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バイデン新政権が「辛勝」「ねじれ議会」でもやれること

2020年12月23日 06時00分更新

文● 西岡純子(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:Drew Angerer/gettyimages

バイデン次期大統領が確定
まずはコロナ対応優先のかじ取り

 大統領選挙で選ばれた選挙人による投票が12月14日に行われ、民主党のジョー・バイデン前副大統領が次期大統領に正式に確定した。

 すでに主要閣僚人事などが進められ、環境問題重視や外交では国際協調路線への復帰など、トランプ政権との違いを打ち出そうとしているが、議会は、上院が多数の「ねじれ」になる見通しなど、必ずしも政策実行の基盤は強くない。

 当面は、新型コロナウイルスの感染防止や落ち込んだ経済の立て直しなどに注力する船出になる。

選挙人獲得は306人
大統領選は「辛勝」

 選挙人集会での投票結果は、選挙人数538に対し、バイデン氏の獲得数は306票、トランプ大統領は232票だった。

 300票超えというと、大台を超えた大勝との印象を持たれがちだが、実際は「辛勝」といったほうがいい。

 過去に、人気があって選挙も大勝と評された大統領といえばロナルド・レーガン氏(就任期間1981年~1989年)だが、選挙人の獲得数は1期目が489票、2期目が525票と驚異的な結果だった。選挙結果を政党色で示す地図は、当時、共和党の赤色で見事に全米が真っ赤に塗られた。

 ウォーターゲート事件の批判のなかで退陣したリチャード・ニクソン氏(1969~1974年)も、任期途中で辞任することになる2期目の際には520票を獲得した。泥沼化していたベトナム戦争の終結を公約に掲げたことで反戦への共通認識が選挙結果を大きく動かした(1期目は301票)。

 民主党出身でいえば、特に1期目に人気を集めたのはビル・クリントン氏(1993~2001年)とバラク・オバマ氏(2009~2017年)である。それぞれ、一期目の大統領選挙で獲得した選挙人はクリントン氏が370票、オバマ氏が365票だった。

 歴代の選挙人獲得数からいえば、バイデン氏の勝利はかろうじて300の節目を上回ることができた、程度の見方が正しい。

 大統領選でのバイデン氏の得票は過去最高だったが、一方で敗れたトランプ大統領も7100万以上票を獲得し、バイデン氏とともにそれまで最高だったオバマ氏の得票も上回った。 

 米国内では、「新型コロナの感染問題が起きていなければ」とか、トランプ氏が、発言中のバイデンをさんざん遮って一方的に主張を繰り返す戦法に終始した「あの第1回大統領討論会がなければ」、トランプ氏は再選されていたという声が今もある。

 選挙期間中も人種差別の撲滅を求める運動(Black Lives Matter「黒人の命が大事だ」)が全米主要都市に広がり、デモに対する強硬姿勢がトランプ支持率を下げる局面もあったが、最終の得票数を見れば、その影響もそれほどなかったのかもしれない。

 こうしたトランプ支持の根強さをバイデン新政権は意識せざるを得ないだろう。

上院は共和党多数の見通し
「ねじれ議会」で現実的対応

 大統領選と同時に行われた議会選挙でも、共和党の勢いは事前の予想以上に強いものだった。

 上院ではジョージア州の2議席分が決選投票になり、それが行われる1月5日まで最終的な勢力図は決まらないが、議席数100のうち共和党はすでに半分の50議席を獲得している。

 民主党が現在獲得しているのは48議席で、もしジョージア州の改選2議席分を獲得できれば議席数では共和と民主が対等となる。各審議の議決の際に票が50票ずつで割れてしまった場合には、上院議長(副大統領、カマラ・ハリス氏)が投票する規定となっており、民主党が事実上、過半数を得ることになる。

 しかし、同州は共和党が強い州で2議席とも民主党が取る可能性は低く、上院は共和党が過半数、下院は民主党が過半数維持、という「ねじれ状態」で議会が動くシナリオが現実的だ。

 ねじれ議会が前提となれば、政府も予算案など立法手続きが必要な措置は通りにくい。

「小さな政府」を志向する共和党が上院を主導するとなると、歳出や増減税の財政パッケージは小型化しやすい。条約の批准など議会議員による過半数の賛成が必要な改革も進みにくくなる。

 トランプ氏が行ったように、大統領令によって独自の政策を推し進めることができるのでは、という見方もあるが、保守系の判事が過半数を占める最高裁が合憲性などを判断することになり、壁になるといわれている。

