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「初の資産価格下落なきコロナ危機」は国内M&Aブームの引き金になる

2021年01月13日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

コロナ危機は深刻だが
バランスシートの毀損は一部の業種

 コロナショックでは、インバウンド需要の消滅や外出自粛による売り上げが急減することなどによる損失から資本を失い、倒産や廃業も含めた経営問題に至ることが起きているが、それは今のところサービス業である「コロナ7業種」(飲食、宿泊、陸運、生活関連サービス、小売、娯楽、医療福祉)の中小零細企業に限られている。

 過去の深刻な「危機」だったバブル崩壊やリーマンショックは資産価格の大幅な下落を伴い、企業のバランスシートの資本の毀損(きそん)が起点となり、大手企業や金融機関までを巻き込んだ不況に陥った。

 コロナショックでは、中小零細の「コロナ7業種」のバランスシート問題が、全体に広がることをいかに遮断することが重要な課題だったが、資産価格下落を食い止めたことが大手企業などへの業績面への波及を防いだ。

 深刻な「危機」ではあるものの、資産価格下落が一時的で済み、高値が維持されている特異なケースであることの意味を改めて認識する必要がある。

株式の時価総額は上昇
財政金融総動員の効果

 日本の平成バブル崩壊やリーマンショックなど、過去の危機は金融引き締めや流動性不足、信用収縮から株式や金融商品などの資産価格が大幅に下落しグローバル企業にも大きな影響を与えた。

 今回のコロナショックでは、株価が急落した2020年3月以降、世界的規模で未曽有の規模の財政出動や金融緩和による大量の資金供給が行われ、企業の資金ひっ迫を防ぐとともに資産市場を支えたことが、その後の大手企業を中心とした業績回復の大きな要因になっている。

 図表1は、日本の株式時価総額の推移を示しているが、バブル崩壊やリーマンショックでは大幅な株式時価総額の下落が生じたが、今回は価格が維持されている。

 同じ「危機」とされながら過去と比べて大きな違いがある。

不動産価値も維持されたのは
平成バブル崩壊と大きな違い

 同様に、不動産の時価総額の安定も過去の「危機」と大きな違いだ。図表2は不動産の時価総額を示したものだが、1990年頃のピークと比べ、バブル崩壊を経た2000年代初のボトムでは1000兆円以上が消失し、その規模は日本のGDPの約2倍の水準だった。

 消失額の対GDP比で見ると、平成バブル崩壊の震度は第二次世界大戦を上回るとの試算もある。

 その結果、平成の30年近い期間、企業はバランスシートの調整を迫られ、縮小均衡や資産を「持たない経営」を余儀なくされて、そのことがさらに資産価格下落-バランスシート調整という悪循環に陥る中で、デフレが続くことになった。

 同様に、リーマンショック前後のミニバブル崩壊の時も不動産市場の下落が経済全体に大きな影響を与えた。

 ところがコロナショックでは不動産価格の下落もほとんど起きていない。

バブル崩壊、リーマン危機では
国内から「資本」が消失し海外依存に

 このように平成バブル崩壊やリーマンショックでは、株式や不動産市場の時価総額が大幅に下落し、日本全体ではマクロ的に国富を失うと同時に、企業はリスクテークを可能とする「資本」を失った。

 歴史を振り返れば、第二次大戦の敗戦によって、日本は財閥を中心にした資本が失われた。そこで新たに資本を供給したのは銀行が中心であり、「疑似エクイティー」とした形態で、持ち合いも含め新たな資本家として機能した。

 しかし平成バブル崩壊によって、銀行は資産デフレでその含みを全部吐き出すことになる。

 国内に銀行を中心にした資本家が喪失状態になった中で、新たな資本の投入役を担い、経営再建や事業再構築を進めたのが、ファンドなどを含めた海外の投資家だった。

 海外からの資本に依存せざるを得ない状況になり、図表3にあるように、株式市場では外国人の保有比率が急速に上昇した。

 外国資本に依存する必要から、外国人に保有してもらえることが資本市場における「美人の基準」になり、「グローバルスタンダード」の名の下に企業は海外投資家に評価されるように企業統治や経営のやり方を変え、資本市場なども、あたかも「鹿鳴館」時代のように欧米基準に整備する取り組みが、良くも悪くも進んできた。

