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霞が関はスーパーサイヤ人だらけ?官僚のブラック労働が変わらない理由

2020年12月14日 06時00分更新

文● 千正康裕(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

朝7時、仕事開始。27時20分、退庁。ブラック労働は今や霞が関の標準だ。国会対応のための不毛な残業、乱立する会議、煩雑な手続き、旧態依然の「紙文化」…この負のスパイラルを止めなければ、最終的に被害を受けるのは国家、国民だ。霞が関の実態を、元厚労省キャリアの千正康裕氏の新刊『ブラック霞が関』(新潮社)から一部抜粋・編集して、官僚たちの今を紹介する。

スーパーサイヤ人ばかりが引っ張る組織

 霞が関の働き方改革はなぜ進まないのか。これだけ日本中で働き方改革が叫ばれ、厚労省や政府はその動きを後押しすべき立場であるのに、霞が関自体はなかなか変われない。そこにはやはり、役所特有の理由がある。

 キャリア官僚の昇進について、よく言われていることがある。同期横並びで出世して課長までは昇進する。その後、審議官・局長に昇進する人と肩たたきで天下る人に分かれる。出世レースの最後の事務次官は同期で一人出るかどうか。

 これは、間違いではないが、少々誤解を招く説明のように思う。実は、中央省庁に採用されたキャリア官僚の職場というのは霞が関だけではない。厚労省であれば、都道府県労働局や地方厚生局などの地方支分部局もある。企業で言うと支社のようなものだ。あるいは、それぞれの行政分野の実務を行う独立行政法人や国立の機関もある。これは企業で言うとグループ会社のようなものだ。最近だと官民交流といって、民間企業に出向するケースもあるし、県庁や市役所に出向することもある。さらに、大使館、国際機関、JETROなどに出向して海外で勤務を経験したり、JICA専門家として途上国の制度設計を支援することもある。また、大学や研究機関に出向して教育や研究を行うこともある。また、霞が関内部でも他省庁への出向もある。

 つまり、霞が関で働いているのはキャリア官僚の一部なのだ。

 民間の大企業でも、総合職を本社で一括採用するけれど、実際に本社で働いている社員は一部だろう。それと同じことがキャリア官僚の世界にもある。

 係長くらいまでは、ほとんどの場合本省で官僚としての基礎を一通り学びながら仕事をするが、課長補佐の途中くらいから徐々に霞が関の本省以外の職場で働く職員が増えていく。40歳くらいで管理職になる頃には、多くの職員は本省以外の職場で働いているのが実態だ。そして、局長や事務次官など偉くなっていく人は、管理職になってからは重要政策を担当する課長や室長などを歴任する形で、ほとんどの期間を本省で過ごす。出向するとしても、官邸や内閣官房など霞が関の中の重要な部署への出向だ。厚労省ではあまり聞かなかったが、他省庁では管理職になってからほとんど本省におらず、他省庁や関係団体などへの出向を繰り返す職員のことを「衛星」と呼ぶらしい。本省を中心とすると、その周囲をぐるぐる回っているというイメージらしい。

 本省での仕事は重要な政策を担当するのでプレッシャーも大きいし、政策作りには意見調整がつきものなので、国会対応、審議会対応、メディア対応など外部とのやりとりも非常に多く、特に国会開会中は24時間土日も含めた対応が求められる。このため、本省の幹部・管理職のポストは、仕事ができる上に体力・精神力の面でも家庭環境の面でも、24時間365日対応ができる職員ばかりで埋め尽くされる。

 かくして、スーパーサイヤ人みたいな人ばかりが上にいる組織になるのである。マンガ『ドラゴンボール』に出てくる、とにかく戦闘能力の高い超人である。もちろん職員の働き方に理解のある幹部もいるが、基本的には一人当たりの業務量の上限の基準が異常に高い人たちの集まりだ。

 こうした構造が、昔の栄養ドリンクの宣伝文句「24時間戦えますか?」のような昭和的な価値観を存続させている一つの要因と感じる。常識的な働き方ができる職場になれば、スーパーサイヤ人以外でもキラリと光る特技を持った多くの職員が本省で活躍できるようになるし、最近始まった360度評価と相まって、過剰に働かせる幹部がブラック上司としてあぶり出されていくことになる。

頻発する不祥事

 近年、霞が関では不祥事が頻発している。最近だと、検察庁法改正法案の炎上や黒川検事長の定年延長問題、桜を見る会の問題、森友学園や加計学園の問題などは大きく報道されたので皆さんもご存知だろう。こうした政権の姿勢を指摘する問題以外にも、役所のミスも増えている。特に、厚労省はほとんど組織の限界にきていると言っていいほど、ミスによる不祥事が増えている。

 たとえば18年の障害者雇用水増し問題、19年は毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱いが大きな問題となり、国会や与野党の会議で追及され、メディアでも連日取り上げられた。その結果、尋常ではなく業務量が跳ね上がった。障害者雇用水増し問題を対応しているチームでは何人も限界を超えて働くことになり、結果として休職に追い込まれ、職員の辞職も続出した。毎月勤労統計調査問題の際は、各部局から大量の職員が対応チームに集められた。手薄な体制の中で重い業務を抱える他の部署でも、何人も休職者が出た。

