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「ロボット化」しないマニュアルとは?人が人らしく働くための3要素

2020年12月09日 06時00分更新

文● 中山亮(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

世間では「マニュアルどおりに働く」と言うと人間味がないように捉えられるなど マニュアルに対して、ネガティブなイメージを持っている人が多い。しかしマニュアル導入支援事業を行う株式会社2.1代表取締役で、内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザーを務める中山亮氏は、「マニュアルは、“人が人らしく働く”ために存在するもの」と説く。著書『社長、僕らをロボットにする気ですか? 正しいマニュアル導入で人を成長させ、組織の生産性を高める方法』(good.book)より抜粋(一部編集)して紹介する。

「型」には「箱」と「基本」がある

 「組織をもっと効率化させたい」

 営業の現場で、お客様からよく伺う言葉です。その具体的なアプローチとして、マニュアルの導入を考えるのは正しいことだと思います。しかし、残念なことに、多くの方がこう考えているようなんです。

 「組織を効率化する」=「社員を型にはめる」ものだと。

 結論から言うと、社員を型にはめようとして作るマニュアルは、企業の中で定着することはありません。なぜなら、型にはめられる側である現場の人たちからすれば、決して気持ちのいい施策ではないからです。当然です。これこそ、まさにみなさんが嫌がる「ロボット化」ですから。現場での理解が得られない状態では、マニュアルを定着させるのはまずムリです。

 そのうえで言います。僕たち株式会社2.1(以下、2.1)では、「マニュアル=型」と考えています。ただし、この「型」は「型にはめる」という意味での型じゃありません。

 型には2つの意味があります。ひとつは「箱」です。箱には、「決まった大きさ」や「サイズ」、「規格」などというイメージがあります。「型にはめる」という場合の型は、こちらの意味で使われるものです。

 もうひとつの意味は「基本」です。これは、武道や伝統芸能、スポーツなどで規範となる方式を指します。名人や師範などによって生み出された技法、表現形式のことで、いわゆる「規範動作」です。型と聞いて、空手の型を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、まさにそれです。空手の型には、その長い歴史の中で、磨かれ、受け継がれてきた「技」と「心」の基本が詰まっています。そして、それが空手の極意にも通じています。型こそ基本であり、すべてのよりどころなわけです。

 つまり、「マニュアル=型=基本」なんです。

型には「目的×行動×結果」が入っているべし!

 ただし、2.1が考える型は、武道などの型と少し違うところがあります。2.1のマニュアルで大きなポイントとなるのが、次の3つの要素です。

(1) 目的
(2) 行動
(3) 結果

 2.1が作るマニュアルには、この3点の要素が必ず入っています。

 これがどう重要なのか、具体的に説明しましょう。たとえば、飲食店の業務として「トイレ掃除」がありますね。トイレ掃除は「何のためにやるのか?」といえば、「お客様がいらしたときに、トイレがキレイだと気持ちがよく、おもてなしの気持ちを表すことにもなる」ためです。これが(1)の「目的」です。トイレ掃除に取り組む 「姿勢」と言ってもいいでしょう。

 次に、「どのように掃除するのか?」といえば、「モップで床を水拭きする」「ぞうきんを替えて3回磨く」など、掃除の手順や方法が挙げられます。これが(2)の「行動」です。

 業務の「目的×行動」を明確にすること。 マニュアルの基本です。でも、世の中のマニュアルには、この基本的なポイントすら書かれていないものがたくさんあります。

 さて、掃除を担当したスタッフが、「掃除、終わりました。1時間かけてピカピカにしました!」と報告したとします。ピカピカのトイレ。仕上がりとしては申し分ありません。でも、それでいいんでしょうか?