「コロナ7業種」は資本不足だが
国内に投資家が温存されていることに注目

 今回のコロナショックに伴う「危機」は、資産価格が維持されていることで国内に資本が温存されているのが、バブル崩壊時などとは違うところだ。

 このことは、日本経済の再建や今後の成長を考えるときに一つの鍵になるのではないか。

 コロナショックの特徴は、新たな資本の供給者を海外にだけ依存するのでなく、国内にも資本の出し手が存在することにある。

 ただし、新たな「資本家」は、戦後のように疑似資本を中心とした銀行ではもはやない。そこで資本を保有するのは、キャッシュリッチな一般企業や、ファンドも含めた機関投資家だ。

 大手企業の多くにとっては、いまは超低金利のもと資金調達が容易にでき、これは一種の補助金をもらうような状況だ。それに加えて保有株式を中心とした資産価値が上昇する状況だから、実質自己資本比率の上昇により投資資金の調達はかつてない水準に達している。

 また、総合商社も含めたファンド的なビジネスモデルはいっそう、資本供給者としての立場になりやすい。

 他方で、「コロナ7業種」を中心に今回のコロナショックで資本消失の危機に直面する企業がある。

 図表4の概念図に示したように、深刻な資本不足にある「コロナ7業種」の企業と、資本を温存した企業やファンドの二極化・格差がある。

 したがって必要なことは、不足する資本を国内で資本が温存された主体が補うことで「資本の循環」を実現することだいえる。

 求められる金融機能も、従来のような貸し出しによる「資金仲介」ではなく、「資本」の「不足セクター」と「余剰セクター」を仲介する「資本仲介」にある。

 今後、必要とされる金融機関の機能は以上の「資本仲介」にいかに関与できるかにある。

「ハゲタカ」に依存せず
「内内M&A」で事業転換の好機

 コロナショックに対する政府の支援や対策は、資産デフレを回避したことに加え、「コロナ7業種」について、緊急融資や雇用調整給付金の支給などで倒産リスクを極力、回避することに重点が置かれてきた。

 だが、緊急融資による資金繰り支援はいつまでも続けられるものではない。もともと生産性が低くて経営基盤が弱い企業が多いだけに「コロナ7業種」では、時間の経過とともに廃業や淘汰が生じる可能性がある。

 40兆円にわたる無利子・無担保の緊急融資の形でのサポートも、どこかで資本性のサポートに切り替える必要がでてくる。

 こうしたことを考えれば、資本消失の危機に直面する企業と資本を温存した企業との二極化は、日本の産業構造を変えていく鍵になる。

 つまり「コロナ7業種」の新たな事業への転換を促すためにも、国内でM&Aを中心とした企業買収を活発化させることが重要な課題になる。

 政府が中小企業の再編を進める税制面のサポートを行っているのは、この流れを進める上で妥当なものだ。

 過去の危機は「ハゲタカ」とされた海外の買収ファンドに企業再建や事業転換を依存せざるを得なかったが、今回の「危機」は国内の企業・投資家の戦略的な買収やコングロマリット化が潮流になる可能性がある。

 2021年は国内での「内内M&Aブーム」の元年になるのではないか。

予想以上の資産価格上昇で
格差拡大、社会の不安定増す懸念も

 平成バブル崩壊の際には、資産価格の急騰や株式投資などに対して「拝金主義」などの声や金融引き締めが遅れたことに批判が強かったが、今回は、株式や不動産価格の高値に対して、当時のようなバブル批判の論調はあまり目立たないことも注目される。

 コロナショックからの経済回復が長期戦と予想され、また「コロナ7業種」を中心とした企業へのサポートのためにも、当面は財政出動や金融緩和を続ける必要があるという合意があるからだろう。

 だがこのことは、バブル的な気配があってもある程度は許容されやすいという面もあり、今回の「危機」は予想以上の資産価格上昇が生じる可能性があることも留意する必要がある。

 金融緩和が長期化することへの期待や安心感によってユーフォリアに陥り、資産市場の価格上昇や金融不均衡が世界規模で生じやすい。

 資産価格下落を回避する政策対応はコロナショックの経済全体への波及を遮断する点では間違ってはいないが、それが一方で格差拡大や社会的不安定さをもたらす要因となることにも注意が必要だ。

 今後の株式や不動産市場を展望する際には、実体経済の状況を経済指標などで確認するだけでなく、バブルに対する国民世論の意識状況、つまり「バブルへの国民感情」なども含め幅広く認識する必要がある。

 また、国内M&Aの加速の潮流が、80年代後半のような単なる株式・不動産市場のブームやバブルにとどまらず、事業構造改革を伴った生産性改善に向けた動きにつながるかどうかが、2020年代の持続性のある成長シナリオ実現の鍵となる。

(岡三証券グローバル・リサーチ・センター理事長 高田 創)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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