 つまり、不祥事が発生すると業務量が異常に跳ね上がり、応援に入った職員も含めて超長時間労働が常態化する。応援を出した部署も人が減るので同様のことが起こり、組織全体にしわ寄せが生じる。特に、24時間土日対応可能な仕事のできる職員は、重要政策の立案→不祥事対応→遅れた重要政策を突貫工事で対応、という生活サイクルになり、疲弊する。

 元々、女性の採用を増やしてきたこともあって、24時間土日対応可能な職員の割合が減っている(繰り返すが、僕は女性職員の割合を増やすことには大いに賛成である。家庭の仕事がある人も活躍できるように、働き方の方を変えるべきだ)。そうした中で、24時間土日対応可能な職員が常に限界まで働くようになり、どんどん疲弊してくる。長期休職者が増え、さらに離職者も続出する。さらに、採用難も深刻だ。

 仕事が増える中で人材が不足し、政策への対応能力が著しく落ちている。最低限こなさないといけない期限の近い業務を、何とかこなしているような状況になっている。新しい課題への対応はおろか、やらなければいけない期限が少し先の仕事は手がついていないような状況だ。まして、中長期的な課題を考えることができる、余裕のある職員はごく一部だ。

負のスパイラル

 このような構造の中で、組織としての政策立案や業務遂行能力が低下し、さらに、次のミスや不祥事をもたらす。この負のスパイラルを断ち切らないと、この手の不祥事は毎年のように出てくるだろう。政権の姿勢の問題はともかく、役所のミスによる不祥事は確かに役所の責任であり言い訳ができない。ただ、このまま不祥事を頻発するような構造を放置しておくことは、僕ら国民にとって決してプラスではない。しっかりとした信頼できる行政の執行を確保するためには、ミスや不祥事を検証・総括して再発を防止するプロセスそのものを抜本的に効率化する改革も必要ではないだろうか。

 行政監視や再発防止策はもちろん重要だが、毎日国会でその話題ばかりが取り上げられ、さらに野党合同ヒアリングなども連日のように開催される。その対応のために多くのエース級の職員が不眠不休で対応して、組織が傾くほどの影響が出ている。それでは、組織の対応力が落ちて別の不祥事が起こりうるし、不祥事対応以外の重要な仕事が止まってしまう。不祥事ではないが、新型コロナウイルス感染症の対応で実際に起こったことだ。

 不祥事は政権を追及するネタになるかもしれないが、そればかり取り上げることは決してよいこととは思えない。実際に、ある省で不祥事が起こると、予算委員会の質問はそのネタ一色になるので他の省は安堵している。他のイシューに対する行政監視機能が弱まるのだ。

 こうした弊害を防ぐために、不祥事の追及にも効率的なやり方が必要ではないか。例えば、大きな不祥事には専門の特別委員会を作ってそこで集中的に議論する、担当省庁だけでなく他省庁からも人を集めて検証と再発防止の組織を作る、などだ。野党の追及の場もある程度集約した方がよいし、政府側も野党の提言で可能なものは取り入れるなどの工夫が必要だろう。

実務を考えない政策決定

 政策のつくり方が大きく変わったことが、霞が関の疲弊につながっているのだが、国民の関心の高い重要政策ほど、トップダウンで急に決定して作業が降ってくる。そうなると、役所の幹部は右往左往するし、作業部隊は全てそれに引っ張られる。効率的な業務遂行の基本は計画的に作業を進めることであるが、やたらと計画していない大量の仕事が発生する状況になっているのだ。

 最近の事例でいえば、新型コロナウイルス感染症の拡大防止を目的にした一斉休校だ。事前に各省との調整もなく、木曜日に「次の月曜から休校」ということが突然発表される。学校が休校になれば、学校はもちろんのこと、家庭生活などに様々な影響が出てくる。例えば、保育園、学童保育はどうするのか、急に受入れられるのか、そういったことをあわてて後追いで対応しないといけなくなる。そうやって、フル回転している間、元々やらないといけなかった仕事は全部ストップする。

 無理なスケジュールでの対応指示が機能しないことは、コロナ禍の特別定額給付金、雇用調整助成金、持続化給付金、布マスクの配布などでも見られた。

 特別定額給付金の支給は、自治体によって随分と差が出た。東京都でも、人口の少ない千代田区などでは比較的早く給付されたが、人口が多く大量の申請を処理しないといけない世田谷区などではかなり時間がかかった。雇用調整助成金をはじめとする厚労省関係の助成金は、通常想定されないような大量の問合せや助成金申請が殺到し、役所が自前で処理する方針を維持したことから、現場は完全にパンクした。

 最初から事務を全部委託した持続化給付金は、委託自体の適正性や一部の申請が遅れたなどの問題が指摘されており全く問題がないわけではないが、給付事務は比較的迅速だった。政策を決める時は、国民に届ける実務まで見据えることが必要だ。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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