 こうした制約から、「何も決まらない政治」になるというやゆもある。

 だが実際は、ねじれ議会との調整が難航した際には、長い議員経験と豊富な人脈を持つバイデン氏と、同様に政治経験の長い朋友、ミッチ・マコネル上院院内総務(共和党)が話し合って打開を図るのではないか。

 新型コロナの感染拡大が止まらない状況では共和党側も反対し続けることも難しいと思われる。

下院民主党は議席減らす
中道路線の政策はやりやすく

 議会選挙では下院民主党はかろうじて過半数は維持したが、2018年の中間選挙から議席数を10以上も減らしてしまった。

 2年後の中間選挙を考えると、議員の心情は2年間に実績をどこまで残すかということを意識する。

 この点ではいわゆるリベラル派の議員らも同じだ。バイデン氏の主張は、民主党のなかでは中道寄りで、政権運営では、民主党内の急進左派といわれる人々の意見もくみ取っていかないと、かじ取りが難しいのではという声も少なくない。

 だが今回の議会の選挙結果とパワーバランスからいえば、中道政策が前に進みやすい政策が展開されるのではないかと思われる。

コロナ追加経済対策
9000億ドル規模で合意したが

 新政権の政策はどういうものになるのか。

 バイデン=ハリス政権移行チームは、政権発足初日にまず行うのは「コロナ対策」だと公言している。

 米国ではコロナウイルスを原因とした死者数は30万人を超えている。ワクチン接種が今月から始まり、医療機関従事者らのエッセンシャル・ワーカーや高齢者が優先的に行われる計画だ。

 しかし、専門機関米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)の推計によると、仮にワクチンの普及が急速に進んだとしても、来年3月末までの死者数は54万人にのぼる見通しだ。

 これまで米国政府が打ち出したコロナ経済対策は3兆ドルを上回るが、ほとんどが12月中に失効する。
 
 具体的には、失業保険の特別支給(通常プログラムの適用が終了した人や、これまで通常プログラムの適用対象外だった人々への支給)、中小企業に対する雇用維持を目的とした給与保護プログラム特別融資、住宅ローンを支払えない人への強制立ち退きを禁じる措置、給与所得税の支払い延期措置(一定の年収以下)、学生ローンの支払い延期措置(条件あり)など、内容は多岐にわたる。

 議会指導部は長い交渉の末、20日に9000億ドル(93兆円)規模の追加経済対策で合意、失効寸前だった中小企業などの雇用対策も盛り込まれた。

 ただ議会とホワイトハウスとの調整はこれからだ。来年年初に政策の期限切れで混乱するリスクは消えたといえるが、1月20日の正午をもってバイデン氏が大統領となり、新政権のコロナ対策が実際に動きだすことになるのかどうか。

 おまけに合意した追加対策の規模は、3兆ドル規模を主張してきた民主党にとっては小規模で、3カ月程度の歳出を賄えるだけの部分的な措置にすぎないというのが、民主党内の受け止めだ。

 ペロシ下院議長も「今回は第一歩。新政権で追加対策が講じられる」と語っている。また実際に感染拡大が止まらないことや、英国で広がる新型コロナ変異ウイルスの米国への上陸といった複数の危機シナリオがあり、さらなる追加の対策が必要になる可能性がある。

 だが状況に応じて機動的に対策を打てるのか、どうかは見えない。

外交・通商政策は変わる可能性
欧州と関係修復し連携強める

 新政権がコロナ対策の次に重視するのは、バイデン氏が選挙公約に掲げた「Build Back Better政策」の実行だ。

「より良い復興を」という意味で、コロナウイルスで受けた経済の打撃を治癒することから始めるというメッセージだ。さらに長い目で見れば、分断社会が定着し社会的弱者の所得力が落ちているなかで、弱者を支え経済を底上げするための治癒期間とも位置づけられている。トランプ政権で大きく軌道がそれた米国社会を元に戻そうというわけだ。

 政権移行チームは、閣僚・準閣僚メンバーを徐々に公表しているが、オバマ政権時のベテランを積極的に登用し、また女性や有色人種を積極的に加えることで、多様性に重きを置いていることは明らかだ。

 政策では、外交と環境の分野が、トランプ政権から大きく変わる可能性が高い。

 同盟国との関係再構築が打ち出されているなかで、トランプ政権の下で冷え込んだEUとは、加盟各国との二国間の経済関係の修復だけでなく、中国、中東、東側諸国とのバランスを維持する上で、欧州との相互協力、連携を強化することを最優先すると思われる。

