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特捜が久々に存在感を発揮、2020年「4大巨悪」との戦いを振り返る

2020年12月30日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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「桜を見る会」をめぐる問題で不起訴処分となり、謝罪する安倍晋三前首相(撮影日:12月24日) Photo:JIJI

元法相の河井克行衆院議員と妻の案里参院議員の選挙違反、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業の汚職に絡んだ秋元司衆院議員の証人買収事件、安倍晋三前首相の後援会が「桜を見る会」前日に主催した夕食会で費用を補填(ほてん)していたとされる問題を立件した東京地検特捜部(以下、特捜)。年末になり、鶏卵生産大手グループ元代表による農相経験者に対する現金提供の疑惑も立件に向けた動きが加速し、報道も熱を帯びてきた。今年は久し振りに、特捜が存在感を示した1年だったといえる。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

案里被告は年明けに判決

 昨年7月の参院選を巡る選挙違反事件で、特捜が克行被告(公選法違反で起訴)と案里被告(同)を逮捕したのは6月18日。国会議員夫妻が揃って逮捕されるというのは憲政史上初のことだった。

 起訴状によると、克行被告は昨年3~8月、案里被告への票の取りまとめなどを依頼し、地元の首長や地方議員、有力者100人に計2900万円余を渡した。案里被告は共謀し、うち5人に計170万円を渡したとされる。

 事件が浮上したのは昨年10月だった。公設秘書が運動員らに違法報酬を支払った疑惑が週刊誌で報じられ、克行被告は法相を辞任。案里被告の秘書が今年3月、逮捕・起訴された。11月25日に最高裁が上告を棄却し、有罪が確定した。

 広島高検は今月21日、公選法の連座制を適用し、案里被告の当選無効を求める行政訴訟を広島高裁に起こした。秘書が連座制の対象となる「組織的選挙運動管理者」と認定されれば、夫妻の判決結果にかかわらず、案里被告は失職する。

 夫妻の初公判は8月25日に開かれた。争点は現金の趣旨。いずれも渡した事実を認めた上で「票の取りまとめの趣旨ではなく、(参院選直前の)統一地方選の候補者に対する陣中見舞いや当選祝いだった」と起訴内容を否認した。

 その後、夫妻の公判は分離され、克行被告は弁護人を解任し一時中断。案里被告の論告求刑公判は今月15日に行われ、検察側が懲役1年6月を求刑した。同23日に弁護側最終弁論で結審し、年明けの1月21日に判決が言い渡される見通しだ。

外堀埋まった秋元被告

 IR事業を巡る汚職事件で特捜が秋元被告を逮捕したのは昨年12月だが、今年に入り信じられない事件が発覚した。秋元被告が公判でうその証言をしてもらうため、贈賄側に報酬として現金を渡そうとしていたというのだ。

 特捜は8月20日、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)の疑いで、秋元被告を逮捕した。容疑は支援者の会社役員らと共謀し、贈賄罪で起訴されていた会社元顧問の被告に虚偽の証言をしてもらう見返りとして、2回にわたり計3000万円を渡そうとした疑いだった。

 その後、秋元被告は同趣旨で別の元顧問にも500万円を渡そうとしたとして、同容疑で再逮捕された。汚職事件では贈賄側2人が起訴されていたが、秋元被告は支援者に依頼し、2つのルートで証人買収を図っていたというのが特捜の突き詰めた構図だった。

 秋元被告の初公判はいまだ開かれていないが、汚職事件で贈賄側の元顧問2人は10月12日にそれぞれ執行猶予付きの有罪判決を言い渡され、確定した。

 証人買収事件の実行犯とされる支援者2人についても今月15日、執行猶予付き有罪判決が言い渡され、こちらも起訴内容を認めていることから控訴せず、確定するのは既定路線だ。

 一方の秋元被告だが、全国紙社会部デスクによると、収賄について起訴内容を否認。証人買収についても逮捕前、周囲に「俺は関係ない。なぜこんなことになるんだ」などと関与を否定していたとされる。

 公判でも全面的に争う姿勢を示すとみられるが、既に関係者の判決内容が事実として確定したいま、外濠が埋まり言い逃れできないのは間違いない。

師走に浮上した「黒い桜」

 そして年末になって浮上したのが、安倍晋三前首相の「桜を見る会」前日に主催した夕食会の費用補填(ほてん)問題だ。

「桜」問題は安倍前首相の公設第1秘書が代表を務める「安倍晋三後援会」が主催。2019年まで東京都内の2つのホテルで開催され、地元の支援者らが1人5000円の会費を支払って参加していた。

