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公共図書館、コロナでどうなる?運営体制や利用者に起こった変化とは

2020年12月24日 06時00分更新

文● まつい きみこ(ダイヤモンド・オンライン

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 読書離れやデジタル化で、これまで議論が続いていた「図書館不要論」だが、コロナウイルスの影響で突然図書館が利用できなくなったら、実際にどうなったのか?一斉に長期休館した公共図書館の様子から、ニューノーマル時代に求められる図書館を考えてみた。

コロナ禍で変わった
公共図書館のイメージ

 コロナ禍前の公共図書館には、のんびりと新聞を読む高齢者や小さな子どもが母親と絵本を選ぶ姿があったり、週末には住民向けの読書イベントや読書サークル活動が行われたりと、地域によって温度差はあると思うが、のどかなムードが漂う公共施設だった。

  しかし、現在の公共図書館には緊張感が漂う。図書館カウンターにはコロナ対策として、飛沫拡散防止のシートが貼られ、入館口からは病院のようなアルコール臭がする。

 マスク着用は当然なのだが、館内でちょっとでも咳払いをすれは図書館スタッフが、こちらをチラ見する。子どもが貸し出しカウンターの前で、少しでも前に並ぶ人との距離を狭めて寄ってしまえば、「密です!」と注意の声が飛ぶ。

 今までとは違う、重々しい空気に図書館から足が遠のいてしまう子どももいるのではないかと心配してしまう。

 2020年4月から6月頃まで一斉に休館した図書館だが、こんな様子で12月現在はコロナの感染防止対策をとりながらほとんどが開館している。 

図書館は税金の無駄使い?

休館中の公共図書館(2020年5月)。しかし、閉館中でも図書館スタッフは、問い合わせの電話やメール対応、返却ボックスに戻ってくる本の整理など業務を行っていたという。現在は密を避けるために人数制限や読書机の間隔を空ける、そして利用時間を短く規制しているところが増えている

 私がよく利用する図書館は、高齢者の姿がこれまでと比べて明らかに少なくなっている。不特定多数の人が集まるため、利用を控える人が多いのだろう。そして、この利用者の減少が、これまで幾度となく上がっていた「図書館不要論」の声を高めることになるのではないかと懸念する。

 図書館については、ここ数年、インターネットの普及で本を読まない世代の増加や、読みたい本が常に貸し出し中で使えない、出版社の売り上げへの悪影響など、さまざまな課題が上がっている。そして、中でも特に厳しいのが、「公共サービスとして本当に必要なのか?」という議論だ。

「ないよりあったほうがいい」ことは感覚的に分かっていても、財政が厳しい自治体がわざわざ税金を割くほど公共サービスとしての価値を図書館が本当に提供しているのかということだ。

 日本図書館協会が『図書館の雑誌』(2020年8月号)で発表した「数字で見る日本の図書館」(10月6日更新)から、2020年度の都道府県単位の「図書館費」と本を買う「資料費」の予算費合計をざっくり計算すると、1館で約2億7000万円だった。

 もちろん、地域の人口の差などを考慮していないので、平均値では測れないところもあるが、利益を生まず本を置いておくだけの図書館に対する自治体の負担は軽くはない。

集客を意識したサービスで
生まれ変わる公共図書館

 そこで、公共図書館は本の貸し借りをする「本の箱」だけでなく、居心地の良さや便利さ、地域住民の生涯学習につながる総合的なサービスを目指した「集客」に力を入れはじめた。

 海外では、図書館でプログラミング授業や語学教室など、読書とは直接関係なくても公共的に有益と判断されるサービスを積極的に行っている。だが、日本の場合「公民館」という独自制度があり、海外のようなサービスをこれまで図書館では提供しないという背景があったのだが、現在はそういうすみ分けも緩やかになり、おもしろい展開をする図書館が増えている。

 例えば、埼玉県川口駅前にある中央図書館は「キュポ・ラ」という商業施設の5・6階にあり、公共の映像設備を整えた「メディアセブン」のほか、民間のスーパーやショップと同居している。

