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死屍累々? ボツ案の山を乗り越えた者だけが強くなれる!

星野リゾートの情シスが語る、温泉IoT成功を支えた試行錯誤

2021年01月15日 09時00分更新

文● 重森大 編集・写真●大谷イビサ

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 イベントの登壇者が語る華やかな成功事例。その裏には、試行錯誤や失敗の積み重ねがある。Cybozu Days 2020では、星野リゾートでIoT戦略を推し進める情報システムグループのメンバーが、ボツ企画の紹介を交えて、成功までの道のりをパネルディスカッション形式で語ってくれた。

Cybozu Daysに星野リゾートの情シスチームが登壇!

中長期のプロジェクトがストップし、IoTを使ったコロナ渦対策にシフト

 「ボツ企画の山を超え強くなった星野リゾート情シスチーム kintone×IoTで危機を救う」と題したパネルディスカッションには、星野リゾート 情報システムグループからグループディレクター 久本 英司氏、プロダクトオーナー 白根 チエ氏、ソリューションアーキテクト 杉山 陽輝氏、プロダクトオーナー 山本 春香氏が参加。モデレータを務めたのは、かつてkintoneのビジネスプロダクトマネージャーを務めていたソラコムの伊佐 政隆氏だ。

伊佐 政隆氏(以下、伊佐):観光業界はコロナ渦の影響を大きく受けましたが、星野リゾートは3密を回避する温泉IoTなど独自の取り組みで話題となりました。まずこの話から聞かせていただけますか?

久本 英司氏(以下、久本):星野リゾートは、2020年の4月、5月は対前年比で1割か2割程度にまで落ち込みました。この新型コロナウイルスの影響は18ヵ月ほど続くだろうと想定して、サバイバル計画を練りました。感染拡大と規制緩和の緩急があると予想し、緩和のときにしっかりお客さんに来ていただける施策を考えました。お客さんに来ていただくためには、星野リゾートは感染拡大に加担しない安全な施設であることを示さなければなりません。

星野リゾート 情報システムグループ グループディレクター 久本 英司氏

伊佐:それを示すための施策が、温泉IoTだったんですね。

白根 チエ氏(以下、白根):そうです。温泉ブランドの旅館はグループ施設の中でも規模が小さく、滞在中は自室で過ごす時間が長い傾向にあります。食事も自室でとっていただき、共用エリアは座席を減らすことで3密回避を進めました。

課題となったのは、温泉の混雑をどのようにして避けるかということでした。そこでIoTを使いWebアプリで混雑状況を見える化したのが、温泉IoTです。6月時点でこのような対応を取れたのが星野リゾートだけだったので、ニュースでも取り上げられました。

星野リゾート 情報システムグループ プロダクトオーナー 白根 チエ氏

伊佐:新しい取り組みは一筋縄でいかないものだと思います。温泉IoTはどういうプロセスで展開していったのですか?

久本:温泉IoTは現場のアイデアからスタートしています。最初は「下駄箱にカメラを設置して混雑状況を見える化したらどうか」という話だったのですが、浴室にカメラを設置するのは問題がありますよね。

白根:この課題は、中長期で進めていたプロジェクトがストップしてしまい、エンジニアの仕事がなくなっていたIT部門にとっては、存在意義を示すチャンスだと思いました。

久本:私が担当していたプロジェクトもすべて中止されて、温泉IoT担当となりました。

杉山 陽輝氏(以下、杉山):市場を調べたところ、混雑可視化のソリューションは色々ありましたが、星野リゾートが求めるものはなかったので、オリジナルで作成することにしました。出入り口にレーザーセンサーを2本設置し、通過する順番で人が入った、人が出て行ったと判定します。通信にはソラコムのSIMを使いました。au、NTTドコモの回線を選択できるので、全国をカバーできます。バックエンドはAWSで開発しました。

星野リゾート 情報システムグループ ソリューションアーキテクト 杉山 陽輝氏

問題は、施設ごとに「混雑している」と感じる人数が違うことでした。どれくらいの人が入浴していたら混雑と感じるのか、それを知っているのは現場にいる従業員ですから、しきい値は現場で設定できるようにする必要がありました。そのための管理画面はkintoneで作りました。kintoneはすでに全社で使っていたので、現場の人も慣れていましたし。

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