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東大IEDP・寺田徹准教授インタビュー

『自分はこう思うけど、なぜだろう?』を解き明かす面白さは格別!

文●石井英男 編集●ASCII

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イノラボとのコラボにおけるキーマン、東大IEDPの寺田徹准教授にお話をお伺いした

新しい学問領域の創成を目指す東大IEDP

 20年ほど前から「学際」「新領域」という言葉が、大学や大学院などでよく聞かれるようになった。学際とは、研究対象がいくつかの学問領域にまたがることを意味しており、学際系学部と言えば、既存の学部系統にとらわれない、総合的・分野横断的な学問を探究する学部である。

 新領域は、従来の学問の範囲を超えた、新たな学問分野を指す言葉であり、学際的な領域も含まれる。科学の進歩に伴い、従来の枠組みでは十分に解き明かすことが難しい分野に脚光が当たるようになったと言ってもよいだろう。

 現在では多くの大学が、学際あるいは新領域への取り組みを進めている。その代表が、2000年に誕生した東京大学柏キャンパスである。柏キャンパスは、学問体系の根本的な組み換えをも視野に入れた学融合を志向し、新領域創成科学研究科と呼ばれる研究科が創設され、新しい学問領域の創成を目指している。

 その新領域創成科学研究科環境学系では、2006年から新たに「IEDP(環境デザイン統合教育プログラム)」と呼ばれる専攻横断型の教育プログラムが設置された。そのIEDPとイノラボとのコラボレーションについてはすでに取り上げているが、今回はそのコラボレーションで中心的な役割を果たしている東京大学大学院新領域創成科学研究科の寺田徹准教授に、研究者としての生い立ちや研究テーマ、学生へのメッセージなどをお伺いした。

 なお取材は2020年11月、ソーシャルディスタンスに配慮したかたちで進められた。

イノラボ×東大IEDPコラボプロジェクトはSTEP3に進んでいる

「自然と都市」2つの分野を交互に学ぶ

―― 寺田先生の自己紹介をお願いします。

寺田 私の出身は山口県の田舎で、自然が豊かなところで育ちました。この生まれ育った環境が、後の進路選択にも影響しています。学部と修士は筑波大学で都市計画を勉強しまして、博士からはここ(東大柏キャンパス)の新領域創成科学研究科に移り、まさにいま私が教えている自然環境学専攻に所属していました。

 そして2011年に博士号をとった後も柏キャンパスに残り、助教として大きな研究プロジェクトをいくつか動かす仕事をさせていただいた後、今度は本郷の都市工学専攻で、社会人向け大学院を2年担当しました。

―― それはいわゆるリカレント教育?

寺田 はい。主にまちづくりの専門家が大学に戻って修士を取るためのプログラムですね。その後、また柏キャンパスの自然環境学に戻って講師に着任すると同時に研究室の運営も始めて、2020年4月准教授に……そして現在に至ります。

―― 分野も職場もずいぶん移動されてますね。

寺田 自然環境が豊かなところで育ち、都市計画を勉強した後に自然環境を学び、再び都市工学を勉強して、現在は自然環境学。「自然」と「都市」という2つの分野を行き来しながら今に至ります。

東京大学大学院新領域創成科学研究科 環境学研究系自然環境学専攻 生物圏情報学分野(都市・ランドスケープ計画) 寺田徹准教授

民有緑地の保全は難しい!

―― 現在は、東大IEDPに8つあるデザインスタジオのうち「緑地環境デザインスタジオ」と「自然環境デザインスタジオ」を担当されていますが、はじめに寺田先生ご自身の研究内容について教えてください。

寺田 まずデザインスタジオでは教育に関わる活動、またIEDP全体の運営にも力を入れています。そして個人の研究として「都市の緑地環境保全」に関わる研究を進めています。……都市の緑と言っても水辺から公園、果ては屋上緑化まで色々ありますが、私の興味は「都市部に残っている里山や農地」です。その保全とその科学的な根拠を追求しています。

 これは私が田舎育ちということもあり、人工的に作られた緑地よりも「ずっと誰かが維持してきた緑地を未来にどう残すか?」のほうに興味があるからです。

 もともと里山として使っていた樹林地域や、現在でも都市農業が営まれている農地を街中に残すことによって、農村的な要素と都市的な要素が融合した都市設計を考えているのですが……これの難しいところは、里山や農地の多くが民有地であることなのです。

―― なぜ民有地だと難しいのでしょう?

寺田 行政の持ち物ではなく、あくまでも地主さんの財産であるにもかかわらず、それが公共・公益的な価値を生んでいる。つまり、人様の持ち物を公的に利用させてもらうことが前提の話になるのですね。

―― なるほど。確かに「あなたの農地は都市に大きなメリットをもたらしている素晴らしい空間なので、ぜひ保全し続けてください!」と言われても、地権者にだってそれぞれ事情がありますからね……。やはり都市の民有緑地はだんだんと消えていくものなのですか?

寺田 そうですね。特に、地価が高い日本の都市部は相続税を払いきれず切り売りするケースが多いので、ずっと残るものではありません。

―― 里山と評されるレベルの広さでは相続税もケタ違いでしょうし。

寺田 都市部で山林などをお持ちの方はもうあまりいらっしゃらないと思いますけれども、やはりそれは行政が関与して、たとえば相続税を減らすなどの措置をしないと残らないでしょう。市場経済に基づいて土地利用を進めていくと民有緑地はなくなっていきますので、それに抗って残せるような制度を設けることが重要だと思います。

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