 東京の武蔵堺駅前にある「武蔵野プレイス」は、図書館に市民活動の場を提供する機能を合体させ、さらに図書館の本が持ち込めるカフェもある複合機能施設だ。もともとあった地域図書館を駅前に移転させ、コンパクトだが市民活動に役立つ施設として機能を向上させた。

 毎年横浜で開催される「図書館総合展」は、図書館運営者や学校教育関係者など関連業界が交流する日本最大級のイベントだが(‎「第22回図書館総合展」〈2020年11月〉は、オンライン開催)、そこでも図書館の多様化や複合化のために「公共施設複合化フェア」が併催されるなど、新しい図書館の姿を目指す動きが全国で加速している。

図書館の本からコロナ感染が
広がるという不安

武蔵野市立図書館の他、生涯学習センター、市民活動センター、青少年センターといった公共施設を融合させた「武蔵野プレイス」。2011年7月に開館した。来館者数約 195 万人、一日平均約 6400 人(2017年)

 しかし、図書館はコロナ禍の休館や利用規制で、平常の運営に戻るには、まだまだ時間がかかると予想される。これにより利用者は大きく減少する見通しで、図書館は再び静かな「本の箱」に戻らざるをえなくなっている。

 仕方のない状況ではあるが、集客型で活気のある新しい図書館を目指していたスタッフにとって何とも言えないというのが正直な気持ちだろう。

 そしてさらに「不特定多数の人が触る図書館の本は危険」という声も上がっている。利用者がアルコールや日光(紫外線)に当てて本を消毒するという行為も懸念されているようで、「個人が勝手に行うと本の劣化の原因になる」というアラームが図書館から出ている。

 日本図書館協会は、図書館や借りた本についてのコロナ対策について2020年5月26日に「図書館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(更新版)を、海外の事例などを参考に公開している。しかし「資料接触によって、感染が拡大するかどうかは、専門家の間でも意見が分かれる」など、安全についての記載はない。予防対策についても、ガイドラインは参考であり、実施については現場や利用者の自主努力とするといった箇所も多く、安心して図書館を利用できるという点までは言及されていない。

 さらにコロナ禍では、日本の図書館のデジタル化の遅れが浮き彫りになった。これも以前から「図書館不要論」で指摘されている課題である。文化庁がデジタル環境の整備準備を始め、公共図書館の本をパソコンやスマートフォンで読めるようにする著作権法の改正を検討しているというニュースが話題になっている。

「集客できない?」「本がウィルスを媒介?」、加えて「デジタル化の推進?」で、これではリアルな公共図書館は本当に「不要!」という乱暴な結論が出てしまうかもしれない。

ニューノーマルに必要なのは、
司書と交流できる「本の箱」

 しかし一方で、都内の公共図書館で働く司書はコロナ禍で、利用者の図書館への見方が変わったかもしれないという。

図書館のコロナ感染拡大防止対策の様子。入り口で検温とアルコール消毒をしてから館内に。入館時間と連絡先を記入して回収箱に入れてから図書館を利用するようになっていた。ペンも使用後は別トレーへ(2020年8月)

「ある利用者から『目的のある自由な居場所、しかもお金を気にせず一人で何回も訪問できる場所というのが、世の中に図書館以外なかったことに気づいた』と言われました。公園も好きな時に一人で散歩ができる公共施設ですが、図書館とは異なるのですね。他の利用者のからも『パソコン相手はもういい。一人で気持ちがボーっとなる』と声掛けされ、私が棚に並べたおススメの本を、笑顔で借りていかれました。きっとこれまで当たり前だった図書館の存在価値に、突然の休館で気がついて下さったのではないでしょうか?」

 商業施設との合併や集客イベントなどで賑わう図書館はもちろん魅力的ではあるが、Withコロナと言われるこれからは、読書という静かな娯楽を提供する図書館も見直すべきかもしれない。

 もともと日本の図書館は大声を出して集うような施設ではないし、身近な「本の箱」がそばにあるだけで心が癒やされるという現場の声を聞く限り、ニューノーマル時代にこそ、司書が一人ひとりに本を手渡しコミュニケーションするリアルな図書館が必要なのではないだろうか。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾(R))

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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