 トイレ掃除に1時間?いやいや、あり得ません。ほかにも仕事がたくさんあるのに、トイレ掃除に1時間もかけている場合ではないんです。

 そのマニュアルには何が足りなかったんでしょうか?それが(3)の「結果」です。 その業務の「所要時間」や「期限」、終わった後の「状態」も明確になっていなければ、作業時間は5分で早いけど雑に終える人、丁寧だけどのんびりやって1時間で終える人、というように、担当者によって程度やクオリティに違いが出てきます。個人の力量や読解力によって業務の結果が変わってしまうマニュアルは、いいマニュアルではありません。

 トイレ掃除の場合、たとえば「掃除時間は15分で」(所要時間)、「開店30分前までに」(期限)、「床、壁、便器、洗面台を清掃し、トイレットペーパーの交換・補充ができている」(状態)、というように、その業務に対する結果設定をすることが重要です。

 このように、「目的×行動×結果」という3つの要素のかけ算が、2.1のマニュアル=型なんです。

 一方、武道の型の場合、含まれる要素は「目的×行動」の2つです。僕はずっと剣道をやっていたんですが、たとえば「面打ち」の練習では、「何秒以内に何回振る」とか「何分間振りつづける」というように、「目的」とそれに対する「行動」がすべてでした。「剣道がうまくなる」ということが「結果」といえばそうかもしれませんが、明確なゴールがわかりません。「いつかうまくなる」というぼんやりした目標に向かって頑張りつづけるのはしんどいものです。

 それに、たとえば空手の型を一生懸命やっても、それで試合に必ず勝てるかどうかはわかりません。でも、型=マニュアルは、「勝つこと」を結果として設定します。試合に勝つことが前提にあるわけです。

 これが、2.1の型と武道の型との違いです。ちなみに、トリセツにはほとんど「行動」しか入っていません。

マニュアルは「守破離」の「守」を実現するためのツール

 そして、「マニュアル=型=基本」という2.1の定義のベースには、「守破離」の考え方があります。守破離とは、武道や茶道といった日本の芸道や、芸術、芸能などで、修業における過程を示した言葉です。ビジネスシーンで使われることもあるので、ご存じの方も多いと思います。

 守=師匠からの教えを忠実に守り、実行すること。破=師匠からの教えを実行しながらも、自分独自の型を見いだし、あるいはほかの流儀や情報を取り入れて、既存の型を破ること。離=師匠の型、自分自身で見いだした型の双方に精通し、師匠の型から離れて自分の流派、流儀を構築すること。

 この3段階の流れが守破離です。人の成長の流れともいえる言葉ですが、2.1の定義するマニュアルは、この守破離の「守」 を実現しやすくするためのツールです。

 イメージしやすいように、新入社員を例に挙げて説明します。

 新入社員にとって、守破離の「守」で「師匠の教え」にあたるのが、新人教育で学ぶ仕事の基本、あるいは上司や先輩が教えてくれる仕事のやり方です。右も左もわからない状態で入ってきた新入社員は、新人教育の場で初めて、仕事の基本を教えてもらいます。業務や職場によって、教えられる内容はさまざまですが、たとえば名刺の受け渡しの方法から電話の取り方、書類の書き方など、その会社で生きていくための、基本的かつ重要なことを学びます。そして、配属先では、さらに各業務に特化したやり方やコツを、上司や先輩から教えてもらうことになるでしょう。

 それらは、その会社で長い間培われ、積み重ねられてきたノウハウです。たくさんの先人たちが、何年も試行錯誤してきた結果見つけた、「これが一番うまくいく」という方法なんです。いわば、その会社、その職場の王道パターン です。

 この王道パターンこそが、新入社員が学ぶべき「師匠の教え」であり、それを確実に実行できるようになることが守破離の「守」にあたることです。 そのために、新人教育用のマニュアルには、その会社、その業務の基本となる王道パターンのノウハウが、余すところなく書かれている必要があるわけです。

 業務を学んでいくうえで、何よりも大切なのは基本・基礎です。いきなり飛び抜けた状態を目指すのではなく、一歩一歩階段を上がるように基本・基礎を積み上げていくほうが、ゆくゆくは応用の利く、頼もしい社員に成長してくれるものです。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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