 しかし、ホテルのHPは1人当たりの参加費を「1万1000円以上」と記載。差額を後援会が補填していたという疑惑が浮上していた。前述の社会部デスクによると、補填額は5年分の計900万円余で、特捜は政治資金規正法違反(不記載)容疑で捜査。秘書は任意での聴取に補填と政治資金収支報告書に記載していなかった事実を認めていた。

 夕食会の参加費やホテルへの支払いもすべて後援会の収支として処理しておらず、不記載の総額も巨額で特捜は「悪質」と判断。立件すべきと判断したが過去の同種事案も勘案し、略式起訴で罰金刑が相当と判断したもようだ。

 安倍前首相に関しては今月21日、特捜が費用補填の認識について確認し、安倍前首相は関与を否定したもようだ。結局、不起訴になったが、これまでの報道でも「不記載への認識を確認する意向」という表現にとどまっており、あくまで形式的な手続きだったとみられる。

 安倍前首相は国会で「補填はなかった」と結果的に、少なくとも118回もの虚偽説明(衆院調査局調べ)をしていたということになるのだが、前述の社会部デスクによると、安倍前首相の周辺は聴取前「事務所が安倍氏に事実と異なる説明をしていた」と吹聴していた。

 これは「安倍前首相は騙されていた。関与はなかった」という主張をするための方便で、検察側も証拠がない以上、容認せざるを得なかったというのがもっぱらの見方だ。

元農相2人の分かりやすい贈賄疑惑

 もう1つ、今月になって注目されたのが広島県福山市の鶏卵生産大手「アキタフーズ」グループ元代表(87)による元農相の吉川貴盛衆院議員(疑惑発覚後、辞任)(※「吉」は正式には上が「土」、以下同じ)、西川公也内閣官房参与(同)への現金提供疑惑だ。

 吉川氏は元代表と大臣室や議員会館で少なくとも8回にわたり面会し、このうち3回、現金計500万円を受領していた疑いが持たれている。西川氏も18年以降、数百万円を受けっていたとされる。

 吉川氏は疑惑が報道される直前、持病の慢性心不全を理由に入院。しばらく治療に専念する必要があるとし、選対委員長代行などすべての党役職を辞任。「当局から説明を求められることがあれば誠実に対応する」としていた。

 そして今月21日夜になり、体調不良を理由に「国会議員としての職責を果たすのが難しく、国民の負託に応えるのに十分な活動ができなくなる」として議員辞職を表明。翌22日、大島理森衆院議長宛てに辞職願を提出し、許可された。

 実は21日、特捜は入院先での任意聴取に着手していた。受領の事実関係や経緯などについて説明を求め、吉川元農相は大筋で事実関係を認めた上で「預かっただけで、いずれ返すつもりだった」と釈明したもようだ。

 前述の社会部デスクによると、近く手術を受ける予定で実際に体調は悪いようだが「議員辞職は『逃げ切れない』と覚悟し、議員バッジを着けたまま刑事被告人になりたくないと観念したのでしょう」と話した。

 西川氏は今月8日、内閣官房参与を「悪いことはしていないが、自民党と政府に迷惑を掛けるので身を引く」として辞任した。西川氏も同様、特捜の任意聴取を受けた。17年10月の衆院選で落選後、安倍前首相のアドバイザーとして就任し、菅政権でも再任されていた。

 鶏卵業界は近年、家畜を快適な環境で飼育する「アニマルウェルフェア」を巡る国際基準の緩和、鶏卵の価格が下落した際に生産者の損失を補填する事業の拡充を求め、元代表らが農林族議員や農水官僚に働き掛けをしていた。

 元代表はこうした活動の一環として、周囲に「業界のためにお願いしていた」などと話し、両氏に現金を提供していたとみられる。特定の事業に対する便宜供与ではないが、業界全体に対する働き掛けは結果的に、自社の利益にもなったと着目すれば、十分に「利益誘導があった」と解釈することは可能だ。贈収賄事件として立件することは十分に可能だろう。

 近年、存在感が薄かった特捜。「官邸の守護神」なき後、今後もこの調子で「巨悪」に対峙(たいじ)できるなら、国民の信用は回復するに違いない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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