は国民年金や国民健康保険に加入するが、保険料は全額自己負担で未納が増え、国民年金や国民健康保険の財政基盤が脆弱(ぜいじゃく)になった、ということだけではない。

 前述した高確法によって、後期高齢者の医療費が膨らむと、自動的に健康保険組合など現役世代の被用者の負担が増える仕組みとなった。今では、健康保険組合の支出の内、半分近くが後期高齢者支援金などに振り向けられる。支援金の負担増で、健康保険料の引き上げを余儀なくされるだけでなく、財政難から解散を選択する健康保険組合も少なくない。

 社会保障給付の膨張を現役世代の社会保険料で賄う結果、セーフティーネットを持たない非正規雇用を増やし、マクロ経済の回復を損なっただけでなく、社会保障制度の持続性そのものも大きく損なわれた。人々の先行きに対する不安を強め、さらなる消費低迷という悪循環をもたらす。

 話はここで終わらない。政府は、近年、資本収益率を高め、内外からの投資を増やすことを目的に、法人税減税を繰り返した。前述した通り、消費税と異なり、社会保険料は、輸出の際に還付されないため、企業の社会保険料の負担増の穴埋めとして、財界が法人税減税を強く求めたのかもしれない。

労働者に厳しく法人を優遇する税制下で
利益をためるばかりの企業

 いずれにせよ、もうかっても企業はため込むだけで、人的資本投資や無形資産投資、有形資産投資にはつながらなかった。90年代後半以降の経済格差の時代に、我々が行っていたのは、資本に有利な法人税減税と、労働に不利な事実上の労働所得課税(社会保険料の引き上げ)だったということである。

 さらに、アベノミクスでは、消費増税と法人税減税のタックスミックスも行った。その意味するところもネットでの労働課税だ。付加価値税としての消費税には、労働が生み出す付加価値への課税の要素も含まれるが、法人税では人件費は経費として控除され、課税対象にはならない。

 経済全体で考えると、付加価値は資本所得と労働所得に分けられ、法人課税は資本所得への課税で、消費税は資本所得と労働所得の両方への課税となる。つまり、消費増税と法人税減税の組み合わせは、労働所得への課税強化を意味する。経済格差の時代であることが明らかになった2010年代においても、我々は労働に不利な税制改正を続けてきた。

 もちろん、そうしたタックスミックスで、資本収益率を高めた企業が有形資本投資や無形資本投資を増やし、マクロ経済の好循環をもたらしたのなら、問題はない。しかし、利益はため込まれただけだ。

 経済格差の時代に、我々が行うべき税制改革は、むしろ資本への課税を強化し、労働所得への課税を軽減することであろう。この議論は、パンデミック危機の財源についても当てはまる。しかし、一方で経済成長の観点から、企業の競争力を損なわないことも重要な課題だ。良い方法はないのか。

 意外と思われるだろうが、消費増税と社会保険料の引き下げの組み合わせで、事実上の資本課税が可能となる。社会保険料は、労働所得への事実上の課税であった。また、経済全体で考えると、付加価値は資本所得と労働所得に分けられる。

非正規雇用抑制、企業の競争力維持
現役世代の課税軽減 高齢者も負担

 それゆえ、資本所得と労働所得の両方への課税の性格を持つ消費増税と労働所得減税(社会保険料の引き下げ)の組み合わせは、ネットで資本課税となる。

 メリットも大きい。まず、これまで社会保険料の引き上げ(労働所得への課税)が行われた結果、企業は正規雇用を非正規雇用に置き換えてきた。こうした動きを多少なりとも抑えることができる。

 前述した通り、消費税は、社会保険料と異なり輸出の際に還付されるため、企業の競争力への悪影響は小さい。また、消費増税が持つ逆進性に対し、社会保険料の引き下げがその緩和策となる。社会保険料は上限が定められているため、その軽減は被用者の低中所得者に恩恵が大きい。

 高齢者に対しては、増大する社会保障給付の負担を、消費増税を通じて、お願いすることが可能となる。近年、大きな問題となっているのは、困窮する現役世代に、ゆとりのある高齢者が享受する社会保障給付の負担を強いていることだ。

 パンデミック危機でも、経済的に大きなダメージを被ったのは、現役世代の低所得者層である。もちろん、困窮する高齢者に対しては、現金給付などを通じて逆進性の緩和を図る必要があるだろう。

 パンデミック危機は経済格差をさらに拡大させた。パンデミック対応で膨らんだ歳出の最終的な財源確保は、資本課税で行うべきである。ただ、直接的な資本課税でなくても、消費増税と社会保険料の引き下げを組み合わせることで、事実上の資本課税が可能となり、さらにそれは、経済格差の時代において望ましい効果を生む。

 過去20年間、我が国の消費回復が著しく遅れているのは、法人税減税と社会保険料の引き上げの組み合わせ、あるいは法人税減税と消費増税の組み合わせで、事実上の労働所得の課税強化を続けてきたことも影響している。

 消費増税と社会保険料の引き下げの組み合わせで、これを巻き戻す必要がある。高齢者にとっては、単純な増税となるため、政治的にハードルが高い提案であることを筆者も認識しているが、現状を続けていては社会保障制度だけでなく、マクロ経済の持続性も維持できなくなる。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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