 中東諸国との関係再構築でもまずは欧州との関係修復、連携が重要との考えだろう。

 中東諸国との関係はトランプ政権の下でのこの4年間で大きく揺れた。

 トランプ大統領による行動で最も大きな波紋をもたらしたのは、イラン核合意の離脱、対イラン制裁と、在イスラエル米国領事館のエルサレムへの移設だ。

 トランプ大統領は前政権との違いを際立たせる思惑から、核開発が疑われるイランに対する強硬姿勢を示し、オバマ政権時に締結された核合意から一方的に離脱した(2018年5月)。欧州諸国は、イランへの関与と対話を続けることをトランプ政権に強く求めたが、大統領は受け入れず、経済制裁を発動した。

 さらに間髪入れず、国連がイスラエルの首都と認定するテルアビブから聖都エルサレムに在イスラエル米国領事館を移設した。大統領選を前に、米国内で影響力を持つユダヤ人組織の支持を得る思惑があったが、これはアラブ諸国だけでなく、中東和平を求めてきた欧州諸国と強い軋轢を生むことになった。

 中東諸国にはこれまでの歴史上行われてきた米国の関与や介入に対する不満は強い。バイデン新政権は、中東和平交渉をもう一度、軌道に乗せるべく、刺激を与えない形での介入を進めるためには、欧州との連携が必要との認識だと思われる。

対中貿易政策で注目される
タイ・通商代表の手腕

 対中国政策も、トランプ政権時の二国間交渉から欧州や日本と連携しての多国間交渉へと変わっていくことが構想されている。

 ただ、安全保障の観点から、中国に対し強硬姿勢が維持されることはトランプ政権時と変わらないだろう。

 問題は今後の対中貿易、通商交渉で米国が軟化する余地があるのか、発動している制裁関税を引き下げるなどの考えがあるのか、だ。

 こうした点を含めて対中貿易政策の方向はまだ判然としないが、次の通商代表部の代表に、中国語(北京語)に堪能で、オバマ政権時に通商代表部で中国担当を務めた実務家であるキャサリン・タイ氏を指名したことからすれば、一方的な圧力ではなく、中国側が検討できるような現実的な議論を行うというメッセージはありそうだ。

 タイ氏は最近、トランプ政権が行ってきた対中制裁関税について尋ねられた際に、関税という手段は、中国の台頭を目の当たりにした結果の「守り」であって、貿易拡大で米国産業に求められるのは「機動性の向上と競争力の改善だ」と明快に語っている。

 通商交渉の下で、機動性の向上と競争力の改善をどのように促していくのかは、具体的には定かではないが、中国を深く理解し、法律にも精通して議会との調整能力にも長けているとされる逸材が対中交渉のトップに立つことは、期待を持たせる。

 米中が利害対立を交渉によって打開し建設的な解決策を導き出すということになるのなら、地球規模で望ましい展開だといえる。

環境、インフラ投資の看板政策で
ケリー氏、ブティジェッジ氏を起用

 閣僚人事ではこの他、バイデン氏はかつて民主党予備選挙にて候補者指名争いで戦ったピート・ブティジェッジ氏を運輸長官に指名している。

 若く、雄弁で、多くの人が「次世代ホープ」と見る人物に看板政策の一つである環境対策およびインフラ政策を主に任せるという人選だ。

 また、特別気候特使にジョン・ケリー元国務長官を指名していることからいっても、国内政策、外交政策ともに環境問題を核として据えているようだ。

 前述の通り、欧州との関係再構築でも環境問題での連携は重要戦略となる。

 リベラル政策の代表的な政策として人権問題がある。人権問題で他国に積極的に介入するいわゆる「リベラル・ホークス」がある。

 トランプ政権も、対中制裁との関係で香港人権民主主義法やウイグル人権法を成立させるなど、センシティブなエリアにも積極的に介入し、中国を挑発してきた。

 だがこれは、自らの理念を基にしたものではなく、現実政治の駆け引きの思惑からだが、民主党の場合、とりわけリベラル派にとって人権問題は環境問題と並んで重要な位置を占める。

 この問題でも、バイデン新政権が党内に配慮しつつ、各国とのこじれた関係の修復にとどめるのか、あるいは積極的介入にまでコマを進めるのかは、見どころの一つだ。

(三井住友銀行チーフ・エコノミスト 西岡純子)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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