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「京アニ事件」容疑者を起訴も、初公判までは長期化必至の理由

2020年12月19日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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放火された「京都アニメーション」のスタジオ(撮影日:2019年8月2日) Photo:JIJI

36人が死亡、33人が重軽傷を負った昨年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、京都地検は16日、青葉真司容疑者(42)を殺人、殺人未遂、現住建造物等放火、建造物侵入、銃刀法違反の5つの罪で起訴した。同日が勾留期限だった。犯罪史上、最も多い死者を出したとされる未曽有の事件は発生から約1年5カ月。裁判員裁判での審理に向けた公判前整理手続きが本格化するが、初公判まで長期化するのは必至だ。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

刑事責任能力を問えると判断

 起訴状によると、青葉被告は昨年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオ正面玄関から侵入、1階でガソリンをまいて火を放ってスタジオを全焼させ、36人を殺害、32人を負傷させた(筆者注※逮捕時の警察発表は負傷者33人でしたが、起訴段階で32人となりました)。

 青葉被告は事件直後、身柄を確保されたが重いやけどで入院。京都府警は翌19日、伏見署に捜査本部を設置し、逮捕前にもかかわらず異例の実名発表をしていた。翌20日に逮捕状を取得したものの、青葉被告は意識不明の重体で、大阪の病院に移送された。

 医師らによる懸命の治療で意識が回復し、話せるようになるまで回復。今年5月27日、京都府警が逮捕状を執行していた。青葉被告は身体の9割にやけどを負っていたため、病院から伏見署に移送される際はストレッチャーに乗せられ、顔や腕に痕が生々しく残っているニュース映像をご記憶の方も多いだろう。

 6月9日には京都地裁で勾留理由開示手続きが開かれ、青葉被告が出廷。京都地検が刑事責任能力を調べるための鑑定留置をしていた。12月11日に鑑定留置を終了し、刑事責任能力を問えると判断し16日、起訴となった。京都府警、京都地検の調べに対し、いずれも容疑を認めていたとされる。

 全国紙社会部デスクによると、青葉被告は現在、感染症対策など医療設備が整った大阪市の大阪拘置所に勾留されている。いまも寝たきりで、食事など日常生活には介助が必要な状態という。

初公判まで2年かかる可能性

 今後の流れだが、これだけの事件で通常の公判のように、すぐに期日を入れて淡々と進めるわけにはいかない。何と言っても、映画やドラマにもなった横溝正史の小説「八つ墓村」のモチーフにもなった歴史的猟奇事件「津山30人殺し」(岡山県で1938年発生)よりも被害者が多いのだ。慎重な審理が求められるのは言うまでもない。

 裁判員裁判の対象となり、裁判所と検察側、弁護側が争点や裁判の日程を調整する公判前整理手続きにはかなりの時間を要するとみられる。最近の被害者が多数に上る殺傷事件などでは、初公判まで数カ月から1年以上かかるケースも珍しくなく、今回の事件では初公判まで2年前後かかる可能性さえある。

 というのは、今月15日に判決公判があった2017年の神奈川県座間市9人連続殺人事件では、白石隆浩被告(30)=東京地裁立川支部で死刑判決=が起訴されたのは18年9月。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、公判前整理手続きがたびたび中断して長期化。初公判が開かれたのは今年9月で、約2年かかった。

 16年に神奈川県相模原市で植松聖死刑囚(30)=今年3月に死刑が確定=が知的障害者施設の入所者19人を殺害、職員を含め26人に重軽傷を負わせた事件では、起訴が17年2月。初公判が開かれたのは20年1月と、実に3年近く経過していた。

 現在も新型コロナは猛威を振るっており、京アニ事件でも公判前整理手続きは慎重な期日の設定が求められ、こちらも長期化は必至だろう。

スムーズな進行を図るための手続き

 さて、最近では「公判前整理手続き」は新聞やテレビで当たり前に目にしたり耳にしたりしているが、どんな手続きかご存じだろうか。

 裁判員制度の導入に絡み、公判の迅速化で裁判員の負担軽減につなげるため、05年の改正刑事訴訟法施行により導入された。裁判員裁判の対象となる公判はすべてこの手続きが行われる。

 担当する裁判官と検察官、弁護人が協議し、証拠や争点を絞り込んで公判の期日など審理方針を計画。公開、非公開の規定はないが、ほとんどが非公開で行われる。

 手続きは被告の起訴後、裁判所が証拠に関する書面の提出期限を決定。検察官が書面を提出し、証拠調べを請求する。この際、検察官は被告と弁護人にも証拠を開示しなければならない。

 被告と弁護人は証拠に対して意見を述べるとともに、公判で予定している主張があれば書面で提出。弁護人が用意している証拠があれば検察官に開示し、検察官も意見を明らかにしなければならない。

 こうしてお互いの手の内(証拠と主張)をさらして争点を明らかにし、公判をスムーズに進行するというのが公判前整理手続きの趣旨だ。互いに主張の追加や変更をする場合にも、同様の手続きが取られる。

 公判ではないため被告に出席する義務はなく、一方、検察官と弁護人が出席しなければ行うことはできない。また、検察官が被告に有利な証拠を隠すことも制度上は可能で、既に公判に向けた駆け引きは始まっているというわけだ。

初公判まで長い道のり

 そして今回、長期化が予想される理由として、死者が36人、負傷者が32人もいることが挙げられるだ。現住建造物等放火、建造物侵入、銃刀法違反の罪については一括して審理が可能だが、殺人と殺人未遂罪については68人分についてそれぞれ審理を尽くすはずだ。

 加えて、それぞれの遺族らが「被害者参加制度」を利用して公判への参加を求めるだろうから、公判前整理手続きによる公判日程の調整にも時間がかかるだろう。

 被害者参加制度は日本で08年に始まった。遺族らが公判に参加し、証人尋問や被告人質問、意見陳述、論告などができる制度だ。それまで裁判官や検察官、弁護人だけで公判が進められ、遺族や被害者の声が置き去りにされているという意見を反映して導入された。

 この制度では遺族らが被告に直接、事件について質問することができる。また、裁判官や裁判員、被告に向け、遺族らが心情を訴える機会でもある。被害者の遺族らが全員、参加を希望するわけではないだろうが、将来ある有望なクリエーターが理由も分からず、一瞬にして命を無残に奪われた凄惨な事件だけに、多くの希望者が予想される。

 ほかにも死刑が予想される事件であることから、弁護側が精神鑑定を請求するとみられる。また青葉被告は捜査段階で容疑について全面的に認める供述をしたとされるが、弁護側は寝たきりの状態で行われた取り調べによって作成された調書と主張し、任意性や証拠能力を否認する可能性もある。

 いずれにしろ青葉被告の犯人性については争いようがないので、争点は責任能力の有無になるのは間違いない。

 通常の公判では審理が進んだ後に鑑定を行うことが多いが、裁判員裁判では公判開始後に実施すると審理が一時ストップし裁判員に負担となることから、公判前整理手続き中にできるように規定している(裁判員法50条)。弁護側が鑑定を請求すれば、それも長期化の一因になるということだ。

 青葉被告の起訴で事件は大きな節目を迎えたが、まだまだ真相解明の場となる公判への道のりは長い。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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